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逢坂の関
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「起きた?」
「あ……寝てしまったのか……」
美咲のベッドの上でリリアが目を覚ました時、すでに時刻は十一時を回っていた。細指で目を擦る様でさえ、気品があって麗しい。おまけに睫毛も長い所が、美咲の嫉妬心を少しく煽る。
「リリアも、あれ出せるんだ……」
「あれ……? ああ、そうか……」
先刻の行為を、リリアは思い出したようである。
「何だか、前までリリアのこと、血が通ってないみたいに思ってた。けれども私たちと変わらないみたい」
美咲は、リリアと親しく接しつつも、何処か彼を浮世離れした存在であると思っていた。けれどもやはり、あれを見た後では、自分たちと同じような者に思えてくる。
「……そうかな」
「うん、普通の男の子なんだなって」
「そうか……幻滅したかい?」
「いいや」
美咲は首を振った。
「何だか、リリアのこと近くにいるのに遠い存在だと思ってた」
美咲は一瞬、視線を落とした。
「ねぇ、続き、しない?」
「続きとは……?」
きょとんとした顔をしたリリアは、何だか可笑しく見えてしまう。その唇に、美咲は自らの唇を重ねた。男子のそれとは思えない程、リリアの唇は柔らかく、果実のように瑞々しかった。
美咲は、リリアの上に馬乗りになり、先程のようにそれを攻め立てた。それは、再び活力を取り戻し、山楝蛇の首のように持ち上がった。
「これをね……」
リリアの耳元で、美咲はそっと内容を教えてやった。
「これを、美咲の中に……」
「何、五百年生きているのに分からないの?」
「ボクらは長命であるが故に、そういった機会はそこまで多くはないんだ」
「へぇ……じゃあ身を以て教えてあげるよ」
数百年生きている大先輩に房事を教えているという優越感が、美咲の心中を支配してゆく。
美咲は机の一番下の引き戸を開けて、これより先の行いに必要なものを探した。大して長続きしなかった元彼に使っていたものの残りがあったはずだ。美咲はそれを取り出すと、リリアの張り詰めたそれに装着した。何分久しぶりのことで、その手際はあまり良いものとは言えなかった。
美咲はそこに向かって、自ら腰を落とした。美咲にとっては初めての行為ではなかったが、それでも久しぶりのことに昂ぶりを感じていた。身体的な快楽よりも、寧ろリリアの表情が恍惚としたものに変わっていくことに興奮を感じた。
二人の身体は、すでに薄紅に変わっていた。その二つの薄紅が揺れて踊る。その動きは情熱的なダンス、と呼ぶにはあまりにも稚拙であるが、それでも二人の体に帯びた熱は加速度的に高まっていった。
「ああっ……うう……」
リリアの脈動を、美咲は己の内側で感じ取った。思ったよりも、彼は早くに屈した。少しばかり物足りなかったが、それでも彼の切なげな表情は何物にも代えがたいものがある。美咲は満足気な表情で、リリアの顔を見下ろしていた。
それからというもの、折を見て二人は歓楽に耽った。リリアはこういった行いに関して言えば全く初心であり、終始美咲に主導権を握られたままであった。美咲の方はと言えば、自分がリードするのも案外悪くない、と思っている。何にせよ、もうリリアのことが愛おしくて仕方がなかった。
その日は、初めて彼との一線を越えた日のように、雨が降っていた。違うのは、初めての日の時には強勢な通り雨であったのに対して、この日の場合は陰雨であったことだ。
丁度、家には誰もいなかった。美咲は、いつものようにリリアとベッドの上に座って唇を重ねた。彼の股に顔を近づけると、勃然と起き上がったそれを含む。リリアの眉根に皺が寄り、切ない声が上がり始める。その様子が、美咲は好きだった。
「そろそろ……しようか」
「……うん」
二人の身体は、完全に出来上がっていた。美咲は避妊具を探したが、その手はお探しの物を掴めなかった。
「もしかして切らした……?」
二人の行いに必要なそれは、いつも美咲が買っている。リリアを買いに行かせたら目立ちすぎて仕方がないからだ。買いに行こうと思ったが、外は相変わらずの雨模様であるし、何より二人の間に流れる空気は、もう中断を許してくれなかった。
「ねぇ、リリアと私って、子ども作れるのかな……?」
率直な疑問だった。今までずっとそういったことには気をつけてきたのであるが、そもそも彼は人間に見えて人間ではない。動物でもある程度遺伝的に異なってしまえば、子を成すことは叶わない。であるなら、自分たちも……
「分からない。実証してみないことには答えを出しようがない」
こういう時、リリアは分からないことは分からない、とはっきり言う。彼は知ったかぶるようなことは全くしないのである。
「じゃあ、無しでしてみる……?」
美咲はおずおずと問いかける。
「美咲が望むのであれば」
「もう、いつもそればっかり。じゃあ行くからね」
リリアの悪い所として、主体性に欠けるというものがある。尤も、彼はこちらの世界に来てまだ間もないのであり、右も左も分からない状態であれば他者に選択をある程度委ねるより他ない、と考えれば致し方ないのであろうが。
美咲は、勃ち上がった剥き出しのそれに向かって腰を落とした。いつも着けているものを着けていないそれは、普段よりも滑らかな感触であった。あの、ゴムの擦れる不快な感触がない。その上いけないことをしているという背徳感が、得も言われぬ妙味を加えていた。リリアの方もいつにも増して感じているのが分かる。いつもと違った快感に、二人は没入していった。
「はあっ……ああっ……」
「リリア……どう……生の感触は……?」
「いつもより……気持ちいいかも……」
リリアの感じ様は、いつも以上であった。やはり、着けていない方がより強い快感を得られるのであろう。そういった所まで、彼は人間と全く同じである。粘膜を直接擦れ合わせる感触には、全く抗いようがない。
「あっ……もう出る……」
リリアがそう言うと、美咲は自らの中に迸るものを感じた。内側の粘膜に、粘ついた液が染み渡ってゆく。体内に播種を許したのは、これが初めてのことである。この時の美咲の背徳感は最高潮であった。思考は渦を巻いて濁り、視界は霧散して漂白されてしまっていた。
「言うの遅いよ。中に出ちゃってるんだけど」
暫くして冷静になった美咲は、口を尖らせてリリアを責めた。やはり、中に出されれば不安が襲ってくるのは避けようがない。
「ああ、いや、どうすればいいのか分からなくて……」
「まぁ危ない日じゃないから大丈夫だとは思うけど……」
リリアの出したそれが、前の彼氏のよりも薄くて粘り気も弱かったのを思い出す。今日は大丈夫な日だし、それにあんなものを出されても受胎にまで結びつかないのではないか、という気もする。気もする、というより、そう思って不安を押し殺したという方が正しい。
しかし、その時感じた一抹の不安は、暫くして現実のものとなる。
「あ……寝てしまったのか……」
美咲のベッドの上でリリアが目を覚ました時、すでに時刻は十一時を回っていた。細指で目を擦る様でさえ、気品があって麗しい。おまけに睫毛も長い所が、美咲の嫉妬心を少しく煽る。
「リリアも、あれ出せるんだ……」
「あれ……? ああ、そうか……」
先刻の行為を、リリアは思い出したようである。
「何だか、前までリリアのこと、血が通ってないみたいに思ってた。けれども私たちと変わらないみたい」
美咲は、リリアと親しく接しつつも、何処か彼を浮世離れした存在であると思っていた。けれどもやはり、あれを見た後では、自分たちと同じような者に思えてくる。
「……そうかな」
「うん、普通の男の子なんだなって」
「そうか……幻滅したかい?」
「いいや」
美咲は首を振った。
「何だか、リリアのこと近くにいるのに遠い存在だと思ってた」
美咲は一瞬、視線を落とした。
「ねぇ、続き、しない?」
「続きとは……?」
きょとんとした顔をしたリリアは、何だか可笑しく見えてしまう。その唇に、美咲は自らの唇を重ねた。男子のそれとは思えない程、リリアの唇は柔らかく、果実のように瑞々しかった。
美咲は、リリアの上に馬乗りになり、先程のようにそれを攻め立てた。それは、再び活力を取り戻し、山楝蛇の首のように持ち上がった。
「これをね……」
リリアの耳元で、美咲はそっと内容を教えてやった。
「これを、美咲の中に……」
「何、五百年生きているのに分からないの?」
「ボクらは長命であるが故に、そういった機会はそこまで多くはないんだ」
「へぇ……じゃあ身を以て教えてあげるよ」
数百年生きている大先輩に房事を教えているという優越感が、美咲の心中を支配してゆく。
美咲は机の一番下の引き戸を開けて、これより先の行いに必要なものを探した。大して長続きしなかった元彼に使っていたものの残りがあったはずだ。美咲はそれを取り出すと、リリアの張り詰めたそれに装着した。何分久しぶりのことで、その手際はあまり良いものとは言えなかった。
美咲はそこに向かって、自ら腰を落とした。美咲にとっては初めての行為ではなかったが、それでも久しぶりのことに昂ぶりを感じていた。身体的な快楽よりも、寧ろリリアの表情が恍惚としたものに変わっていくことに興奮を感じた。
二人の身体は、すでに薄紅に変わっていた。その二つの薄紅が揺れて踊る。その動きは情熱的なダンス、と呼ぶにはあまりにも稚拙であるが、それでも二人の体に帯びた熱は加速度的に高まっていった。
「ああっ……うう……」
リリアの脈動を、美咲は己の内側で感じ取った。思ったよりも、彼は早くに屈した。少しばかり物足りなかったが、それでも彼の切なげな表情は何物にも代えがたいものがある。美咲は満足気な表情で、リリアの顔を見下ろしていた。
それからというもの、折を見て二人は歓楽に耽った。リリアはこういった行いに関して言えば全く初心であり、終始美咲に主導権を握られたままであった。美咲の方はと言えば、自分がリードするのも案外悪くない、と思っている。何にせよ、もうリリアのことが愛おしくて仕方がなかった。
その日は、初めて彼との一線を越えた日のように、雨が降っていた。違うのは、初めての日の時には強勢な通り雨であったのに対して、この日の場合は陰雨であったことだ。
丁度、家には誰もいなかった。美咲は、いつものようにリリアとベッドの上に座って唇を重ねた。彼の股に顔を近づけると、勃然と起き上がったそれを含む。リリアの眉根に皺が寄り、切ない声が上がり始める。その様子が、美咲は好きだった。
「そろそろ……しようか」
「……うん」
二人の身体は、完全に出来上がっていた。美咲は避妊具を探したが、その手はお探しの物を掴めなかった。
「もしかして切らした……?」
二人の行いに必要なそれは、いつも美咲が買っている。リリアを買いに行かせたら目立ちすぎて仕方がないからだ。買いに行こうと思ったが、外は相変わらずの雨模様であるし、何より二人の間に流れる空気は、もう中断を許してくれなかった。
「ねぇ、リリアと私って、子ども作れるのかな……?」
率直な疑問だった。今までずっとそういったことには気をつけてきたのであるが、そもそも彼は人間に見えて人間ではない。動物でもある程度遺伝的に異なってしまえば、子を成すことは叶わない。であるなら、自分たちも……
「分からない。実証してみないことには答えを出しようがない」
こういう時、リリアは分からないことは分からない、とはっきり言う。彼は知ったかぶるようなことは全くしないのである。
「じゃあ、無しでしてみる……?」
美咲はおずおずと問いかける。
「美咲が望むのであれば」
「もう、いつもそればっかり。じゃあ行くからね」
リリアの悪い所として、主体性に欠けるというものがある。尤も、彼はこちらの世界に来てまだ間もないのであり、右も左も分からない状態であれば他者に選択をある程度委ねるより他ない、と考えれば致し方ないのであろうが。
美咲は、勃ち上がった剥き出しのそれに向かって腰を落とした。いつも着けているものを着けていないそれは、普段よりも滑らかな感触であった。あの、ゴムの擦れる不快な感触がない。その上いけないことをしているという背徳感が、得も言われぬ妙味を加えていた。リリアの方もいつにも増して感じているのが分かる。いつもと違った快感に、二人は没入していった。
「はあっ……ああっ……」
「リリア……どう……生の感触は……?」
「いつもより……気持ちいいかも……」
リリアの感じ様は、いつも以上であった。やはり、着けていない方がより強い快感を得られるのであろう。そういった所まで、彼は人間と全く同じである。粘膜を直接擦れ合わせる感触には、全く抗いようがない。
「あっ……もう出る……」
リリアがそう言うと、美咲は自らの中に迸るものを感じた。内側の粘膜に、粘ついた液が染み渡ってゆく。体内に播種を許したのは、これが初めてのことである。この時の美咲の背徳感は最高潮であった。思考は渦を巻いて濁り、視界は霧散して漂白されてしまっていた。
「言うの遅いよ。中に出ちゃってるんだけど」
暫くして冷静になった美咲は、口を尖らせてリリアを責めた。やはり、中に出されれば不安が襲ってくるのは避けようがない。
「ああ、いや、どうすればいいのか分からなくて……」
「まぁ危ない日じゃないから大丈夫だとは思うけど……」
リリアの出したそれが、前の彼氏のよりも薄くて粘り気も弱かったのを思い出す。今日は大丈夫な日だし、それにあんなものを出されても受胎にまで結びつかないのではないか、という気もする。気もする、というより、そう思って不安を押し殺したという方が正しい。
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