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第五話申し込み2
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無意味だと思っていたアレキサンダーとのお茶会も、予想外の収穫があって、ルチアはご機嫌に屋敷に戻った。
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
帰宅してすぐに、ルチアはシンドルフ侯爵の執務室へ向かった。
「お父様、お呼びと伺いました」
「ああルチア、返信……返信が届いたのだ」
「それでなんと?」
まだ封の開いていない封書を手に、シンドルフ侯爵はカタカタ震えている。
「開けますよ」
ルチアが封書を取り上げて封を開けると、真剣な表情で中身を熟読する。そこには、ゴールドフロント国王の許可さえ出れば、ノイアー・エムナール伯爵はルチア・シンドルフ侯爵令嬢に婚約を申し込むということが、七面倒臭い言い回しで書かれていた。
「良しっ!」
ルチアはガッツポーズをとる。
令嬢としてはあるまじきその行為を、シンドルフ侯爵は見ないふりをして、どうやら娘は好きな人物の下に嫁げそうだと、安堵の息を吐いた。もちろん、相手に問題がない訳ではないが、娘が好きな相手と結婚できることの方が重要だった。シンドルフ侯爵は貴族にしては珍しい恋愛主義者で、自身もルチアの母親と恋愛結婚で、三人まで妻を娶れても、他の女性に目をくれることもなく、妻が病気で亡くなった後も独り身を貫いていた。
「ではお父様、明日に国王陛下に謁見を申し込んでくださいませ。縁談の辞退と、エムナール大将様との婚約の許可をぶん取って来ます」
「ぶん取るって……」
見た目は死んだ妻にそっくりで、華奢でたおやかな美少女なのに、性格は誰に似たのだか豪胆で頑固なところがある。明らかに自分じゃないなと、気の弱いシンドルフ侯爵はため息が止まらない。隔世遺伝だろうと、シンドルフ侯爵は壁にかかった歴代当主の肖像画を眺めた。
「お父様は横で頷いていてくだされば良いですからね」
「うん、うん、ルチアに任せるよ」
兄姉妹のうち、末娘のルチアが一番先代のシンドルフ侯爵に似ていた。行動力があり頭の回転も早い。正直な話、彼女が次期王妃になれば、国は安泰なんじゃないかと思わなくはない。しかし、国の安泰よりも娘の幸せが一番だ。シンドルフ侯爵はさっそく王城へ使いを出し、明日一番の謁見の申し込みをするのであった。
★★★
「表を上げよ。して、此度の縁談、良い返事を聞かせて貰えるのだろうな」
謁見の間、段上の王の座でゆったりと椅子に腰掛けていたゴールドフロント国王が、礼をとるルチアとシンドルフ侯爵に向かって声をかけた。
「私、ルチア・シンドルフは、ノイアー・エムナール様の求婚をお受けすることにしました」
顔を上げたルチアは、口籠ることなくはっきりと王を見つめて口を開いた。
「はて?世は、王太子とシンドルフ侯爵令嬢との縁談について聞いたと思うのだが」
「ですから、私は王太子殿下との縁談ではなく、プラタニア王国軍大将である、ノイアー・エムナール様のご求婚をお受けすると申しました」
なぜもっとソフトに王太子との縁談を断る理由、エムナール大将の求婚を受ける理由を話さないのかと、シンドルフ侯爵は一瞬にして顔面蒼白になる。
「ふむ……。プラタニアと我が国はは隣接する王国ではあるが、友好関係にあるとは言い難い。むろん、我が国が常に彼の国を抑え込んではいるがな。敵対国と言っても過言でないだろう。そんな国に嫁ぎたいとは、シンドルフ侯爵家の謀反と受け取るがいいか」
「そんな……」
シンドルフ侯爵が弁明をしようとし、ルチアが目線でそれを制した。
「恐れながら申し上げます。確かに隣国とは睨み合っている状態ではありますが、国王様はその関係を改善しなければならなくなるかも……と思っておられますよね?」
「それはどういうことか?」
ルチアは、まずは誰もが知っている両国の関係から話し出した。
「プラタニアも我が国も、自国における農作物の生産量はわずかで、ほとんどを輸入に頼っています。そして今のところ、海に面した我が国にしか貿易路がありません」
「その通りだ。我が国が彼の国の生殺与奪の権を持っている」
ゴールドフロント国王はニヤリと笑い、その嫌みったらしい笑顔はアレキサンダーとそっくりだった。
「今までは……ですよね。これからはわかりませんよね」
ゴールドフロント国王は笑顔を引っ込め、黙り込んだままそうだとも違うとも言わなかった。
「プラタニアが死の砂漠を制覇することがあれば?砂漠という貿易路を手に入れれば、うちなんか存在価値なくなりません?」
「ルチア!」
シンドルフ侯爵は卒倒しそうになりながら、ルチアの口をなんとか塞ごうとする。
「お父様、鬱陶しいです。抱きつかないでください」
「いいから、おまえ、黙りなさい」
「シンドルフ侯爵こそ黙っておれ。それで、ルチア嬢はその可能性があると思っているのだな」
ゴールドフロント国王はルチアを怒るでもなく、シンドルフ侯爵を手で制した。
「プラタニアには、ノイアー・エムナールがいますから。もしかすると、すでに死の砂漠を……エネルの民を制圧しちゃっているかもしれません。もしくは、あと一歩かも」
「……」
ゴールドフロントも、プラタニアの数多くの進軍は把握はしていたが、死の砂漠における勝敗までは推測するしかなく、最近のプラタニアの様子から、もしやエネルの民の制圧も間近なのでは!?と、プラタニアの動向に注視していたところだった。
「プラタニアの遠征の立役者である雷靂将軍に私が嫁ぐのは、色々な意味で有益であると思いませんか」
情報を仕入れるにしろ、これから両国で友好を築くにしろ、足がかりになることができますよという意味を込めてニコッと微笑む。
「ルチア・シンドルフ侯爵令嬢、隣国ノイアー・エムナール伯爵との婚約を認めよう」
ルチアは笑顔の下でガッツポーズをした。
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
帰宅してすぐに、ルチアはシンドルフ侯爵の執務室へ向かった。
「お父様、お呼びと伺いました」
「ああルチア、返信……返信が届いたのだ」
「それでなんと?」
まだ封の開いていない封書を手に、シンドルフ侯爵はカタカタ震えている。
「開けますよ」
ルチアが封書を取り上げて封を開けると、真剣な表情で中身を熟読する。そこには、ゴールドフロント国王の許可さえ出れば、ノイアー・エムナール伯爵はルチア・シンドルフ侯爵令嬢に婚約を申し込むということが、七面倒臭い言い回しで書かれていた。
「良しっ!」
ルチアはガッツポーズをとる。
令嬢としてはあるまじきその行為を、シンドルフ侯爵は見ないふりをして、どうやら娘は好きな人物の下に嫁げそうだと、安堵の息を吐いた。もちろん、相手に問題がない訳ではないが、娘が好きな相手と結婚できることの方が重要だった。シンドルフ侯爵は貴族にしては珍しい恋愛主義者で、自身もルチアの母親と恋愛結婚で、三人まで妻を娶れても、他の女性に目をくれることもなく、妻が病気で亡くなった後も独り身を貫いていた。
「ではお父様、明日に国王陛下に謁見を申し込んでくださいませ。縁談の辞退と、エムナール大将様との婚約の許可をぶん取って来ます」
「ぶん取るって……」
見た目は死んだ妻にそっくりで、華奢でたおやかな美少女なのに、性格は誰に似たのだか豪胆で頑固なところがある。明らかに自分じゃないなと、気の弱いシンドルフ侯爵はため息が止まらない。隔世遺伝だろうと、シンドルフ侯爵は壁にかかった歴代当主の肖像画を眺めた。
「お父様は横で頷いていてくだされば良いですからね」
「うん、うん、ルチアに任せるよ」
兄姉妹のうち、末娘のルチアが一番先代のシンドルフ侯爵に似ていた。行動力があり頭の回転も早い。正直な話、彼女が次期王妃になれば、国は安泰なんじゃないかと思わなくはない。しかし、国の安泰よりも娘の幸せが一番だ。シンドルフ侯爵はさっそく王城へ使いを出し、明日一番の謁見の申し込みをするのであった。
★★★
「表を上げよ。して、此度の縁談、良い返事を聞かせて貰えるのだろうな」
謁見の間、段上の王の座でゆったりと椅子に腰掛けていたゴールドフロント国王が、礼をとるルチアとシンドルフ侯爵に向かって声をかけた。
「私、ルチア・シンドルフは、ノイアー・エムナール様の求婚をお受けすることにしました」
顔を上げたルチアは、口籠ることなくはっきりと王を見つめて口を開いた。
「はて?世は、王太子とシンドルフ侯爵令嬢との縁談について聞いたと思うのだが」
「ですから、私は王太子殿下との縁談ではなく、プラタニア王国軍大将である、ノイアー・エムナール様のご求婚をお受けすると申しました」
なぜもっとソフトに王太子との縁談を断る理由、エムナール大将の求婚を受ける理由を話さないのかと、シンドルフ侯爵は一瞬にして顔面蒼白になる。
「ふむ……。プラタニアと我が国はは隣接する王国ではあるが、友好関係にあるとは言い難い。むろん、我が国が常に彼の国を抑え込んではいるがな。敵対国と言っても過言でないだろう。そんな国に嫁ぎたいとは、シンドルフ侯爵家の謀反と受け取るがいいか」
「そんな……」
シンドルフ侯爵が弁明をしようとし、ルチアが目線でそれを制した。
「恐れながら申し上げます。確かに隣国とは睨み合っている状態ではありますが、国王様はその関係を改善しなければならなくなるかも……と思っておられますよね?」
「それはどういうことか?」
ルチアは、まずは誰もが知っている両国の関係から話し出した。
「プラタニアも我が国も、自国における農作物の生産量はわずかで、ほとんどを輸入に頼っています。そして今のところ、海に面した我が国にしか貿易路がありません」
「その通りだ。我が国が彼の国の生殺与奪の権を持っている」
ゴールドフロント国王はニヤリと笑い、その嫌みったらしい笑顔はアレキサンダーとそっくりだった。
「今までは……ですよね。これからはわかりませんよね」
ゴールドフロント国王は笑顔を引っ込め、黙り込んだままそうだとも違うとも言わなかった。
「プラタニアが死の砂漠を制覇することがあれば?砂漠という貿易路を手に入れれば、うちなんか存在価値なくなりません?」
「ルチア!」
シンドルフ侯爵は卒倒しそうになりながら、ルチアの口をなんとか塞ごうとする。
「お父様、鬱陶しいです。抱きつかないでください」
「いいから、おまえ、黙りなさい」
「シンドルフ侯爵こそ黙っておれ。それで、ルチア嬢はその可能性があると思っているのだな」
ゴールドフロント国王はルチアを怒るでもなく、シンドルフ侯爵を手で制した。
「プラタニアには、ノイアー・エムナールがいますから。もしかすると、すでに死の砂漠を……エネルの民を制圧しちゃっているかもしれません。もしくは、あと一歩かも」
「……」
ゴールドフロントも、プラタニアの数多くの進軍は把握はしていたが、死の砂漠における勝敗までは推測するしかなく、最近のプラタニアの様子から、もしやエネルの民の制圧も間近なのでは!?と、プラタニアの動向に注視していたところだった。
「プラタニアの遠征の立役者である雷靂将軍に私が嫁ぐのは、色々な意味で有益であると思いませんか」
情報を仕入れるにしろ、これから両国で友好を築くにしろ、足がかりになることができますよという意味を込めてニコッと微笑む。
「ルチア・シンドルフ侯爵令嬢、隣国ノイアー・エムナール伯爵との婚約を認めよう」
ルチアは笑顔の下でガッツポーズをした。
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