―Marionette Master―姉ちゃんを助けるために隣国と戦ってたら仲間に裏切られたのでブチギレてやった

krack

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Ep.??? ???

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脇腹の浅い傷口を押さえる。痛みは、怒りで打ち消されていた。木の凹凸を強く感じる。すぐそこは崖になっていて、そのまま落ちたらひとたまりもない高さだ。

「どこまで抗うつもりだ。エンハンス……」

 目の前に立つ男は俺の首筋に剣を当てる。

「お前らを殺すまでだ。こんな事続けるよりかは、肥溜めに浸かってる方がいくらか気分が良いからな」

「惚けたことを……」


 男の剣に力が入る。真っ白な髪が震えている。

「何故私等と一緒にならない。帝国がそんなに恋しいか。かつての戦友より恋しいのか!あんな国が!」

 彼はつばを撒き散らしながらそう叫ぶ。俺はその滑稽さに口元に笑みをたたえる。

「違うな。あんなゲロの匂いのする国なんざ糞食らえだ。だが、俺はもうお前らを戦友としてなんか捉えてないし、帝国より連邦のほうが数億倍嫌いだな」

 彼の鋭い黒い目が俺を睨む。それを見ると、腹の底から湧く感情を抑えられなくなっていく。

「だからよォ……早く、殺されてくたばってくれねぇかなぁァァァ!?!?」

 俺はめいっぱいの怒りをのせてそう叫び、彼の腹に蹴りを入れる。ホルスターの銃を引き抜き、倒れた彼の胸ぐらをつかみ、額に銃を突きつける。

「ぐっぁ……」

 そう呻く彼が無様でたまらない。

「お前らは……お前らだけは信じてた。そして必死の思いで戦ってきた。俺はあの一年半に悔いはない。なのにお前らはその思いを踏みにじった。当然の報いだよなぁ?」

 銃口を更に強く押し付ける。

「お前は……極悪人だ……くたばってしまえ……」

 掠れた声で彼は言った。

「あぁそうかもな。正義を自称するアンタが見たら俺は悪人だ。でも、俺からはアンタの方が極悪人に見えるぜ」

 そう言った刹那、

「動かないで!その人を離して!」

 突如茂みから現れたのは桃髪のポニーテールを持つ少女だ。ライフルをこちらに向けている。

「貴方は……どこまで邪魔をするの……」

「こっちのセリフだな」

 そういうなり彼女は「黙って!」と銃を構え直す。

「古い友人とはいえ……撃つわよ……」

 彼女の身体は震えていたが、言葉には確かな重みがあった。

 俺はもう一つの銃を引き抜き、彼女へ向ける。


 破裂音。


 直後に左肩に重い衝撃が走る。銃が手から離れ、衝撃で俺は倒れる。熱い痛みが肩を舐める。

「ぐっ……」

 呻き声が漏れる。

「従わないと……次は頭を……」

 銃をコッキングしながら彼女は近づく。

「どうしてだ?」

 俺は倒れたまま言う。息が荒くなり、血も出続けるが、肩の銃弾は大動脈に直撃してはいないようだった。

「どうして連邦なんかに肩入れする?」

「連邦は私達を正当に見てくれる。例え私みたいな弱虫でも、ちゃんと評価してくれた!貴方もきっとまだ間に合う……だから、お願いよ……私だってこんなことはしたくない……」

 頭に姉貴の姿がよぎる。あのようなことをする連中を、俺はどうしても許すことが出来なかった。

「無理な要求だな」

「レヴ……なんでこんな事に……」

 偽善がこもった彼女の発言に虫酸が走る。

―お前らのせいだろ。糞が―

 肩からあふれる血を押さえながら血の味のする口を開く。

「俺は……お前らを殺せるなら、極悪人にだってなってやる。地獄にも平気で落ちてやる。だが、過去を忘れて今のお前らとやり直すなんざ、来世でもゴメンだな」

 白髪の男が立ち上がり、少女の銃を手で押し下げる。

「お前は……死ぬしか救いようがないみたいだな」

 彼は俺のそばに立つと、俺の目を覗く。

「残念だが、何か最期に言いたいことはあるか……エンハンス……」

「……一つ訂正してやろう。これは最期なんかじゃねぇ。回答は次回まで預けておいてやるよ」

「減らず口を……」

 彼の目がより強烈になり、剣が振り上げられた時、白い影が彼を押し出した。俺の操り人形、傀儡だ。

「なッ!?傀儡!?全部破壊したはずじゃ……」

 俺は傀儡が彼を押さえているスキに立ち上がり、崖の淵に後ずさりする。

「レヴ?何を……」

「昔のお前らは……良い奴らだったんだけどなぁ……」

 出血でぼやけた意識の中で地を蹴り、宙へ身を投じる。直後、待機させていたもう一体の傀儡に自身をキャッチさせた。あとは連邦領を離脱するだけだ。

「姉貴……会えるのは、もうちょっと後になりそうだ……」

 掠れた言葉は春の夜の空気に飛散し、融解した。


 俺はこの怒りを忘れない。

 例え自身が悪になっても、姉貴を取り返し、奴らを殺す。
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