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15.夫婦の寝室
しおりを挟むあまりにも泣き止まないイザベラに、ついには三人とも寝化粧をするのを諦めた。
「まあ、でん……若奥様は、お化粧などしなくても愛らしくていらっしゃいますから」
「とりあえずこちらに着替えてだけいただけますか?」
「そろそろ参りませんと」
イザベラは丈は長いけれど、ごく薄い寝巻きを着せられた。体の線が露わになっている。
その上にガウンを羽織ると、金色の髪を完全に下ろした。
その頃には、涙は止まっていた。でも、鏡を見ると目元は赤い。
案内されるままに、廊下に出ることなく、内扉を通って寝室に案内される。
しかしそこには一人用と思われるベッドしかなかった。
「ここが夫婦の寝室……?」
「こちらは、若奥様がお一人でお休みになる時にお使いになるお部屋です。ご夫婦の寝室へは私どもも立ち入りません。どうぞ、そちらの扉から。若旦那様がお待ちです」
イザベラは気恥ずかしさでいっぱいのまま、その扉を開いた。
そこは壁紙も調度類も先ほどまでのイザベラ好みの部屋よりも、ぐっと落ち着いた色合いの部屋だった。各所に置かれた蝋燭に火が灯されている。
イザベラはその炎に魅入られながら、その部屋に足を踏み入れた。
その瞬間、横から伸びて来た腕に絡め取られる。驚きはしなかった。その腕がフェルナンドのものだとすぐに分かったから。
「待っていました。……目元が赤い。泣いていたのですか?」
「あなたが黙っていたからよ。ひどいわ。三人がいるのなら、そう言っておいてくれたらよかったのにっ!」
「そんなに驚きましたか? すぐに分かることなので、言うまでもないかと」
「あなたは私の気持ちなんて、少しも分かっていないわ!」
イザベラはいつもの調子でついつい憎まれ口を叩いてしまう。
彼に礼を言わなくてはいけない立場なのに、なんて生意気なのだろうと自分でも思う。こんな調子では、すぐに夫に愛想を尽かされるのではないだろうか。
「すみません。これからはもっと近くに居られるので、知るように努力しましょう」
そう言った彼は、なぜかとても嬉しそうだ。
「……怒らないの?」
「何をです?」
何も言えなくなってしまったイザベラの瞳を覗き込むようにしながら、彼はイザベラのきつく閉じた唇を指で触られる。ふにふにと遊ぶように何度も押してくる。
やめて欲しくて睨むと、彼はさらに微笑む。本当によく分からない。
「あなたの青い瞳に自分を映してみたかった。今のように」
「意味が分からな、あ、んっ」
先ほど指で唇に触れられた時のように、フェルナンドは唇を重ねて、それでイザベラの唇を喰んだ。
その感触は指よりも柔らかい。
「ずっとこうしたかった。殿下、掴まってください」
「もう、殿下ではないわ」
「……イザベラ。私のこともきちんと名前で呼んでください。この間の夜会の時以外、あなたは私の名を呼んでくださったことがない」
そう言われて、三年も婚約していたのに、つい最近までただの一度も彼とまともな会話をしたことがなかったことにイザベラはようやく気づいた。
子どもっぽい真似ばかりをしていた自分が恥ずかしくなる。
「フェルナンド。あなた、私を抱き抱えられると言ったけれど、あれは本当かしら?」
そう言いながら彼の首に腕を回すと、ふっと体重が軽くなって、気づいた時には彼に横抱きにされていた。
フェルナンドはそのまま歩いて、ベッドにイザベラを下ろす。
イザベラはこれから行われることが急に気になり出した。先ほどまでは、侍女の三人がいてくれたことに驚いて、それどころではなかった。
それに、先ほど支度をしていた部屋で、あの日彼からいやらしいことをされたことを思い出して、急激に顔に熱が集まる。
それを誤魔化すために、また憎まれ口を叩いてしまう。
「もっと逞しかったら良かったのに」
「単純な力比べは騎士などには敵わないでしょうが、持久力には自信があります。満足させて差し上げますよ」
フェルナンドはそう言うと、自分のガウンも寝巻きも脱ぎ去って、下着だけの姿になった。
細身だけど、確かに胸やお腹の筋肉は盛り上がり、いくつかに分かれて引き締まっている。
「ご自分で脱がれますか? それとも、私がしても?」
そんな姿で覆い被されて聞かれても、なんと答えたらいいか分からない。イザベラは「好きにして」と答えた。
本当にどうしていいか分からなかっただけなのに、なぜか彼は動きを止めている。
「フェルナンド?」
「……そのようなことを言ったからには覚悟はしておいて下さい……。三年も我慢したので……」
「え? あっ、んっ」
首筋や胸元に口づけが落とされていくのに気を取られているうちに、ガウンも寝巻きも下着さえも取り除かれてしまう。
「愛しています。イザベラ」
彼の言葉に心臓が跳ねる。愛していると言われるのは心地いい。
彼はどうしていいか分からないイザベラの唇に舌を這わせてくる。それが気持ちよくて、自分もしてみたくて、イザベラはおずおずと自分から彼の舌を舐めた。
その瞬間、ピリッと何かが体を走り抜けた気がした。
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