愛さなくても結構ですが、溺愛はいたしますよ? 〜平凡令嬢に転生した世界で、美貌の公爵様の愛され妻を演じてます!〜

針沢ハリー

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2.お決まりのセリフ!

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 私の結婚が決まると、案の定、家中が大騒ぎになった。

 私は何人も家庭教師がつけられて、子供の頃にも習ったような基礎的な物事から学び直させられた。
 食事と寝る時間以外はほとんど勉強漬けなのには、何度も音を上げそうになった。
 でも、これも「異世界らしくていい!」と思える。いかに私が、今までの平凡すぎる生活にがっかりしていたのがお分かりいただけるはずだ。


 その他にも体中を磨かれたり、閨教育を受けたりもした。
 しかし、前世の記憶がある私には閨教育は不要だ。
 三十歳を目前に処女のまま生を終えたものの、あちらの世界ではちょっと検索すればいくらでも性に関する知識が得られた。

 それと比べたら、こちらの世界の閨教育は基本的に「旦那様の言うとおりにせよ」などという、まったく意味のないことしか言われない。
 何も教えられていないも同然のまま嫁がされる令嬢方が可哀想で仕方がない。

(でも、あまり詳しいのもおかしいということよね。気をつけないといけないわ)

 そうして私が自分磨きに勤しんでいる間に、私の婚約は父と公爵の間で交わされた。


 そして、なんと、その婚約者と直接顔を合わせもしないまま、私は結婚式の日を迎えた。
 私が公爵との結婚を知らされてから半年後のことだった。

 蔑ろにされている気もするけれど、夫となるファルケン公爵は、宰相だったお父上を急に亡くして公爵家を継いだばかりでもある。
 その亡くなった前公爵の喪が明けて急いで結婚するわけだから、仕方のないことだと、私は気にもしていなかった。
 ドレスや宝石類を揃えなければならなかったお母様だけは「少し早すぎる」と文句を言っていたけれど。


 結婚式の最中にこの半年のあわただしさに思いをはせていた私は、人々の列の間を歩いている最中、ベールに覆われたぼんやりとした視界の中で隣を歩く男性に視線だけを向けた。
 頭は前を向いたままにしておかなければならないので、なかなか大変だった。
 何度か夜会でご挨拶した記憶がある美しいお顔は、残念ながらベールのせいでよく見えない。

 私は夫となる人とは言葉どころか視線も交わさないまま祭壇の前に進み出て、この世を統べる精霊らに対して結婚の誓いを立てたのだった。


 こちらの世界では結婚式が終わると、参列者らには食事や酒がふるまわれる。
 そして新郎と新婦は閨の支度のためにすぐにその場を後にするのが習わしだ。私たちもそうした。

 私は実家から連れてきたユリヤや公爵家のメイドの手で体を清められ、寝化粧を施されて、夫婦の寝室に押し込まれた。
 彼女たちがそれほどまでに急いでいた理由はすぐに分かった。寝室の中ではすでに公爵が……いや、旦那様が寝酒を飲みながら暇そうにしていらっしゃった。

(お待たせしたわよね。男性はさほど支度に時間はかからなかったはずだもの)

 私はお詫びの言葉を発しようとして思いとどまった。妻たるもの、初夜の寝室では夫よりも先に口を開いてはいけないと習ったのだ。


 私はこちらには目もくれない公爵を眺める。
 金色の髪はサラサラで、肩より下で切り揃えられている。式の間も、以前夜会でお会いした時も髪を結んでいたけれど、今は下ろされている。
 その垂れた髪に隠れて横顔もほとんど見えない。たしか、彼の瞳の色は薄い茶色だったと記憶している。

 とにかくその顔は美しくて、夜会では婚約者や、はては夫のいる女性たちまでもが彼に見とれていた。

 扉の近くに立ったままだった私は、その見つめていた相手が無言で立ち上がったのに驚いて一歩後ろに下がってしまった。
 その様子を見た彼の眉間にしわが寄る。せっかくの美しい顔なのだから、眉間にしわなんて作って欲しくはない。私はそれを伸ばしたくなった。
 

 そんな私に、彼はやはり何も言葉を発さないまま近づいてくる。目の前に立たれるのかと思いきや、彼はすれ違いざま、私の横で一瞬立ち止まって言った。

「今夜はそなたと過ごさない。私はもう誰も愛さないと決めている」

 私はその衝撃に身動き一つできないまま、彼が去って行く足音と、寝室の扉が閉まる音を聞いていた。
 そして、口元を両手でぎゅっと押さえる。

(お約束のパターンが来たわ!)

 私は歓喜の声を上げそうになるのを何とか耐えて、その喜びを噛み締める。

 愛さない宣言なんて、テンプレすぎる気はしたけれど、旦那様は「もう誰も愛さない」とも言った。「もう」という発言があったからには、これまでに彼は誰かを愛していたということだ。
 これは、なかなか面白そうだと私は思った。

 そして、ついに耐えきれなくなって、両腕を高く上げてしまった。
 本当は飛び跳ねたいくらいだったけれど、その衝動には耐えた。

 私は嬉しかったのだ。前世を思い出してから、異世界としか思えなくなってしまったこの世界の一員に、ようやくなれた気がしたから。

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