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暗躍編
犬神遣い鵯透子の邪悪なる奉仕 プロローグ
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昼休み、視聴覚室前。
壁に二人の女子生徒が背を預けていた。
北校舎よりもさらに北へと突き出るは、二階建ての特別教室棟。
佐次神(さじがみ)町立佐次神中学校の校舎は、山肌をくり抜いて建てられている。
そのため、特別教室棟の一階には北校舎の二階、特別教室棟の二階には北校舎の三階から渡り廊下で接続している。
二人の女子生徒のいる廊下は、二階で高さもある。
ゆえに、校内で最も近くから山の木々を眺めることができる場所だった。
とはいえ、都会に憧れる年頃の中学生にとってそんなものは魅力でも何でもない。
つまり、一部の生徒が密談の場に選ぶのは不思議ではなかった。
陽射も幾分か和らいできて、ツクツクボウシが盛んに鳴くも、紅葉にはまだ早い。
そんな季節。
「それが強羅(ごうら)君の髪の毛なのね」
彫りの深くて目鼻立ちのはっきりした、長い髪の少女。
鵯透子(ひよどり‐とうこ)は傍らの少女の掌に載る髪の毛を見て笑んだ。
用意するように鵯が言ったものだ。
髪の毛を持っている少女、鮫島瑞智(さめじま‐みずち)は数センチのそれを握り直して、頷いた。
鮫島は、既に入手していたそれを肌身離さず持っているとのことだった。
同じクラスで同じ班の二人。
鮫島が落とした消しゴムに、丸文字で強羅健蔵(たけぞう)と名前が書かれていたのを鵯が拾ったのがきっかけだった。
超のつく、古典的な恋のおまじない。
好きな相手の名前を書いた消しゴムを、誰にも見られず使いきれば恋が成就する。
それを見てしまったがために、善意で消しゴムを拾った鵯に、鮫島は射殺さんばかりの目を向けて来た。
それがおかしかったので、鵯は授業の終わった後、鮫島に声をかけたのだ。
おまじないに縋る非科学的な鮫島を嗤うためでなく、もっと効果のある方法を伝えるために。
「今から起こることは、誰にも言ったらダメだからね」
鵯は鮫島に釘を刺すと、鮫島は神妙な顔をして頷いた。
満足そうにそれを見て、鵯は左右に首を捻った。
ひとしきりそうしていると、やがて鵯の右耳の後ろから毛の塊が飛び出した。
鮫島が横へ飛び退く。その顔には得体の知れないものに対する、恐怖と嫌悪感が滲んでいる。
何かを言おうとする鮫島に、しかし鵯は動じない。静かに、自らの唇の前に人差し指を宛てるだけ。
十五センチほどの長さにまで伸びた毛束は、ぶつっ、と音を立てて床に落ちた。
短いヘビにも、太い芋虫にも見える三つ編みの髪束。
のたうつそれを、鵯は躊躇いなく拾い上げた。
「強羅君の髪の毛を出して」
おそるおそる、鮫島が想い人の髪を握った手を鵯に差し出す。
鵯は強羅の髪の毛を摘むと、編み目を指で押し広げて髪束の中へと押し込んだ。
あっ、と鮫島が息を漏らす。
宝物を奪われた上に隠された、と言わんばかりの顔が鵯には面白かった。
やがて、髪束は動きを止めておとなしくなった。
「じゃあ、これを他人の目に触れないように持ち歩いて」
しきりに髪束と鵯を見比べる鮫島の手を掴み、鵯はそれを鮫島に握らせた。
未知の軟体動物を握らせられたように、鮫島が顔を引きつらせる。
「これで、あなたの願いは叶う。大丈夫、私を信じて」
戸惑いながらも、ゆっくりと頷く鮫島。
安心させようと、鵯は微笑んで見せた。
否。
鮫島の握る髪束から、真っ赤な靄が鮫島の体内へと染み込むのを見届けたから、鵯は微笑んだのだ。
それは鮫島には見えていない、鵯にだけ視えている霊的なエネルギーである。
壁に二人の女子生徒が背を預けていた。
北校舎よりもさらに北へと突き出るは、二階建ての特別教室棟。
佐次神(さじがみ)町立佐次神中学校の校舎は、山肌をくり抜いて建てられている。
そのため、特別教室棟の一階には北校舎の二階、特別教室棟の二階には北校舎の三階から渡り廊下で接続している。
二人の女子生徒のいる廊下は、二階で高さもある。
ゆえに、校内で最も近くから山の木々を眺めることができる場所だった。
とはいえ、都会に憧れる年頃の中学生にとってそんなものは魅力でも何でもない。
つまり、一部の生徒が密談の場に選ぶのは不思議ではなかった。
陽射も幾分か和らいできて、ツクツクボウシが盛んに鳴くも、紅葉にはまだ早い。
そんな季節。
「それが強羅(ごうら)君の髪の毛なのね」
彫りの深くて目鼻立ちのはっきりした、長い髪の少女。
鵯透子(ひよどり‐とうこ)は傍らの少女の掌に載る髪の毛を見て笑んだ。
用意するように鵯が言ったものだ。
髪の毛を持っている少女、鮫島瑞智(さめじま‐みずち)は数センチのそれを握り直して、頷いた。
鮫島は、既に入手していたそれを肌身離さず持っているとのことだった。
同じクラスで同じ班の二人。
鮫島が落とした消しゴムに、丸文字で強羅健蔵(たけぞう)と名前が書かれていたのを鵯が拾ったのがきっかけだった。
超のつく、古典的な恋のおまじない。
好きな相手の名前を書いた消しゴムを、誰にも見られず使いきれば恋が成就する。
それを見てしまったがために、善意で消しゴムを拾った鵯に、鮫島は射殺さんばかりの目を向けて来た。
それがおかしかったので、鵯は授業の終わった後、鮫島に声をかけたのだ。
おまじないに縋る非科学的な鮫島を嗤うためでなく、もっと効果のある方法を伝えるために。
「今から起こることは、誰にも言ったらダメだからね」
鵯は鮫島に釘を刺すと、鮫島は神妙な顔をして頷いた。
満足そうにそれを見て、鵯は左右に首を捻った。
ひとしきりそうしていると、やがて鵯の右耳の後ろから毛の塊が飛び出した。
鮫島が横へ飛び退く。その顔には得体の知れないものに対する、恐怖と嫌悪感が滲んでいる。
何かを言おうとする鮫島に、しかし鵯は動じない。静かに、自らの唇の前に人差し指を宛てるだけ。
十五センチほどの長さにまで伸びた毛束は、ぶつっ、と音を立てて床に落ちた。
短いヘビにも、太い芋虫にも見える三つ編みの髪束。
のたうつそれを、鵯は躊躇いなく拾い上げた。
「強羅君の髪の毛を出して」
おそるおそる、鮫島が想い人の髪を握った手を鵯に差し出す。
鵯は強羅の髪の毛を摘むと、編み目を指で押し広げて髪束の中へと押し込んだ。
あっ、と鮫島が息を漏らす。
宝物を奪われた上に隠された、と言わんばかりの顔が鵯には面白かった。
やがて、髪束は動きを止めておとなしくなった。
「じゃあ、これを他人の目に触れないように持ち歩いて」
しきりに髪束と鵯を見比べる鮫島の手を掴み、鵯はそれを鮫島に握らせた。
未知の軟体動物を握らせられたように、鮫島が顔を引きつらせる。
「これで、あなたの願いは叶う。大丈夫、私を信じて」
戸惑いながらも、ゆっくりと頷く鮫島。
安心させようと、鵯は微笑んで見せた。
否。
鮫島の握る髪束から、真っ赤な靄が鮫島の体内へと染み込むのを見届けたから、鵯は微笑んだのだ。
それは鮫島には見えていない、鵯にだけ視えている霊的なエネルギーである。
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