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第十一話王族とのお茶会2ノイアー視点
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「ノイアー様……あの……」
ノイアーはサミュエル達の後ろ姿を目で追いながら、モヤモヤする何かが胸に膨らんでいった。
背も高くスマートなサミュエルのエスコート姿は完璧で、ノイアーがルチアをエスコートするより明らかに様になっている。かろうじて、ルチアが子供ではなく令嬢に見えた。ノイアーがエスコートすると、大木にしがみつく蝉(これは確実にルチアが膨れるな)、父親の腕にぶら下がる幼児(これもさらに駄目だ。しばらく口をきいてくれなくなりそうだ)くらいにしか見えない。
しかも、サミュエルの金髪に空色の瞳と、ルチアのプラチナブロンドと薄紫色の瞳は、誰が見てもキラキラしていてお似合いだろう。
それが無性に腹立たしく、ノイアーの気持ちを荒立たせた。この席は、ルチアとサミュエルを会わせ、ルチアが隣国の回し者でないことをサミュエルに理解してもらうことを目的にしていた。
その為には二人で話をする必要がある……とは分かっているが、あそこまで寄り添う必要もあるまい!
ノイアーは、人生で初めて嫉妬という気持ちを経験していた。
覇気を漏らしながら二人が歩いて行った方角を凝視していると、かすれた小さな声が聞こえた気がした。
「……ノイアー様」
「ライザ王女殿下、失礼しました。どうなさいましたか」
うつむいて小刻みに震えるライザが、ノイアーに話しかけていたようだ。ノイアーは意識して覇気を引っ込める。
「あの!私のことも昔みたいに……ライザと」
さっき、イラッとしてサミュエルを呼び捨てにした時のことを言っているようだ。
「いや、いつも殿下を呼び捨てにしている訳じゃないんだ。いつもはちゃんと敬称をつけている。あの時はたまたまくだらないことをあいつ……いや、殿下が言ったから」
十二年程前のノイアーが見習い軍人だった頃、正式に軍人になるまで、サミュエルの護衛という名目の遊び相手を勤めた時期があった。正式に軍人になってからは、専属護衛として数年サミュエルの側にいた。
そのせいでか、今は階級も大将まで上がり、護衛の任は後続に引き継いだが、いまだにサミュエルとノイアーの間柄は気安いものだった。
サミュエルにいつもくっついていたライザとも、よく顔を合わせてはいた。と言ってもの、人見知りが激しいライザと直に話をしたのは数回しかないが。
「ぁ……の、私達も……」
ライザはもじもじとして、サミュエル達が歩いて行った方をチラチラ見る。
「散策しますか?」
「……はい」
ノイアーが立ち上がり手を差し出すと、ライザはその腕に軽く指を置いた。ノイアーは、同じようにエスコートしようとルチアに手を差し出し、がっつり握手された時のことを思い出し、いつもは覇気が溢れている目を緩めた。
その表情を驚いたように見上げたライザは、顔を赤くしてサッとうつむいてしまう。そんなライザには気付かず、ノイアーはサミュエル達の後を追うように庭園を歩いた。
ライザの歩調に合わせてしばらく無言で歩いた後、薔薇園にさしかかったノイアー達は、ベンチに座るルチアとサミュエルを見つけた。
しかも、その距離はノイアーが眉をしかめるくらい近かった。
風に乗って、二人の会話が聞こえてくる。
「……できないタイプらしいね」
(何ができないんだ?)
立ち止まったノイアーに、ライザも足を止めて始めて前を見てサミュエル達の存在に気がついたようだ。
「できませんよ、そんなの」
「そっかぁ。君がそういうタイプの人間なら、婚約しても破棄させようと思っていたんだよね」
「えっ!?」
「だってさ、本当はノイアーにはライザを娶ってもらうつもりだったから。砂漠の制圧が成功したら、その恩賞として」
何を言い出すんだとノイアーは声を上げようとしたが、サミュエルはルチアの様子を見る為にそんな作り話をし始めたんだろうと言葉を飲み込んだ。あの距離にも意味があるのかもしれないしと、ノイアーは拳を握り込んだ。いつも以上に覇気が漏れるが、それを気にする余裕はノイアーにはなかった。
サミュエルはそんなノイアーの覇気に気がついたようで、ルチアに見えない位置でノイアーに向こうへ行けと手で合図をしてきた。
今は邪魔をしない方がいいだろうと思ったノイアーは、ライザの手に手を重ね、声を出さずに別の場所に行こうと促して元の道を引き返した。
ノイアーの覇気に顔色を悪くして震えながらも、砂漠の制圧が成功したらノイアーの花嫁になれると、ライザは大きな勘違いをしてしまった。
昔から、ノイアーだけが口下手なライザがどもっても焦らせることなく静かに待ってくれた。また、成長してから男達に色を含んだ視線を投げられることが増えたが、ノイアーからそんな視線を向けられたことはなかったし、そんな視線を遮ってくれていた。彼から溢れる覇気には、他の人同様に畏怖を感じ、視線も合わせることもできないが、それでも彼を慕う気持ちは年々大きくなっていたのだ。そんな中で聞いたノイアーの婚約話、しかもすでに同じ屋敷に住んでいると聞き、どれだけライザは失望したことだろう。
ノイアーの婚約者になる女性を王城に呼んだと聞き、ライザはサミュエルに頼み込んでお茶会に参加させてもらった。
ノイアーの婚約者候補ならば、落ち着いた大人の女性なんだろうと勝手に想像し、二人が並んでいるのを見れば、自分の拙い恋心などペチャンと潰れてなくなってくれるんじゃないかと思ったのだが、ノイアーが連れて来た婚約者候補は女性というよりただの子供で……。
(しかも、お兄様は私とノイアー様の婚姻を密かに考えてくださっていただなんて)
ライザのペチャンコになる筈だった恋心が、さらに膨れて大きくなっていることなど、薔薇園を気にして振り返っていたノイアーは気が付かなかった。
ノイアーはサミュエル達の後ろ姿を目で追いながら、モヤモヤする何かが胸に膨らんでいった。
背も高くスマートなサミュエルのエスコート姿は完璧で、ノイアーがルチアをエスコートするより明らかに様になっている。かろうじて、ルチアが子供ではなく令嬢に見えた。ノイアーがエスコートすると、大木にしがみつく蝉(これは確実にルチアが膨れるな)、父親の腕にぶら下がる幼児(これもさらに駄目だ。しばらく口をきいてくれなくなりそうだ)くらいにしか見えない。
しかも、サミュエルの金髪に空色の瞳と、ルチアのプラチナブロンドと薄紫色の瞳は、誰が見てもキラキラしていてお似合いだろう。
それが無性に腹立たしく、ノイアーの気持ちを荒立たせた。この席は、ルチアとサミュエルを会わせ、ルチアが隣国の回し者でないことをサミュエルに理解してもらうことを目的にしていた。
その為には二人で話をする必要がある……とは分かっているが、あそこまで寄り添う必要もあるまい!
ノイアーは、人生で初めて嫉妬という気持ちを経験していた。
覇気を漏らしながら二人が歩いて行った方角を凝視していると、かすれた小さな声が聞こえた気がした。
「……ノイアー様」
「ライザ王女殿下、失礼しました。どうなさいましたか」
うつむいて小刻みに震えるライザが、ノイアーに話しかけていたようだ。ノイアーは意識して覇気を引っ込める。
「あの!私のことも昔みたいに……ライザと」
さっき、イラッとしてサミュエルを呼び捨てにした時のことを言っているようだ。
「いや、いつも殿下を呼び捨てにしている訳じゃないんだ。いつもはちゃんと敬称をつけている。あの時はたまたまくだらないことをあいつ……いや、殿下が言ったから」
十二年程前のノイアーが見習い軍人だった頃、正式に軍人になるまで、サミュエルの護衛という名目の遊び相手を勤めた時期があった。正式に軍人になってからは、専属護衛として数年サミュエルの側にいた。
そのせいでか、今は階級も大将まで上がり、護衛の任は後続に引き継いだが、いまだにサミュエルとノイアーの間柄は気安いものだった。
サミュエルにいつもくっついていたライザとも、よく顔を合わせてはいた。と言ってもの、人見知りが激しいライザと直に話をしたのは数回しかないが。
「ぁ……の、私達も……」
ライザはもじもじとして、サミュエル達が歩いて行った方をチラチラ見る。
「散策しますか?」
「……はい」
ノイアーが立ち上がり手を差し出すと、ライザはその腕に軽く指を置いた。ノイアーは、同じようにエスコートしようとルチアに手を差し出し、がっつり握手された時のことを思い出し、いつもは覇気が溢れている目を緩めた。
その表情を驚いたように見上げたライザは、顔を赤くしてサッとうつむいてしまう。そんなライザには気付かず、ノイアーはサミュエル達の後を追うように庭園を歩いた。
ライザの歩調に合わせてしばらく無言で歩いた後、薔薇園にさしかかったノイアー達は、ベンチに座るルチアとサミュエルを見つけた。
しかも、その距離はノイアーが眉をしかめるくらい近かった。
風に乗って、二人の会話が聞こえてくる。
「……できないタイプらしいね」
(何ができないんだ?)
立ち止まったノイアーに、ライザも足を止めて始めて前を見てサミュエル達の存在に気がついたようだ。
「できませんよ、そんなの」
「そっかぁ。君がそういうタイプの人間なら、婚約しても破棄させようと思っていたんだよね」
「えっ!?」
「だってさ、本当はノイアーにはライザを娶ってもらうつもりだったから。砂漠の制圧が成功したら、その恩賞として」
何を言い出すんだとノイアーは声を上げようとしたが、サミュエルはルチアの様子を見る為にそんな作り話をし始めたんだろうと言葉を飲み込んだ。あの距離にも意味があるのかもしれないしと、ノイアーは拳を握り込んだ。いつも以上に覇気が漏れるが、それを気にする余裕はノイアーにはなかった。
サミュエルはそんなノイアーの覇気に気がついたようで、ルチアに見えない位置でノイアーに向こうへ行けと手で合図をしてきた。
今は邪魔をしない方がいいだろうと思ったノイアーは、ライザの手に手を重ね、声を出さずに別の場所に行こうと促して元の道を引き返した。
ノイアーの覇気に顔色を悪くして震えながらも、砂漠の制圧が成功したらノイアーの花嫁になれると、ライザは大きな勘違いをしてしまった。
昔から、ノイアーだけが口下手なライザがどもっても焦らせることなく静かに待ってくれた。また、成長してから男達に色を含んだ視線を投げられることが増えたが、ノイアーからそんな視線を向けられたことはなかったし、そんな視線を遮ってくれていた。彼から溢れる覇気には、他の人同様に畏怖を感じ、視線も合わせることもできないが、それでも彼を慕う気持ちは年々大きくなっていたのだ。そんな中で聞いたノイアーの婚約話、しかもすでに同じ屋敷に住んでいると聞き、どれだけライザは失望したことだろう。
ノイアーの婚約者になる女性を王城に呼んだと聞き、ライザはサミュエルに頼み込んでお茶会に参加させてもらった。
ノイアーの婚約者候補ならば、落ち着いた大人の女性なんだろうと勝手に想像し、二人が並んでいるのを見れば、自分の拙い恋心などペチャンと潰れてなくなってくれるんじゃないかと思ったのだが、ノイアーが連れて来た婚約者候補は女性というよりただの子供で……。
(しかも、お兄様は私とノイアー様の婚姻を密かに考えてくださっていただなんて)
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