【完結】だって、あなたは敵でしょう?

針沢ハリー

文字の大きさ
12 / 20

12.敵か味方か

しおりを挟む

 イザベラは寒気を覚えた。
 たった今、父親である皇帝が、まるで近いうちに亡くなるかもしれないとしか聞こえない発言を聞いてしまったからだ。
 しかも、異母弟の口から。

 カーディ侯爵も嬉しそうに言う。

「あれは何年もかけて体を蝕むのだろう? さて、殿下が皇帝になられるのはいつのことか」

「伯父上。焦りは禁物ですよ」

 彼らがイザベラを暗殺しようとしたのなら、それも納得だった。皇帝さえも手にかけようとしているのだから。

 イザベラは父親の老け込んだ顔を思い出した。
 自堕落な生活を送っているせいだとしか思っていなかったけれど、他の要因もあったことに背筋が冷たくなる。


 イザベラは確かに甘かった。彼らが権力を握りたがっていることは知っていても、そこまで大それたことをしているとは考えもしなかった。

 フェルナンドは本当に彼らからイザベラを守ってくれていたのだろうか。彼を信じてもいいのだろうか。イザベラの心は揺れた。

 それからもいくつか彼らの政敵を追い落とす計画を話し合うと、二人は去って行った。

 何事もなかったかのように馬の話をしながら部屋から出て行った彼らは、いったいどれだけの罪を犯してきたのだろう。

 カーディ侯爵はともかく、アーロンはまだ十六歳だ。
 でも、侯爵とも対等に話していた。それがとても恐ろしい。せめて、誰かに操られる傀儡くぐつであればまだよかったのに。


 少しするとカーテンが開けられて、フェルナンドが姿を現し、イザベラは彼に引き寄せられた。

 イザベラは小刻みに震えていた。それは寒さのせいだけではなかった。
 フェルナンドは顔色が変わっているのだろうイザベラを心配そうに覗き込む。

「カーテンの裏側は寒かったようですね。他の場所を考えればよかった。しかし、広くてベッドや家具があるような部屋には時折り逢引き目的の者たちが入り込んでいるものなので」

 彼はそう言いながら、むき出しのイザベラの肩を温めるように手で撫でた。

「少しは信用していただけましたか?」

「お父様が……皇帝陛下が殺されるのを黙って見ているつもり?」

「あれは彼らの勘違いです。いえ、一時期は確かに毒物を少量ずつ与えられていましたが、今は毒を砂糖にすり替えています。ただ、陛下はお酒をおやめになれないのです。こればかりは私にもどうにも出来ません」

 そう言われてもイザベラの震えは止まらなかった。

「恐ろしいとお思いですか?」

「当たり前でしょう?」

「あなたは大丈夫ですよ。私がお守りしますから」

 彼はイザベラの肩に口づけ、震えが止まらないままのこの体を抱きしめた。イザベラはされるがままになる。

「愛しています、殿下」

 彼にそう囁かれても、返す言葉をまだイザベラは持っていなかった。

 彼の言葉を総合すると、三年も前から、彼はイザベラの身の危険を知ると、それを秘密裏に阻止し、イザベラを害そうとしていたアーロンの懐に入り込んでいたということになる。

 そして、彼がそうするのは自分を愛しているからだと言う。

 そういえばイザベラは、「一番大切」だとか、「愛している」だとか、そんな言葉はフェルナンド以外の誰にも言われたことがないと気づいた。

 母には男として生まれなかったことをなじられ、父は自分に見向きもしない。

「……愛されるというのが、どういうものなのか、よく分からないの」

 イザベラのつぶやきに彼が微笑む。その彼の笑顔は、いつもとは少し違う気がした。

「これからお教えします。私が、あなたに」

 イザベラはそう言いながら抱きしめてくるフェルナンドに体を預けてみた。
 彼はイザベラを優しく、でも力強く支えてくれる。

 二人はしばらくそうしていた。
 イザベラはその心地いい彼の腕の中で先ほど冷え切ってしまった体が温まってきたのを感じて、少しだけ安心できた。

 結婚式が近づいていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

元婚約者が愛おしい

碧井 汐桜香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。 留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。 フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。 リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。 フラン王子目線の物語です。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

いくつもの、最期の願い

しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。 夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。 そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。 メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。 死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

死んで初めて分かったこと

ルーシャオ
恋愛
ヴィリジアの王女ロザリアは、大国アルデラ王国のエアル王子の婚約者として王城で暮らしていたが、エアル王子には罵倒され遠ざけられ続け、次第に周辺の人々も近づかなくなっていた。 しかし、エアル王子が故郷ヴィリジアを滅ぼしたことをきっかけに、ロザリアは何もかもを諦める。「殿下。あなた様との婚約は、破棄いたします」、そう宣言して、ロザリアは——。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

処理中です...