旦那様に“君は妻ではなく家の飾りだ”と言われたので、離縁後は裁判官の家で暮らします

なつめ

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**第27話 あなたの言葉で**


 訴訟前夜の雨は、叩きつけるというより、屋敷のまわりを細く包むように降っていた。

 別棟の窓硝子には小さな水滴が絶えず生まれては滑り、外の庭木をゆがんだ影へ変えている。昼のうちに落ちた冷えがまだ床の奥へ残っていて、暖炉の火を入れても、部屋の隅の空気はどこかひんやりしていた。机の上には灯りが一つ、相談室で使っている帳面、訴訟資料の控え、白い便箋、そして何度も書き直して皺の寄った紙が数枚。

 リゼットはその皺だらけの紙を見つめたまま、もう何度目かわからないため息をついた。

 書いては消し、整えては違うと思い、また書いて、結局破れないまま端へ寄せた紙の山だ。文字はきれいに並んでいる。少なくとも見た目だけなら、どれも申し分ない。前置きも、順序も、事実関係も、それなりに整っている。誰が読んでも、たぶん筋は通っているだろう。

 なのに、口に出すと駄目だった。

 言葉が紙の上では整っているほど、声にした瞬間、自分のものではなくなる。よそゆきの布を無理に肌へ巻きつけたみたいに、どこかが引きつって、息が浅くなる。読み上げるほど、自分が自分の話をしている気がしなくなるのだ。

 訴訟の初回審理は、明日の午前だった。

 後任の判事が正式に決まり、提出書類もほぼ揃い、あとは当日、必要な確認と証言が進んでいくのを待つだけの段階に入っている。オディルからは、訴訟の流れと尋ねられやすい項目を記した簡潔な紙が届いていた。どこまでが事実で、どこからは記憶の補足かを分けること。覚えていない場面を、無理に埋めないこと。言われたことと感じたことを、混ぜすぎないこと。どれも必要な助言で、それ自体は理解できた。

 理解できているのに、いざ自分で話そうとすると、どうしても「正しい答え」を用意しなければならない気がしてしまう。

 正しい答え。失礼のない答え。揺らがない答え。相手に付け入られない答え。痛みを見せすぎず、けれど冷たくもならず、感情的だと取られない答え。

 そうやって言葉を磨こうとするほど、それはどんどん本人から離れていく。

 リゼットは机の上の一枚を取り、もう一度だけ読み返した。

『私は婚姻期間中、夫の管理下で必要な署名を求められることが複数回あり、その都度、十分な説明を受けないまま署名しました。』

 字面としては、悪くない。むしろ整いすぎている。相談室の記録に載っていても不思議ではないほど、無駄がなく、意味も明確だ。

 けれど、これを明日、自分の声で言える気がしなかった。

 必要な署名を求められることが複数回あり。

 十分な説明を受けないまま署名しました。

 こんなふうに、自分は思っていなかった。ただ、夜に呼ばれた。紙を差し出された。急ぎだと言われた。読もうとしたら、必要ないと言われた。疲れていた。疑わなかった。その結果、サインした。それだけのことだ。その「それだけ」が、いまこうして裁判所の言葉へ置き換えられると、もう自分の呼吸の位置から少しずれてしまう。

 窓の外で、風が一度だけ枝を強く鳴らした。

 リゼットは紙を置き、両手で顔を覆うまではいかないまでも、指先を額へ当てた。熱い。けれど指は冷たい。緊張しているのだと、いまさらあらためて気づく。訴訟そのものへの怖さもある。後任判事の前で話すことへの不安もある。けれどそれ以上に、自分の言葉を見失いそうになることが怖かった。

 ここまで来たのに。

 名前を言い直し、戻りませんと言い、署名の悪用を“悪用”だと切り分けてもらい、少しずつ自分の声を取り戻してきたはずなのに、法廷の前に立った途端、また誰かのために整えた言葉ばかりを差し出してしまうのではないか。

 その恐れが、胸の中で静かに膨らんでいた。

 ノックの音がしたのは、その時だった。

 控えめで、急かさない叩き方。

 アニエスなら、呼ぶ前に「お茶を」と一声添える。コレットなら、夜の支度か何かの用で、もう少し短くきっぱりと叩く。ならば、誰だろうと思うまもなく、扉の向こうから低い声がした。

「起きていますか」

 セヴランだった。

 心臓が一つ、大きく鳴る。

「……はい」

 返事をすると、扉越しに一拍だけ間があった。

「伯母上が、灯りが遅くまで点いていると」

 そこで言葉が切れる。伝言の形をとりながら、ようすを見に来たのだとわかる、ぎりぎりの言い方だった。

「入ってもよろしいですか」

 その問いの仕方が、相変わらず彼らしかった。別棟の鍵も規律も、ここではちゃんと守られている。だから、どれほど夜が遅くても、相手の返答の前に扉は開かない。

「どうぞ」

 言ってから、リゼットは机の上へ散らばった紙の山を見下ろした。見られたくないわけではない。けれど、あまりに必死な痕跡がそこらじゅうに残っていて、少しだけ気恥ずかしい。

 扉が開き、セヴランが入ってきた。

 今日は法服ではない。屋敷の中での室内着だが、相変わらず色味は落ち着いていて、襟元も袖口も崩れていない。灯りの下に立つと、黒に近い灰の上着が暖炉の橙を鈍く吸って、彼の輪郭だけを少し柔らかく見せた。

 部屋へ入ってきた彼は、すぐには机の紙へ触れなかった。まずリゼットの顔を見る。次に、暖炉。窓。最後に、皺の寄った紙の束。

「……準備中でしたか」

 低い声。

 問いではあるが、もう答えは見えているからこその静かな響きだった。

 リゼットは苦笑しそうになった。

「準備、というより」

 紙の一枚を指で押さえる。

「うまくいっていません」

 セヴランは何も言わない。その沈黙の中に、続きを待つ気配だけがある。だからリゼットは、思ったより素直に言葉を継げた。

「話すことは、決まっているんです。何があったかも、どこからがおかしかったかも、自分ではわかっているつもりです。でも」

 机の上の紙へ視線を落とす。

「ちゃんと話そうとすると、全部がよそ行きになってしまって」

 それは、たぶんずっと自分を苦しめてきた癖だった。正しく、きれいに、乱れずに。そういう言葉を作ろうとするたび、本当に言うべきことの温度だけが抜けていく。

 セヴランは部屋の中央でほんの少しだけ考えるように立ち止まり、それから机の向こうではなく、リゼットの斜め前に置かれていた椅子へ手をかけた。

 音を立てないように、床の上を短く引く。

 そして、座る。

 真正面ではない。机を挟んで裁く側と裁かれる側になる距離でもない。暖炉の熱がかろうじて届く、けれど近すぎはしない位置。彼はその場所に落ち着くと、指先を膝の上で軽く組んだ。

「原稿は、しまってください」

 低い声で、そう言った。

 リゼットは少し目を瞬く。

「しまう……」

「ええ。少なくとも、今は」

 彼は机の上の紙を見たが、手は伸ばさない。

「暗記した言葉ではなく、あなたの言葉で」

 その一言が、胸の真ん中へまっすぐ落ちる。

 暗記した言葉ではなく、あなたの言葉で。

 やさしいのに、逃げ場がない言い方だった。整えなくていい、と言うのではない。うまく言わなくていい、と甘やかすのでもない。ただ、あなたの言葉で、とだけ言う。そのぶん、自分が何を失いかけていたのかがはっきりする。

「でも」

 リゼットは、ほとんど反射的に言い返していた。

「言い間違えたら。感情的に聞こえたら。曖昧になったら」

「そうしたら、そう言い直せばいい」

 セヴランの声は揺れなかった。

「わからなければ、わからないと言えばいい。覚えていないなら、覚えていないと。途中で言葉を探す時間も、法廷では不利ではありません」

 その断言が、じわじわと心へ沁みる。

 法廷は、流暢である者が勝つ場所ではない。感情を隠し切れる者だけが正しく扱われる場所でもない。事実と、自分の記憶と、その記憶の限界をきちんと示すほうが大切なのだと、彼は前にも別の形で教えてくれていた。今夜はそれを、もっと単純な言葉へして返している。

「私は」

 リゼットは指先を紙から離し、膝の上で手を組み直した。

「うまく言おうとしすぎているのでしょうか」

「おそらく」

 すぐに返ってくる。その率直さに、少しだけ息が抜ける。

「うまく言おうとすること自体は悪くありません。ただ、それが“自分の口で言わなくてもいい言葉”を選び始めると、芯が消える」

 芯。

 リゼットはその言葉を胸の中で繰り返す。

 そうだ。今夜、自分が書いていた原稿は、どれも意味は正しいのに、芯がなかった。私が夜に呼ばれたこと。紙を読もうとしたこと。必要ないと言われたこと。疲れていて、そのままサインしたこと。その時の空気の冷たさ。その後になって、あれが何だったかを知った時の気持ち。そういうものの芯だけが、きれいに削がれていた。

「では」

 リゼットはゆっくり息を吸う。

「どう話せばいいのでしょう」

 セヴランは首を振った。

「そこは教えません」

 きっぱりとしている。けれど、冷たくはない。

「内容には踏み込みません。もう私の席ではないから」

 その線引きに、胸の奥が小さく痛む。だが同時に、その痛みがやはり彼らしいとも思う。席を降りた男は、本当に席を降りた場所から一歩も越えない。

「ただ」

 彼は続ける。

「話し始めるまでなら付き合えます。最後まで聞くことも」

 その言葉に、リゼットは目を上げた。

 最後まで聞く。

 内容には踏み込まない。ただ、聞く。

 それだけで、どうしてこんなにも胸があたたかくなるのだろう。

「聞いて、いただけるんですか」

 自分でも少し驚くほど、声が小さくなる。

「ええ」

 彼は頷いた。

「直しません。助言もしません。途中で止めることもしない。あなたが最後まで話すのを、聞くだけです」

 聞くだけ。

 それが今の自分にとって、どれほど大きなことかを、リゼットはもう知っている。最後まで話してください、と言われたあの日から、自分の言葉が自分の口で終わるまで奪われないことの意味を、少しずつ知ってきた。今夜もまた、その場所が差し出されている。

 机の上の皺だらけの原稿を一度見てから、リゼットはそれをそっと横へ寄せた。

 原稿をしまうよう言われた通り、視界の端へ追いやる。完全に片づけてしまう勇気はまだない。けれど、少なくとも、その字面にしがみついたまま話すのはやめようと思った。

 呼吸を整える。

 暖炉の火が小さく鳴る。窓の外では、雨がまだ細く続いている。室内には灯りが一つ。机を挟んで、彼はただ椅子に座っている。膝の上に手を置き、急かしも、慰めも、判断もせずに。

 リゼットは、最初の言葉を探した。

 何から話せばいいのか。一番最初のことか。署名の夜のことか。離縁を願い出た朝か。違う、とすぐに思う。いま自分が明日話さなければならないのは、紙の中身そのものだけではない。どうして自分があの紙へサインしたのか、その場で何を奪われていたのかだ。

「私は」

 ようやく出た声は、思っていたより低かった。

「夫の書斎に、夜に呼ばれることが何度もありました」

 それだけを言って、一度呼吸が乱れる。だが彼は動かない。頷きもしない。続きを急かさない。

「紙を差し出されるんです。いつも、急いでいるみたいに。私は最初、それが家の中の形式的な整理だと思っていました。読む必要があるようなものではないと、言われて」

 ここまでは、原稿にも書いていた。だが今日は違う。言葉が紙の上からではなく、自分の胸の位置から出てくる。

「最初は、疑わなかったんです」

 リゼットは自分の膝の上の手を見る。指先が少し白くなるほど力が入っている。

「疑わなかったというより……疑うようなものではないと、思わされていたのかもしれません。夫婦だから。家のことだから。私が全部を知る必要はないって」

 そこで、喉が少しだけ熱くなる。だが止まらない。

「私は、疲れていることが多くて。夜会のあととか、食事のあととか。呼ばれたら行って、紙を受け取って、ここに、と言われる場所へ名前を書く」

 窓の外で、雨が少しだけ強くなった。硝子を打つ音が細かく続く。

「それが何度もあったので、途中から、私の中でも“そういうもの”になってしまっていました」

 そう言った瞬間、胸の奥がきゅっと縮む。そういうもの。何て惨めな言い方だろうと思う。けれど、たぶんそれがいちばん近い。特別におかしなことではなく、慣らされてしまった日常の形。

「でも、あとから紙を見ると」

 声が少しだけ揺れる。

「そこには、私が了承したことにされる文章があるんです。私が知らない損失、知らない事業、知らない名義。私の署名なのに、私が何に同意したのか、その時の私は知らない」

 ここまで来た時、リゼットは初めて顔を上げた。

 セヴランは何も言わない。膝の上の手の位置も変えない。ただ、まっすぐ聞いている。その静けさが、なぜだか涙よりも深く胸へ入ってくる。

「私は」

 リゼットは、もう一度声を出す。

「それをずっと、自分の無知のせいだと思っていました」

 そこで、暖炉の火がぱちりと小さく弾けた。

「いまでも、そう思う部分はあります。もっと読めばよかったとか、止まればよかったとか。でも、同時に」

 言葉を探す。今度は紙ではなく、自分の中から。

「説明を求めた時に、気にするなって言われたことも覚えています。読もうとしたら、そこまで見る必要はないって言われたことも。だから、私はたぶん、ただ署名したんじゃなくて、署名するだけの人にされていたんだと思います」

 最後の一文を口にした瞬間、自分でも少しだけ震えた。

 署名するだけの人。

 それは、今までうまく言えなかったことの芯だったのかもしれない。置物の妻。形式の整った夫人。花と同じように配置される人。その延長に、紙の下へ名前だけ置く手としての自分があった。

 しばらく沈黙が落ちた。

 セヴランはやはり何も言わない。励ましもしない。けれど、その聞き方の中に、今の言葉をどこにも落とさない確かさがある。

 リゼットは息を吐いた。ゆっくり、長く。肩の力が少しだけ抜ける。

「……原稿より、ましでしょうか」

 気づけば、そんなことを訊いていた。

 自分でも少し可笑しいと思う。内容に踏み込まないと言われた相手に、つい評価を求めてしまっている。

 けれどセヴランは、予想していたみたいに即座に答えた。

「あなたの言葉でした」

 短い。だが、それで十分だった。

 うまいとか、整っているとか、法廷向きだとか、そういう評価ではない。ただ、あなたの言葉でした、と。それだけがいまは必要だった。

 胸の奥へ、あたたかいものが細く沁みていく。

 リゼットは机の端に置いた原稿へ視線をやった。皺の寄った紙はまだそこにある。けれどもう、それをそのまま読み上げる気にはならなかった。

「もう少し、話してもいいですか」

 そう訊くと、セヴランはただ頷いた。

 それからの時間、リゼットはところどころ言いよどみながら、何度も言葉を探しながら話した。夜の書斎の匂い。蝋燭の位置。紙の端を押さえる自分の指先。花束を返した時の胸の冷たさ。戻りませんと言った日のこと。署名を悪用されたと知った時、最初に自分を責めたこと。そして、いまはその責任の位置が少し違って見えること。

 セヴランは最後まで、一度も口を挟まなかった。

 質問もしない。整理もしない。これはこう言い換えたほうがいいとも言わない。ただ、最後まで聞く。その聞き方が、どうしてこんなにも力になるのか、リゼットには説明できなかった。けれど、話しているうちに、自分の声の震え方が少しずつ変わるのがわかった。最初は怯えと恥で揺れていた声が、だんだんと、自分の話すべきことの重さに合わせて落ち着いていく。

 全部を話し終えた時には、暖炉の火が少しだけ小さくなっていた。窓の外の雨も、いつの間にか細くなり、硝子を打つ音はほとんど聞こえなくなっている。

 リゼットは、自分の膝の上に置いた手を見た。まだ少し震えている。けれど、それはさっきまでの震えとは違う。何かを持ちきったあとの震えだ。

「……ありがとうございました」

 声がかすかに掠れる。

 セヴランは、少しだけ視線を落としてから答えた。

「私は聞いただけです」

「それでも」

 リゼットは首を振る。

「それが、必要でした」

 そう言うと、彼の表情はほとんど変わらなかったが、灯りの下で目元だけがほんのわずかにやわらいだ気がした。

「明日は」

 セヴランは静かに言う。

「思い出せることだけを、思い出した順ではなく、必要な順で話そうとしなくていい」

 そこで一度、言葉を区切る。

「あなたが今夜話したように、そこから始めればいい」

 それは助言のようでいて、法廷の内容へ直接踏み込んでいない、ぎりぎりの線の上にある言葉だった。彼は本当に、そこを越えない。

「はい」

 リゼットは頷く。

 胸の奥が、静かにあたたかかった。触れ合う距離ではない。机を挟み、椅子を一つ分空け、言葉も必要なところでしか交わさない。なのに、その間にある信頼だけが、今夜また少し深く結ばれた気がする。

 そのことが、少し痛くて、ひどく嬉しかった。

 セヴランが立ち上がる。リゼットもつられるように立った。

「遅くなりました」

 彼はそう言う。いつもの、感情を余分に乗せない低い声。

「今夜はもう、原稿は見ないでください」

「はい」

「眠れなくても、横になること」

「はい」

 まるで規律の確認みたいな短い応答が続く。それがかえって可笑しくて、リゼットはほんの少しだけ笑った。セヴランも気づいたのかどうか、言葉を足さずに扉の前まで歩く。

 その背中を見ながら、リゼットは胸の奥へしまい込んでいた気持ちが、また静かに顔を出すのを感じた。

 惹かれている。

 でも今夜は、それに名前をつけなくてもよかった。信頼だけが深く結ばれていく、この静かな距離の中に、その気持ちはまだ言葉にならないまま置いておける。

 扉が開き、閉まる。

 部屋に残るのは、暖炉の弱い火と、雨の去り際の匂い、それから机の上へ寄せたままの原稿の束。

 リゼットは椅子へ戻り、紙を一枚ずつ重ねなおした。もう読み返さない。そう決める。代わりに、白紙の便箋を新しく一枚だけ取り出した。

 そこへ、たった一行書く。

『明日は、借りた言葉ではなく、私の声で立つ。』

 インクが紙へ沈むのを見ていると、胸の内の不安が、少しだけ違う形になる。

 怖い。けれど、もう何も言えないまま立ち尽くす怖さではない。

 話せるかもしれない、という怖さだ。

 それは、信じてもらえた人間だけが持てる種類の震えなのだと、リゼットは静かに思った。

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