捨てられ(予定)令嬢奮闘記

由友ひろ

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第1章婚約破棄編

第9話第三王子は不出来な王子

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「王国の太陽でいらっしゃる第三王子様にご挨拶申し上げます」

 ヤバイ!声が震える。

「おまえ、それ……今更だろ」

 呆れた声が響き、私の腕が引っ張られて立ち上がらされた。やはり、見た目によらず力持ちだ。

「おまえがそんなに畏まると不自然だ。普通にしとけ。どうせ俺は不出来な第三王子だからな。俺を敬わなくても誰も気にしないさ」
「エド」

 嗜めるようなクリストファー様の口調に、少年……もといエドモンド様は不貞腐れたようにそっぽを向く。

 アンネローズの記憶にも、王太子と第二王子の優秀さは記憶されているが、第三王子であるエドモンド様についての記憶は殆どない。いや、「悪たれ王子」ってワードだけ浮かんできた。
 そういえば、小説でも第三王子は出てきたかも。ヒロインに惹かれつつも、意地悪なことしか言えない第三王子。ほぼモブみたいな扱いだったから、第二王子ほどは出ては来なかったけれど、好きなのに意地悪をしてしまい裏で後悔している姿は、甘い初恋のようでキュンとしたっけ。
 まぁ、第二王子がヒロインに惹かれていくのを目の当たりにし、兄に劣等感のある第三王子は、勝手に諦めてフェードアウトしてしまうんだけど。結局はヒロインは第二王子じゃなく、ミカエルを選ぶことになるから、もっと頑張れよ!って焦れ焦れした記憶があるな。

「君、足を捻挫したのか?歩いて行くのも辛いだろう。ちょっと失礼」

 いきなり体がフワリと浮き上がり、視界がいつもよりも高くなる。

「え?」
「僕が保健室まで運んであげよう」

 さすが細マッチョ!安定感が半端ない。……じゃなくて、王子にお姫様抱っことか、本物のお姫様になったみたい……も違う!

 無意味にときめいてしまった思考を叱咤しながら、私は両手で顔を覆った。

「おまえ、何してんの?」

 この声はエドモンド様だな。

「さっき言ったでしょ。私と関わったら不名誉な噂に巻き込まれちゃうかもって。だから、顔を隠して私だってバレないようにしてるのよ」

 クリストファー様に抱き上げられていっぱいいっぱいの私は、エドモンド様に馴れ馴れしい口調で話してしまっていることに気がついていない。

「アホだな。顔が見えなくても、おまえくらいのチンチクリン、そうそういねぇだろ」
「失礼ね!私はチンチクリンじゃないわ!少し全体的に小柄なだけで、私くらい髪色も地味でありきたりなら、どこにでもいるわよ!顔さえ見えなきゃ、そうそうバレないし」
「僕は小さくて可愛いと思うけどな。抱いていても羽のように軽いし、君の髪色は温かみがあっていいと思うよ。艷やかだし、とても綺麗だ」

 初めてただの茶色の髪を褒められた。
 さすが、第二王子!人誑しは現実社会でも健在ですね。

 一見穏やかで優しい口調の第二王子、実は全て計算づくで策略家な一面があるということは、小説の知識で知っている。
 小説では、アンネローズ(アンの方)にそれを指摘されて、アンの前でだけは素の自分を出せるようになり……。アンもミカエルとクリストファー様の間で最後まで悩むが、最後はミカエルの手を取るというのが、小説のエンディングだったような。王子様と子爵次男を天秤にかける辺り、有り得ない設定だと思うけれど、それが純愛みたいなノリはさすが小説だと思った。だいたい、婚約者のいる男に手を出しておいて、純愛もへったくれもないと思うけどね。

 そういえば、第二王子とも際どい場面があったかな。この王子も、口からでまかせみたいな口説き文句をキザったらしく言い、相手がよろめいたらすかさず手を出すとか、チャライ面もあった。あんなにスムーズに事に運べるとか、歴戦の猛者としか思えない。うん、女子の敵だ。

「いえ、羽のように軽いことは有り得ませんから。一応、人間なんで。みんなにいい顔してると疲れちゃいますよね。自分のことは自分が良く知ってますから、私にはお世辞は大丈夫です。それに、私の髪の毛が艷やかなのは、うちの侍女の努力の賜物ですね。彼女に褒められたって、教えてあげますね。きっと、ドヤ顔されるでしょうけど」

 私なんかを口説いているつもりはないのだろうが、そう聞えちゃうから止めとこうねというアピールだ。

 顔を隠したまま早口でまくしたてたから、その時クリストファー様がどんな顔をしているか見えなかった。

「ドヤ顔する侍女ってありなのか?」
「うちのメアリーはありね。あ、うちの侍女の名前がメアリーなんだけど、『私、お給金以上の仕事はしないので』って、お父様に言っちゃうような人だから」

 声からして、聞かれたのがエドモンド様だったから、私はエドモンド様の方を向いて、普通の口調で話す。もちろん、顔を隠したままだ。

 フンッ!人のことをチンチクリン扱いする奴を敬ってなんかやらないわ。ここはキングストーン学園の中ですもの。身分不問でよろしく!ってことで。

 さっき、自分で建前だと言ったこともサラッと覆し、自分の不敬な態度を学則のせいにする。

「それで首にしないなんて、随分と懐の大きな父上なんだね。失礼だが、君の家名を教えて貰えるか?」
「あ、失礼致しました。私、カイン・ゴールドバーグの長子、アンネローズと申します。父は伯爵位を賜っております」

 顔を隠したまま、しかもお嫁さん抱っこをされた状態での自己紹介だから、今一格好がつかない。本当ならば、優雅にカテーシーでもして挨拶するところだ。私のカテーシーが優雅に見えるかどうかは置いておいて。

「なるほど、ゴールドバーグ伯爵のご息女だったか。ゴールドバーグ伯爵のことはあまり知らないが、きっと度量の大きな人なんだろうな」
「あ、父が素晴らしい人なのはもちろんですけど、うちの侍女、本当に最低限のことしかしないわけじゃないですよ。メアリーは、私が風邪をひいた時とかは寝ずに看病してくれますし、口では素っ気ないことを言っていても、私のことを一番に優先してくれますから」

 そう、メアリーとはベタベタ仲良しこよしの主従関係ではないけれど、口の悪さを気にしなければ侍女としての質はとても高いのだ。多分だけど、大事にしてくれている気がする。本当にディスリが多いが。

「そうか。エドモンド様は、メアリーと似ています。だから親近感が湧いたのか」
「どんなところが?」
「口は悪いけれど、芯は優しいところがあるんです。それに仏頂面が定番で、滅多に笑わなかったり。こう、しかめっ面が身についちゃてません?エドモンド様、若いのに眉間に皺ありますもんね」
「確かに。君はエドとはいつ友達になったの?よく彼を理解してるね」
「友達?滅相もないです。ついさっき会ったばかりですし」
「人のことをごちゃごちゃうるせえよ。どうせ俺は愛想がないからな」

 優しい声はクリストファー様、不機嫌そうな声はエドモンド様。やはり兄弟だからか、顔を見ないで聞いていると、二人の声は良く似ていた。

「お二人、良く似ていらっしゃいますね。声がそっくりです」
「な……、似てる訳ないだろ!ほら、保健室についたぞ。いつまで顔を隠しているんだ」

 クリストファー様がそっと私を椅子に下ろしてくれ、目の前では怒った表情のエドモンド様が棚をあさっていた。

「クソッ、先生いないみたいだな」

 どうやら、手当てをする道具を探しているようだ。

「あれは照れているんだ。僕と似ているって言われてね」
「声はそっくりですよ」
「エドは、僕らと比較されることが多くて、見た目もだけど、色んな意味で似てないって言われることが多いから、素直に嬉しかったんだろう」

 そう言えば、自分のことを不出来な王子と呼んでいたことを思い出した。

「エドモンド様は……そりゃクリストファー様と比べたら一般受けは悪いでしょうね」
「おまえ、失礼な奴だな!一般受けってなんだよ」

 湿布と包帯を見つけてきたエドモンド様は、私の足元にしゃがみこみ、捻挫した足を自分の膝に乗せて手当てを始めた。

「だって、表情だけはニコヤカなクリストファー様と、いつもムッツリしているエドモンド様だったら、ニコヤカな方が好感度高いの当たり前じゃないですか」
「別に表情だけのつもりもないんだけれどね」

 クリストファー様は苦笑気味に言う。

「あ、すみません。クリストファー様をディスったつもりはないんです。私はですけれど、いつも笑顔って信用できないだけなんで。だって嘘臭いでしょ?(ミカエルがそうだったしね)エドモンド様は、無愛想だし口も悪いけれど、なんか信用できる気がして」
「君……けっこうハッキリ物を言うね。でも、そうだね。僕もそう思うよ。兄弟の中で一番信用できるのはエドモンドだ。伸びしろがあるのもエドだろうな」
「わかります!伸びしろしかない感じ」
「おまえな、誰が今おまえの足をつかんでいるのか、よく考えて口を開けよ。このチンチクリン!」

 私の足を包帯で上手に固定したエドモンド様は、ギロリと私を睨み上げてわざと私の足首を握った。
 包帯で固定された足首は痛くないし、さらには湿布の効果が染み渡るようで全然痛くない。

「だから、私はチンチクリンじゃありません。私がチンチクリンなら、私とそんなに身長の変わらないあなたもチンチクリンでしょ」
「うるさい!十センチは違うだろ」
「そんなに違いますかー?」

 普通に言い合いを始めた私達に、クリストファー様はクスクスと笑うと、私の頭にフワリと手を乗せた。

「エドと仲良くしてあげて。じゃあ僕は行くね。アンネローズ嬢、今度お茶会に呼んだら来てもらえるだろうか?」
「いえ、私は呼ばない方がいいですよ。ただいま、醜聞まみれですから」
「醜聞?」
「まあ、色々ありまして。私なんかと仲良くしたら、王子様方の評判に関わりますよ」

 クリストファー様は詳しいことに首を突っ込むことなく、笑顔で「じゃあ、また」と保健室を出て行った。



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