捨てられ(予定)令嬢奮闘記

由友ひろ

文字の大きさ
8 / 64
第1章婚約破棄編

第8話王子様達

しおりを挟む
「一人で歩けるのか?」

 気まずい沈黙の末、先に口を開いたのは少年だった。

「歩けるか歩けないかと言われれば、全く歩ける気がしません」

 胸を張って堂々と言うと、少年は心底呆れたような表情になる。若いからか、感情が顔に出過ぎではないだろうか。まぁ、私も人のことは言えないけど。

「なら、助けて欲しいとか、一言ないのかよ?」
「言えば助けてくれるの?」
「そりゃ、悪人じゃないんだから、助けを求められて無視はしないだろ」

 ムカつく子ではあるけれど、悪い子ではないようだ。

「……じゃあ、申し訳ないけど誰か先生を呼んできてくれないかしら?保健室まで連れて行ってもらいたいから」
「なら、俺が連れて行ってやるよ」
「え?どうやって?」

 先生に言って、車椅子でも持ってきて貰うつもりだった。足をついて歩けそうにないし、片足ケンケンでも振動が足に響きそうで無理っぽかったし。

「抱っこ?」
「馬鹿じゃないの」
「馬鹿……」

 少年はムッとしたようだ。

「ちょっと手を貸して」

 少年に手を借りて立ち上がる。すると、小柄な私と同じというわけではないが、十センチも違わないくらいの身長しかない。

「ほら、大差ないじゃない。ギリ抱えられるかもしれないけれど、ヨロヨロされたら私が重過ぎるみたいだし、落とされて違うところを怪我するのは嫌」
「おまえな……」
「それに、今私に関わるのは良くないと思うわ。変な噂に巻き込まれたくないでしょ」

 ミカエルに婚約破棄された令嬢(婚約破棄したのはこっちだっつうの!)として、今の私は悪い意味で注目の的だ。そんな私を抱っこして歩いたら、きっと彼まで噂されるに決まっている。貴族子女は本当に噂好きなのだ。

「変な噂って?」
「さっき一緒にいたの、つい最近まで私の婚約者だったの」
「ああ、なんかそんな話してたな。猿みたいな婚約者だっけ?」
「あなた、どこで話を聞いていたの?」

 少年は心外そうな表情で、ベンチ後ろの木を指差した。

「言っとくけど、あんた等より俺のが先にあそこにいたからな。後から勝手に来て、勝手に聞こえるように喋っていたんだし」
「あそこ?ああ、さすがに上まで気にしてなかったわ。だから降ってきたのね。聞いてたんならわかるでしょ?」
「婚約破棄くらい、珍しいことでもないだろ」

 私は肩をすくめて見せる。ちなみに、少年はしっかり私を支えてくれており、片足立ちでもあまり苦ではなかった。思ったよりも力持ちなのかもしれない。それでも、同じくらいの身長の彼に抱っこされるのはごめんこうむりたい。

「まぁね、あっちが浮気して、その浮気現場に乗り込んで証拠押さえての婚約破棄だから、あっちが百パーセント悪いんだけどさ、周りはそんなこと知らないじゃん。面白おかしく話すわけ」
「え?乗り込んだのかよ」
「言い逃れされたくなかったからね。うちの両親と一緒に」
「すげーな、おまえ。俺は特に面白おかしく話されてもいいぜ。今更だしな。とりあえず、歩いてみようぜ」

 少年は、私の腕をガッシリつかむと、「寄りかかっていいからな」と言いながら一歩足を踏み出す。
 なんとか捻挫している足に体重をかけずに歩け、見ようによってはエスコートされているだけ……にも見えなくはない。夜会でもないのにエスコートって、ちょっとおかしいんだけど。

「よし!このまま保健室に行くぞ」

 一歩一歩、それこそ結婚式の入場の時のようにゆっくり歩く。

 中庭入口まで戻り、校舎に入ってすぐ、目の前に金色の塊が立った。
 塊というか人間なんだけれど、金色の髪色に金の瞳はもちろん、全体的にキラキラしいイメージなのだ。スラリと背が高く、細いが引き締まった体つきをしていて、いわゆる細マッチョ。ミカエルとはタイプは違うが、顔だけならばそこそこイケメンの部類に入ると思う。ただ、この世界ではミカエルのように線の細い、女性に見間違えるような男性がカッコイイとされているので、マッチョ系は今一需要が低い。細マッチョもギリギリ……というのが世の中の女子達の美意識だ。

 私はミカエルなんかよりも、断然こっち派なんだけどね。

 目の前のこの方、うちの学園では有名人物だ。というか、全世界的に有名人だと思う。

 クリストファー・キングストーン、この国の第二王子だ。数いる王族の中で、特に王太子であるアイザック様とクリストファー様は群を抜いて優秀でいらっしゃって、学園にいる時から国政に携わり、すでに国の中枢にはなくてはならない人物だとか。
 将来、アイザック様が王となり、クリストファー様が宰相となって、さらに国が栄えるだろうと期待されている。

「王国の太陽でいらっしゃる第二王子様にご挨拶申し上げます」

 廊下の端に寄るように少年の手を引っ張りつつ、私はクリストファー様に頭を下げる。

 少年、ごめんね。私の体重がほぼ君の腕にかかってるよね。でも、王族に会って会釈で通り過ぎるとかできないじゃん。

「エド、何してるんだ?」

 クリストファー様、声が低くて男らしいな。
 うん?エドって……。

「怪我人を保健室まで連れて行くんだよ」

 少年が挨拶もなく、クリストファー様にぶっきらぼうに言った。さらにとんでもない言葉を口にする。

「真ん中歩いてんなよ。おまえもいつまで頭下げてんだ。重いじゃないか」
「え……あ、ごめん」

 クリストファー様の許しはなかったが、少年の言葉に驚いて思わず頭を上げてしまう。今この子、王族に「真ん中歩いてんなよ」って言わなかった?

「怪我人?エドが怪我をさせたのか」

 少年の不敬な言葉は不問にしてくれたようだけれど、少年の行動に対して詰問するようなクリストファー様の口調に、私は慌てて少年から手を離して一歩前に出る。口の悪い少年だが、親切心で保健室まで連れて行くと手を貸してくれているのに、王族に変な勘違いをされては申し訳なさ過ぎる。

「ち、違います!この子はたまたま私が怪我をした現場にいて、手を貸してくれているだけなんです。私が足を捻ったのは全くの別件で、この子は無関係です」
「この子……」

 クリストファー様は、戸惑うように私と少年を見る。この子扱いをされた少年は、クリストファー様の前で不機嫌さを隠さずに、そっぽを向いてしまっていた。

 いや、目の前にいるの王族だよ?ちゃんと挨拶しようよ。

 私は、さらに慌ててしまい、少年を隠すように立つ。足が痛いなんて言ってる場合じゃない。少年の態度がクリストファー様の不興を買えば、少年だけじゃなく、少年の家にもお咎めが行くかもしれない。聡明な王子と有名な方だけれど、基本貴族は自分勝手で我が儘な人種だ。

「すみません、まだ学園に入学したばかりで、口のきき方を知らないだけなんです。口は悪いですが、親切な子……だと思います。見ず知らずの私に手を貸してくれるんですから」

 少年の分まで頭を下げようとし、激痛でよろめき倒れそうになってしまう。

「おい、だから頭を上げろ。足痛いんだろ、足震えてるぞ」

 後ろから腕をつかまれ、なんとかクリストファー様に倒れこむという醜態はさらさずにすむ。

「あんた、まさか知らないわけないわよね?この方は第二王子様よ。いい?身分に分け隔てないとするって学則に書いてあっても、それは建前なの。上の身分の方には礼儀を尽くすものなの」

 私は腕をつかんで支えてくれた少年に、ボソボソとつぶやく。

「上の身分か。そりゃ、俺より上だよな、兄貴だからな」
「何を馬鹿なこ……アニキ?アニ……兄貴?!」

 私は思わず少年を突き飛ばしてしまい、そのまま崩れるように床にへたり込む。
 少年は、突き飛ばされて壁に頭をぶつけたようで、頭を押さえて「痛えな、おい!」と私を睨みつけた。

 黒髪に黒目。あまりに馴染み安い色味だったからすんなり受け入れてしまったが、この国の王族の特徴は……髪色と瞳の色が同じということ。唯一の例外が王妃様だ。王族の配偶者であるのだから、当たり前な話である。

 確かに、第三王子が学園に入学したって噂があったみたい……アンネローズの記憶を探ると出てきた。
 エドモンド・キングストーン、黒髪黒目の第三王子。

「王国の太陽でいらっしゃる第三王子様にご挨拶申し上げます」

 私は立ち上がることもできずに、その場で頭を下げる。

 やらかしたのは私だったーッ!
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...