知識欲の鬼才と叡黎書(アルトワール) 第一章

麒麟

文字の大きさ
16 / 25
第一章

兄として

しおりを挟む
(俺に殺される覚悟も出来てるよな?)

「……ひっ!」

 ベッドの上でノラが飛び起きる。その顔は冷や汗をかいていた。

「やぁノラ。おはよう」
「……兄さん。サラは?」
「サラならギルドだよ。昨日のドロップの換金」
「……あぁ。任せちゃったみたいね。今何時?」
「今は午後3時ちょっと過ぎた頃。なんか口に入れる?」

 ゼラが横にあったカートを動かす。そこには、トーストとホットミルクが載せてあった。

「……いただくわ」

 ノラの手が伸びる。そして、パンを一口齧った。

「……美味しい」

 ノラの久しぶりの柔らかい表情に、ゼラは微笑んだ。

 そして、パンを食べ、ホットミルクを飲み終えたサラは、ベッドに横になり一息ついた。

「ありがとね。兄さん。落ち着いたわ」

 だが、ゼラは口を手で抑え、少し笑って言った。

「お礼ならシルヴァにしてやれよ」

 だが、ノラはゼラの発言が気に入らないようだった。青筋を浮かべてベッドから思いっきり立ち上がる。

「なんでよ!あいつが私に何かしたっての?」
「そのトーストとホットミルクはシルヴァが作ったんだよ」

 ゼラの目線の先には、トーストが載っていた皿と、ホットミルクが入っていたカップがある。ノラは、拳を握り、震わせた。

「そんな、食べる前に言ってくれればゴミ箱に投げ捨てていたのに!」
「まぁまぁ。ノラがシルヴァをどう思おうが勝手だが、物に八つ当たりするのはダメだろう」
「……ぐっ……それはそうだけども」

 ゼラがノラに近寄る。そして、握った手ををノラの顔の前にだした。

 ビクッと反応するノラ。目をつぶったとき、ゼラの人差し指がノラのおでこを弾いた。

「……痛っ」
「さすがに毒は使っちゃダメだろう」
「でも……どんな手を使ってでも勝てって……兄さんが」
「それは実戦の時。模擬戦では相手を殺しちゃいけないことくらい、分かるだろ?」
「……」
「気持ちが落ち着いたら、シルヴァに謝っとけ。それとお礼も兼ねてな」

 そう言い残し、ゼラが部屋から出ていく。部屋の中に、大きなため息が溢れた。

 ◆◇◆

「どうだったか?ノラは」

 頭を抱えて歩いているゼラに声がかかる。シルヴァだった。

「俺は道は示した。後はノラ次第って感じだな」
「その割にはなんか悩んでいるようだけど」

 シルヴァの発言に、ゼラはハッとした。だが、直ぐに顔を崩した。

「妹達の知識理解がね……やっぱり兄としては立派な妹に育って欲しいものなんだよ」
「ふーん。まぁ模擬戦で毒まで使ってきたときは正直驚いた」
「だろう?俺もだよ。だから……」

 ゼラがため息をつく。そして、重々しく口を開いた。

「やっぱり、学校に通わせたいなぁ……」
「なんだ?出来ないのか?」

 幼少の頃より学園に通っていたシルヴァは疑問を抱いた。

「学校に行くのだって費用がかかるんだよ。例えば、入学金だけで50マーズ。一年間の費用で670マーズ。それに教材費、食費、研修費、課外費、試験費とか色々かかるんだよね。それに二人とも学校に行ったらクランの収入も減衰するし……中々大変なんだよ」
「そうか……」
「親っていうのは大変だよね……それで子供は文句ばっかり言うし」

 疲労感溢れる声のゼラだったが、どうしてそこまで親のように妹を気にかけるのか、シルヴァは気になった。

「なぁ。ゼラとノラサラって年どれくらい離れるんだ?」
「……ん、四年だね」
「ならゼラから学校にいくべきじゃないのか?年齢的に」
「いや、俺はいいんだよ。俺はダンジョンとか魔物に関する知識があればいい。でもあいつらは美人だし、まだ未来があるだろ?」
「あー、まぁな」
「だから、お貴族様とかから声がかかってきたり、大商人に見初められることもあるかもしれない。というよりかは、やっぱりそういう人と結婚して、何不自由ない生活を送ってもらいたい」
「あー、だから教養を」
「うん。お貴族様にしろ商人にしろやっぱり教養が必要だからね」

 乾いた笑いを浮かべるゼラは、どこか昔を見ているようであった。

「……必要資金は?」

 シルヴァが問う。ゼラは少し首を傾げた。

「……えっとそうだな。二人で四年間だから大体6000マーズ。それに追加で1000マーズ程。だから7000マーズかな?」
「そうか。今の資金は?」
「積み立てで1400マーズ」

 低い。何がなんでもそれは低すぎる。

「かなり足りないじゃないか」
「借入とかなんとかで間に合わせるよ」

 笑うゼラだったが、笑い話で済むような内容ではない。シルヴァは立ち上がった。

「……ちょっと出てくる」
「おう、夕飯までには帰れるか?」
「いや、明日の昼くらいだな」
「そっか。んじゃちょっと待ってろ」

 ゼラが小走りで走り出す。向かった先は厨房だった。

「これ。本来は今日換金に行くノラの昼食だったんだが、持っていけ」

 チューブ型の携帯食糧だった。シルヴァは有難く叡黎書アルトワールにしまう。

「それじゃ行ってくるわ」
「気をつけてな」

 ゼラと別れを告げ、シルヴァは走り出した。……いや、人混みや馬車に阻まれ、走れなかったのだが。

 シルヴァが向かった先は、ダンジョンだった。やはり冒険者の渦は絶えることを知らない。

「あの、入場料もしくは冒険者カードを」

 受付で止められる。シルヴァはポケットから1マーズ銅貨を取り出し、少女に渡す。そのとき、少女は、一枚の紙をシルヴァに渡した。

「冒険者カードをご提示いただければギルドでの一括払いも可能です。ぜひ次回よりご利用ください」
「へぇ、そんなのがあるのか。ありがとう」

 シルヴァは礼を述べ、ダンジョンの中に潜り込む。ダンジョンから出てあまり時間は経っていなかったのだが、随分と久しぶりな感じがした。

「7000マーズねぇ。どんな素材を取ればいいのか分からんが、取り敢えずボスドロップの何かでいいかな?」

 そのまま、シルヴァはダンジョンを進む。

 このダンジョンのボスは不定期に降臨する。階層ごとにボスは出現するのだが、出現条件は未だ不明。

 なので、連続ボスといった地獄を味わった冒険者も少なくはない。更には、時たま色違いのボスが出現することもあるそうだ。

 シルヴァはダンジョン内を進む。相場は分からないので、スポーンした魔物、発見した鉱物根こそぎ収集する。だが現時点の階層は低く、そこまで高価で売れるものはなさそうだ。より下の階層に向かっているその途中、あることに気づいた。

 叡黎書アルトワールの中のもの売れば7000マーズに届いたのではないか。ということだ。だが、もうそれは後の祭り。ここまで来てしまったのだから、諦めて鉱石採掘をしよう、と。

 ダンジョンの奥から大きな音が響いたのは、シルヴァは愚痴混じりに魔物を一蹴している時であった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...