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第一章 初恋
第十二話 精霊の姫君 ②
しおりを挟むアレクシリスの私室の居間の天井近くに稲光が走り、ソファー背もたれの端に小さな雷が落ちた …… ! 物理的に本物の雷が落ちた!!
たぶん、藍白の結界のおかげで感電はしなかったけど、轟音がして、落ちた場所も焦げてブスブスと煙が出ている。
信じられない! いくら、魔法だからといっても、出鱈目すぎる!
「あれ、蘇芳が来たのか。久しぶり~♪」
「何が久しぶりだ! ………… 杜若は?!」
「杜若? 隣の寝室 …… から、逃げたかも?」
「そうか、まずは、貴様からだ。藍白、未成年の竜族が、ファルザルク王国の王宮で何をしている? 貴様は、掟を何だと思っている?」
「掟? なにそれ? あ、わあっ! 嘘です! ごめんなさい! 蘇芳、『精霊の姫君』が怯えちゃうよ!」
蘇芳と呼ばれた、目の据わった男性の身体から、バチバチと放電が起きている。巻き込まないで!
そうか、藍白ったら、わざと私を膝抱っこしたのだな。おそらく、大迫力で怒っている男性は竜族なのだ。私を盾にするとは、藍白は策士なり。じゃなくて、雷が怖くて声も出ないし、泣けきそう!!
「『精霊の姫君』だと …… ?! 藍白、 マリシリスティア姫殿下となぜ一緒にいるのだ。 ただでさえ、杜若がアレクシリス殿下と竜騎士の契約を、誓約で強引に結んだ問題で頭が痛いのだぞ! 貴様まで、何をしているのだ!」
物理的な雷は、どうやら回避できた。危なかった。でも、藍白は、蘇芳に雷を落とされなさい!
「わあ、そんなに怒らないで、姫君からも、蘇芳に何とか言ってよ」
「私は、自身の安全を確保するので精一杯ですので、藍白様は、頑張って叱られましょう。反省して下さいね」
「姫君の背中に、悪意の翼が見える …… 」
「マリー! 無事ですか?!」
「姫様!」
騒ぎを聞きつけた父上達が、寝室から腰の剣を抜刀しながら飛び出してきた。
それから、エルシア達が、隣室から飛び込んできて、居間に集まってきた。あら、杜若は本当に逃げたらしい。
アレクシリスが、ベッドに残る様に言われていたらしく、寝室から不安そうに私の安否を尋ねてきた。
「竜族の長、蘇芳と申します。姫君には、怖い思いをさせてしまい、申し訳ございません」
蘇芳は、深く頭を下げて、私に自己紹介と謝罪をした。私は、父上に膝抱っこされている。ここは、世界中で一番安全な場所だ。
「全く、何故こんな事になっているのだ。藍白」
「『精霊の姫君』を見に行けって、蘇芳が言ったたんだろう?」
「藍白が一番精霊に好かれやすく、適任だと考えたからだ。しかし、私は遠くからそっと見定めろと言わなかったか? 竜族は、ファルザルク王家と懇意だが、干渉はしない。そう言ったはずだが?」
「だって、姫君があまりにも前と違っているのだもん。『精霊の種』についても、何も知らなかったし、ねえ? 姫君」
「藍白、どういう意味だ?」
うーん。まだ藍白は、それを追及するのか。それほど、『精霊の種』と私の状態は、密接な関係があるの?
「その件も含めて、日を改めてお話いたします」
眉間のシワを深くした父上が、私の髪を撫でながら言った。
これ以上、アレクシリスの私室にいては、騒ぎが大きくなるので、後日、竜族と話し合いの場を整える事になった。
「もう、十分騒ぎになっていそうですけど …… 」
私は、壊れた扉を片付けている使用人達の様子を見ながら呟いた。
「大丈夫かも! 僕の結界は範囲が広いから、この棟で起きた音くらいなら、外に漏れてないよ」
「藍白様は、すごいのですね」
「姫君、もっと褒めてもいいよ」
蘇芳が、ビシッと藍白の後頭部を叩いた。藍白は、叩かれた頭を軽く撫でて少し乱れた髪を整えただけで、平気そうにしていた。竜族は、見かけより身体が頑丈そうだ …… 。
「姫君、藍白は大雑把なだけです。膨大な魔力にまかせた、力業の結界しか張れない未熟者です。では、失礼いたします。どうか、お健やかにおすごし下さい」
別れ際に、藍白は私に囁いた。
「あのね、姫君。君は一人じゃない。竜族は、君が産まれた時、一緒に暮らしたいと申し入れた。当時は、拒否されたけどさ。今でも、竜騎士の連中は、国ごと姫君を守る気満々だよ。忘れないでね」
「 …… ありがとうございます」
私は、竜族の二人の若者に好意的な感情を持っている。だって、杜若はアレクシリスを、まるで父親のように守ろうとしてくれている。藍白も、杜若を心配しながら、アレクシリスの為にとても怒ってくれていた。
蘇芳に引きずられる様に出ていく藍白を見送ると、父上が心配そうに私に尋ねた。
「では、マリーは『精霊の種』について、知ってしまったのですね」
父上は、とても私を心配そうに見ている。
「はい。私は、もっと精霊について知りたいです」
私は、なるべく明るく返事をした。精霊について、シドに少しは教えてもらっていた。おかげで、ショックは少なかったから大丈夫だ。
「分かりました。いずれは、きちんと話さなければならない事でしたから。しかし、サンドラの謹慎が解けてからにしましょう」
「はい」
「マリー、私は、近衛騎士団の詰所に戻ります。シシィの傍にいてあげて下さいね」
「はい。父上」
私は、父上を見送り、アレクシリスの寝室に向かった。
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