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第103話 ルミナス
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聖剣の記憶の世界に俺は旅立った。
賢者が言うには、この世界では試練を達成するまでは帰れない。
そしてこの世界の時の流れは、現実世界と異なる。
現実世界では儀式まで最大3日間の猶予があるが、
記憶の世界では6日間となる。
つまりこの世界は、時の流れが圧倒的に早いのだ。
「ここは、ルミナスか?」
俺はこの景色に見覚えがある……
バルガスとの戦闘で死にかけた時に見た景色。
この世界は、夢の世界に近い気がした。
そして奥には真新しいルミナス城が見える。
今俺が立っている場所は、
毎日騎士学園に向かうために通った道だ。
記憶の世界に降り立ってから、すぐに目立つわけにもいかないため、姿を子どもに戻して聖剣も隠している。
ふと前を見ると、少年が大柄な男に追われて、
路地裏に入っていくのが見えた。
ここはマリアと初めて出会った場所であり、
俺達にとって思い出の地だ。
まさか同じように逃げる子供を見つけるとは思いもしない。
何故だろう……
人助けをしても、歴史が変わるわけではない。
しかし、俺は必死に逃げる少年を放っておけなかった。
そして俺は二人を追って路地裏まで進む。
その少年は、盗賊に近い容姿の男に脇腹を蹴られ、
泣きながらうずくまっていた。
「ふざけるなよ、雑魚が……
もっと持って来いって言ってるだろ!」
「ごめんなさい……
これ以上は、今は……」
泣きながら男の足に縋り付く姿を見て、
放っておける筈がない。
俺は迷うことなく男を止めようと動き出す。
「何があったのか知らないけど、
蹴るのはやり過ぎじゃないの?」
「あぁん?
ガキは引っ込んでろ!」
「それ以上は、痛い目見ることになるよ……」
するとその言葉に苛ついたのか、
男は、俺に向かって急加速する。
その動きを見た瞬間、ただの盗賊ではないと察知した。
【記憶の世界でも死ぬ可能性がある】
賢者の言葉を思い出して、
俺は戦闘時に手を抜かないと決意した。
「どうせ記憶の世界なら、
遠慮する必要はないな……」
俺は姿を変えて男の攻撃を回避して、
更に、強烈な蹴りを喰らわせる。
すると、身体の大きい男でも弾き飛ばされて、
レンガの壁に激突した。
「す、凄い……」
悔しさに涙が溢れていた子供の瞳は、
まるでヒーローでも見ているかのように、
キラキラと輝いていく。
「も、もしかしてやり過ぎたかな?」
過去の世界では戦争が頻繁に行われており、
更に街中での喧嘩も日常茶飯事だと聞いた。
こういったトラブルが起きた時は、
手加減してはいけないと聞いたが、
男はあっさりと気絶して起きる気配がない。
「お、おい!
ちょっとこの場所から移動するぞ!」
その様子に居た堪れなくなり、
俺は少年の手を取り、走り出した……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あれから適当な喫茶店を探したが、
どこにも見つからない為、仕方なく宿屋で事情を聞くことにする。
「あ、あの助けて頂いて、
ありがとうございます!」
急な出来事で気づかなかったが、
頭の上につく犬耳を見て、少年は獣人だと気付いた。
「お前、何で追われていたんだよ……」
俺がその理由を聞くと、
悲痛にも感じる声で、急に泣き始めてしまう。
「妹の薬を買うのに金が返せなくて……
もうこれ以上の金を渡したら、今日の薬が……」
辛い現実を受け入れられず、
少年の瞳に涙が溢れ、疼くまってしまった。
そんな姿を見ると、同じ妹を持つ兄として、
目の前の少年を放っておくことは出来ない。
「俺に出来ることなら、力を貸すよ」
そう俺が声をかけると、
泣き腫らして酷い顔をしていたが、
再び輝く笑顔に変わる。
「あ、ありがとうございます!
一生この御恩は忘れません……」
すると、声を出して泣き出した。
こんなに大きな声をあげて泣かれた経験がない為、
微笑ましく見ている。
それに少年の笑顔を見ると、
何故か力を貸したくなる自分に気付いた。
「ところでお前の名前、聞いていいか?」
「俺は、ガルムって言います!
犬の獣人でこう見えても13歳っす」
その返事を聞いて、色々と驚きを隠せない。
どう見ても9歳くらいにしか見えないが、
俺よりも一つ年上なのだ。
そして、いつもお世話になるスキルの持ち主、
獣王ガルムと、同じ名前である。
確か、獣王ガルムは民を守るために、
身体を大きくしたいと願っていた。
ふと泣き腫らすガルムを見て、
頭によぎった可能性を勘違いだと考え直す。
「いや、まさかな……
だだの偶然ってこともあるかもしれない」
「アニキ!
アニキの名前を教えてください」
年下にその呼び方で呼ぶのはどうなのかと思うが、
話が脱線しそうなのでスルーした。
「俺の名前はクリス・レガードだ!
宜しくな!」
そしてガルムと握手をして今日は別れる。
今日一日、賢者からの通信は無かったが、
明日、試練やガルムの件を聞いてみることにした。
そう思いながら、俺は記憶の世界で眠りにつくのだった……
賢者が言うには、この世界では試練を達成するまでは帰れない。
そしてこの世界の時の流れは、現実世界と異なる。
現実世界では儀式まで最大3日間の猶予があるが、
記憶の世界では6日間となる。
つまりこの世界は、時の流れが圧倒的に早いのだ。
「ここは、ルミナスか?」
俺はこの景色に見覚えがある……
バルガスとの戦闘で死にかけた時に見た景色。
この世界は、夢の世界に近い気がした。
そして奥には真新しいルミナス城が見える。
今俺が立っている場所は、
毎日騎士学園に向かうために通った道だ。
記憶の世界に降り立ってから、すぐに目立つわけにもいかないため、姿を子どもに戻して聖剣も隠している。
ふと前を見ると、少年が大柄な男に追われて、
路地裏に入っていくのが見えた。
ここはマリアと初めて出会った場所であり、
俺達にとって思い出の地だ。
まさか同じように逃げる子供を見つけるとは思いもしない。
何故だろう……
人助けをしても、歴史が変わるわけではない。
しかし、俺は必死に逃げる少年を放っておけなかった。
そして俺は二人を追って路地裏まで進む。
その少年は、盗賊に近い容姿の男に脇腹を蹴られ、
泣きながらうずくまっていた。
「ふざけるなよ、雑魚が……
もっと持って来いって言ってるだろ!」
「ごめんなさい……
これ以上は、今は……」
泣きながら男の足に縋り付く姿を見て、
放っておける筈がない。
俺は迷うことなく男を止めようと動き出す。
「何があったのか知らないけど、
蹴るのはやり過ぎじゃないの?」
「あぁん?
ガキは引っ込んでろ!」
「それ以上は、痛い目見ることになるよ……」
するとその言葉に苛ついたのか、
男は、俺に向かって急加速する。
その動きを見た瞬間、ただの盗賊ではないと察知した。
【記憶の世界でも死ぬ可能性がある】
賢者の言葉を思い出して、
俺は戦闘時に手を抜かないと決意した。
「どうせ記憶の世界なら、
遠慮する必要はないな……」
俺は姿を変えて男の攻撃を回避して、
更に、強烈な蹴りを喰らわせる。
すると、身体の大きい男でも弾き飛ばされて、
レンガの壁に激突した。
「す、凄い……」
悔しさに涙が溢れていた子供の瞳は、
まるでヒーローでも見ているかのように、
キラキラと輝いていく。
「も、もしかしてやり過ぎたかな?」
過去の世界では戦争が頻繁に行われており、
更に街中での喧嘩も日常茶飯事だと聞いた。
こういったトラブルが起きた時は、
手加減してはいけないと聞いたが、
男はあっさりと気絶して起きる気配がない。
「お、おい!
ちょっとこの場所から移動するぞ!」
その様子に居た堪れなくなり、
俺は少年の手を取り、走り出した……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あれから適当な喫茶店を探したが、
どこにも見つからない為、仕方なく宿屋で事情を聞くことにする。
「あ、あの助けて頂いて、
ありがとうございます!」
急な出来事で気づかなかったが、
頭の上につく犬耳を見て、少年は獣人だと気付いた。
「お前、何で追われていたんだよ……」
俺がその理由を聞くと、
悲痛にも感じる声で、急に泣き始めてしまう。
「妹の薬を買うのに金が返せなくて……
もうこれ以上の金を渡したら、今日の薬が……」
辛い現実を受け入れられず、
少年の瞳に涙が溢れ、疼くまってしまった。
そんな姿を見ると、同じ妹を持つ兄として、
目の前の少年を放っておくことは出来ない。
「俺に出来ることなら、力を貸すよ」
そう俺が声をかけると、
泣き腫らして酷い顔をしていたが、
再び輝く笑顔に変わる。
「あ、ありがとうございます!
一生この御恩は忘れません……」
すると、声を出して泣き出した。
こんなに大きな声をあげて泣かれた経験がない為、
微笑ましく見ている。
それに少年の笑顔を見ると、
何故か力を貸したくなる自分に気付いた。
「ところでお前の名前、聞いていいか?」
「俺は、ガルムって言います!
犬の獣人でこう見えても13歳っす」
その返事を聞いて、色々と驚きを隠せない。
どう見ても9歳くらいにしか見えないが、
俺よりも一つ年上なのだ。
そして、いつもお世話になるスキルの持ち主、
獣王ガルムと、同じ名前である。
確か、獣王ガルムは民を守るために、
身体を大きくしたいと願っていた。
ふと泣き腫らすガルムを見て、
頭によぎった可能性を勘違いだと考え直す。
「いや、まさかな……
だだの偶然ってこともあるかもしれない」
「アニキ!
アニキの名前を教えてください」
年下にその呼び方で呼ぶのはどうなのかと思うが、
話が脱線しそうなのでスルーした。
「俺の名前はクリス・レガードだ!
宜しくな!」
そしてガルムと握手をして今日は別れる。
今日一日、賢者からの通信は無かったが、
明日、試練やガルムの件を聞いてみることにした。
そう思いながら、俺は記憶の世界で眠りにつくのだった……
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