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第19話 過去の女は何も救わない
過去は、呼び戻したところで現在を救ってはくれない。
そのことを、リグヴァルドはまだ知らなかった。あるいは、知っていたはずなのに、知らないふりをしていただけだったのかもしれない。
王都を出る朝は、ひどく早かった。
まだ空は夜の色を半ば引きずっていて、東の端だけが薄く白んでいる。石畳には夜の冷えが残り、馬の蹄が打つたび、薄く凍った湿り気が砕ける音がした。王宮の正門を出る頃には、街路に人影はほとんどない。パン屋の煙突から細い煙が上がり、新聞を運ぶ少年が眠そうな顔で角を曲がり、遠くの市場では荷馬車の軋みがひとつだけ響いている。そんな、まだ誰の一日にもなりきっていない時間だった。
王の外出は、本来ならこれほど静かでは済まない。
護衛、先触れ、侍従、随行の文官。王が動くたび、それだけの人間が周囲を埋める。だが今朝は違った。リグヴァルドが連れているのはごく少数の近衛だけで、しかも王の紋章をあからさまに示す装飾もほとんどつけていない。外套は濃い色、馬車も簡素、目的地も東ではなく南の門から回り込む形で出た。王が私的な事情で外へ出ることを、城内の誰にも大きく見せたくなかったのだ。
行き先は、王都の西外れに近い古い修道院跡の一角だった。
現在は施療院と小さな寄宿舎を兼ねた施設として使われている。王立ではない。民間寄付で成り立ち、病を抱えた老人や身寄りの薄い子どもたち、戦で夫を失った女たちが慎ましく暮らしている場所だ。石造りの礼拝堂は半ば修復され、庭には冬を越えた薬草が低く眠っている。豪奢さとは無縁だが、手入れは行き届いていて、空気は不思議と澄んでいる。
エルミラが今そこにいると知ったのは、二日前だった。
アウグスタの件で揺れた夜の後、リグヴァルドは初めて、過去そのものへ手を伸ばした。王妃教育の細部が自分の好みに寄せられていたことを知り、その気味悪さにようやくまともに息を詰めた時、彼の頭に浮かんだのは、あの名だった。エルミラ。白百合の意匠と、施療院と、詩集の貸与記録とともに沈んでいた、若い頃の未整理の名前。
あの頃のことを確かめれば、何かが分かるのではないかと思ったのだ。
セレスティアが言った通り、自分は理想を切り捨て、未練を断ち、王になるために最も失敗の少ない妃を選んだのか。あるいは、その理解にはまだどこかが欠けているのか。あの時捨てたはずのものを、今さら別の角度から見れば、何か弁明の余地でも見つかるのではないか。
そんな期待が、まったくなかったわけではない。
王は、そこまで自分に正直ではない。だが少なくとも、過去へ向かうこの行動が、純粋な懐旧だけではないことは分かっていた。何かを確かめたい。できれば、自分がまだ完全に救いようのない人間ではないと知りたい。そういう、あまりに身勝手な欲が底にある。
馬車は舗装の悪い道へ入り、速度を落とした。
車輪の振動が膝へ伝わる。窓の外には低い石垣と、まだ葉をつけない木々、その向こうに灰色の礼拝堂の尖塔が見えた。修道院跡は王都から近いくせに、空気だけが妙に遠い。鐘の音も、街の喧噪も、ここまでは届かない。冬の終わりの土の匂いと、冷たい朝の草の匂いだけが漂っている。
馬車が止まり、近衛が扉を開けた。
「陛下」
テオバルトではなく、今朝だけ付き添ってきた年配の近衛が低く声をかける。
「先触れは不要とのことでしたが、本当に」
「構わん」
「危険は」
「ない」
短く答えて降りる。地面は思ったより柔らかく、靴底に湿りが吸いついた。外套の裾が冷たい風を含む。目の前には、低い門扉と、そこから伸びる細い石道。その先に、白い壁の小さな棟があり、窓辺に干された布が朝の風にわずかに揺れていた。
施療院の女主人が、すでに入口で待っていた。四十代の半ばを少し過ぎたくらいだろうか。背は高くないが、肩の線が強く、働き慣れた手をしている。黒に近い地味な衣に白い前掛けをつけ、王を前にしても必要以上には怯えない目だった。
「お待ちしておりました、陛下」
「急な訪問だ」
「事情は承っております」
事情、という言い方が少しだけ胸に引っかかる。どこまで伝わっているのかは分からない。だが王自らが昔の知己を訪ねるという形を取る以上、事情がまったく漂わないわけもない。
「エルミラは」
「今、庭の温室におります」
温室。
その単語だけで、遠い季節の空気が一瞬よみがえる。離宮の小さな温室。曇った硝子。白百合の匂い。若い頃の曖昧な昼。だがそれはすぐに消える。今のリグヴァルドが立っているのは王都外れの施療院であり、ここにいるエルミラはもうあの時の令嬢ではない。
「案内を」
「こちらへ」
石道を歩く。踏みしめるたび砂利が小さく鳴る。庭は質素だった。よく整えられてはいるが、王家の離宮のような華美はない。薬草の畝。小さな菜園。冬を越した低木。古い井戸。温室といっても王宮のものよりはずっと小さく、肩の高さほどの白壁に、硝子屋根を継ぎ足しただけの簡素な造りだ。それでも中には淡い緑が見え、朝の光を受けて湿った空気がわずかに揺れている。
女主人が温室の扉を軽く叩いた。
「エルミラ」
「はい」
返ってきた声は、記憶の中のそれより少し低くなっていた。
扉が開き、温かな湿気が外へ流れた。土と水と、青い葉の匂い。その中に立っていた女を見た瞬間、リグヴァルドは一拍だけ呼吸を忘れた。
エルミラは、昔の面影を確かに残していた。だが、それは若さの保存という意味ではない。むしろ、若い頃の柔らかさが長い時間の中で削がれ、別の静けさに置き換わった形でそこにある。
髪は昔より短く切られ、濃い栗色の一部には白いものも混じっている。顔立ちは相変わらず整っていたが、頬は以前より少し痩せ、目のまわりには笑い皺と疲れの影が同じくらい自然に刻まれていた。衣は飾り気のない深緑。手には土が薄くついている。令嬢だった頃の白く細い指先ではなく、何かを育て、洗い、運び続けてきた女の手だ。
それでも目だけは昔のままだった。大きく騒がず、人をまっすぐ見つめる、あの穏やかな濃茶の目。
「陛下」
エルミラはわずかに目を見開いた。驚きはした。だが、取り乱しはしない。すぐに礼を取ろうとして、女主人がそれを手で制した。
「今はそういう形では」
「ですが」
「構わん」
リグヴァルドが言うと、エルミラは一瞬だけ逡巡し、それから昔より少し低い位置で頭を下げた。
「お久しぶりです」
「ああ」
それしか言えない。久しぶり。あまりに平凡な言葉だ。だが他に何がある。若い頃に曖昧な形で終わった相手へ、王になった男が今さら訪ねてきて、最初に差し出せる言葉など、そんなものしかないのかもしれない。
「少し、話せるか」
「……はい」
エルミラは女主人へ視線を向けた。女主人は黙って頷き、温室の外へ下がる。近衛も距離を取る。リグヴァルドは一人で中へ入った。
温室の中は思ったより暖かかった。小さな棚に鉢が並び、冬を越す薬草と若い苗が几帳面に育てられている。硝子の内側にはまだ朝の水滴が残り、光を受けて細く光っていた。床は古い煉瓦で、ところどころに湿った土が落ちている。奥には粗末な木椅子が二脚あるだけだ。
「座れ」
王は言わず、自分が先に立ったままエルミラを見る。彼女も座らない。若い頃の二人の距離には、こういう遠慮のなさがあった気がした。社交の作法よりも、互いに相手の沈黙を見ている時間の方が長かった。だが今、その沈黙は別の重さを持っている。
「なぜ、ここへ」
先に問うたのはエルミラだった。責める響きではない。ただ、本気で分からないときの声だ。
リグヴァルドは少し考える。
なぜ。
昔の想いを確かめに来たのか。
自分の過去に何か救いが残っているか見に来たのか。
それとも、セレスティアに突きつけられた言葉の答えを、過去の女の口から探しに来たのか。
どれも、ひどくみっともない。
「……お前の名前が、最近また出た」
「そうでしょうね」
エルミラは驚かなかった。むしろ、そう来たかというようにわずかに目を伏せる。
「王妃殿下に」
「ああ」
「私のことが」
「記録からな」
エルミラはそこで静かに息を吐いた。土と葉の匂いの混ざった、温かな空気の中へ。
「そうですか」
「お前のことを確かめたかった」
「何を」
「……」
何を。そう問われると、王はまた沈黙する。
「昔のことを」
「昔のこと?」
エルミラの目が少しだけ細くなる。
「美しい思い出にしておきたいのですか」
「そういうことでは」
「では、何です」
その問いは、セレスティアのものとよく似ていた。静かで、逃げ道を与えない。
リグヴァルドは温室の硝子へ視線をやった。外の冷たい空が、曇った面の向こうでぼやけて見える。
「俺は」
そこでようやく、自分がこの場で何を聞きたいのか、少しだけ形が見えた。
「お前を、どう切り離したのかを知りたかった」
エルミラは瞬きを一つした。それから、ひどく静かに笑った。
笑みだったが、そこに甘さはない。過去を懐かしむ女の顔ではなく、長い時間を経て、ようやく人を過去として受け入れた者の笑みだ。
「切り離した、ですか」
「ああ」
「そんなもの、ご自分でなさったことでしょう」
その言葉は、驚くほどまっすぐだった。
「私は何もしていません」
「……」
「あなたが王になる時、勝手に切り離したのです。私をではなく、自分の中の都合の悪い部分を」
リグヴァルドの眉がわずかに寄る。だが反論は出ない。
エルミラは温室の小棚へ目をやり、しおれかけた葉を指先で摘んだ。土の匂いが微かに立つ。
「私は、昔のあなたを美化する気はありません」
「……」
「王になる前のあなたは、少なくとも情のある方でした。けれど同時に、ひどく切り分けの早い方でもあった」
「切り分け?」
「ええ」
エルミラは穏やかに頷く。
「あなたは誰かを好きになる前に、人を都合よく切り分けてきたのです」
その一言が、温室の湿った空気の中で妙に鋭く響いた。
都合よく切り分けてきた。
リグヴァルドは何も言えない。セレスティアにも似たようなことを言われた。だがエルミラの口から出ると、それはさらに前から続く彼の性質として形を持つ。
「欲しい相手と、捨てるべき感情と、役に立つ人間と、そうでない人間。あなたは早い段階でそこへ線を引く」
「それは王として」
「いいえ。王になる前からです」
エルミラははっきりと言った。
「あなたは若い頃から、優しいくせに、人を丸ごと引き受けるのが下手でした。自分に都合のよい部分は近くへ置き、都合の悪い部分は“今は見ない”と切り離す。そうやって整えてきた」
「……」
「私のこともそうです」
温室の光が、エルミラの横顔に淡く差している。若い令嬢の頃よりも痩せた輪郭。その分だけ強くなった静けさ。
「好きだった時期がなかったとは言いません」
彼女は言う。
「でも、あなたは私を好きだったというより、私と一緒にいる自分の静かな部分を好んでいたのでしょう」
「……」
「施療院へ行き、詩を読み、白い花を見て、王でも王太子でもない時間を持てる。そういう都合のよい場所として、私を使っていた」
「そんなつもりでは」
「もちろん、つもりではないのでしょう」
すぐに返される。
「だから始末が悪いのです」
「……」
リグヴァルドは、初めて真正面から過去の自分のいやらしさを指摘された気がした。
好んでいたのは彼女そのものではなく、彼女といる時の自分の静けさ。王でも王太子でもない時間。責務を忘れられる場所。白い花と詩集と施療院の静謐さ。そういうものを自分は確かに必要としていた。必要としていたが、それを「彼女を愛していた」と同じものにしてよいのかと問われれば、答えられない。
「そして、あなたはそれを捨てた」
エルミラの声は穏やかだ。穏やかなまま、少しも彼を庇わない。
「王になるために、不要だと思ったのでしょう。理想だとか、未練だとか、そういう名前をつけて」
「……」
「それはあなたの選択です。責めるつもりはありません。誰もがそれぞれの事情で何かを捨てますから」
そこで彼女は一歩だけ近づいた。近づいても、もう昔の距離ではない。女と男の熱ではなく、真実を伝えるために必要なだけの距離だ。
「けれど」
濃茶の目が、まっすぐ王を見た。
「今さら私のところへ来ても、何も救われませんよ」
何も救われない。
その言葉が、ひどく静かに胸へ沈む。
「私は過去です」
エルミラは言う。
「美しい思い出でも、やり直しの可能性でもない。ただの過去です」
「……」
「私に会えば、何かが美しく整理されると思いましたか」
「そんなことは」
「少しは思ったのでしょう」
否定できない。王は黙ったままだ。
「でも、違います」
エルミラは続ける。
「あなたが今失いかけているのは、思い出ではありません」
「……」
「現実に傍らにいた方でしょう」
その一言で、温室の空気が急に重くなったように感じる。
現実に傍らにいた方。
セレスティアの顔が、そこで初めて鮮明に浮かぶ。東翼の窓辺で帳簿を見ている横顔。夜会でふらついた時の白い頬。王妃印の管理帳へ静かに線を引く指。食事の席で贈り物を前にしても、もう何も熱を足さない目。書庫前で、愛ではないでしょうと言った冷えた声。
過去ではない。
いまそこにいる妻。
王の隣で何年も息をしてきた現実。
それを、自分はずっと見ていたはずなのに、見ていなかった。
「あなたは」
エルミラが最後に、ひどく静かに言った。
「過去の私を訪ねれば、自分の中の何かが整理されると思ったのかもしれません。けれど、整理すべきはそこではないでしょう」
「……」
「今のあなたが向き合うべきは、もう昔の娘ではありません」
「……」
「現実に、あなたの傍で生きていた方です」
リグヴァルドはそこで、ようやく自分がどれほど愚かなことをしに来たのかを知る。
エルミラを訪ねれば、過去の未練や若い頃の理想が、何か説明のつく形へ収まるのではないかと思った。彼女が「あなたも苦しかったのでしょう」とでも言えば、少しは自分を赦せるのではないかと、どこかで期待していたのかもしれない。
だがエルミラは何も美化しなかった。若い頃の想いを、淡い思い出にもしなかった。ただ、自分が人を都合よく切り分けてきたこと、その結果、今さら過去に頼っても何も救われないことを、静かに突きつけた。
そしてその果てに見えるのは、思い出ではなく妻の背中だ。
「……そうか」
ようやく出た声は、自分でも驚くほど掠れていた。
エルミラはそれ以上何も言わない。ただ、土のついた手を静かに拭い、少しだけ目を伏せる。その仕草の中に、もう自分へ向ける種類の情はない。あるのは、過去の人間へ向ける最後の礼儀だけだった。
「陛下」
彼女はそこで、昔の呼び方ではなく、今の身分に合わせてそう呼んだ。
「私に会いに来たことは、後悔なさらなくていいと思います」
「……」
「でも、その意味を取り違えないでください」
「意味」
「ここで何かを取り戻すためではないということです」
そう言って、エルミラは少しだけ微笑んだ。やわらかくはない。だが残酷でもない。ただ、きっぱりとした人の笑みだった。
「過去の女は、何も救いません」
その言葉が、最後の釘になった。
リグヴァルドはしばらく、その場から動けなかった。
温室の中は暖かいはずなのに、指先だけがひどく冷たい。硝子の向こうの空は朝より明るくなり、庭の湿った土が静かに光っている。薬草の匂い。土の匂い。水の匂い。すべてが静かで、現実で、過去を慰めるためのものではない。
自分は、何をしにここへ来たのだろう。
過去の女を訪ねて、若い頃の思い出を整え、何かを赦してもらおうとしたのか。そんなことをしているあいだにも、王宮には今の妻がいて、彼女は静かに去る準備を進めているのに。
初めて、焦燥が違う形を取る。
今までのそれは、自分の手の中から何かが滑り落ちていく恐怖だった。今ここで生まれたのは、もっとはっきりしたものだ。失いかけているのが過去の理想でも、若い日の思い出でもなく、現実に何年も傍らにいた妻そのものだという理解から来る焦りだ。
それは王にとって、初めて本当に具体的な痛みだった。
「……エルミラ」
名を呼ぶ。昔の呼び方ではなく、一度失ってから再び口にするには、あまりにも遅い名だった。
彼女は振り返る。
「何でしょう」
「私は」
何を言いたいのか分からないまま、喉が動く。
「……」
だが、結局何も続かなかった。
謝罪か。感謝か。弁明か。どれも違う。どれも遅い。ここで自分が彼女へ向けて言えることなど、もう何もないのだと理解する。
エルミラは静かに待ち、それでも言葉が出ないと分かると、少しだけ首を横に振った。
「どうか、お帰りください」
やさしくも冷たくもない声だった。ただ、役目を終えた人間を過去へ戻す声。
リグヴァルドはようやく頷いた。温室の扉へ手をかける。金具は冷たい。外の空気が流れ込む。春はまだ遠い。けれど冬だけでもない匂いがした。
庭を戻る足取りは、来た時より重かった。近衛が扉を開け、女主人が静かに頭を下げる。誰も余計なことは言わない。馬車の扉が閉まり、車輪が湿った道を動き出す。
窓の外、修道院跡の小さな温室がゆっくり遠ざかる。そこに過去の救いはなかった。あったのは、自分の過去を少しも美化しない女と、王が今向き合うべき現実を指し示す言葉だけだ。
現実に傍らにいた方。
その言葉が、何度も胸の内で反響する。
セレスティア。
東翼の私室。
静かな食事。
遅れて差し出した贈り物。
王妃教育の気味悪さを知った日の白い顔。
書庫前で、愛ではないでしょうと言った冷えた声。
過去ではない。
今、まだ王宮にいる妻。
そして、その妻はもう、自分の腕の届かぬところへ少しずつ去ろうとしている。
リグヴァルドは初めて、その事実を過去の影ではなく、現実の喪失として受け止める。胸の奥で何かが遅れて軋む。あまりにも遅い。だが、今さら気づいたところで、時間が巻き戻るわけではない。
馬車の中で、王は固く目を閉じた。
過去の女は何も救わない。
それなら、自分が向かうべきはもう一つしかない。
王都の尖塔が遠くに見え始めた頃には、その理解だけが、ひどく重い現実として彼の中へ沈んでいた。
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