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3.すっぽかされた初夜
しおりを挟む私は初夜を迎える寸前に、小説でお決まりの「愛さない」宣言を政略結婚の相手にされた。
私はその事実に嬉しくなりつつも、少しがっかりしていた。
閨事をしてみたかったのだ。
今世ではもちろん、前世でも処女だった私は、愛し合っていなかったとしても、美貌の男性と致すのはまったくもってやぶさかではない。むしろ興味しかない。
とはいえ、その初夜の相手がいなくなってしまったのだから、今はおとなしく眠るしかないだろう。
私は夫婦二人がゆったりと横たわれる、広々としたベッドの中央に大の字で寝転がってみた。
上を見上げると天蓋に彫られた模様が見える。そこから垂れ下がる薄布は支柱にくくりつけられている。
枕元に明かりが灯されているので、それが見えたわけだけれど、それを消せば天蓋も何も見えなくなるだろう。
初夜を完遂するためには暗闇では難しいだろうから、明かりがあるのは当然だ。でも今は私の睡眠の邪魔になるだけなので、私は少し起き上がってその明かりを吹き消した。
あの人は「もう誰も愛さない」と言っていた。つまりは愛した人がいたわけだ。どこのご令嬢だろうか。
派閥内の均衡を保つために愛する人と別れさせられて、美しくもない私のような女を妻に迎えなければならなかったのだとしたら、八つ当たりをしたくなるかもしれない。
少し子供っぽいとは思うけれど、彼もまだ二十歳だ。
今の私よりは二歳年上だけれども、前世の記憶が三十年分ある私からしてみたら、ほんのお子様だ。
私は寛大な心で彼をゆるしてあげることにした。
私はまだ眠くはなかった。だから今後のことを考えてみる。
前世で散々恋愛小説を読んでいた私は、この後にあり得るパターンを山ほど知っている。
冷たい夫を気にせずに好きに生きているうちに溺愛される妻なんて、よくあるお話だったけど、それはその妻に何らかの魅力があったからだ。私には美貌も才能もない。
(人付き合いは得意ではないけど、いろいろと経験をしたいなら自分から行動するしかないわよね)
これまでは前世の記憶とのはざまで混乱することも多く、周囲に合わせなければと流されてばかりだった。
でも、この結婚によって人生は決まってしまった。
そうであるならば思いっきり、この状況を楽しみたい。
前世では一応、女優になるという夢を叶えた。でも、今いる世界の身分では私は女優にはなれなかった。
没落した家の娘は別として、体を売ることもある女優などという下賎な者には、貴族の娘はならないのだと家族から注意されたのだ。
その考えには賛成出来なかったけれど、それが文化になってしまっているのだから、私にはどうにも出来なかった。
でもだからこそ、今から女優になったつもりで、「愛される妻」を演じてみようと思った。
とはいえ、相手の気持ちを無視した行動をとるわけだから、「嫌われている妻」になるかもしれない。でも、それもまた楽しめそうだ。
そもそも夫となった人の性格を知らないのだから、やってみるしかない。
自分の置かれた状況にあきらめがついたら、とことんやるのが前世の私だったと思い出す。そのおかげで、働き過ぎていたわけだけど。
私は決断を下すと、途端に眠気に襲われた。私は二人用の大きな掛け布にもぐり込み、夢うつつで考え事をしながらそのまま眠りに落ちた。
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