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第5話 二十四時間戦えますか?
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その頃、大魔皇帝自らが率いる大軍が、とうとうカンヨウを包囲した。道中、抵抗らしい抵抗は全く受けなかった。無人の野を行くが如くである。
国都の守備は全くの空であった。見張りの兵が僅か十数名、城門の上に立っていたぐらいである。できることといえばせいぜい敵襲を城内に伝えることぐらいで、武器をとっての抵抗などできるはずもない。事実、彼らは敵を見るや否や一目散に逃げだしてしまった。
魔族軍が衝車や床弩を伴って城門に殺到しようとしたまさにその時、空から火球が雨のように降り注いだ。城門に取り付こうとした傀儡兵たちは、何もできずにただ焼かれていった。
「来たか……転生者め」
遠くからそれを眺めていた大魔皇帝は、眉根に皺を寄せた。人間は魔術を扱えない。こんな魔術を扱えるのは、ただ転生者のみである。奴が、敵襲に応じ始めたのだ。
「さぁ、戦いはこれからだ」
そう、戦いは、まだ始まったばかりである。
前線から一掃された兵、すぐさま補充された。それもまた火球の雨によって排除されたが、すぐにまた後方から兵が押し寄せる。倒されても、倒されても、次々と兵を繰り出した。それを繰り返す内に、とうとう城門を破り、兵が城内に突入した。
傀儡兵とそれに牽引された投石機、床弩などの兵器が、城内になだれ込む。それもまたすぐに火球に焼き尽くされたが、なだれ込む兵の流れは止まらなかった。
魔族軍は、物量をたのみに、ひたすら押して押して押しまくった。兵を破壊されながらも昼夜の別を問わず、少しずつ、少しずつ宮殿に近づいていったのである。そしてとうとう、投石機や床弩によって、宮殿を守る壁を猛烈に攻撃し始めた。今の魔族軍は、まるで大海の波の如くである。
「確かに転生者は破格の強さだ。だが、いつまで休まずに戦い続けられるかな?」
大魔皇帝は、戦車の中でほくそ笑んだ。
傀儡兵は眠らずに戦い続けることができる。それを統括する指揮官は、交代で眠ればよい。だがそれと戦う転生者はどうか。如何に強者でも、睡眠は必要だ。
「人海戦術とは、小癪な」
内庭に殺到した傀儡兵、その前に、とうとうアルスが自らその姿を現した。その手にはあの龍殺しの聖剣が握られている。
剣が振るわれた。内庭に突入した傀儡兵は、全てがその首を飛ばされ倒れた。そこに、後方から投石機に投射された岩石が幾つも降ってきたが、剣を振るうと全て真っ二つに割れてしまった。美食によって肥えた体でよくぞと思える剣さばきである。
「随分と、カンヨウも変わったものだ」
アルスの目の前に、傀儡兵ではない何かが姿を現した。傀儡兵よりも背は低い。まるで子どものようだ。
「我がカンヨウの主であったのは、どれ程昔のことであったろうか……」
「お前はもしや……大魔皇帝? じゃあ昔倒したあいつは……」
「ギゼン。我の侍中だ。私に成りすまして、禁中に残ったのだよ」
「影武者殺して空騒ぎってことかよ……まぁいい。今ここでお前を倒せばいいだけだ」
「強がる割には、顔色が悪そうだが?」
「うるさい!」
アルスはこの時すでに齢四十を越えていたが、その年齢以上に顔は老け込んでいた。その目元の下に見える隈は、連日ずっと眠っていないことを言外に示している。
「この聖剣の錆にしてやる」
アルスは龍殺しの聖剣を振り上げた。すると、その剣先から、眩いばかりに輝く白い光線が、天に向かって放たれた。その光線を放ったまま、アルスはそれを大魔皇帝に向けて振り下ろした。
「光障壁!」
大魔皇帝は体の正面に光障壁を張って防いだ。だが、光線の威力は凄まじい。どれだけ持ちこたえられるのか……
そう思った時、後ろから足音が聞こえた。傀儡兵のものよりは、軽そうな足音である。
「兄者!」
「今助ける!」
やってきたのは、弟たちであった。彼らは光障壁を重ね掛けして、兄に助力したのである。
「はぁ……はぁ……」
先に音を上げたのは、アルスの方であった。魔力以前に、彼の集中力、精神力が持たなかった。
「それでは、こちらの番だ」
大魔皇帝と弟たちは、掌をアルスに向けた。すると、アルスの足元に、何かの模様が描かれた赤い魔法陣が現れた。
「サヨウナラ」
魔法陣から、紅の炎の柱が立ち昇った。
「やめてくれ! やめてくれ!」
炎の中から、悲痛な叫び声が聞こえた。大魔皇帝は、ただ無言で、炎を眺めていた。それも暫くすると聞こえなくなり、その場にはただ、爆ぜるような音だけが響いていた。
いつの間にか、日は暮れていた。大魔皇帝は、宮殿の内庭で、夜空に煌めく星々を眺めていた。
「ギゼンよ……恩義に報いることはできたであろうか」
蕭然と夜風が吹く中、彼はかつての侍中の名を呟いたのであった。
その後、大魔皇帝は再びシン国の建国を宣言した。だが、これで終わりではない。王国の残党が各地に残っている。
まだ、彼の戦いは終わらない――
国都の守備は全くの空であった。見張りの兵が僅か十数名、城門の上に立っていたぐらいである。できることといえばせいぜい敵襲を城内に伝えることぐらいで、武器をとっての抵抗などできるはずもない。事実、彼らは敵を見るや否や一目散に逃げだしてしまった。
魔族軍が衝車や床弩を伴って城門に殺到しようとしたまさにその時、空から火球が雨のように降り注いだ。城門に取り付こうとした傀儡兵たちは、何もできずにただ焼かれていった。
「来たか……転生者め」
遠くからそれを眺めていた大魔皇帝は、眉根に皺を寄せた。人間は魔術を扱えない。こんな魔術を扱えるのは、ただ転生者のみである。奴が、敵襲に応じ始めたのだ。
「さぁ、戦いはこれからだ」
そう、戦いは、まだ始まったばかりである。
前線から一掃された兵、すぐさま補充された。それもまた火球の雨によって排除されたが、すぐにまた後方から兵が押し寄せる。倒されても、倒されても、次々と兵を繰り出した。それを繰り返す内に、とうとう城門を破り、兵が城内に突入した。
傀儡兵とそれに牽引された投石機、床弩などの兵器が、城内になだれ込む。それもまたすぐに火球に焼き尽くされたが、なだれ込む兵の流れは止まらなかった。
魔族軍は、物量をたのみに、ひたすら押して押して押しまくった。兵を破壊されながらも昼夜の別を問わず、少しずつ、少しずつ宮殿に近づいていったのである。そしてとうとう、投石機や床弩によって、宮殿を守る壁を猛烈に攻撃し始めた。今の魔族軍は、まるで大海の波の如くである。
「確かに転生者は破格の強さだ。だが、いつまで休まずに戦い続けられるかな?」
大魔皇帝は、戦車の中でほくそ笑んだ。
傀儡兵は眠らずに戦い続けることができる。それを統括する指揮官は、交代で眠ればよい。だがそれと戦う転生者はどうか。如何に強者でも、睡眠は必要だ。
「人海戦術とは、小癪な」
内庭に殺到した傀儡兵、その前に、とうとうアルスが自らその姿を現した。その手にはあの龍殺しの聖剣が握られている。
剣が振るわれた。内庭に突入した傀儡兵は、全てがその首を飛ばされ倒れた。そこに、後方から投石機に投射された岩石が幾つも降ってきたが、剣を振るうと全て真っ二つに割れてしまった。美食によって肥えた体でよくぞと思える剣さばきである。
「随分と、カンヨウも変わったものだ」
アルスの目の前に、傀儡兵ではない何かが姿を現した。傀儡兵よりも背は低い。まるで子どものようだ。
「我がカンヨウの主であったのは、どれ程昔のことであったろうか……」
「お前はもしや……大魔皇帝? じゃあ昔倒したあいつは……」
「ギゼン。我の侍中だ。私に成りすまして、禁中に残ったのだよ」
「影武者殺して空騒ぎってことかよ……まぁいい。今ここでお前を倒せばいいだけだ」
「強がる割には、顔色が悪そうだが?」
「うるさい!」
アルスはこの時すでに齢四十を越えていたが、その年齢以上に顔は老け込んでいた。その目元の下に見える隈は、連日ずっと眠っていないことを言外に示している。
「この聖剣の錆にしてやる」
アルスは龍殺しの聖剣を振り上げた。すると、その剣先から、眩いばかりに輝く白い光線が、天に向かって放たれた。その光線を放ったまま、アルスはそれを大魔皇帝に向けて振り下ろした。
「光障壁!」
大魔皇帝は体の正面に光障壁を張って防いだ。だが、光線の威力は凄まじい。どれだけ持ちこたえられるのか……
そう思った時、後ろから足音が聞こえた。傀儡兵のものよりは、軽そうな足音である。
「兄者!」
「今助ける!」
やってきたのは、弟たちであった。彼らは光障壁を重ね掛けして、兄に助力したのである。
「はぁ……はぁ……」
先に音を上げたのは、アルスの方であった。魔力以前に、彼の集中力、精神力が持たなかった。
「それでは、こちらの番だ」
大魔皇帝と弟たちは、掌をアルスに向けた。すると、アルスの足元に、何かの模様が描かれた赤い魔法陣が現れた。
「サヨウナラ」
魔法陣から、紅の炎の柱が立ち昇った。
「やめてくれ! やめてくれ!」
炎の中から、悲痛な叫び声が聞こえた。大魔皇帝は、ただ無言で、炎を眺めていた。それも暫くすると聞こえなくなり、その場にはただ、爆ぜるような音だけが響いていた。
いつの間にか、日は暮れていた。大魔皇帝は、宮殿の内庭で、夜空に煌めく星々を眺めていた。
「ギゼンよ……恩義に報いることはできたであろうか」
蕭然と夜風が吹く中、彼はかつての侍中の名を呟いたのであった。
その後、大魔皇帝は再びシン国の建国を宣言した。だが、これで終わりではない。王国の残党が各地に残っている。
まだ、彼の戦いは終わらない――
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