わたしはいない

白川 朔

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あなたがいれば

38..

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 しばらく、めぐりちゃんの頭を撫でていたがそろそろ起こしてあげよう。ここで眠っていたら体を冷やしてしまうし、かける毛布を取りに行こうにもめぐりちゃんを起こしてしまう。
「めぐりちゃん、寝るなら自分の布団に行こう。」
肩を軽く揺すると、不快そうに目を細めてから目を開けた。まだ寝ぼけているようで何度か瞬きをしている。映画が終わったことに気づいたのか、体をいきなり起こした。
「映画の間は起きてたよ。」
映画が半分くらい過ぎたあたりでもう寝ていた気もするけど、頑張っていたからそういうことにしておこう。
「自分の部屋で寝たら。」
「うん。」
少し低い声で頷いためぐりちゃんは動こうとしなかった。
「意味のないことなのかもしれないけど、何か悩んでいることがあるなら言ってよ。」
ずっと気にしてくれていたんだ。共有する時間は長くなると考えていることがわかってくるというのはこういうことだと思う。
「教えてよ、どんな小さなことでも話してもらえなきゃわかんないよ。」
何から話そうか、僕を知りたいと思ってくれるめぐりちゃんが、酷く愛おしく思った。
「素直になってよ。ハルキのこと分かりたいって思ってるんだよ。」
「あのね、めぐりちゃんめぐりちゃんはもうそろそろ家に帰った方がいいのかもしれない。いつまでもここに入れるわけじゃないし、もうそろそろ潮時なんだよ。」
口下手でなんて言っていいかわからないけど、冬休みまでにめぐりちゃんが家に帰ることを白井さんと決めたことを話した。
「だから、残りの時間だけどどうやって過ごしたい。」
何をしたいのか考え込んでいるのか目を伏せてしまった。絞り出した声は青色だった。
「嫌だよ、帰ったらもう会えなくなっちゃうでしょ。」
「ごめんね、もう時間の問題なんだよ。大丈夫、白井さんもめぐりちゃんのことを考えてくれそうだよ。もう、寂しくなんかないよ。」
冷静に考えれば、ここに居続けるよりも家に帰ってちゃんと学校にも通った方がいいのが確かなんだ。
「ハルキはどうするの。」
僕はめぐりちゃんを家に帰して以降のことはあまり何も考えていないのが本音だった。
「僕は捕まっちゃうんじゃないかな。でも、めぐりちゃんがきにすることじゃないよ。ここに連れてきた時からこうなることは分かっていたし、思っていたよりめぐりちゃんと長く入られて幸せなんだよ。」
なぜか、めぐりちゃんは目に涙を浮かべている。どうしていいのかわからなくなる。
「どうしたの。」
「そんなの嫌だよ。もっと一緒にいたい。家になんか帰りたくないんだよ。もう一人ぼっちは嫌。」
「ひとりじゃないよ。今度は白井さんがちゃんと家族でいてくれる。」
「勝手に決めないで、ハルキはお父様のことを分かってないんだよ。」
立ち上がっためぐりちゃんを僕はどれだけ理解しているだろう。こんな時に限ってなんて言っていいかわからなくなる。確かに白井さんのことを僕はあまり知らない。信じていいのかも、このままここにめぐりちゃんにいてもらってもいいのかも。ここにいてもいつか終わってしまう生活を続けてあげるのか、それとも今、白井さんがめぐりちゃんを受け入れようとしている時に家に帰ってもらうのがいいのか天秤にかけても揺れたまま定まらない。
「いつかわ帰らなくちゃいけないんだよ。」
「そんなことわかってるんだよ。でも、」
言葉を詰まらせためぐりちゃんの目から涙が溢れて、一筋の線を頬に描いた。涙を右手で拭って僕を避けるように自分の部屋の方へ行ってしまった。僕は何を間違えた。呆然と立ち尽くして、めぐりちゃんを追いかけることもできなかった。僕がめぐりちゃんを悲しませてしまっていることだけが、事実として胸にささった。
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