魔霧の森の魔女~オバサンに純愛や世界の救済も無理です!~

七瀬美織

文字の大きさ
19 / 84
第一章 五里霧中の異世界転移

第十八話 未必の故意

しおりを挟む

 香澄かすみは、例のキャバクラ風『在沢司法書士事務所』のソファーで、眠る子猫の皓輝こうきを膝に乗せてモフりながら座っている。モフモフ最高! と、心のなかで叫んでいるが、向かい合って座る『誓約の女神』に筒抜けなのを忘れていた。
 そして何故か、『誓約の精霊』達は香澄を取り囲んで、何かと世話を焼きたがった。
 藍白あいじろは、また別空間に跳ばされたらしい  …… 。 

 そして、『誓約の女神』在沢真幌ありさわまほろは、香澄にバカ真面目に教えてくれる。

「貴女に仕掛けれた、精神支配系の魔術を少々利用させてもらいました。迷いながらの誓約は、お互いの精神に余計な負担を与えます。緊急措置とご理解いただけないでしょうか? お詫びに、二度と同じような精神支配系の魔術の影響を受けない耐性を、強化処理しておきますから安心して下さい」
「全く、安心出来ないです。むしろ、不安が増しました! それは、認識阻害の魔術の事ですよね? つまり、 わたしの意識を、他人が操れるんですよね? そんな、怖い魔術をそのままにしないで下さい。お詫びと言うなら、ぜひ解除して下さい。お願いします!」

 香澄は、『誓約の女神』が、皓輝と誓約するように、自分の意識を操った事に内心怒っていた。だが、結果オーライでモフモフを手に入れたので、深く追求するのをやめただけだ。こんな、精神支配を受けるなんて、二度とごめんだ。

「う~ん。その魔術はかなり複雑です。完全な解術は女神の神力をもってしても難しいですね。申し訳ないが、ご自分でなんとかして下さい。この世界でも魔術に関して、あの海野うんの遊帆ゆうほ氏ほどの実力者はいないでしょう。ヤバイくらい魔術に適性があるので、大概の事は出来ちゃうそうです。チートな魔術師だなんて、ただの危険人物でしかないですよね。わざとじゃなくても、結果が意図していたよりも過剰になるようです」
「海野さんは、悪意があって認識阻害の魔術をかけたわけじゃないって事ですか?」
「そこまで、確証はありません。本気で貴女を操るつもりなら、方向性の違う別の魔術になってたと思うだけです」

 香澄は、別の魔術にどの様な物があるのか見当もつかなかった。『誓約の女神』を信じるのならば、海野遊帆が香澄に悪意を持って仕掛けた魔術ではないのだろう。
 だが、海野遊帆という魔術師は、意図したよりも過剰な結果を出してしまうならば、そこに香澄を操れるかもしれないという可能性を、彼らは知っていたのではないか? 香澄は、『未必みひつ故意こい』という、最近知った言葉を思い出していた。そこに、悪意は存在したのか、否か …… ?

「我々、異世界人はとても利用されやすいのです。『神の盤上の駒』にされないように、気をつけて下さい。望まない選択なら、はっきりと拒んで下さい!」
「わかりました。でも、わたしを散々利用しといて言う台詞じゃないでしょう ……!」
「あははは、その通りですね。でも、少なくとも我々『誓約の女神』と『誓約の精霊』は、川端香澄と敵対しない。 …… 誓います」

 香澄は、『誓約の女神』が、誓うと言ってくれたのはありがたいと思った。が、少々引っかかる言い方だ。

「  …… 味方だとは、言ってくれないのですね」
「だって、貴女はまだ何も選んでいないでしょう? 流されて受け入れてるだけですよ」
「手厳しいですね。否定は、出来ません。でも、こんな強制的な選択は、遠慮したいです!」

 香澄は、魔力切れで眠る子猫皓輝の肉球を、プニプニ優しく押しながら、この癒やしがなければ、きっとぶち切れていたと思った。

「あ、そう言えば、竜族の長の蘇芳すおうさんが、わたしの事を、世界の為の『鍵』って言ってたんですが、なんの事だかわかりますか?」
「さあ、何の比喩でしょうか? 私は知りません。なかなか、大変な役割のようですね。ぜひ、頑張って下さい!」
「冷たいですね。まったくの他人事ですか?」
「貴女には貴女の選択が、私には私の選択があります。限られた条件で、理不尽な運命を受け入れながら選択し、後悔しながらも、私達は生きてゆくものでしょう?」
「 …… 」

  ただの女子高生が言ったなら、なんて小生意気な小娘だと、香澄は思うだろう。
 しかし、彼女は『誓約の女神』と成るまでも、成ってからも、八百年以上の月日を重ねてきたのだ。理不尽の一言で、済まされない運命を受け入れながら …… 。

「さあ、川端香澄さん。そろそろ誓約の結界が解けます」



 ………… この後、とにかく大変だった。

 藍白は、香澄から子猫の皓輝を取り上げようとした。

「香澄ちゃん! それは駄目だ! 『異界の悪魔族』なんて、飼いきれないから、捨ててきなさい!」
「嫌です! 皓輝は、私が責任をもって、最後まで面倒みると決めたんです!」

 香澄は、とことん藍白から逃げまわり、子猫の皓輝を抱きしめて抵抗した。すると、藍白は、…… 泣いた。悲しげにぽろぽろ泣く美青年に、香澄は衝撃と罪悪感でいっぱいになったが、これだけは譲れない。

「藍白、ごめんなさい。皓輝の事は、どうしても譲れないの。『主従の誓約』が無くても、きっと皓輝を見捨てられなかった」
「香澄ちゃん …… 分かったよ。僕も覚悟を決めた」
「覚悟? 何の?」

 いつの間にか、淡い光の不思議空間は薄れて、もとの壊れた屋敷の居間に戻っていた。香澄は、女神達に別れの挨拶をしておけばよかったと残念に思った。

「香澄様、ご無事ですか? お怪我はありませんか?」
「藍白! ど、どうしたんだ?」

 香澄は、真っ先に蘇芳すおうに心配され、黄檗きはだは泣いている藍白の様子に動揺し、混乱している。

「香澄? 何を抱えているんです?」
「まさか? それは?」
「おい? 黒い霧はどうした?」
「何か誓約が成立したのか?」

 真っ先に、アレクシリスが質問して、周りの竜族は慌てふためき騒ぎが広がっていく。

『  …… どうでもいいが、捕縛の魔術の発動はどうするんだ?』

 ただ一人、竜の姿のままの杜若かきつばただけが冷静だった。

 混乱して騒ぐ竜族達に、泣き止んだ藍白が状況を説明してくれた。
 香澄もおそらく、多量の魔力を誓約の為に奪われていたので、それなりに疲れていたのだ。こんな混沌とした状況を、納める気力も残っていなかった。香澄は、藍白を見直してとても感謝していた。

 もう、セクハラ大魔王だなんて心の中で呼ばないと …… 。







しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

オマケなのに溺愛されてます

浅葱
恋愛
聖女召喚に巻き込まれ、異世界トリップしてしまった平凡OLが 異世界にて一目惚れされたり、溺愛されるお話

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番
恋愛
男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。 女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。 そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。 夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。 だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……? ※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません…… ※他サイト様にも掲載始めました!

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

処理中です...