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第75話 任務

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時間は夕方となり放課後を迎えている。
賢者から指示のあった特別調査隊の集合場所であるBARルミナス。
クリス、シャルロットの二人は集合場所へ向かう。


「感謝しなさいよね、
 今後もマリアと定期的に会わせてあげる」


「うぅ嬉しすぎて涙で前が見えないです…」


気づけばクリスは、シャルロットの事を、
お姉様と呼ぶようになっていた。
特にシャルロットも嫌ではなく寧ろ愛称と感じている。


夕暮れ時ともいえるこの時間、路地裏に未成年が彷徨くのは異様とも言える光景だ。
気付かれてないが隣に居るのは第一王女様。
そして目の前にBARルミナスの看板が見えてきた。


「ここが例のBARですね」


「こんなところを集合場所にするなんて、
 全く何考えてるのよ」


扉を開けて中に入ると店内は薄暗く落ち着きのある大人の雰囲気を醸し出している。
さらに店内にはビリヤードの台やスロットゲーム機器が設置されているが使用者は一人もいない。
この普段見慣れていない景色に緊張してしまい二人とも顔が強張っている。


「なんか不良になった気分だわ」


「こんなことが母上にバレたら殺されます」


ため息を吐くクリスとシャルロット。
そしてそんな二人に一番遭遇したくない人物が現れる。


「ア、アンタは!」


「げ!」


そう、クリスの師匠であるフィリアだ。
特に宮廷魔術師として副業が禁止されているわけではないが、その姿は未成年に見せて良い格好ではない。


「何でフィリアさん、
 バニーの格好してるの?」


その返答をすることが出来ず泣きそうな顔でクリスを見つめるフィリア。
まさに一生の恥を弟子に見られた瞬間だった。


「な、なんて破廉恥な格好してるのよ!」


お姉様も顔を赤らめて動揺している… 
そりゃあそうだわな…
俺でも目のやり場に困る…


「クリス君、今変な顔した!」


「え?」


「ア、アンタ!
 マリアに言い付けるわよ!」


いきなり火の粉が降りかかってくると思わずクリスは動揺している。
フィリアも胸元を見られていると思い腕で覆い隠して破壊の口撃を繰り出してしまう。


「クリス君のえっち!」


か、勘弁してくれ…
見ないようにしてるけど目に入っちゃう時どうすれば良いのさ…


「で、何でアンタはここで働いてるの?」


「と、特殊任務です」


フィリアは目が泳ぎながら咄嗟に切り返した
二人はジト目で見つつもこれ以上は立ち入らない方が良いと察知する。
そして待ち合わせの時間になると今回の依頼人らしき人物が現れた。



「はじめまして、
 貴方達が捜査してくれる方?」



婦人が俺たちに声をかける。
被害に遭った関係者がこのBARルミナスで俺たちに接触する手筈になっていたのだ。
勿論、仲介は賢者が担っている。


「はい、俺達がそうです。
 では貴方が今回の依頼人ですね?」


婦人は無言で頷くと今回の経緯について話し始めた。
学園に通っている男子学生ジョニー。
彼が数日前、学園から家へ帰宅する道中で忽然と姿を消した。


「ジョニー?
 どこかで聞いた気がするんだけどな」


クリスは聞き覚えのある名前だが思い出すことができない。
半年前の事だがクリスにとっては違うのだ。


「これが通学路に落ちていた荷物です」


受け取った荷物はジョニーが使っていた通学バッグ。
探知スキルを使うのに魔力を帯びた荷物があれば、魔力の分からない人物であっても探知できる。
ユーリの時と違う方法での探知だ。


「この本なら探知出来るかもしれません」


恐らく魔法の詠唱をするために開きながら使用したのだろう。
今回預かった荷物の中で唯一探知可能な対象だった。


「お、お願いします!
 お礼は何でもいたします…」


悲壮感を漂わせながらも懇願される。
それだけにジョニーの安否が気になっている
ひとまず明日の同じ時間、場所で待ち合わせをして婦人と別れた。
そして早速捜査を開始していく。


「あ、ちなみにフィリアさんも、
 この調査隊のメンバーだから」


「はい?」


「アンタは絶対に断れないって賢者が…」


顔を青くするフィリア。
しかし直ぐに賢者の意図が分かったのか満面の笑顔へと切り替わる。


「この格好をしなくても良いって事だわ」


仕事が切り替わったと理解したフィリアは、即座に更衣室で着替えてきた。
BARルミナスの店長は落胆を隠せない様子
だったが退職の話は賢者から伝わっていたようだ。


そして一同は路地へと移動していく。
何だかんだ辺りは暗いが、まだ19時くらいで人通りは少なくない。
早速だがクリスは探知を発動することにした。


「この方向は…」


クリスは探知を発動するが指し示す方向が
予想外の場所を表しているため驚愕する。


「破壊された魔法学園?」


探知スキルは、確かに旧魔法学園を指しており、その場所に子供達が拘束されている可能性が高い。
クリス達は目的地が確認出来たため、
即座に動き出す。


「初任務だけど、
 もう黒幕に辿り着きそうじゃない」


シャルロットは笑みを浮かべているが、数分後には顔を青くしているだなんて思いもしない…


そして一同は旧魔法学園へ到着する。
探知はその校舎のド真ん中を指している。
しかし、その位置だと夜に廃校となっている校舎に侵入しなければならない。


「うぅ、やっぱり、
 ここに入らないといけないのね…」


フィリアは青ざめた顔で涙しているが、
隣のシャルロットは更に青い顔をしている。


「お、お化けなんて…
 いるわけないじゃない!」


二人の気持ちも分からなくもない。
見渡す限り破壊し尽くされている設備が逆に恐怖を増長させる。
人為的に破壊されているのだが、あたかも経年劣化によって廃れていったような印象に感じてしまう。
それは周りに電灯が無く、
真っ暗で正確に認識できないからだろう。


「い、いくわよ…」


シャルロットは震える声で先導していく。
そしてクリス達、調査隊は初任務であるジョニー捜索に向けて廃校となった旧魔法学園に足を踏み入れていくのだった。
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