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5.救われた命
しおりを挟む三年前の暗殺未遂事件の後のイザベラは、ひたすら部屋に閉じこもり、夜もろくに眠れない日々を送っていた。
こんなふうに、急に命を狙われた理由を考えてしまうのは自然なことだっただろう。
この少し前に、イザベラの降嫁が決まったばかりだった。
もともとイザベラを亡き者にしたがるのは、異母弟のアーロンを皇帝にしたい、彼の伯父で宰相のカーディ侯爵だろうけど、もうそんな必要はほぼなくなっているはずだ。
でも、彼らが犯人だという説には、まだ説得力があった。
もし、他の有力な家がイザベラを手に入れ、アーロンやカーディ侯爵家を追い落とそうとすれば、彼らにとっては脅威となるからだ。
側妃への皇帝の寵愛は厚いし、カーディ侯爵は宰相の位についているけれど、それは皇帝の気が変われば覆ってしまう程度のものだ。
だから彼らは、イザベラが女帝となる道を閉ざすために、カーディ侯爵家と非常に近いユペール侯爵家のフェルナンドとイザベラを婚約させたのだ。
でも、念には念を入れたという可能性は捨て切れなかった。
むしろ、他に犯人が思いつかない。
イザベラがそんな風に、恐怖と孤独と飢えに苦しんでいても、助けてくれる人はいなかった。
実の母でさえも。
イザベラの母はとある強国から嫁いできた。
母は皇帝の寵愛を得られなかったけれど、しかし他国から嫁いで来たために、一応正妃の座には留まっている。
しかし、イザベラがこんな目に遭っても、母は犯人探しもしなければ、イザベラを守るために何もしてくれない。
母は宮廷内で、その程度のその力も持っていないのだ。
そんな、心身共に弱り、疲れ果てていたイザベラの元にやってきたのが、三人の侍女だった。
母の部屋でも見かけた覚えのない彼女たちは、新しく王宮で雇われたのだと言った。
当然、そんな相手をイザベラが受け入れるわけはない。
敵意を剥き出しにするイザベラに対しても彼女たちは嫌な顔一つせず、なぜか毒見役を買って出た。
イザベラは彼女たちに何かあったら嫌だったので止めたけれど、彼女たちは毒味をやめなかった。
そして、食べた直後に何事も起こらなかったとしても、遅く効果が出る毒もあるからと、彼女たちはイザベラをしばらく待たせた。
そして、懐中時計で時間を確認し、「もう大丈夫ですよ、皇女殿下」と三人で微笑んで、イザベラが安心して食事を摂れるようにしてくれた。
イザベラは子どもの頃から他人の言うことを素直に聞く人間ではなかったから、彼女たちにも始めは反発ばかりしていた。
でも、イザベラよりも少し年上の彼女たちは、それまでの侍女があからさまに嫌な顔をする場面でも笑顔を絶やさなかった。
それどころか、イザベラをとても甘やかしてくれた。
人生で初めての体験だった。
「お口を開かなければ甘いお菓子のようなお見た目ですのに、その落差が殿下らしくあられますわね」
「それが殿下のお可愛いらしいところですわ」
そんなことを言いながら、どう考えても可愛くないイザベラの言動をいなしつつも、根気強く対応してくれた。
そして、そんな彼女たちをイザベラはだんだんと信じられるようになっていった。
やがて、イザベラは食事や睡眠がきちんととれるようになって体力が回復すると、イザベラは剣の扱い方を習い始めた。
それと同時に薬草学や毒薬の知識も頭に詰め込んだ。
そうして、今でも自分の身を守れるようにと努力をし続けている。
数年前の、今では少し落ち着いて考えられるようになった出来事を思い出していたイザベラの目の前に菓子が置かれた。
「難しいお顔をなさっておいでですね?」
「眉間に皺を寄せてはいけませんよ、殿下!」
そんなことを言われても、イザベラの眉にはついつい力が入ってしまう。
二日後にユペール侯爵邸へ行かなければならないのが、本当に嫌なのだ。
婚約者のフェルナンドは、イザベラの命を狙ったかもしれない者たちの仲間なのだから。
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