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第31話 勇者の剣のつもりかしら
「二人は行ったみたいだね」
「キーを手に入れて戻るまでの間、ここは絶対に死守しないと」
「目の前のゾンビを潰す。これまで何度も繰り返してきたことだ。やることは何も変わらないさ」
「心強いな。鍬形」
周辺に大量のゾンビが集まりだしてきた。昨晩の施設からもこちらへと向かってきていると思われる。視界に映るだけでも数十体がいるが、これでもまだまだ序の口だろう。
これだけの数のゾンビを相手にするのはこの島に来てから初めてだが、不思議と三人の気分は高揚していた。出入り口を死守するという使命感はもちろんのこと、強者と肩を並べることで刺激される感情もある。自分も負けていられないと。
「覚悟はいいね」
「いつでも」
ネイルハンマーを利き腕である右手に持ち替えた黎一と、居合の構えを取る胴丸。鍬形は景気づけにと肩を回している。
「「「さてと、暴れるとするか」」」
三人の声が重なった。
※※※
「遅い!」
胴丸は先鋒として襲い掛かって来た新鮮なゾンビに神速の居合を放ち、ゾンビの体は腰から左肩にかけて両断されてずり落ちた。これでしばらくは居合を放つことは出来ない。理由は至極単純。刀を鞘に戻す余裕が無いからだ。
だが、居合が使えなくとも胴丸の戦闘能力が衰えることはない。続けて襲い掛かって来たゾンビは逆手に持った鞘を叩きつけて顔面を粉砕。その間に至近距離まで迫って来たもう一体は足払いで転倒させ、刀を握ったまま右手を振り下ろし、頑丈な柄頭で頭蓋を砕いた。刀のあらゆる部位を扱うその戦闘スタイルには無駄がない。鞘を鈍器として扱えるのも大きな強みだ。
「どうしたどうした! その程度か生物兵器ども!」
鍬形が強靱な肉体から繰り出す特殊警棒の一撃はとにかく強力だ。襲い掛かるゾンビの頭部は、スイカ割りのスイカよりも簡単に砕け散っていく。地下闘技場で活躍していただけあり、己を鼓舞してパフォーマンスを上げる術にも長けている。
攻撃的な一方で、やはり地下闘技場での経験から回避のセンスもずば抜けており、複数体のゾンビを相手にしていても、狭いスペースの中で的確に攻撃を回避し、カウンターですかさず撃破していく。服役のブランクを経ても、鍬形の戦闘能力は衰えを知らない。
「最初に死体に戻りたいのはどいつだ?」
黎一は迫りくる三体のゾンビに自ら接近。先頭のゾンビ目掛けてネイルハンマーを振り下ろし脳漿を散らせた。続けて右方向から伸びて来たゾンビの腕を回避すると、すかさずゾンビを蹴り飛ばし、左方向にいたもう一体の頭部は即座に持ち替えたネイルハンマーで粉砕。蹴り飛ばされたゾンビが体勢を立て直したが、時すでに遅し。起き上がった瞬間に黎一の強力な回し蹴りを受け、首があらぬ方向へと向いた。
黎一の本来の戦闘スタイルは、その優れた身体能力を生かした格闘戦が主体だ。鉈を季里へと託し武器こそ減ったが、そのぶん身軽となり、持ち味を如何なく発揮出来ていた。三体のゾンビを撃破したところで、黎一はあえて一度後退した。あくまでも目的は防衛。深追いして足元をすくわれては意味がない。
「どれくらい減らせましたかね」
「五十分の一くらいかな」
本気なのか冗談なのか。胴丸が苦笑交じりに絶妙な数字を述べる。その間にも彼の刃はゾンビを二体切り伏せていた。
「それなら楽勝だ」
やはり苦笑を浮かべて、黎一は迫るゾンビの目をネイルハンマーの釘抜きで潰した。そのまま眼窩に引っかけ、力任せに地面へと叩き付けて止めを刺す。
※※※
「本当に小スペースなのね」
「逆に不気味ですね。まるでケージの中の餌箱です」
一方その頃。胴丸と玲於奈はキーを求めて地下空間へと足を踏み入れていた。
鮫のキャラクターの解説にあった通り、地下にはさして広くない真四角の空間が一つ存在しているだけ。上階とのバランスを考えれば非常に不自然な構造だが、今は疑問を抱いている余裕はない。出入り口を死守しくれている三人のためにも、急いでキーを入手し戻らなければいけない。
「あれがキーですかね?」
「あからさまね。勇者の剣のつもりかしら」
二人の視線は部屋の中心へと向けられる。円形の台座の上には小さなアクリルケースが設置された、透けた内部には銀色に光る一本の鍵が見えた。運営側の遊び心なのか、鮫のキャラクターのキーホルダーが括りつけられていた。この実験が終わったら、グッズ化して一儲けでも企んでいるのだろうか。
「覚悟はいいわね?」
「いつでも」
緊張した面持ちで季里がアクリルケースを持ち上げ、玲於奈が恐る恐るキーを手に取る。
何とも呆気なくキーは二人の手中へと収まったが、やはり運営側はそう簡単には終わらせてはくれなかった。
「震動? もしかしてこれは……」
玲於奈がキーを手にした直後、地下空間を微かな揺れが襲った。その感覚は先程の地下空間へと延びる階段が姿を現した時とよく似ている。そう、それは何かがスライドし新たな道が開いたかのような。
「狭いスペースでこれは辛いかな……」
この時ばかりは季里の表情も凍り付いた。
前方の壁が突如として開け放たれ、そこから無数のゾンビが湧きだしてきたのだ。キーを取った瞬間に潜んでいたゾンビ達が解放され、侵入者に襲い掛かる仕組みだったらしい。
「急いで上がりましょう。とても相手に出来る数じゃない!」
「はい!」
玲於奈は狩猟ナイフを構えつつ階段の方へと引き返し、鉈を構えた季里が後に続いた。すでにゾンビは二人に狙いを定めており、捕まる前に階段へ到着出来るかどうかはギリギリだ。
「邪魔しないで!」
背後から襲い掛かって来たゾンビに季里はタンクトップの裾を掴まれそうになるが、伸びて来た手を咄嗟に鉈で切り落とし難を逃れた。だが、このサプライズはほんの序章に過ぎなかった。
「嘘でしょう……」
さらに三方向の壁が開け放たれ、四方からゾンビの大群が襲い掛かって来る。地下空間は無数のゾンビで溢れかえり、まさにこの世の地獄と化していた。一度でも足を止めれば一環の終わりだ。生きるために二人は、がむしゃらに地上へと延びる階段へと駆ける。
しかし、現実は非情だ。
「キーを手に入れて戻るまでの間、ここは絶対に死守しないと」
「目の前のゾンビを潰す。これまで何度も繰り返してきたことだ。やることは何も変わらないさ」
「心強いな。鍬形」
周辺に大量のゾンビが集まりだしてきた。昨晩の施設からもこちらへと向かってきていると思われる。視界に映るだけでも数十体がいるが、これでもまだまだ序の口だろう。
これだけの数のゾンビを相手にするのはこの島に来てから初めてだが、不思議と三人の気分は高揚していた。出入り口を死守するという使命感はもちろんのこと、強者と肩を並べることで刺激される感情もある。自分も負けていられないと。
「覚悟はいいね」
「いつでも」
ネイルハンマーを利き腕である右手に持ち替えた黎一と、居合の構えを取る胴丸。鍬形は景気づけにと肩を回している。
「「「さてと、暴れるとするか」」」
三人の声が重なった。
※※※
「遅い!」
胴丸は先鋒として襲い掛かって来た新鮮なゾンビに神速の居合を放ち、ゾンビの体は腰から左肩にかけて両断されてずり落ちた。これでしばらくは居合を放つことは出来ない。理由は至極単純。刀を鞘に戻す余裕が無いからだ。
だが、居合が使えなくとも胴丸の戦闘能力が衰えることはない。続けて襲い掛かって来たゾンビは逆手に持った鞘を叩きつけて顔面を粉砕。その間に至近距離まで迫って来たもう一体は足払いで転倒させ、刀を握ったまま右手を振り下ろし、頑丈な柄頭で頭蓋を砕いた。刀のあらゆる部位を扱うその戦闘スタイルには無駄がない。鞘を鈍器として扱えるのも大きな強みだ。
「どうしたどうした! その程度か生物兵器ども!」
鍬形が強靱な肉体から繰り出す特殊警棒の一撃はとにかく強力だ。襲い掛かるゾンビの頭部は、スイカ割りのスイカよりも簡単に砕け散っていく。地下闘技場で活躍していただけあり、己を鼓舞してパフォーマンスを上げる術にも長けている。
攻撃的な一方で、やはり地下闘技場での経験から回避のセンスもずば抜けており、複数体のゾンビを相手にしていても、狭いスペースの中で的確に攻撃を回避し、カウンターですかさず撃破していく。服役のブランクを経ても、鍬形の戦闘能力は衰えを知らない。
「最初に死体に戻りたいのはどいつだ?」
黎一は迫りくる三体のゾンビに自ら接近。先頭のゾンビ目掛けてネイルハンマーを振り下ろし脳漿を散らせた。続けて右方向から伸びて来たゾンビの腕を回避すると、すかさずゾンビを蹴り飛ばし、左方向にいたもう一体の頭部は即座に持ち替えたネイルハンマーで粉砕。蹴り飛ばされたゾンビが体勢を立て直したが、時すでに遅し。起き上がった瞬間に黎一の強力な回し蹴りを受け、首があらぬ方向へと向いた。
黎一の本来の戦闘スタイルは、その優れた身体能力を生かした格闘戦が主体だ。鉈を季里へと託し武器こそ減ったが、そのぶん身軽となり、持ち味を如何なく発揮出来ていた。三体のゾンビを撃破したところで、黎一はあえて一度後退した。あくまでも目的は防衛。深追いして足元をすくわれては意味がない。
「どれくらい減らせましたかね」
「五十分の一くらいかな」
本気なのか冗談なのか。胴丸が苦笑交じりに絶妙な数字を述べる。その間にも彼の刃はゾンビを二体切り伏せていた。
「それなら楽勝だ」
やはり苦笑を浮かべて、黎一は迫るゾンビの目をネイルハンマーの釘抜きで潰した。そのまま眼窩に引っかけ、力任せに地面へと叩き付けて止めを刺す。
※※※
「本当に小スペースなのね」
「逆に不気味ですね。まるでケージの中の餌箱です」
一方その頃。胴丸と玲於奈はキーを求めて地下空間へと足を踏み入れていた。
鮫のキャラクターの解説にあった通り、地下にはさして広くない真四角の空間が一つ存在しているだけ。上階とのバランスを考えれば非常に不自然な構造だが、今は疑問を抱いている余裕はない。出入り口を死守しくれている三人のためにも、急いでキーを入手し戻らなければいけない。
「あれがキーですかね?」
「あからさまね。勇者の剣のつもりかしら」
二人の視線は部屋の中心へと向けられる。円形の台座の上には小さなアクリルケースが設置された、透けた内部には銀色に光る一本の鍵が見えた。運営側の遊び心なのか、鮫のキャラクターのキーホルダーが括りつけられていた。この実験が終わったら、グッズ化して一儲けでも企んでいるのだろうか。
「覚悟はいいわね?」
「いつでも」
緊張した面持ちで季里がアクリルケースを持ち上げ、玲於奈が恐る恐るキーを手に取る。
何とも呆気なくキーは二人の手中へと収まったが、やはり運営側はそう簡単には終わらせてはくれなかった。
「震動? もしかしてこれは……」
玲於奈がキーを手にした直後、地下空間を微かな揺れが襲った。その感覚は先程の地下空間へと延びる階段が姿を現した時とよく似ている。そう、それは何かがスライドし新たな道が開いたかのような。
「狭いスペースでこれは辛いかな……」
この時ばかりは季里の表情も凍り付いた。
前方の壁が突如として開け放たれ、そこから無数のゾンビが湧きだしてきたのだ。キーを取った瞬間に潜んでいたゾンビ達が解放され、侵入者に襲い掛かる仕組みだったらしい。
「急いで上がりましょう。とても相手に出来る数じゃない!」
「はい!」
玲於奈は狩猟ナイフを構えつつ階段の方へと引き返し、鉈を構えた季里が後に続いた。すでにゾンビは二人に狙いを定めており、捕まる前に階段へ到着出来るかどうかはギリギリだ。
「邪魔しないで!」
背後から襲い掛かって来たゾンビに季里はタンクトップの裾を掴まれそうになるが、伸びて来た手を咄嗟に鉈で切り落とし難を逃れた。だが、このサプライズはほんの序章に過ぎなかった。
「嘘でしょう……」
さらに三方向の壁が開け放たれ、四方からゾンビの大群が襲い掛かって来る。地下空間は無数のゾンビで溢れかえり、まさにこの世の地獄と化していた。一度でも足を止めれば一環の終わりだ。生きるために二人は、がむしゃらに地上へと延びる階段へと駆ける。
しかし、現実は非情だ。
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