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12.敵か味方か
しおりを挟むイザベラは寒気を覚えた。
たった今、父親である皇帝が、まるで近いうちに亡くなるかもしれないとしか聞こえない発言を聞いてしまったからだ。
しかも、異母弟の口から。
カーディ侯爵も嬉しそうに言う。
「あれは何年もかけて体を蝕むのだろう? さて、殿下が皇帝になられるのはいつのことか」
「伯父上。焦りは禁物ですよ」
彼らがイザベラを暗殺しようとしたのなら、それも納得だった。皇帝さえも手にかけようとしているのだから。
イザベラは父親の老け込んだ顔を思い出した。
自堕落な生活を送っているせいだとしか思っていなかったけれど、他の要因もあったことに背筋が冷たくなる。
イザベラは確かに甘かった。彼らが権力を握りたがっていることは知っていても、そこまで大それたことをしているとは考えもしなかった。
フェルナンドは本当に彼らからイザベラを守ってくれていたのだろうか。彼を信じてもいいのだろうか。イザベラの心は揺れた。
それからもいくつか彼らの政敵を追い落とす計画を話し合うと、二人は去って行った。
何事もなかったかのように馬の話をしながら部屋から出て行った彼らは、いったいどれだけの罪を犯してきたのだろう。
カーディ侯爵はともかく、アーロンはまだ十六歳だ。
でも、侯爵とも対等に話していた。それがとても恐ろしい。せめて、誰かに操られる傀儡であればまだよかったのに。
少しするとカーテンが開けられて、フェルナンドが姿を現し、イザベラは彼に引き寄せられた。
イザベラは小刻みに震えていた。それは寒さのせいだけではなかった。
フェルナンドは顔色が変わっているのだろうイザベラを心配そうに覗き込む。
「カーテンの裏側は寒かったようですね。他の場所を考えればよかった。しかし、広くてベッドや家具があるような部屋には時折り逢引き目的の者たちが入り込んでいるものなので」
彼はそう言いながら、むき出しのイザベラの肩を温めるように手で撫でた。
「少しは信用していただけましたか?」
「お父様が……皇帝陛下が殺されるのを黙って見ているつもり?」
「あれは彼らの勘違いです。いえ、一時期は確かに毒物を少量ずつ与えられていましたが、今は毒を砂糖にすり替えています。ただ、陛下はお酒をおやめになれないのです。こればかりは私にもどうにも出来ません」
そう言われてもイザベラの震えは止まらなかった。
「恐ろしいとお思いですか?」
「当たり前でしょう?」
「あなたは大丈夫ですよ。私がお守りしますから」
彼はイザベラの肩に口づけ、震えが止まらないままのこの体を抱きしめた。イザベラはされるがままになる。
「愛しています、殿下」
彼にそう囁かれても、返す言葉をまだイザベラは持っていなかった。
彼の言葉を総合すると、三年も前から、彼はイザベラの身の危険を知ると、それを秘密裏に阻止し、イザベラを害そうとしていたアーロンの懐に入り込んでいたということになる。
そして、彼がそうするのは自分を愛しているからだと言う。
そういえばイザベラは、「一番大切」だとか、「愛している」だとか、そんな言葉はフェルナンド以外の誰にも言われたことがないと気づいた。
母には男として生まれなかったことを詰られ、父は自分に見向きもしない。
「……愛されるというのが、どういうものなのか、よく分からないの」
イザベラのつぶやきに彼が微笑む。その彼の笑顔は、いつもとは少し違う気がした。
「これからお教えします。私が、あなたに」
イザベラはそう言いながら抱きしめてくるフェルナンドに体を預けてみた。
彼はイザベラを優しく、でも力強く支えてくれる。
二人はしばらくそうしていた。
イザベラはその心地いい彼の腕の中で先ほど冷え切ってしまった体が温まってきたのを感じて、少しだけ安心できた。
結婚式が近づいていた。
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