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第三十六話 朝光の玩具箱
翌朝、ヴィオレッタは一人で旧朝光室へ向かった。
昨日は、玩具箱をここへ移したところで終わった。
光の入る場所へ置き直し、白い部屋の下から引き剥がし、それで十分だと思った。
思ったのに、夜を越えて目を覚ましたら、あの箱の中身を見なければならない気がした。
北塔の白い部屋で奪われたもの。
玩具箱の裏へ隠された最初の赤。
それらを知った以上、箱の中へ残された「普通の子どもの時間」がどんな顔をしているのか、見ずにはいられなかった。
旧朝光室の扉を開ける。
東向きの大きな窓から、今日はちゃんと朝の光が入っていた。
晴れ切ってはいない。薄い雲が光をやわらかく薄めている。
けれど、それでも北塔とは比べものにならないくらい明るい。
床板の上へ細長く落ちた光。
淡い木の匂い。
乾いた空気。
昨日運び込まれた玩具箱が、その光の中で静かに置かれている。
白い部屋の下にあった時より、ずっとただの箱に見えた。
それが少しだけ、ありがたかった。
「一人で開けるつもりですか」
背後から、低い声が落ちた。
振り返る。
ルシアンが立っていた。
濃紺の騎士服ではなく、今日は少し軽い上着に替えている。
それでも立ち姿は変わらずまっすぐで、窓からの朝の光が肩の端へ冷たく差していた。
「足音、しなかったわ」
「しました」
「しなかった」
そう言うと、ルシアンはほんの少しだけ目を細めた。
「では、しなかったことにしておきます」
その返しに、ヴィオレッタは小さく息を吐く。
「勝手に来たの」
「記録係の確認後、箱を開ける可能性があると聞いていました」
「監視?」
「立会いです」
「似たようなものでしょう」
「そうかもしれません」
あっさりと認める。
そういうところが、この男らしい。
ヴィオレッタは玩具箱へ視線を戻した。
「いてもいいわ」
「ありがとうございます」
ルシアンは窓際へ寄る。
近すぎず、遠すぎず。
部屋の空気を壊さない位置を、もう知っている人の立ち方だった。
玩具箱の前へしゃがみ込む。
蓋へ手をかける。
木は少しだけ冷たい。
でも、北塔二階で触れた時のような、底のない冷たさではない。
ぎ、と蝶番が鳴る。
蓋を開ける。
中には、昨日記録係が見たままの玩具が整然と収まっていた。
木の積み木。
布の人形。
古い絵本。
色褪せた積み上げ輪。
脚の折れた木馬の小さな模型。
布の犬。
小さな青いガラス玉が二つ、箱の隅で光っている。
ヴィオレッタは、しばらく動けなかった。
白い部屋で見つかったものは、どれも痛みの証拠だった。
切られた髪。
幼い手紙。
記録帳。
人形。
どれも、傷口へ直接触れるものばかりだった。
でも、ここにあるのは違う。
ただ、遊んでいた痕跡。
ただ、子どもの時間。
ただ、七つや八つや九つの手が握ったもの。
それが、思った以上に痛かった。
「……普通」
気づけば、そう呟いていた。
ルシアンが窓際からこちらを見る。
「何が」
「ただの玩具だわ」
声が、少しだけ掠れる。
「白い部屋の証拠でも、人形でもなくて。本当に、ただの」
喉の奥が、ひどく熱くなる。
普通の玩具。
普通の子どもが、普通に散らかし、飽きて、また手に取るもの。
それがずっと白い部屋の下に閉じ込められていたのだと思うと、北塔三階の冷たい痛みとは別のところがずきりと痛んだ。
ヴィオレッタは、布の犬をそっと取り上げた。
白ではない。
薄茶と灰の中間みたいな色で、耳だけが片方寝ている。
どこか不格好な顔。
でも、抱くと柔らかい。
首元へ、細い青い糸が一周だけ縫い付けられていた。
「……これ」
記憶の端が、小さく揺れる。
路地の子犬でも、白い部屋でもなく、もっとずっと普通の午後。
東棟の床へ座り込み、この布の犬へ勝手に青い首輪を縫った。
そんな断片が、薄く戻る。
「思い出しますか」
ルシアンが静かに問う。
「少しだけ」
ヴィオレッタは布の犬を抱いたまま答える。
「ちゃんと遊んでたのね、わたし」
その一言は、自分でも思っていたより深く刺さった。
白い部屋の子どもではない時があった。
赤を選び、青を好きだと思い、布の犬へ勝手に首輪をつける時が。
それは当たり前のことのはずなのに、この家ではひどく貴重な証拠に思えた。
玩具箱の底の方へ手を入れる。
絵本の下から、小さな紙束が出てきた。
折り畳まれて、何度も開かれた跡がある。
広げる。
子どもの字。
不揃いで、でも勢いのある丸文字が並ぶ。
**すきなもの**
**あか**
**あお**
**あたたかいところ**
**いぬ**
**おひさま**
ヴィオレッタは、その紙を見た瞬間、目を閉じたくなった。
赤。
青。
温かいところ。
犬。
おひさま。
白はない。
白いリボンも、白い部屋も、白いショールも、そこには一つもない。
幼い自分が、自分で好きだと思っていたものの並びだ。
「……おひさま」
小さく読む。
旧朝光室の窓から、ちょうどその時、雲の隙間を縫うように少しだけ陽が差した。
床の一部が、さっきまでより薄く明るくなる。
ヴィオレッタは息を止める。
あたたかいところ。
おひさま。
白い部屋ではない。
北塔の冷たい部屋の外に、最初から自分はそういうものを好きだと思っていたのだ。
「令嬢」
ルシアンの声が、今度は少しだけ近く聞こえる。
顔を上げると、彼はいつの間にか窓際から一歩寄っていた。
近すぎない。
でも、窓の光と箱の中の紙が同時に見える位置。
「それは保全対象に」
「わかってる」
少しだけきつい声が出る。
自分でもすぐわかった。
ルシアンはそれに何も返さない。
怒らないし、宥めもしない。
ただ、少しだけ間を置いてから低く言う。
「ですが、先に読めてよかった」
その一言が、胸の奥へ静かに落ちる。
先に読めてよかった。
証拠として封をされる前に。
誰かの手で整理される前に。
自分の目で、最初に。
ヴィオレッタは小さく息を吐く。
「……ええ」
それだけしか言えなかった。
玩具箱をさらに探る。
底の板の上に、もう一つ、薄い布包みがあった。
白でも赤でもない。
淡い黄色。
ひどく普通の色だ。
それだけで、少しだけ胸が軽くなる。
開く。
中には、小さな木の家が入っていた。
簡単なつくりの玩具。
屋根は赤。
壁は青。
扉だけが白い。
思わず、ヴィオレッタは少しだけ笑ってしまった。
「何です」
ルシアンが訊く。
「見て」
そう言って、木の家を持ち上げる。
赤い屋根。
青い壁。
白い扉。
「……本当に、白だけが好きだったわけじゃないのね」
自分でそう言いながら、可笑しくなってくる。
当たり前だ。
子どもが最初から白い理屈の中で生きているわけがない。
でも、その当たり前を、今ようやく物として見つけている。
ルシアンもその小さな家を見る。
鋼色の瞳がわずかに細くなる。
「扉だけ白い」
「ええ」
ヴィオレッタは木の家を膝の上へ置く。
「でも、中へ入るための扉なんて、白くても別に嫌いじゃないのよね」
言いながら、自分で少しだけ驚く。
白そのものが嫌いなのではない。
白い部屋が嫌だった。
白い理屈が嫌だった。
誰かに白へ紛れ込まされることが嫌だった。
でも、こうして赤と青の家についている小さな白い扉なら、別に悪くないと思える。
「それは」
ルシアンが低く言う。
「あなたが自分で選んだ白だからでは」
ヴィオレッタは彼を見る。
たぶん、その通りだった。
誰かの都合で与えられた白ではなく、自分の好きな赤と青の中へ、自分で置いていた白。
それなら、怖くない。
そう思えた瞬間、白い部屋の冷たさが、胸の中で少しだけ形を変えた気がした。
その時、旧朝光室の扉が控えめにノックされた。
二人とも顔を上げる。
「入って」
ヴィオレッタが言うと、扉が開く。
母だった。
薄い灰青のドレス。
髪は整えられている。
でも、やはり疲れている。
その顔へ、窓からの光が薄く落ちる。
母は部屋へ入ると、玩具箱の開いた蓋と、ヴィオレッタの膝の上の木の家と、机の上の「すきなもの」の紙を見た。
その瞬間、母の顔が少しだけ強張る。
「……見つけたのね」
低い声。
「ええ」
ヴィオレッタは紙を見下ろしたまま答える。
「赤も青も、おひさまも、温かいところも」
母はすぐには何も言えなかった。
旧朝光室の中へ、短い沈黙が落ちる。
でも、北塔の白い部屋の沈黙とは違う。
ここには窓があり、光があり、木の匂いがあり、まだ完全には冷えきっていない空気がある。
母がゆっくりと近づく。
でも、玩具箱には触れない。
扉のそばで一度止まり、それから、窓の光がいちばん弱く当たる位置へ立つ。
「それを書いた日のことを、少しだけ覚えているわ」
母が言った。
ヴィオレッタが顔を上げる。
母の視線は紙へ向いていた。
「あなたが、侍女に“好きなものを書いてごらんなさい”と言われて、ずっと考えていたの。最初に赤を書いて、それから青を書いて……」
そこで少しだけ目を細める。
「白は最後まで書かなかった」
胸の奥が、静かに鳴る。
「書かなかったのね」
ヴィオレッタが言うと、母は小さく頷く。
「ええ」
「あなたは、それを見た」
「見たわ」
「どう思ったの」
母は、そこで初めて視線を上げた。
その目にあるのは、昨夜と同じ疲労だ。
でも、今日はそこへもっと具体的な痛みが混じっていた。
「怖かった」
やはり、その言葉から始まる。
けれど母は続ける。
「あなたが白を好きだと言わなかったことが、ではなくて」
少しだけ息を吸う。
「あなたに、ちゃんと好きなものがあるのだと、思い知らされたことが」
その言葉は、妙に重かった。
好きなものがある。
赤。
青。
おひさま。
温かいところ。
犬。
たったそれだけの、子どもの普通の好き。
でも、この家の白い理屈にとっては、それがもう邪魔だったのだ。
「だから隠したのね」
ヴィオレッタが静かに言う。
母は頷く。
「ええ」
「白い部屋の前に」
「ええ」
「白い部屋のあとも」
母は今度は少しだけ言葉を詰まらせた。
「……そうね」
その一言が、旧朝光室の中へ重く落ちる。
ヴィオレッタは膝の上の木の家を見る。
赤い屋根。
青い壁。
白い扉。
「これも?」
問いながら持ち上げる。
母の表情がわずかに動く。
「覚えてる?」
「ええ。あなたが気に入っていたわ」
「どうして覚えてるの」
「……可愛かったから」
その答えに、胸の奥がぐしゃりと歪む。
可愛かった。
好きだった。
覚えていた。
それでも、白い部屋へ入れた。
そういう矛盾が、この人なのだと、今はもう知っている。
知っているからこそ、単純に憎みきれないのが、いちばん厄介だった。
ルシアンはその間、何も言わなかった。
部屋の一番外側の位置で立ち、でも完全に会話の外へは出ない。
いざという時の線を守る人の立ち方だ。
ヴィオレッタは「すきなもの」の紙を見つめる。
「これ、わたしが持つ」
そう言うと、母はすぐに頷いた。
「ええ」
「玩具箱はここ」
「ええ」
「白い部屋へは戻さない」
「戻さないわ」
そのやり取りが、ひどく静かに進む。
許しでも和解でもない。
ただ、もう一度白へ戻さないための確認。
ヴィオレッタはそこで、ふと思いつく。
「お母様」
「なに」
「これからしばらく、朝光室の鍵はわたしが持っていてもいい?」
母の目が少しだけ開かれる。
予想していなかったのだろう。
けれど、すぐに頷く。
「もちろんよ」
そして、少しだけためらったあと、続ける。
「白い部屋の鍵も、いずれ」
その言葉に、ヴィオレッタはすぐには答えなかった。
白い部屋の鍵。
それを持つということは、閉じるも開けるも、自分で決めるということだ。
まだ重い。
でも、いつかその時は来るのかもしれない。
「……そのうちね」
そう返すと、母は小さく頷いた。
旧朝光室の窓の外で、少しだけ風が動いた。
薄いレースが揺れる。
床へ差す光の形が、ほんの少しだけ変わる。
白い部屋ではなく、光の入る部屋。
その中で、玩具箱はもう隠し場所ではなくなっている。
ヴィオレッタは、「すきなもの」の紙をそっと自分の手元へ寄せた。
赤。
青。
おひさま。
温かいところ。
犬。
それは、白い理屈の外にいた自分の、たしかな断片だ。
忘れていた。
でも、なくなっていたわけではない。
「……もう少し、ここにいる」
ヴィオレッタがそう言うと、母はそれ以上何も言わなかった。
ルシアンも。
二人とも、静かに部屋を出ていく。
扉が閉まる。
旧朝光室に、一人になる。
玩具箱。
木の家。
「すきなもの」の紙。
朝の光。
ヴィオレッタは窓辺の長椅子へ座り、紙を膝の上に広げた。
白い部屋のあとで、最初の赤と、好きなものの紙が、いまここにある。
それだけで、息の仕方が少しだけ変わる。
窓の外では、雲の切れ間から一瞬だけ陽が差した。
部屋の中の木の家の赤い屋根が、その光を受けて小さく光る。
ヴィオレッタはそれを見つめながら、やがて、ごく静かに呟いた。
「……これがいい」
幼い自分が残した言葉を、今度は今の自分の声で、ゆっくりとなぞるように。
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