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第二章 異世界でも流行りますか?
第四話 奴隷制度と魔法
しおりを挟む身分制社会の最高位である中心人物が皇帝陛下だ。
どんな感じのおじさんなのか、ビクビクしていたら、キラキラしたイケメンのゴージャスなお兄さんがやって来た。
この人が皇帝陛下で、父上様? ああ、ちゃんとカノンの記憶の父上様と一致している……。
「カノン、五歳の誕生日おめでとう」
「父上様、ありがとうございます」
ルビスから事前に教えられた通りに、膝を曲げて腰をちょこんと落として答える。
「カノン、お誕生日おめでとう。皇帝陛下と私からのプレゼントよ」
花とリボンで飾られた箱が、大量に持ち込まれ、侍女に手渡されていく。私に直接渡したりしないのか…………。
「母上様、ありがとうございます」
「陛下にも御礼を……」
さっきよりも、やや低い小さな声で、母上様が私にささやいた。
いけない! 死亡フラグが立ちそうだったのか?! 皇帝陛下を『陛下』と呼ぶ母上様の態度から推測しても、ほんの少しのミスも許されないのかもしれない。表面上は慌てることなく、にっこりと笑った。
「父上様、ありがとうございます」
「うむ。カノンは賢く愛らしいな」
「ありがとうございます」
ルビスに父上様には、あまり話しかけないように言われていた。子供といえど不敬な事を言えば、処刑されるそうだ。
たとえ、実の子供でもだ。三人の兄上様の内、一人はそういう理由で処刑されていた。
父上様は、見た目より恐ろしい人なのかもしれない。それは、すぐに証明された。
ガッシャン!!
背後で、何かが落ちて割れる音がした。積み上げられた箱の山から、小さな箱が落ちている。箱の中身は香水だったらしく、漏れ出た液体から、濃厚な花の香りがする。
「無礼者! 皇帝陛下からの贈り物を壊すとは、覚悟しておろうな!」
父上様の侍従らしき人が、私の侍女の一人を怒鳴りつけている。どうやら、彼女が小箱を落としたらしい。真っ青な顔をして、ガタガタ震えている。
陛下の騎士達が、侍女を捕まえて、私達の側に跪かせた。
私の侍女の失態だ。私が父上様に、謝罪しなければならないだろうか? どう対処すれば正解なのか分からない。母上様に助けを求めて目線を向けると、信じられない事をさらりと言った。
「コレは、先の皇帝陛下と奴隷侍女の間に生まれた奴隷にございます。母親が、良き奴隷侍女でしたので、目をかけて皇女殿下付きの奴隷侍女にいたしましたのに、残念ですわ」
えっ! つまり、この侍女は父上様の異母妹って事? じゃあ、私の叔母様って事なの? なのに、奴隷侍女って何? どういう事なの?
「処刑いたせ……!」
父上様が冷たく言い放った。何の感情も浮かばない冷たい瞳で……。
父上様の侍従が何かを呟きながら、涙を流して震えている侍女の額に触れた。すると、光が一瞬何かの紋様を描き、青白い炎が侍女を、あっという間に包み込んだ。
ーーーーその後の事は、よく覚えていない。
茫然としている私に、父上様が奴隷の処刑を見るのは初めてかと、尋ねられた気がした。私は、頷くのが精一杯で声が出なかった。
母上様は、今日の炎は美しくない、もう少し魔法の術式を改善いたしましょうと、話していた気がする。
彼女が燃えている間、熱も、臭いも、叫び声さえも聞こえなかった……!
ルビスは、奴隷には、あらかじめ術式が組み込まれいて、処分の種類によって、魔法で様々な刑が執行出来るようになっていると言う。
現在では、結界内で執行されて、掃除や後始末の必要がない様に改善されていると説明した。
まるで、美術品の解説でもする様に……。
父上様と母親様が、薄っすらと微笑みさえ浮かべながら、奴隷侍女が燃え尽きるのを見ていた姿が恐ろしかった。
ーーーー信じられない!
こんなに、奴隷の命とは軽い物なの? ほんの少しの失敗で、簡単に処刑されてしまうなんて酷い! 母親が奴隷だったから、父親が先の皇帝陛下でも、身分は奴隷なの? その場で裁判もなしにいきなり魔法で処刑されてしまうなんて! しかも、処刑を指示したのは血の繋がった異母兄だなんて……!
「カノン皇女殿下は、初めて奴隷の処刑を御覧になったので、御気分を悪くされたようです。この後の予定を中止いたしてもよろしいでしょうか?」
「ルビスに任せる」
「カノン、ゆっくり休みなさい」
私は、ブルブル震えながら泣いていた。まるで、処刑前の侍女のように真っ青な顔をしているだろう。
天蓋のカーテンを閉じて、ベッドで泣いていると、ルビスがやって来た。
「カノン様、たかが奴隷侍女の処刑ごときに、いつまでも泣かれるなんて、みっともなくて、恥ずかしいことですよ」
…………ミットモナクテ、ハズカシイコト?
そんな感覚なんだ……。奴隷侍女だって、好きで奴隷になったわけないでしょう? 奴隷だっていうだけで? 駄目だ! 理解出来ない。理解したくも無い!
「ルビス、わかりました。もう泣きません」
「それが、良うございます」
ルビスは、よく出来ましたとでも言うように、私の頭を撫でて、にっこりと笑っていた。
私は、嫌悪から鳥肌が立っていたが、それを隠して微笑んだ。
女神様、確かに『奴隷制度』のある世界の問題は根が深いね。しかも、根っこから腐っているよ!
それにしても、この世界が、剣と魔法の世界だなんて聞いてないよ! 絶対、魔法の使い方を間違っている! 異世界なんて…………!
駄目だ! 方向違いのネガティブ思考はいけない。私の使命は、『奴隷制度のない世界』を実現することで、『この世界の崩壊』じゃない。
最初は、私がやるのではなく、誰か私と一致した考えを持つ、同志というべき人物を得て、その人物を援助しながら『奴隷解放宣言』を目指そうと考えていた。
その人物が、『奴隷解放』の為に努力してくれれば、私はきっとその行動に好意を持つだろう。『私の好きなモノは流行る』のだから、私の異能が正しく発動するのではないかと考えていた。
『奴隷制度』については、十分過ぎるほど嫌悪しているのだから、『私の嫌いなモノは、みんなも嫌い』だって発動しているはずだ!
転生した地位や自分の才能を活かしながら、一歩引いた傍観者の立場で冷静に対処していこうと考えていたが、それでは自分で自分が許せない!
女神様、翔音は皇女カノンとして、必ず『奴隷解放宣言』をしてみせます!
他人任せになんかしていられるか!!!
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