異世界転生の理由。

七瀬美織

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第二章 異世界でも流行りますか?

第六話 隣の同志

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 私は、権力者を手玉に取る様な、傾国の美女になってやる!

 …………ははははは!

 いや、まだ大丈夫だよ。私の精神は壊れてないからね。ちょっと、ストレスを感じているだけ。

 私を見つめる黒髪に黒い瞳の少年は、隣国アキツムラクモの国王陛下。帝国の属国で、帝国にしたら格下で大臣レベルの認識だ。
 国王は、若干十歳だ。彼の父親は前王だった。アキツムラクモ国は、帝国との戦争に敗北した。帝国は国王を処刑して、属国にしたのだ。幼い王子を即位させて、摂政として帝国から宰相を送り込んだ。

 彼が私の婚約者候補。いや、私は神様の婚約者なので。十六歳で、『神の花嫁』となり、神殿で一年過ごした後、神様と離婚した後の結婚相手だという。ううっ、ややこしい話だ。

 十二年後、夫婦になるかもしれない少年は、親しみのあるアジア系のイケメン君だ。名前を、ジュンイチロウ=エルネスト=クロダと言う。異世界の日本的な立ち位置の国なのだろうか?

「はじめまして。カノン=コナ=ケアロ=バジェリアードです」
「ジュンイチロウ=エルネスト=クロダだ。五歳のお誕生日、おめでとうございます。我が国の名産品、ルルントを気に入っていただけたそうですね」

 アキツムラクモ国は、例のルルントを名産品としてレシピを秘匿していた。それを、私が気に入ったという事でレシピを献上してくれるそうだ。

「はい。フィオル兄上様のお茶会で、いただいて、とても美味しかったです」
「それは、良かった。貴方は、私の将来の妻になる方です。我が国のお菓子を気に入ったように、我が国の事もお気に召していただけると良いのですが……」
「あの様な美味しいお菓子のある国です。きっと、好きになれると思います」
「嬉しいことをおっしゃる。ところで、は何味がお好きですか?」
?」
「いいえ、ルルントでした。マカロンはルルントの名前が決まるまでの候補だったものです。つい、言い間違えてしまいました」

  まさかの彼も転生者なのか……⁈ ってわけじゃなくて、単なる偶然?

「ルルントも可愛い名前ですが、マカロンも素敵ですね」
「カノン皇女殿下の方が可愛いです」
「……ありがとうございます」

 それにしても、十歳にしてこのあざとさ、いえ処世術、只者じゃない。

 …………彼が異世界転生者なら、色々と好都合なのになぁ。前世が同世代の日本人とかだったら、共通の倫理観で、このゲスい世界を変える為の良い味方についてくれるかも……? 
 これから、長い付き合いになりそうだ。見きわめを慎重にしなければならない。
 私は、にっこりと微笑みながら彼にお願いしてみた。

「陛下を、ジュンイチロウ様とお呼びしてもいいでしょうか?」
「……っう! は、はい。良いですよ」
「ありがとうございます。ジュンイチロウ様。私のこともカノンと呼んでください」
「いえ、それは出来ません。私の国は帝国の属国です。皇女殿下を呼びすてには出来ません」
「そうなのですか、ごめんなさい。無理をいいました」
「いいえ、…………かっ、可愛い」

 ふっ、何だよ、チョロいな少年。耳まで真っ赤にしやがって、私に魅了されたな!

 前世の経営者時代、脂ぎった中年社長や、狡猾な営業マンや問屋と渡り合ってきたんだ。少年よ、君はまだまだ甘いな。
 まあね、今世は自分でもうっとりしちゃう美少女だから、笑顔ひとつで破壊力バツグンだって知ってるけど。

 その後、楽しく当たり障りのないおしゃべりをした。私たちの顔合わせも兼ねていたので、ルビス達も満足そうだった。

 私はなにげなく、女神様信仰についてたずねた。ジュンイチロウは、自国に帰国次第、文献や遺跡を調査すると約束してくれた。

 その報告を手紙でもらえる様に手配して、文通のきっかけを作ったので、親交を深めていきたい。


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