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第2話 優しいふりもできない夫
夜のあいだ、雨が降っていたらしい。
朝、リュゼリアが目を覚ましたとき、窓の外にはまだ濡れた石畳の鈍い光が残っていた。雲は低く垂れこめ、庭の木々は細い枝先に水滴をいくつもぶら下げたまま、じっと息を潜めている。いつもの冬の朝よりも空が暗く、そのぶん寝室の中もひどく静かだった。
薬湯の苦い匂いが、まだ薄く空気に残っている。
昨夜は医師が処方した鎮咳の薬を飲み、アイダに何度も額を冷やされ、ようやく浅い眠りに落ちた。眠っているあいだも何度か咳で目が覚めた気がするが、それでも、横になっていた時間が長かったぶん、体はわずかに軽かった。
胸の奥にある針のような痛みは消えていない。けれど昨日のように呼吸のたびに鋭く刺すのではなく、奥のほうでじくじくと居座っている感じだ。喉の奥には血の味は残っていない。それだけで、少し救われる。
枕元に置かれた時計を見ると、いつもより遅い時刻だった。
そういえば昨夜、アイダが「明朝はお食事の時間まで無理に起き上がられませんよう」と言っていた。公爵夫人が朝の食卓に現れないのは、本来なら好ましいことではない。屋敷の主人たちが顔を揃える食事は、そのまま家の秩序を示すものだからだ。
けれど、昨日ヴィルレオ自身が「休め」と言った。
その一言が許しのように働いていることが、妙に不思議だった。
リュゼリアは寝台の上で身じろぎし、冷たいシーツの感触に肩をすくめた。隣の半分はやはり空だったが、今朝はそれを見てもいつもほど胸がひりつかなかった。昨日の夕方、彼がこの部屋へ来た。その事実だけで、寝室の空気が少しだけ別のものに変わってしまったような気がする。
それが良い変化なのか、悪い前触れなのかは、まだわからない。
扉が控えめに叩かれる。
「奥様、お目覚めでいらっしゃいますか」
「ええ、起きています」
アイダが入ってきた。銀の盆には湯気の立つ白湯と、薄く蜂蜜を溶いた薬が載っている。彼女はいつも通り落ち着いて見えたが、寝台に近づく足取りには昨夜の緊張がまだ少し残っていた。
「お加減はいかがですか」
「昨日よりは楽よ。咳も少し落ち着いたわ」
「それでも、本日はなるべくお休みくださいませ。先生もそう仰っておりました」
「午前の執務を全部外すわけには……」
「外していただきます」
柔らかいのにきっぱりした声だった。アイダは枕を整え、リュゼリアの背へ手を添えながら上体を起こさせる。
「旦那様からも、奥様の予定は今日一日すべて取りやめるよう申しつけがございました」
その言葉に、リュゼリアは一瞬だけ手を止めた。
「……旦那様が?」
「はい。今朝早く、執事へ直接」
胸の奥で何かが小さく跳ねる。
予定をすべて取りやめるように。
それは心配からの配慮なのだろうか。それとも、体調を崩した公爵夫人を人前に出して見苦しい思いをしたくないからだろうか。ヴィルレオの言葉はいつも説明が少なすぎて、善意と義務の境目が見えない。
「そう……」
「ラズウェル伯爵夫人にも、お見舞いの花が届いております。昨日のご様子を心配なさって」
「まあ」
「公爵家からも、午前中の訪問予定はすべて延期の連絡を出しました。帳簿はクラウスが仮処理するとのことです」
そこまで整っていると、もう「少しなら大丈夫」と言う余地はない。むしろ自分ひとりだけが現状を甘く見ていたようで、リュゼリアは静かに息を吐いた。
「……迷惑をかけてしまったわね」
「またそのようなことを」
アイダは眉をひそめた。
「奥様がお倒れになれば、屋敷のほうが困るのです。ご自分を後回しにされるのも大概になさってくださいませ」
叱責というより、半ば嘆きに近い声音だった。リュゼリアは苦笑する。
「あなたにそう言われると、返す言葉がないわ」
「返さなくて結構でございます。お薬を」
蜂蜜の混じった薬は苦味を少し和らげていたが、それでも喉を通ると胃の底に重たく落ちた。白湯で流し込み、ようやく一息つく。窓の外では、屋根の端から遅れて落ちた雫が石畳を打った。
「旦那様はもうお出かけになったの?」
「はい。ですが昼前には一度戻られるそうです」
「昼前に?」
「本日の会議をかなり減らされたようで」
そこまで聞いてしまうと、昨夜見せた彼の表情が否応なく思い出される。暗い寝室、寝台の脇に立つ長い影、迷惑ではない、と即答した声。
あれは夢ではなかったのだ。
そう確認するたび、胸が甘く痛む。けれど同時に、その甘さへ身を預けることの危うさも知っている。三年のあいだ、ほんの小さな親切や短い言葉を大切に抱え込み、それだけで期待し、そして一人で冷えてきたのだから。
「今日は本当にお休みくださいませ」
「ええ。せっかくそう整えてもらったのですもの、素直に従うわ」
そう言って微笑むと、アイダもようやく少しだけ表情を緩めた。
◇
昼近くになっても、空は晴れなかった。
薄い灰色の光が窓から差し込み、暖炉の火の色だけが部屋にあたたかみを足している。リュゼリアは寝間着ではなく、簡素な室内着に着替えて窓際の長椅子に座っていた。休むとはいえ、一日中寝台の上にいるのはどうにも落ち着かない。膝には薄いブランケット、手元には読みかけの詩集。けれど文字を追っても内容はほとんど頭に入ってこなかった。
庭を見下ろしながら、ただ時をやり過ごしていたのだと思う。
昼食は部屋へ運ばれた。柔らかく煮た鶏肉と野菜、薄く焼いたパン、りんごを煮崩した甘いコンポート。いつもの食堂よりずっと簡素だが、体にはやさしい献立だった。こういうとき、厨房は驚くほど迅速に「病人用」の食事を用意する。指示系統が明快だからだろう。そこに心があるかどうかは別として。
少量ずつなら食べられた。昨日までのようにひと口目から胃が拒むこともない。スプーンを置いたところで、廊下の向こうから足音が近づいてきた。
使用人のそれとは違う。迷いがなく、一定で、床板に余計な響きを残さない歩き方。
リュゼリアの指先が、膝の上でわずかに強ばる。
ノックは一度だけだった。
「入れますか」
ヴィルレオの声。
「はい」
返事をすると、扉が開いた。彼は昼の光を背にして立っていた。朝から王城へ出ていたのだろう、外套は脱いでいたが濃い色の上着には外気の冷たさが少しだけ残っているように見える。髪は乱れておらず、表情もいつも通りきわめて整っていた。けれど目元には、昨夜から続く寝不足のような影がほんの薄く差していた。
「起きていたのか」
「はい。ずっと横になっているのも落ち着かなくて」
彼は部屋へ入ると、長椅子から少し離れた位置で立ち止まった。近づきすぎることを避けているようにも、どう近づけばいいかわからないようにも見えた。
「食事は」
「少しですが、いただけました」
「咳は」
「昨日よりは」
問う言葉は短く、返す言葉も短い。そのやりとりの乏しさが、却って互いのぎこちなさを際立たせる。
ヴィルレオは一度だけ窓の外へ目をやり、それから部屋の中央に置かれた小卓の上へ、持ってきたらしい細長い箱を静かに置いた。
「これを」
「……何でしょう」
「喉を潤す飴だ」
箱は濃紺の紙張りで、王都でも老舗とされる薬舗の印が押されていた。上流階級の婦人たちが好む砂糖菓子ではなく、薬効のある香草や果汁を煮詰めてつくる飴である。ほんのり苦く、けれど喉にはよく効くと聞いたことがあった。
リュゼリアは箱に手を伸ばし、蓋を開ける。中には薄い琥珀色の飴が整然と並んでいた。封を切った瞬間、蜂蜜とハーブの匂いがふわりと立つ。
「ありがとうございます」
礼を言うと、ヴィルレオはわずかに顎を引いた。それで会話が終わったと思ったのか、彼はすぐ踵を返しかける。
リュゼリアは、咄嗟に声をかけていた。
「旦那様」
彼の動きが止まる。
「……わざわざ、これを届けるためにお戻りになったのですか」
自分でも愚かな問いだと思った。答えを聞きたいくせに、聞くのが怖い。仕事のついでだと言われたら、それだけでまた夜が少し寒くなる。
だがヴィルレオはすぐには答えなかった。数秒の間をおいてから、彼は横顔のまま低く言う。
「ついでではない」
その一言が、胸の奥へ真っ直ぐ落ちた。
ついでではない。
たったそれだけなのに、心のどこかがほどけそうになる。けれど、ほどけてはいけないと別の場所が必死に言い聞かせる。こういう言葉ほど危うい。期待を呼び覚ますからだ。
「そう、でしたか」
リュゼリアは箱を閉じ、指先で蓋の縁をなぞった。
「……嬉しいです」
言ってしまってから、少しだけ顔が熱くなる。まるで若い娘のようだと思う。けれど、正直な気持ちだった。
ヴィルレオの喉が、ごくわずかに動いた。
「当然のことだ」
彼はそう言ったが、その言葉にはどこか固さがあった。当然のことだと思うなら、なぜ今まで何ひとつ当然にしてこなかったのだろう。そんな考えがよぎり、胸のやわらかいところに冷たい針が戻ってくる。
「……はい」
それ以上何も続かなかった。
彼の不器用さは、優しさの輪郭をかろうじて見せた直後に、それをまた冷たい言葉で包んでしまう。優しいふりさえ上手にできない人なのだと、リュゼリアはあらためて思う。
ヴィルレオは少しだけ眉を寄せた。自分の言い方がまずかったと気づいたのかもしれない。だがそれを言い直すこともできず、ただ視線だけが迷った。
「……午後は何もするな」
「今日はもう本当に休んでいます」
「そうではない。帳簿も、訪問客への返書も、考えるなと言っている」
「考えないのは難しいです」
「なら、考える以外のことをしろ」
それは命令というより、不器用な提案のようだった。けれど語尾が硬いせいで、やはり命令に聞こえる。
リュゼリアは少しだけ笑ってしまった。
「たとえば、何をいたしましょう」
ヴィルレオは答えに詰まった。想定していなかった問いだったらしい。普段の彼なら、政治でも軍務でも即座に最善手を出す男が、いまは自分の妻をどう休ませればよいのかもわからず沈黙している。
その様子が、少しだけ可笑しくて、そして少しだけ切なかった。
「庭を見るとか……」
ようやく出た答えがそれで、リュゼリアは瞬きをした。
「窓からは見ておりますわ」
「外へ出るなとは言っていない」
「でも、先生は安静にと」
「……外気は冷える」
「では庭は駄目ですね」
「そうだ」
本気で言っているらしい。しかも自分で提案しておいて、すぐ自分で却下している。
リュゼリアは笑いを堪えきれず、口元を押さえた。喉に響いて咳き込みそうになり、慌てて息を整える。
「無理に笑うな」
「ごめんなさい。あまりに旦那様らしくて」
「どういう意味だ」
「優しいのに、少しもそう聞こえないところです」
口にした瞬間、空気が静まる。
ヴィルレオはその場で固まったように立ち尽くした。いつもなら表情の変化に乏しい顔が、ほんのわずかだけ動揺を見せる。自覚がなかったのだろうか。あるいは、自覚していても指摘されるとは思わなかったのか。
リュゼリアのほうも、自分が何を言っているのか途中から怖くなっていた。昨日から、普段なら飲み込むはずの本音がぽろぽろと零れている。体調が悪いせいだと誤魔化したいが、たぶんそれだけではない。
「忘れてください」
「昨日も同じことを言ったな」
「……申し訳ありません」
「謝るな」
またそれだ、とリュゼリアは思う。彼は謝られることを好まないくせに、謝らせるような沈黙ばかりつくる。
ヴィルレオは視線を逸らし、しばらくしてから低く言った。
「わからない」
「え?」
「どう言えば、余計な角が立たずに済むのか」
あまりに真っ直ぐな困惑で、リュゼリアは思わず彼を見つめた。
王都でもっとも近寄りがたいと噂される公爵が、まるで難解な書物の前で立ち尽くす少年のように、眉間に皺を寄せている。
「……そうでしたの」
「必要なことだけ言えば足りると思っていた」
「はい」
「足りていなかったのだろう」
その一言に、リュゼリアの指先がそっと膝の布を握った。
彼は今、何を認めたのだろう。自分の不器用さか。夫としての不足か。それとも、彼女が足りないと感じてきたものの存在そのものか。
胸が静かに高鳴る。けれど、それを悟られてはいけない気がして、彼女は目を伏せた。
「……わたくしは、旦那様が話し下手でいらっしゃることくらい存じております」
「慰めか」
「事実です」
今度こそヴィルレオの口元がごくかすかに動いた。笑った、と言うにはあまりにも微細な変化だったが、それでも確かに、彼の顔から一瞬だけ氷が薄く剥がれた。
その一瞬を見てしまったことが、ひどく危険に思える。
こんなふうに、ときおり本当の顔を覗かせるから、この人は残酷なのだ。最初から冷たいだけなら、もう少し楽に諦められたかもしれないのに。
廊下の先で、誰かが控えめに足を止めた気配がした。続いて執事の声が扉越しに届く。
「旦那様。北方より急ぎの使者が」
ヴィルレオの表情が瞬時に切り替わる。私的な迷いをすべて奥へ押し込み、公爵の顔になる。その切り替えの鮮やかさに、リュゼリアはいつも少しだけ息を呑む。
「入れるな。五分待たせろ」
「かしこまりました」
それだけ指示すると、彼は再びリュゼリアを見た。
「薬は必ず飲め。午後は寝ていろ。医師が夕刻にもう一度来る」
「はい」
「必要なものがあれば、アイダを通して言え」
「ええ」
それだけ言って、今度こそ彼は扉へ向かった。あと数歩で出ていくというところで、また立ち止まる。
「……飴は、甘すぎるようなら無理に口にするな」
「はい」
「蜂蜜のものと、香草のものがある。合わないほうは捨てていい」
「そのようなことは」
「喉を悪くするよりはましだ」
「ありがとうございます」
結局それ以上の言葉はなく、ヴィルレオは出ていった。扉が閉じる。部屋には、彼が運んできた冷たい外気の匂いと、薬舗の飴のやさしい香りだけが残された。
リュゼリアはしばらくそのまま動けなかった。
胸のどこかが、ゆっくりと熱を持っていた。嬉しい。そう感じる一方で、すぐに冷静な自分が囁く。
たったこれだけで喜ぶなんて、やめなさい。
飴を持ってきたくらいで。予定を取りやめたくらいで。数度、言葉を交わしたくらいで。
でも、それでも。
この三年で、彼が「ついでではない」と口にしたことなど一度もなかったのだ。
◇
午後の後半、熱が少し上がった。
額が重く、目の奥がじんとする。アイダに言われて寝台へ戻ったものの、眠りは浅い。意識の底で何度も庭の夢を見た。裸の薔薇の枝に、なぜか小さな飴玉がいくつも吊るされていて、風が吹くたび硝子のように鳴る夢だった。おかしな夢だとわかっているのに、その透き通った音だけがいつまでも耳に残る。
夕刻、医師が再び訪れた。診察の結果、今夜は熱を抑える薬も使うことになった。喉の出血は止まっているが、胸の音が少し気になるという。詳しい検査のため、数日のうちに王都でも腕のよい内科医を招くよう医師が提案した。
そのやりとりの最中、ヴィルレオは同席していた。
彼は椅子の背へ手を置いたまま、一言も挟まず話を聞いていたが、医師が曖昧な表現をしたときだけ、鋭く問いを返した。
「気になる、では足りない。何を疑っている」
「現時点で断定は難しく……」
「可能性を言え」
「慢性的な肺の炎症、あるいは血虚から来る消耗が重なっていることも考えられます」
「治療は」
「まずは安静と精密な診察です。血を見た以上、軽視はできません」
その短いやりとりを、リュゼリアは寝台の上で聞いていた。
自分の体のことなのに、まるで少し離れた場所で起きている話のように思える。言葉は理解できる。けれど実感が追いつかない。肺、炎症、消耗、精密な診察。どれも曖昧で、怖さだけが形を持たずに広がっていく。
医師が去り、アイダが薬を取りに下がると、また二人きりになった。
外はすっかり暮れていた。厚い雲のせいで日没は早く、窓はもう真っ暗だ。室内にはランプの光がともり、そのやわらかい色がヴィルレオの横顔の輪郭を浮かび上がらせている。
「……そんなに深刻なお顔をなさらないでくださいませ」
沈黙に耐えかねて、リュゼリアが言った。
「わたくしまで不安になります」
ヴィルレオはすぐには返さなかった。彼は火の入ったランプのそばへ視線を向け、その橙色を見つめているようだった。
「不安ではないとでも言うつもりか」
やがて、低い声が落ちる。
リュゼリアは息を止めた。
不安ではないとでも言うつもりか。
それは、誰のことを言っているのだろう。彼自身か。彼女か。それとも両方か。
「……不安です」
正直に認めると、喉が少し震えた。
「ですが、怖がってばかりいても仕方ありませんわ」
「怖がるなとも言えない」
「旦那様はそういうことを仰らない方ですものね」
ヴィルレオは椅子を引き、寝台の脇へ腰を下ろした。昨夜も立ったままだった場所へ、今日は座る。そのことに、リュゼリアの心臓がまた少し早くなる。
「俺は、安易な慰めが嫌いだ」
「知っています」
「大丈夫だと根拠なく言うのも」
「ええ」
「だが」
彼はそこで言葉を切った。大きな手が膝の上で一度だけ握られ、ゆっくり開く。
「……昨日より今日のほうが、まだましだと聞けば安心する」
たったそれだけの告白に、リュゼリアの胸の奥が熱くなった。
この人は、本当に、優しいふりすら下手なのだ。
甘い言葉も、繕った微笑みも、たぶん一生うまくはならない。けれどその代わり、絞り出すように口にした本音だけは嘘ではないのだろう。
「そうでしたら……」
リュゼリアはシーツの上で指先を重ねた。
「明日も、今日よりましだとお伝えできるようにいたします」
「約束はするな」
「どうしてですか」
「守れなかったとき、お前がまた謝る」
あまりにその通りで、リュゼリアは少しだけ目を丸くしたあと、笑ってしまった。今度は喉に響かない程度の、小さな笑いだった。
「では、努力いたします」
「それでいい」
短い返事。
でも、その「それでいい」は、これまで何度も向けられてきた許可や評価とは違って聞こえた。少しだけやわらかい。少なくとも彼女には、そう感じられた。
「旦那様」
「なんだ」
「お忙しいのに、今日は何度もお部屋へ来てくださって」
礼を言おうとして、言葉を探す。ありがとう、だけでは足りない気がした。けれど、それ以上の適切な言葉も見つからない。
「……本当に、ありがとうございます」
ヴィルレオは沈黙した。薄い光のなかで、青灰色の瞳がまっすぐこちらを見る。その視線を受けると、どうしてか少し息が苦しい。
「礼を言われるほどのことはしていない」
「でも」
「していない」
そこだけ妙に頑なだった。
リュゼリアは小さく首を傾げる。すると彼は、視線を逸らしたまま続けた。
「お前はいつも、俺が何もしなくても礼を言う」
思いがけない言葉だった。
リュゼリアは目を瞬かせた。
「それは……」
「茶を出せば礼を言う。馬車を手配すれば礼を言う。寒くないかと一度聞いただけで礼を言う」
ひとつひとつ数えるように言われて、彼女は返す言葉を失った。確かにその通りだった。彼がほんの少しでも自分に何かを向けてくれたと感じたとき、リュゼリアはすぐにありがとうと言ってきた。それが嬉しかったから。大切に受け取りたかったから。
「当然のことに礼を言われると……」
ヴィルレオはそこで止まる。続きが出てこない。けれど、その止まり方のなかに言いようのない苦さがあった。
「……腹が立つ?」
リュゼリアがそっと問うと、彼は首を振った。
「違う」
「では」
ヴィルレオは長い息を吐いた。
「俺がどれほど足りていないか、突きつけられている気がする」
その言葉を聞いた瞬間、リュゼリアの心のどこかが静かに震えた。
彼は、自分が足りていないと知っている。
ずっと知らないのだと思っていた。あるいは、知っていても意に介していないのだと。そうでなければ、あまりにも長く、あまりにも冷たいままだったから。
けれど違ったのだろうか。この人はこの人なりに、何かを感じ、何かを見て、それでもどうにもできなかったのだろうか。
「……旦那様」
名前のかわりにそう呼ぶと、彼は視線を上げた。
「わたくしは、突きつけたいわけではありません」
「わかっている」
「でも、そう思わせてしまうのなら……」
「違う」
今度は少し強い声だった。
「お前が悪いと言っているのではない」
「はい」
「俺のほうの問題だ」
きっぱりと言い切るくせに、その先の説明がない。そこがいかにも彼らしい。リュゼリアは微笑んだが、胸の内側では小さな痛みがまた広がっていた。
あなたの問題だと認めてくださるなら、どうしてもっと早く、それを見せてはくださらなかったの。
そんな問いが浮かぶ。けれど、口にはできない。いまここでそれを言えば、このわずかな静けさまで壊してしまいそうだった。
ノックの音がして、アイダが薬を持って入ってきた。会話はそこで途切れる。ヴィルレオはいつの間にか、また公爵の顔へ戻っていた。
「薬を飲ませたら、すぐ休ませろ」
「承知いたしました」
「夜のあいだに変わったことがあれば、俺の部屋でも執務室でも構わない、すぐ知らせろ」
「はい」
アイダは落ち着いて答えたが、そのやりとりを聞きながらリュゼリアの胸は妙に熱くなった。俺の部屋でも執務室でも。そこには隠しようのない緊張がある。けれどその緊張を、彼はやはり優しい言葉には変えられない。
薬を飲み終えるのを見届けると、ヴィルレオは立ち上がった。
「休め」
「はい」
彼は数歩進み、扉の前でほんの一瞬だけ立ち止まる。何か言い残していきたいように見えたが、結局そのまま出ていった。
閉じられた扉を見つめながら、リュゼリアはシーツの上へそっと指を這わせた。
「……アイダ」
「はい、奥様」
「旦那様は、もともとあのような方だったかしら」
アイダは一瞬だけ意味を測るように目を細めた。
「どのような、でございましょう」
「優しいのに、不器用で」
アイダは返答の前に、薬の瓶を盆へ戻した。それから穏やかに言う。
「旦那様は昔から言葉が少ない方ではありましたが、奥様のこととなると、輪をかけて拗れておいでのように見えます」
「……そう」
「他人には冷たく切り捨てるだけで済むことも、奥様相手にはそうもいかないのでございましょう」
「でも、優しくすることもできないのね」
「できないのではなく、やり方をご存じないのかと」
その言い方に、リュゼリアは苦く笑った。
「それでは困るわ。夫婦ですのに」
「ええ。本来は、とても」
アイダはそこで言葉を切った。言いすぎたと思ったのかもしれない。リュゼリアもそれ以上続けさせる気はなかった。胸の内に触れれば、まだ簡単に血が滲みそうだった。
◇
夜は思いのほか静かに更けた。
熱は薬でいくらか引き、咳も昨夜ほどひどくない。けれど眠る前、リュゼリアはなかなか寝台に入れずにいた。部屋のランプを落とし、窓辺へ立つ。雨はすでにやみ、雲の切れ間から薄い月が覗いている。濡れた庭は白く鈍く光り、石畳の上に枝の影が細く伸びていた。
昼間、ヴィルレオが持ってきた飴の箱を開ける。
蜂蜜のものと、香草のもの。彼が言った通り、二種類がきちんと分けて並んでいた。まるで薬の調合みたいに几帳面だと思う。どちらが甘すぎるかもしれない、とわざわざ言い添えたところまで彼らしい。気遣うなら気遣うとだけ言えばいいのに、あの人はどうしても一言多いか、一言足りない。
琥珀色の飴を一粒口に含む。最初に蜂蜜の甘さがやさしく広がり、すぐあとから喉の奥へすっとミントのような清涼感が抜けた。思っていたよりずっと美味しい。喉のいがらっぽさが少しだけ和らぐ。
甘さが舌の上でゆっくり溶けるのを感じながら、リュゼリアは目を閉じた。
ついでではない。
必要なことだけ言えば足りると思っていた。
当然のことに礼を言われると、俺がどれほど足りていないか突きつけられている気がする。
今日、彼は幾つも言葉を落としていった。どれも不器用で、愛想がなくて、相変わらず優しいふりにはなっていなかった。けれど、だからこそ本当のことなのかもしれないと思ってしまう。
それがいちばん危うい。
もし今日の彼の態度が、ただ「妻が病んだから放っておけない」という義務感から来ているだけだったら。もし体調が戻れば、また前と同じ食卓、同じ寝室、同じ遠さへ戻るだけだったら。
そのとき自分は、いまより深く傷つくのではないか。
飴を転がすたび、喉だけではなく胸の奥まで、じんわりと熱が溶けていくようだった。その熱にすがりたくなる自分と、すがってはいけないと知っている自分が、静かにせめぎ合う。
コン、と小さな音がした。
振り向くと、寝室の扉の外で誰かが控えめにノックした気配がある。こんな時間に珍しい。アイダならもっと遠慮のない叩き方をする。
「……どなた?」
問いかけると、わずかな間のあとで、扉越しに低い声がした。
「俺だ」
リュゼリアの指先が、飴の箱の縁をきゅっと握った。
「旦那様?」
「起きているか」
「ええ、まだ」
「入る」
許可を待つより先にではなく、けれど完全に伺いを立てるでもない、いつもの彼らしい言い方だった。リュゼリアが「はい」と返すと、扉が静かに開く。
ヴィルレオは寝間着ではなく、薄手の室内着に着替えていた。髪も少しだけほどけていて、昼間よりわずかに私的な姿だ。それだけで、昼間に見る彼とは別人のように感じる。
「どうなさいましたの」
問いかけると、彼は手に持っていた小さな紙片を差し出した。
「王城の薬師から追加で返事が来た。明後日、もう一人診せる」
紙片には簡潔な文面で、医師の名と来訪時刻が記されていた。王家にも出入りする老医師の名前である。手配の早さに、リュゼリアは少し驚く。
「こんなに急いでくださらなくても……」
「急ぐ」
やはり短い。けれどその短さには、昼よりもさらに揺るぎのない緊張があった。
「今日は熱も少し落ち着きましたし」
「だから軽いとは限らない」
「……そうですね」
彼は紙片を小卓へ置くと、窓辺に立つリュゼリアを見た。その視線の先が、彼女の手元で止まる。飴の箱と、口に含んだままの琥珀色の粒。
「それは食べられたか」
「はい。とても美味しいです」
「そうか」
また、それだけ。
だが彼はその場を去らなかった。数歩だけ近づき、窓辺の外へ一緒に視線を向ける。夜の庭は雨に洗われ、昼間よりもいっそう静かで、どこか現実から遠く見えた。
「……夜の庭は、少し怖いですわね」
リュゼリアがぽつりと言うと、ヴィルレオは隣で低く返した。
「昔は平気だっただろう」
「覚えていらしたの?」
「お前は結婚して最初の年、夜でも薔薇を見に出た」
思いがけない記憶だった。
一年目の春、温室から移したばかりの白薔薇の蕾が気になって、リュゼリアは夜着の上にショールを羽織り、中庭へ降りたことがある。風に煽られた枝を支柱へ結び直しているところへ、仕事帰りのヴィルレオが通りかかった。
彼はそのとき、何も言わなかった。ただ「風が強い、戻れ」とだけ言い残して去った。リュゼリアはそれを冷たい叱責だと思い、部屋へ戻って一人で少し泣いた。
でも、彼は覚えていたのだ。
「……旦那様は、あのときも覚えていてくださったのですね」
「見ればわかることだ」
「でも、わたくしは」
リュゼリアはそこで言葉を止めた。言っていいものか迷ったのだろう。けれど、ヴィルレオが静かに待っている気配がした。
「あのとき、ただ叱られたのだと思いました」
月明かりのなかで、ヴィルレオの睫毛が一度だけ動く。
「叱ったつもりはない」
「はい。今ならわかります」
「……そうか」
夜の静けさは、昼よりも少しだけ本音を零しやすくするのかもしれない。外では風に揺れた枝が窓をかすめる音を立てていた。飴の甘さはもうほとんど溶け切って、口の中には薄い清涼感だけが残っている。
「旦那様」
「なんだ」
「もし、わたくしが病気でも」
口にした途端、その言葉の不穏さに自分で少し震えた。
「……そのときは、どうなさいますか」
愚かな問いだとわかっていた。だが、聞きたかった。義務として看病するのか。それとも適切な療養先へ送り、家のために整えるのか。あるいは、何も変わらないのか。
ヴィルレオは長い沈黙のあと、低く言った。
「治させる」
あまりにも彼らしい答えだった。
「もし、治らなければ?」
問いを重ねると、彼の眉間が深く寄る。
「治るように手を尽くす」
「それでも、もし」
「そんな仮定は今するな」
鋭い声。けれど怒鳴っているわけではない。むしろ、その鋭さの奥に、ひどく強い拒絶がある。認めたくない未来を前にした人の声。
リュゼリアは目を伏せた。
「ごめんなさい」
「……また謝る」
「だって」
「聞くなと言っているわけではない」
彼は一歩だけ近づいた。伸ばしかけた手が、今度は途中で止まらなかった。大きな手のひらが、ほんの一瞬だけ、リュゼリアの髪に触れる。撫でるというほどはっきりした動きではない。熱を確かめるようにも、落ちてきた一房を整えただけのようにも見える、ひどく曖昧で短い接触だった。
けれど、三年間で一度もなかった触れ方だった。
息が止まる。
ヴィルレオの指先はすぐに離れた。まるで自分でも何をしたのかわからなくなったみたいに、彼は手を下ろし、少しだけ視線を逸らす。
「……寝ろ」
声がわずかに掠れていた。
リュゼリアは何も言えなかった。ただこくりと頷く。頷くことしかできない。
彼はそれ以上何もせず、今度こそ本当に部屋を出ていった。扉が閉まり、寝室にはまた静けさが戻る。
だが、もう先ほどまでの静けさではなかった。
髪に触れた場所が、そこだけ熱を持っているようだった。ほんの一瞬。誰かが見ていれば見逃すほどの短さ。それでも確かに触れられたという事実が、心の内側へ波紋のように広がっていく。
リュゼリアはその場に立ち尽くし、やがてゆっくりと指を上げて、自分の髪へ触れた。何も残っているはずがないのに、そこにはまだ彼の手の重さがある気がした。
「……優しいふりも、できないのね」
夜の窓へ向けて呟くと、硝子に映った自分がひどく困った顔で微笑んでいた。
あの人は本当に下手だ。
飴を持ってくるのも、言葉を選ぶのも、心配していると見せるのも、全部が不器用で、全部が遅い。優しさをきちんと差し出す方法を知らないまま、ただ事実だけをぶっきらぼうに置いていく。
なのに、その事実が嘘ではないとわかってしまうから、よけいに苦しい。
期待したくない。
でも、今日一日で、どれだけしてしまっただろう。
ついでではない、と言われたこと。礼を言われるたび足りなさを突きつけられていたと知ったこと。そして最後の、あまりにも不器用な指先。
期待してはいけないと知っている心と、してしまう心が、夜の薄闇のなかで静かに綱を引き合う。
やがてリュゼリアはランプの火を落とし、寝台へ戻った。シーツの冷たさが足元を包み、天蓋の向こうには雨上がりの月の光がぼんやりと透けている。
目を閉じても、眠りはすぐには来なかった。
髪へ触れたあの一瞬ばかりが、何度も何度も胸の内で再生される。嬉しいと思うたび、それより少し強い痛みがあとから来る。
もしこの優しさが遅すぎるものだったら。
もし、病が進んでから初めて向けられるものなのだとしたら。
それは救いなのか、それとももっと残酷な始まりなのか。
答えはまだない。
ただ夜だけが静かに更けて、雨に洗われた庭の匂いが、細く開いた窓の隙間から寝室へ流れ込んでいた。
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