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第2章捨てられ編
第37話クリスマスパーティー
しおりを挟むザワザワザワ……。
クリスマスパーティ中盤、私は右手をエドの、左手をクリストファー様の腕に手を添え、会場の扉をくぐる。
金糸の刺繍がしてある光沢のある黒いドレスを着て、アクセサリーや髪飾りは最高級のブラックダイヤモンド、靴はカサリナ靴店の一点物でかなりの高さがあった。
私が特殊メイクと呼ぶお化粧で完全にそばかすを消し、盛りメイクをしていた為か、私が誰だかわからずに会場がざわめいている。
会場中の注目を集める中、私達は会場のど真ん中を突っ切り、パーティの主催者であるお父様の元へ向かう。父様の横にはお母様、すぐ横にアンとミカエルがおり、彼らは一段高い場所で招待客からの挨拶に応じていた。
王子様方が到着したら、まずは貴賓の間にお通しし、アンネローズに知らせるように言われていたと、執事のセバスに聞いた。私やエド達を招待したのはアンの独断で、お父様達は知らなかったようだ。
「ゴールドバーグ伯爵、今日はパーティに参加しにきたのではなく、あなたに報告することがあってやってきた」
お父様の前にクリストファー様が立ち、アンから渡された三枚の招待状を突き返すと、お父様達はそこで自分達があろうことか一段高い場所から王族を出迎えてしまったことに気付き、慌てて段から下りた。
「王国の太陽であらせられる王子様方にご挨拶申し上げます」
お父様が膝をついて礼を取ると、会場にいた全ての人間が最上級の礼を尽くして頭を垂れた。
「うん、立っていいよ。まずは報告の前に、僕から伯爵に聞きたいことがあるんだ」
「はい、なんなりと」
「君の娘、アンネローズ・ゴールドバーグは、ここにいるアンネと、そっちの娘とどっちだい?」
「それは……」
お父様は、エドから視線を外す。エドに一度は預けた問題を、勝手に自分達で結論付けて私を追い出したことに対する引け目があるのだろう。
「私共の娘は、ここにいるアンネローズです。見てください、私にこんなにそっくりなんですから!」
「なるほど、ゴールドバーグ伯爵夫人の意見が、二人の意見で間違いはないだろうか?」
お母様は、アンの腕をしっかりとつかんで、当たり前ですと頷く。お父様は戸惑っているようだが、お母様に睨まれて渋々頷いた。
「了解した。では、一応アンネを育てたあなた方に報告を。アンネはアン・ガッシとは別人の為、アンネ・ガッシとして戸籍を作った」
え?私は改名したつもりだったけれど、いつの間にそんなことに?
エドを見上げると、口に人差し指を当てて黙っているように指示される。
「別人……ですか?」
クリストファー様の言い方にひっかりを感じたのか、お父様が反応する。
「別人だろう?そこの娘がアン・ガッシと名乗っていたのだから、本来はゴールドバーグ伯爵家の養女にするとしても、アン・ゴールドバーグにするべきだな。アンネローズでは誤解が生じる。アンネローズ・ゴールドバーグを離籍し、アン・ガッシをアン・ゴールドバーグとして迎え入れるのが正しい」
「そう……そうですわね。あなた、ぜひ……」
「マリア、黙りなさい!」
多くの貴族の前でそんな約束をしてしまえば、私を追い出したという噂が消えないと懸念しただろうお父様は、額から落ちる汗を拭きながら私に視線を向けた。
「アンネがそれを望むならば、仰せの通りにいたします」
狡ッ!私に丸投げしてきたよ。
エドが私の耳元で「了承しろ」と囁く。
「私はそれを望みます」
ザワザワが大きくなる。育ててもらった恩を忘れて恩知らずだとか、貴族の地位を自分から捨てるなんて馬鹿な娘だとか、私に対する非難が多いように思われる。
「では、その旨の書類を用意してきたんだ。伯爵にはここでサインを貰えるか?」
「ここで……ですか?」
「ああ。我が国民の前でね、嘘偽りがないことを、皆が証言してくれるだろう」
クリストファー様は、二枚の書類を取り出した。
一つは、私アンネローズ・ゴールドバーグを離籍し、アンネ・ガッシと改名して平民になることを認める書類。もう一つは、アン・ガッシを養女として正式にアン・ゴールドバーグとして迎え入れるという書類。
なるほど、この書類さえ正式に認められれば、この先何があっても再度交換されることはないんだ。
お父様……いや、ゴールドバーグ伯爵は書類にサインをし、クリストファー様に渡した。
「これで、正式にアンネ・ガッシとアン・ゴールドバーグ嬢が正しい身分に戻った……ということだね。では、僕は性急にこの書類を父王に届けるとしよう。皆、クリスマスを楽しむように」
クリストファー様が退出を告げると、皆が再度頭を垂れた。
「これで、借りは返したからね」
クリストファー様が私達に囁やき、書類を手に大広間を出て行った。
「アンネ……おまえを愛して育てた時間を否定されたようで、お父様は正直戸惑っているよ」
わざと大きな声で言っているのは、周りへのアピールだろう。セコイなぁ。
「ああそうだ、俺からも伯爵に報告があったんだ」
エドの肘に添えていた私の手を取ると、しっかりと繋ぎ直してエドがゴールドバーグ伯爵の前に立った。
「アンネ・ガッシは、今日を持ってアンネ・サンドロームになる。これがロイド・サンドローム公爵との養子縁組の届け出証だ」
「「は?」」
いや、私も初耳だけど?
ゴールドバーグ伯爵とハモっちゃったじゃない。
ロイド・サンドローム公爵といえば、前国王の弟だったかな。独り身が長い気難しい老人……という噂だったような。社交界にもずっと顔を出していなくて、若い貴族は顔も見たことがない人がほとんどだ。もちろん私も見たことはない。
私、大丈夫?
「あと、サンドローム公爵の許しが出次第、アンネと俺の婚約を発表するつもりだ」
「婚約?第三王子様とうちのアンネが?!」
エドは不機嫌そうにというか、不機嫌そのもので舌打ちをして、ゴールドバーグ伯爵を睨みつけた。
「アンネは、正式にゴールドバーグ伯爵家とは縁が切れたんだ。言い方に気を付けろ」
「あ……はい」
私はエドの手の甲をつねった。
「……ッ!」
周りの視線があるから、私は笑顔でエドの隣に立っていたが、全部が全部聞いていないことばかりで、静かに怒っていた。
なぜ、一言も相談がなかったのか?
クリストファー様がしたことはまだ良い。私ももう伯爵家に戻るつもりはなかったし、完全に縁が切れたのならばスッキリしたというものだ。その後の養子縁組や婚約の話は……、さすがに私に話があってからするものじゃないのか?どちらもまだ私の承諾はないよね。
ほら、周りの私を見る視線が、平民じゃなくて王子の婚約者に対するそれになっているじゃないか!
ゴールドバーグ伯爵なんか、すでに私を手放したことを後悔しているような表情だ。愛情からの後悔じゃないことに、心底幻滅するよ。
「あと、以前に俺が預かった件だが、もうすぐ最終報告が届くことになっているんだが……」
エドがわざとらしく時計に目をやり、出入り口の方向を気にする。
ちょうどそのタイミングで執事のセバスが大広間にやってきて、ゴールドバーグ伯爵に耳打ちをする。
「なに?そうか、わかった。エドモンド様、エドモンド様の使いがいらしているようで」
「ああ、調べた結果を知らせに来たんだな。ゴールドバーグ伯爵に令夫人、部屋を貸してもらいたい。もちろん、大勢のいる前で報告書を読み上げてもいいんだが」
「いえ、こちらへ。アン、ミカエル、私達の代わりにお客様のおもてなしを」
「いや、二人も当事者だろう。一緒に来てもらおうか」
「そうおっしゃられるのなら」
ゴールドバーグ伯爵は夫人をエスコートしつつ大広間を後にし、その後にミカエルとアン、少し離れて私とエドもその後をついて広間を出た。
「ちょっと……いったいどうなっているのよ」
私は、エドにだけ聞こえるように囁いた。足を蹴飛ばすことは忘れない。ヒールで踏まれなかっただけ手加減されたと思って欲しい。
「詳しくは後で話すよ。この報告書が届いたのもギリギリだったんだから」
ということは、今届いたように装っているけれど、エドは内容をすでに知っているということだろう。
ザワ地区の看護婦の証言が嘘だということ以外に、どんな事実が出てきたんだろう?
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