愛さなくても結構ですが、溺愛はいたしますよ? 〜平凡令嬢に転生した世界で、美貌の公爵様の愛され妻を演じてます!〜

針沢ハリー

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5.旦那様溺愛計画

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 メイド長に改めて聞くと、昨日結婚式を迎えたばかりだというのに、旦那様は私が起きる前に王宮に向かったそうだ。

 毎日同じ時間に出かけるというから、朝にゆっくりと話をするのは難しいだろう。

 ちなみに旦那様は自室で眠ったらしい。
 私の部屋の中にも個人の寝室があるけれど、私は絶対に毎日、あの夫婦の寝室で寝てやろうと決めていた。


 そして、夕食は家族がそろってとるのがこの家の伝統だというから、何かを仕掛けるとしたら夕食時がねらい目だ。

 それから、旦那様は甘いものがお好きだと聞いた。だから、調理場に挨拶がてら立ち寄って、実家で作られていたお菓子を作ってもらう算段をつけた。

 私は記憶力には自信があるので、レシピは覚えている。それを伝えると、料理長だという壮年の男性がそれをすぐに再現してくれた。

 この屋敷の調理場は広い。料理人も大勢いる。でも暮らしているのが私と旦那様だけだから時間を持て余していたのだと、嫌な顔一つせずに協力してもらえたのはありがたかった。

「美味しいわ。まさにこの味よ!」

「面白いですな。ジャムを上にのせるというのは」

「ええ。そうなの。ルドラー伯爵家はもともと田舎出の騎士が一代で築いた家だから、田舎風のレシピが多いの」

 これは嘘だ。いや、料理に関して言えばその通りだけど、このお菓子は私が前世で好きだったものを再現してもらって以来、伯爵家の定番になったものだ。

 そして私はユリヤにあるものを買いに行ってもらった。ユリヤはまた私を呆れたような目で見たけれど、渋々といった様子で出かけて行った。

 それだけすると、今私に出来ることは無くなった。標的がいないのだから、行動を起こしようがないのだ。


 私は作ってもらったお菓子を食べ、図書室に案内してもらってその蔵書の数に目を見張り、何冊か小説や伝記物の本を部屋に持ち帰って読んで、怠惰に過ごした。
 いや違う。溺愛攻撃のための英気を養った。

 そして、その時がきた。旦那様が帰宅したのだ。

「おかえりなさいませ」

 私は使用人たちとともに旦那様を出迎えた。そして夕食の席に着くや否や、計画を実行に移した。
 私はとにかく公爵家の家人や旦那様を褒めちぎった。とはいえ、食事も食べなければいけないので思ったよりもうまくいかない。
 旦那様も結局、「ああ」と「そうか」しか言わなかった。


 次は夕食後に旦那様が執務室でお仕事をしているところに狙いを定める。
 将来の宰相との声も聞かれるほど優秀で勤勉な方だとは聞いていたけれど、王宮でのお仕事を持ち帰ったり、領地経営の方のお仕事をされたりするのが夕食後の日課だそうだ。

 お父様とは大違いだ。というより、この世界では貴族はもっと夜の時間を有意義に使っている。

 旦那様はワーカーホリックというやつなのではないだろうかと、私は自分の前世の記憶に照らして思った。
 働き過ぎは体によくないので、ぜひ無理にでも休んでいただこう。

 私は前もって頼んでいた通り、旦那様にお茶をお持ちするときに声をかけてもらい、メイドと一緒に執務室に入り込んだ。

「何か用か」

(あら。不機嫌な声……)

「実家のレシピで作らせたお菓子をお持ちしました。根を詰めすぎるのは良くないと思います。少し休憩を……」

「邪魔をされると、その休憩時間すらとれなくなる」

「……分かりました。お菓子だけ置かせていただいて、私は下がります」

 私のその言葉に返答もせずに手元の書類に目を落とす旦那様の眉間には、またしわが寄っている。
 それは私のせいで出来てしまったもののようなので、私はメイドと一緒にすぐに退出した。

「奥様。旦那様はお忙しいだけで、けして……」

「いいのよ。お邪魔をしてしまった私が悪いの……」

「奥様……」

(まあ。メイドを涙ぐませてしまったわ)

 私のけなげな演技はなかなかのものらしい。これは私のようなさえない女がするからこそ、人に哀れをもよおさせるのだろう。

 そして一日の締めに、夫婦の寝室にお誘いする。
 これはメイド長を経由して家令に協力してもらった。「早くお世継ぎを」攻撃である。

 しかし、その日も私は広いベッドの上で大の字になった。今日も彼は来なかったのだ。多分私には女としての魅力がないのだろう。

 それか、「もう」誰も愛さないのだと言っていたから、かつて悲しい恋でもしたのだろうか。身分違いのメイドだとか、結婚してしまった幼馴染だとか、いくらでも思いつく。


 翌日、私は旦那様のかつての恋人について、かなりあからさまに屋敷の中で聞いてまわった。

 それらしき話は聞かなかったものの、家人が結託して妻である私に隠しているだけかもしれない。「奥様に隠し事など致しませんよ」とメイドたちは微笑むけれど、本当のところは分からない。


 私は、この三つの攻撃をひたすら継続した。

 ユリヤに「いい加減になさらないと嫌われるのでは?」と言われたけれど、それは初めから織り込み済みなので構わない。

 嫌われたらその状況を楽しむのだ。そちらの方がむしろ今の中途半端な状況よりも小説っぽい気がする。
 私は絶対に、少しでも楽しい人生を歩んでやろうと決意を新たにしたのだった。

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