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第一章 五里霧中の異世界転移
第十七話 誓約の女神②
しおりを挟む香澄は在沢真幌から、藍白達がいる空間と『在沢司法書士事務所』のある空間は、時間の流れが違うので、ほとんど時間が経ってないと言われて安心した。
しかし、藍白達と再会した時、二人は一段とぼろぼろになっていた。香澄は、すぐに戻らなかった事を後悔した。黒い霧の少年は、速攻で定位置の香澄の腰にしがみついてきて、藍白を威嚇している。香澄は、そんな少年の頭を撫でてなだめた。
「香澄ちゃん。そいつから、離れて!」
「藍白、ごめんなさい。わたしはこの子と『主従の誓約』を交わそうと思っているの」
「香澄ちゃん?! 『誓約の女神』に無理やり契約する気にさせられてない?」
「大丈夫。よく、考えて決めたから」
「大丈夫じゃないよ! そいつは『異界の悪魔族』なんだよ?」
「藍白 …… そもそも『異界の悪魔族』って、何なの?」
「香澄ちゃんは、知らないんだよね。コイツらは、世界の敵だよ。太古の昔、地上は竜族の皇国が支配していたんだ。ある日、異世界からやってきた奴らは、たった一夜で、一つの大陸を国や人々ごと消滅させたんだ。それから。『異界の悪魔族』のせいで、世界は暗黒の時代が続いたんだ。千五百年くらい前に『異界の悪魔族』と竜族の皇国や多くの種族が総力戦を仕掛けて、やっと 亜空間に封印したんだ。長い間の戦いで、竜族は数を減らして文明も衰退してしまった。滅んだ種族も数えきれない。いまだに、小物の悪魔族が封印の隙間から逃げ出して、人間を唆して、国々に争いを起こしているんだ。そのせいで、竜族も人間も多くの国が消えて更に人も減った …… 」
藍白が、辛そうに顔を歪めて語った。
香澄は、かなり深刻な話に『誓約の女神』を思わず振り返って見た。真幌達は、藍白の言葉に反論することなく沈黙している。こちらの話し合いに干渉するつもりはないらしい。香澄は、ため息をついて少年にたずねた。
「君は、藍白の言うような『異界の悪魔族』なの?」
『私は『異界の悪魔族』とは、違います。私が生まれたのは、『異界の悪魔族』が封印された後です。姫様に命じられ、新たな主様を待って魔霧の森で眠っていました。私とアレらとは違う。アレらは、繋がり合うことで情報を共有します。しかし、私は違うモノになってしまいました。それに、アレらには別の主がいます。アレらと私は、相容れない存在です。だから、私はある意味『異界の悪魔族』ではありません』
「う、つまり、君は、『異界の悪魔族』じゃなくて、悪い事はしてないし、しないって事かな?」
『主様のご命令にしたがいます!』
「騙されないで、コイツらを信じちゃ駄目だ。香澄ちゃんは、こんな得たいの知れない物と『主従の誓約』なんて、どうしてする気になってるの?」
香澄は、ちょっと困った顔の笑顔を藍白に向けた。
「多分、罪滅ぼしかな? 以前に、同じような事を言われた人を …… 見殺しにした事があるから …… 。だから異世界にまで来て、また繰り返して後悔するより、いいかなって思ったの。心配かけて、ごめんなさい。藍白」
ーーーー 嫌だ!もう、俺は一人ぼっちなんだ。お前が、俺を見捨てたんだ!
香澄は、この一年間ずっと耳から離れない声を思い出して俯いた。
「分かった。立会人として、この誓約を見届けるから、香澄ちゃんに不利な条件なら無効にするからね」
「川端さん、話はついたかしら?」
「はい」
藍白は両腕に誓約の精霊が引っ付いている。今度は、藍白がモテてるなと香澄は思った。真相は、誓約の精霊達にやんわりと押さえつけられて、こちらに近寄れないらしい。
誓約の女神が香澄と少年に告げる。
「これより、誓約を行う。川端香澄を『主』、『黒い霧の少年』を『従』とする、『主従の誓約』です。誓約の要請者、汝の条件を述べよ」
少年の紅い瞳が、キラリと妖しく光った。
『香澄様を『主』とした、『主従の誓約』を交わし、主様から名を得て、主様と、何時如何なる時も、生涯共に在りたい!』
「え、無理! そんなストーカーは要らない! 結婚するわけじゃないんでしょう?」
『そんな …… 主様をお守りする為にお側においていただきたいだけなのです』
「ううっ …… 」
香澄は、『誓約の女神』との会話を思い出した。
「『黒い霧の少年』との主従の誓約。具体的にどんな内容になりますか?」
「『黒い霧の少年』の要請は、貴女を『主』に、『黒い霧の少年』を『従』とし、全てを貴女に委ねるものです。つまり、貴女は彼を支配して、生かすも殺すも自由な立場になります」
「何故、そんな不公平な契約を? わたしは何も返せませんよ? それって、わたしの地球的観念の悪魔との契約みたいに、わたしの願いを叶えたらわたしの魂を貰うみたいな事ですか?」
「いいえ、貴女に望まれる対価は、名を与えて支配する行為そのものです」
「それって、彼にとって不利な契約じゃないですか?」
「『黒い霧の少年』は、『異界の悪魔族』などと呼ばれていますが、実際は、異界の精霊の様なものです。長い間の孤独に歪み不安定ですが、『主』を得れば彼は勿論、世界にとっても利益になるでしょう。貴女も守護者を得ることが出来るのです。これは、ささやかなアドバイスです」
「なるのでしょうか?」
「精霊誓約は、魔力を仲介料に公平性と契約の正しい履行を『誓約の女神』が保障するシステムです。契約違反があった場合、『誓約の精霊』は違反者に罰則を与え、正していきます。つまり、『誓約の女神』も、責任を負います。契約者双方の条件や対価の調整についてもです 」
「そうですか …… 契約期間は、どれくらいになりますか?」
「一生涯ですね」
「そんな、生命保険じゃあるまいし、一生涯だなんて重すぎます」
「大丈夫です。あれは、貴方の望み通りに仕えるでしょう。姿を見せるなと命じれば、貴女が死ぬまででも、姿を現さないでしょう。そうやって、命じれば良いのです」
「 …… そんな、わたしがあの子を理不尽に利用していいわけないでしょう」
「『主従の誓約』とは、そういう物です」
「もし、わたしと契約出来なかった場合、あの少年はどうなりますか?」
「さあ、絶望して消えてしまうかもしれませんね。それに、少年はこの『在沢司法書士事務所』を召喚するために、自分の魔力をほとんど使いました。場が消えれば、竜族に簡単に討伐されてしまいますね」
「そんな …… 」
『もしや、この姿が、お気に召さないのですか? では、どんな姿ならばよろしいか?』
香澄は、唐突につらつらと考えはじめた。
どんな姿をしていれば大丈夫なのだろうか、 彼は、異界の精霊の様なものだと聞いても、ずっと少年と一緒の生活は無理だ。成長して大人になられたらもっと難しくなる。いつも一緒にいるなんて恋人じゃないんだから …… 一生は責任持てないかもしれない。どうしよう?
ああ、考えてたら、頭が痛くなってきた。そうだ、もっとチビっちゃくなったらいいかもしれない。小さな生き物の姿ならどうだろう? ああ、猫なら! 一度、猫を飼ってみたかったのよね。小さな猫なら大丈夫かな? モフモフの長毛種でフサフサしっほがいいな、元の世界に戻っても、問題なく一緒にいられそうだしね。
でも、今の少年の姿も可愛いし嫌いじゃない。それに、彼が成長したらどんな大人になるんだろう? うん、間違いなく美形だよね。
『 …… 名前は?』
ん? 名前、名前ね、少年は何だか色々と病んでるし、ずっと孤独で真っ暗闇だったんだよね。
『 …… はい。おっしゃる通りです』
あ、妹の子供が、男の子だったらって考えてた名前に、いいのがあるのを思い出した。昭和生まれのわたしには、ちょと呼ぶのには恥ずかしい感じの名前なんだけどね。
「皓 …… 月の白い輝きが、闇と病みを払いますように …… 輝かしい未来がありますように …… 皓輝」
『我が名は皓輝。貴女の忠実な僕、皓輝』
パチンと、香澄は急に目が覚めた感覚がした。
しまった、この空間は香澄の思考が駄々だ漏れなのに、うっかり口にまで出してしまった。でも、覚えのある妙な違和感がある。思考を操られたような、ゾワリとした嫌な感覚が脳裏に拡がっている。
誓約の女神が、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべた。
香澄は、彼女に何かされたのかもしれないと、疑ったがもう遅かった。誓約の女神は高らかに宣言する。
「『誓約の女神』が認めよう。川端香澄を『主』に、名を与えた『皓輝』の、『主』として生涯管理支配する事を条件とする。名を得た、皓輝を『従』に、全てを『主』に捧げる事を条件とする。誓いに反した場合、『誓約の女神』によって断罪される。ここに、『主従の契誓約』の締結を『誓約』する!」
香澄と皓輝のまわりが強い光に満ちて、何が自分達に刻まれた感覚がした。おまけに、ごっそりと香澄の体内から力を奪われた気がして、そのまま座り込み手をついた。軽い立ち眩みだったのか、すぐに治まった。
ふと、前を見るとコロンとした毛玉のような子猫がいた。紅い瞳はそままに、体毛は艶々の真っ黒ながら柔らかな長毛、胸元と足先が白く、鼻先と足の肉球は黒い。残念、ピンクじゃなかった。
香澄は、すぐに理解した。この子猫は皓輝だ。あれ、茶髪の要素が消えた?
香澄が子猫を抱き上げると、くにゃんくにゃんのふにゃふにゃだった。子猫特有のちょっとまの抜けた顔も、『みぃ、みぃ』鳴く声も超絶的に愛らしく香澄は身悶えた。
「か、可愛い。とりあえず、モフろうかな …… 」
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