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第130話 契約者

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水の神殿儀式の間でカノンとの死闘を制し、
俺たちは未来を掴むことができた。
そしてこれから、俺とマリアの聖剣の儀式を開始するところだ。


「そろそろ儀式を始めるぞ!」


賢者がそう言うと、俺は祭壇の上に立ち、
台座に聖剣を突き刺した。

するとユーリから女神の光が輝き、
俺とマリアを包み込んでいく。
更に手の甲に描かれている紋章に文字が追加された。


「パズルのようだろう?
 儀式の台座は全部で3つある
 そして、そのうちの1つがここさ」


賢者は、世界に配置される3つの台座で、
儀式を行うと聖剣を更に強化出来ると言う。

そして、更に賢者はカノンについて言葉を発した。


「奴はもう一つの聖剣を解放すると言っていた
 その話の前に、まずは私たちの過去を話そう」


500年前、魔王軍との戦いの中で初代国王、
勇者カノン、賢者は聖剣の契約者だった。
魔王を倒した三人は、ルミナスだけでなく世界で英雄として語り継がれてきたのだ。


「まさか賢者が契約者だったなんて」


「ふふふ、あの頃は私も回復魔法が使えたんだよ……
 今は使えなくなったがね」


初代国王と何か関係があるのかもしれない。
カノンがあれだけ女神に固執していたのを考えると、女神が原因なのだろうか。


「だからあの時、契約者の力が……」


カノンとの戦いで放った最後の一撃には、
賢者の契約者の力が上乗せされていた。
その力がなければカノンに勝つのは不可能だっただろう。


「そして私たちにはもう一つの聖剣があった
 500年前に著しく破損してしまい、
 今は封印している」


「もう一つの聖剣……」


カノンが企む聖剣の復活。
それを許してしまうと手がつけられなくなってしまう。


「聖剣の場所は、魔法都市ミストにある」


「ミスト!!」


賢者の声を聞いて俺は驚きを隠せない。
ルミナスと肩を並べるほどの魔法技術のある都市ミスト。
そこに聖剣が眠っている。


「カノンに渡ると正直かなり厳しい……
 恐らく既に聖剣も直っているだろう」


桁違いに強かった勇者が更に強くなってしまうのは何としても避けたい。
賢者は戦士達に次の目的地を告げた。


「休む暇がなくて申し訳ないがな」


俺は、聖剣を得たカノンが、
将来ルミナスを襲うのを想像していた。
圧倒的な力の前に犠牲者が出てしまい、
多くの者が命を落とす可能性が高い。
現時点での聖剣技でも脅威だったのだ。


「でも、ミストって確か遠いような……」


「魔列車でそれなりに楽しい旅が続くな」


一度ルミナスを旅立つと、
しばらく会えない家族もいる。


「カート、お前はルミナスに残れ」


「おい、クレア!」


母上は、カートさんをミストまで連れて行けないと考えている。
流石に幼い娘と愛妻を残して旅立つのは可哀想だ。
そんなカートさんを察して母上は配慮したのだろう。


「そうしたら、イリーナ達も連れて行こう」


「へ?」


賢者が発した言葉に誰しもが驚く。
その真意はカートさんの実力を評価してのことだった。


「私もカートに何度も助けられたからな
 一緒にいてくれると安心するんだ!
 それにミストは友好国で更にエルフに優しい」


それならカートさんの家族やユーリを連れて行っても、少しは安全ということなのだろうか。


「あの……マリアやシャルロット殿下は、
 どうなるのでしょうか?」


「それは陛下に確認必要だが、
 勇者に聖剣が渡ると世界が危うい!
 緊急事態には変わらないため来てもらう」


聖剣技を使うためにマリアは絶対に必要だ。
今回のように危険な旅が予測されるなら、
シャルロットには、必ず同行してもらった方が良い。


そして俺達は一度ルミナスに戻り、陛下との謁見後、魔列車でミストに向かうことになる。
事態は急展開だが、また新たな街へ旅立つことになった。


「母上、リリスと離れ離れになりますね」


「まあ、正直辛いが仕方あるまい」


父上は当然ルミナスで待つことになる。
騎士団の副団長が留守にしては、
流石にルミナスの防衛が危うい。


「よし、お前達に今後の方針は伝えられた!
 これからは聖剣の防衛のために動く!
 今日はゆっくりして、明日に帰ろうじゃないか」



そして俺達はルミナスへ帰還する。
ラグナとサラはルミナス城へ連行し、
処遇については陛下に従う予定だ。
帰宅後に束の間の休暇を楽しんだ後、
俺達は魔法都市ミストに旅立つ。
しかしミストでも様々な陰謀が蠢いているとは思いもしないのだった……
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