1 / 1
Ep.??? ???
しおりを挟む
脇腹の浅い傷口を押さえる。痛みは、怒りで打ち消されていた。木の凹凸を強く感じる。すぐそこは崖になっていて、そのまま落ちたらひとたまりもない高さだ。
「どこまで抗うつもりだ。エンハンス……」
目の前に立つ男は俺の首筋に剣を当てる。
「お前らを殺すまでだ。こんな事続けるよりかは、肥溜めに浸かってる方がいくらか気分が良いからな」
「惚けたことを……」
男の剣に力が入る。真っ白な髪が震えている。
「何故私等と一緒にならない。帝国がそんなに恋しいか。かつての戦友より恋しいのか!あんな国が!」
彼はつばを撒き散らしながらそう叫ぶ。俺はその滑稽さに口元に笑みをたたえる。
「違うな。あんなゲロの匂いのする国なんざ糞食らえだ。だが、俺はもうお前らを戦友としてなんか捉えてないし、帝国より連邦のほうが数億倍嫌いだな」
彼の鋭い黒い目が俺を睨む。それを見ると、腹の底から湧く感情を抑えられなくなっていく。
「だからよォ……早く、殺されてくたばってくれねぇかなぁァァァ!?!?」
俺はめいっぱいの怒りをのせてそう叫び、彼の腹に蹴りを入れる。ホルスターの銃を引き抜き、倒れた彼の胸ぐらをつかみ、額に銃を突きつける。
「ぐっぁ……」
そう呻く彼が無様でたまらない。
「お前らは……お前らだけは信じてた。そして必死の思いで戦ってきた。俺はあの一年半に悔いはない。なのにお前らはその思いを踏みにじった。当然の報いだよなぁ?」
銃口を更に強く押し付ける。
「お前は……極悪人だ……くたばってしまえ……」
掠れた声で彼は言った。
「あぁそうかもな。正義を自称するアンタが見たら俺は悪人だ。でも、俺からはアンタの方が極悪人に見えるぜ」
そう言った刹那、
「動かないで!その人を離して!」
突如茂みから現れたのは桃髪のポニーテールを持つ少女だ。ライフルをこちらに向けている。
「貴方は……どこまで邪魔をするの……」
「こっちのセリフだな」
そういうなり彼女は「黙って!」と銃を構え直す。
「古い友人とはいえ……撃つわよ……」
彼女の身体は震えていたが、言葉には確かな重みがあった。
俺はもう一つの銃を引き抜き、彼女へ向ける。
破裂音。
直後に左肩に重い衝撃が走る。銃が手から離れ、衝撃で俺は倒れる。熱い痛みが肩を舐める。
「ぐっ……」
呻き声が漏れる。
「従わないと……次は頭を……」
銃をコッキングしながら彼女は近づく。
「どうしてだ?」
俺は倒れたまま言う。息が荒くなり、血も出続けるが、肩の銃弾は大動脈に直撃してはいないようだった。
「どうして連邦なんかに肩入れする?」
「連邦は私達を正当に見てくれる。例え私みたいな弱虫でも、ちゃんと評価してくれた!貴方もきっとまだ間に合う……だから、お願いよ……私だってこんなことはしたくない……」
頭に姉貴の姿がよぎる。あのようなことをする連中を、俺はどうしても許すことが出来なかった。
「無理な要求だな」
「レヴ……なんでこんな事に……」
偽善がこもった彼女の発言に虫酸が走る。
―お前らのせいだろ。糞が―
肩からあふれる血を押さえながら血の味のする口を開く。
「俺は……お前らを殺せるなら、極悪人にだってなってやる。地獄にも平気で落ちてやる。だが、過去を忘れて今のお前らとやり直すなんざ、来世でもゴメンだな」
白髪の男が立ち上がり、少女の銃を手で押し下げる。
「お前は……死ぬしか救いようがないみたいだな」
彼は俺のそばに立つと、俺の目を覗く。
「残念だが、何か最期に言いたいことはあるか……エンハンス……」
「……一つ訂正してやろう。これは最期なんかじゃねぇ。回答は次回まで預けておいてやるよ」
「減らず口を……」
彼の目がより強烈になり、剣が振り上げられた時、白い影が彼を押し出した。俺の操り人形、傀儡だ。
「なッ!?傀儡!?全部破壊したはずじゃ……」
俺は傀儡が彼を押さえているスキに立ち上がり、崖の淵に後ずさりする。
「レヴ?何を……」
「昔のお前らは……良い奴らだったんだけどなぁ……」
出血でぼやけた意識の中で地を蹴り、宙へ身を投じる。直後、待機させていたもう一体の傀儡に自身をキャッチさせた。あとは連邦領を離脱するだけだ。
「姉貴……会えるのは、もうちょっと後になりそうだ……」
掠れた言葉は春の夜の空気に飛散し、融解した。
俺はこの怒りを忘れない。
例え自身が悪になっても、姉貴を取り返し、奴らを殺す。
「どこまで抗うつもりだ。エンハンス……」
目の前に立つ男は俺の首筋に剣を当てる。
「お前らを殺すまでだ。こんな事続けるよりかは、肥溜めに浸かってる方がいくらか気分が良いからな」
「惚けたことを……」
男の剣に力が入る。真っ白な髪が震えている。
「何故私等と一緒にならない。帝国がそんなに恋しいか。かつての戦友より恋しいのか!あんな国が!」
彼はつばを撒き散らしながらそう叫ぶ。俺はその滑稽さに口元に笑みをたたえる。
「違うな。あんなゲロの匂いのする国なんざ糞食らえだ。だが、俺はもうお前らを戦友としてなんか捉えてないし、帝国より連邦のほうが数億倍嫌いだな」
彼の鋭い黒い目が俺を睨む。それを見ると、腹の底から湧く感情を抑えられなくなっていく。
「だからよォ……早く、殺されてくたばってくれねぇかなぁァァァ!?!?」
俺はめいっぱいの怒りをのせてそう叫び、彼の腹に蹴りを入れる。ホルスターの銃を引き抜き、倒れた彼の胸ぐらをつかみ、額に銃を突きつける。
「ぐっぁ……」
そう呻く彼が無様でたまらない。
「お前らは……お前らだけは信じてた。そして必死の思いで戦ってきた。俺はあの一年半に悔いはない。なのにお前らはその思いを踏みにじった。当然の報いだよなぁ?」
銃口を更に強く押し付ける。
「お前は……極悪人だ……くたばってしまえ……」
掠れた声で彼は言った。
「あぁそうかもな。正義を自称するアンタが見たら俺は悪人だ。でも、俺からはアンタの方が極悪人に見えるぜ」
そう言った刹那、
「動かないで!その人を離して!」
突如茂みから現れたのは桃髪のポニーテールを持つ少女だ。ライフルをこちらに向けている。
「貴方は……どこまで邪魔をするの……」
「こっちのセリフだな」
そういうなり彼女は「黙って!」と銃を構え直す。
「古い友人とはいえ……撃つわよ……」
彼女の身体は震えていたが、言葉には確かな重みがあった。
俺はもう一つの銃を引き抜き、彼女へ向ける。
破裂音。
直後に左肩に重い衝撃が走る。銃が手から離れ、衝撃で俺は倒れる。熱い痛みが肩を舐める。
「ぐっ……」
呻き声が漏れる。
「従わないと……次は頭を……」
銃をコッキングしながら彼女は近づく。
「どうしてだ?」
俺は倒れたまま言う。息が荒くなり、血も出続けるが、肩の銃弾は大動脈に直撃してはいないようだった。
「どうして連邦なんかに肩入れする?」
「連邦は私達を正当に見てくれる。例え私みたいな弱虫でも、ちゃんと評価してくれた!貴方もきっとまだ間に合う……だから、お願いよ……私だってこんなことはしたくない……」
頭に姉貴の姿がよぎる。あのようなことをする連中を、俺はどうしても許すことが出来なかった。
「無理な要求だな」
「レヴ……なんでこんな事に……」
偽善がこもった彼女の発言に虫酸が走る。
―お前らのせいだろ。糞が―
肩からあふれる血を押さえながら血の味のする口を開く。
「俺は……お前らを殺せるなら、極悪人にだってなってやる。地獄にも平気で落ちてやる。だが、過去を忘れて今のお前らとやり直すなんざ、来世でもゴメンだな」
白髪の男が立ち上がり、少女の銃を手で押し下げる。
「お前は……死ぬしか救いようがないみたいだな」
彼は俺のそばに立つと、俺の目を覗く。
「残念だが、何か最期に言いたいことはあるか……エンハンス……」
「……一つ訂正してやろう。これは最期なんかじゃねぇ。回答は次回まで預けておいてやるよ」
「減らず口を……」
彼の目がより強烈になり、剣が振り上げられた時、白い影が彼を押し出した。俺の操り人形、傀儡だ。
「なッ!?傀儡!?全部破壊したはずじゃ……」
俺は傀儡が彼を押さえているスキに立ち上がり、崖の淵に後ずさりする。
「レヴ?何を……」
「昔のお前らは……良い奴らだったんだけどなぁ……」
出血でぼやけた意識の中で地を蹴り、宙へ身を投じる。直後、待機させていたもう一体の傀儡に自身をキャッチさせた。あとは連邦領を離脱するだけだ。
「姉貴……会えるのは、もうちょっと後になりそうだ……」
掠れた言葉は春の夜の空気に飛散し、融解した。
俺はこの怒りを忘れない。
例え自身が悪になっても、姉貴を取り返し、奴らを殺す。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる