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11.夜会と密会現場
しおりを挟むフェルナンドとの約束の夜会の日、いつにも増して上機嫌の侍女たちが、イザベラを飾り立てていた。
「フェルナンド様から贈られたドレスをお召しになるなんて、初めてのことではございませんか?」
「それに、あちらからもドレスや宝石の色味の問い合わせがございましたもの。きっとお色を殿下に揃えていらっしゃいますね」
「殿下。ようやくフェルナンド様を婚約者とお認めになったのですか?」
イザベラは、自分を完全に権力から遠ざけたがっている弟のアーロンを騙すためだとも言えないから、彼女たちに曖昧に微笑んだ。
しかし、そのイザベラの様子を見て、三人は歓声をあげる。なんでそんなに喜ぶのかと思うほど喜んでいる。
この三人とは別の意味合いで、夜会の会場での二人には、否が応でも注目が集まってしまうだろう。
それがフェルナンドの狙いのようだけれど、とイザベラは内心でため息をついた。
イザベラがフェルナンドと共にそこに足を踏み入れると、煌びやかなシャンデリアの光に一瞬目が眩んだ。
そして、多大な注目を浴びながら、フェルナンドの腕に手を掛けて歩き出す。
この三年というもの、エスコート役は婚約者のフェルナンドと決まっていた。
彼はいつもイザベラが歩きやすい速度で歩く。彼の方がずっと身長が高いのだから、彼としては歩きにくいと思うのに。
今まではそれは紳士として当然のことと深く考えずいた。
でも、彼の話を聞いた後にその意味を考えると、本当に彼はイザベラのためにそうしてくれていたのかもしれないとも思える。
イザベラが先に入場していた弟のアーロンの横に案内されて立ち止まると、フェルナンドが耳元で「殿下、手袋を」と囁きかけてきた。
イザベラは手袋を取ってから、今までは手袋越しにしか触れることを許していなかったフェルナンドの手に、自分の手を乗せた。
その瞬間ざわめきが聞こえたけれど、思っていた通りなのでそれは無視する。
それからもこの日のイザベラは、ひたすら周囲を驚かせ続けた。
今までは全くと言っていいほど受けなかった挨拶の数々に、フェルナンドに促される形で応じて見せたのだ。本当は嫌で仕方がなかったけれど。
すると、皆、にこやかな表情を貼り付けたまま、何かを探るような視線を残して去って行く。
「ねえ。これはいつまで続けなくてはいけないのかしら」
イザベラは扇を広げて、その陰でフェルナンドに聞く。
すると彼は「もう少しです。それから私のことは名前でお呼び下さい」と耳元で囁いた。
イザベラは彼の言う通り、フェルナンドを名前で呼び、彼の言葉に素直に応じて見せる。
イザベラとフェルナンドがその調子で会場の中を歩くたびに、周囲の視線がうるさかった。
挨拶を受け終わると、イザベラは打ち合わせ通りに化粧直しに向かい、その帰り道にフェルナンドから聞いていた部屋へ入り込んだ。
彼が手を回して、その部屋を確保してあるのだそうだ。
そして、その部屋の分厚いカーテンの後ろに隠れる。
窓ガラスに触れる肩が冷たくて、体が震えた。こんなことならばショールを持ってくればよかったとイザベラは後悔した。
少し待ったところで、フェルナンドがアーロンを連れてやってきた。彼の伯父であるカーディ侯爵も一緒だった。
「あの女をよく手懐けたな」
そう言ったのはアーロンだった。イザベラの弟は、姉のことを「あの女」と呼んでいるらしい。
腹立たしかったけれど、口をつぐんでいるしかないのが悔しい。
アーロンたちは、イザベラがユペール侯爵邸を訪ねたことを知っていた。
フェルナンドは明言をしなかったけれど、まるで彼がイザベラを抱き、屈服させたかのように語った。
それを聞いた残りの二人が何やら下品な話題で盛り上がっているのを、イザベラは聞いていなければならなかった。耳をふさげなかったからだ。
身動きをすれば、カーテンが揺れてしまう。
そう言えば、フェルナンドが敵だと確信を持った時にも、自分はこうして物陰に潜んで彼らの話を聞いていたのだったと思い出した。
その時のことを考えて下品な話題から気を逸らしていたところに、聞き逃せない言葉が飛び込んできた。
「あの男ももう長くない。最近の体調や側妃たちとの閨での様子を聞いているか? フェルナンド」
「はい」
アーロンが言った「あの男」が誰を表しているのかは明白だった。
現在側妃を持つのは皇帝だけだ。
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