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第一章 五里霧中の異世界転移
第十八話 未必の故意
しおりを挟む香澄は、例のキャバクラ風『在沢司法書士事務所』のソファーで、眠る子猫の皓輝を膝に乗せてモフりながら座っている。モフモフ最高! と、心のなかで叫んでいるが、向かい合って座る『誓約の女神』に筒抜けなのを忘れていた。
そして何故か、『誓約の精霊』達は香澄を取り囲んで、何かと世話を焼きたがった。
藍白は、また別空間に跳ばされたらしい …… 。
そして、『誓約の女神』在沢真幌は、香澄にバカ真面目に教えてくれる。
「貴女に仕掛けれた、精神支配系の魔術を少々利用させてもらいました。迷いながらの誓約は、お互いの精神に余計な負担を与えます。緊急措置とご理解いただけないでしょうか? お詫びに、二度と同じような精神支配系の魔術の影響を受けない耐性を、強化処理しておきますから安心して下さい」
「全く、安心出来ないです。むしろ、不安が増しました! それは、認識阻害の魔術の事ですよね? つまり、 わたしの意識を、他人が操れるんですよね? そんな、怖い魔術をそのままにしないで下さい。お詫びと言うなら、ぜひ解除して下さい。お願いします!」
香澄は、『誓約の女神』が、皓輝と誓約するように、自分の意識を操った事に内心怒っていた。だが、結果オーライでモフモフを手に入れたので、深く追求するのをやめただけだ。こんな、精神支配を受けるなんて、二度とごめんだ。
「う~ん。その魔術はかなり複雑です。完全な解術は女神の神力をもってしても難しいですね。申し訳ないが、ご自分でなんとかして下さい。この世界でも魔術に関して、あの海野遊帆氏ほどの実力者はいないでしょう。ヤバイくらい魔術に適性があるので、大概の事は出来ちゃうそうです。チートな魔術師だなんて、ただの危険人物でしかないですよね。わざとじゃなくても、結果が意図していたよりも過剰になるようです」
「海野さんは、悪意があって認識阻害の魔術をかけたわけじゃないって事ですか?」
「そこまで、確証はありません。本気で貴女を操るつもりなら、方向性の違う別の魔術になってたと思うだけです」
香澄は、別の魔術にどの様な物があるのか見当もつかなかった。『誓約の女神』を信じるのならば、海野遊帆が香澄に悪意を持って仕掛けた魔術ではないのだろう。
だが、海野遊帆という魔術師は、意図したよりも過剰な結果を出してしまうならば、そこに香澄を操れるかもしれないという可能性を、彼らは知っていたのではないか? 香澄は、『未必の故意』という、最近知った言葉を思い出していた。そこに、悪意は存在したのか、否か …… ?
「我々、異世界人はとても利用されやすいのです。『神の盤上の駒』にされないように、気をつけて下さい。望まない選択なら、はっきりと拒んで下さい!」
「わかりました。でも、わたしを散々利用しといて言う台詞じゃないでしょう ……!」
「あははは、その通りですね。でも、少なくとも我々『誓約の女神』と『誓約の精霊』は、川端香澄と敵対しない。 …… 誓います」
香澄は、『誓約の女神』が、誓うと言ってくれたのはありがたいと思った。が、少々引っかかる言い方だ。
「 …… 味方だとは、言ってくれないのですね」
「だって、貴女はまだ何も選んでいないでしょう? 流されて受け入れてるだけですよ」
「手厳しいですね。否定は、出来ません。でも、こんな強制的な選択は、遠慮したいです!」
香澄は、魔力切れで眠る子猫皓輝の肉球を、プニプニ優しく押しながら、この癒やしがなければ、きっとぶち切れていたと思った。
「あ、そう言えば、竜族の長の蘇芳さんが、わたしの事を、世界の為の『鍵』って言ってたんですが、なんの事だかわかりますか?」
「さあ、何の比喩でしょうか? 私は知りません。なかなか、大変な役割のようですね。ぜひ、頑張って下さい!」
「冷たいですね。まったくの他人事ですか?」
「貴女には貴女の選択が、私には私の選択があります。限られた条件で、理不尽な運命を受け入れながら選択し、後悔しながらも、私達は生きてゆくものでしょう?」
「 …… 」
ただの女子高生が言ったなら、なんて小生意気な小娘だと、香澄は思うだろう。
しかし、彼女は『誓約の女神』と成るまでも、成ってからも、八百年以上の月日を重ねてきたのだ。理不尽の一言で、済まされない運命を受け入れながら …… 。
「さあ、川端香澄さん。そろそろ誓約の結界が解けます」
………… この後、とにかく大変だった。
藍白は、香澄から子猫の皓輝を取り上げようとした。
「香澄ちゃん! それは駄目だ! 『異界の悪魔族』なんて、飼いきれないから、捨ててきなさい!」
「嫌です! 皓輝は、私が責任をもって、最後まで面倒みると決めたんです!」
香澄は、とことん藍白から逃げまわり、子猫の皓輝を抱きしめて抵抗した。すると、藍白は、…… 泣いた。悲しげにぽろぽろ泣く美青年に、香澄は衝撃と罪悪感でいっぱいになったが、これだけは譲れない。
「藍白、ごめんなさい。皓輝の事は、どうしても譲れないの。『主従の誓約』が無くても、きっと皓輝を見捨てられなかった」
「香澄ちゃん …… 分かったよ。僕も覚悟を決めた」
「覚悟? 何の?」
いつの間にか、淡い光の不思議空間は薄れて、もとの壊れた屋敷の居間に戻っていた。香澄は、女神達に別れの挨拶をしておけばよかったと残念に思った。
「香澄様、ご無事ですか? お怪我はありませんか?」
「藍白! ど、どうしたんだ?」
香澄は、真っ先に蘇芳に心配され、黄檗は泣いている藍白の様子に動揺し、混乱している。
「香澄? 何を抱えているんです?」
「まさか? それは?」
「おい? 黒い霧はどうした?」
「何か誓約が成立したのか?」
真っ先に、アレクシリスが質問して、周りの竜族は慌てふためき騒ぎが広がっていく。
『 …… どうでもいいが、捕縛の魔術の発動はどうするんだ?』
ただ一人、竜の姿のままの杜若だけが冷静だった。
混乱して騒ぐ竜族達に、泣き止んだ藍白が状況を説明してくれた。
香澄もおそらく、多量の魔力を誓約の為に奪われていたので、それなりに疲れていたのだ。こんな混沌とした状況を、納める気力も残っていなかった。香澄は、藍白を見直してとても感謝していた。
もう、セクハラ大魔王だなんて心の中で呼ばないと …… 。
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