今度こそ生き延びます!私を殺した旦那様、覚悟してください

由友ひろ

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第十二話王族とのお茶会3

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「ライザ様とノイアーが?」

 思ってもいなかった組み合わせに、ルチアの声が上ずる。前世では、戦争で勝利した後も、二人の婚約という話は聞いたことがなかったが、ルチアが知らなかっただけで、プラタニアではそんな話が進んでいたんだろうか?

「あれ?戦争のことより、二人のことの方が気になるんだ」

 動揺を隠せないルチアを、サミュエルは興味深そうに見つめた。

「そりゃ、そうですよ。私は、ノイアーと婚約する為にプラタニアまで来たんですもの。もしかして、私とノイアーの婚約がいまだに成立しないのは、それが関係しています?」

 国王に書いてもらった婚約の承諾書を持ってプラタニアに来て一ヶ月、ノイアーは戦争に片がついてからと言っていたけれど、もしかしたらノイアーとライザの婚姻話があるから、ルチアとの話がストップしているのかもしれないと考えた。

 時期的に今は戦争は大詰めの筈で、プラタニアからしたらゴールドフロントがどう動く(邪魔する?)かが気になるところだろう。ルチアをノイアーの婚約者として呼び寄せたのも、ゴールドフロントの動向を探る為。逆に言えば、戦争に勝ってしまえばルチアは用無しだ。ルチア的にはそれまでに婚約できれば……と思っていたんだけれど。

「ノイアーは一時帰国しているだけで、来週にはまた砂漠に行ってもらうことになるからね。婚約するとしても、戦争が終結したらだよね。じゃないと婚約式ができないでしょ?婚約式がない婚約は、ノイアーの立場的になしだから……が表向きの理由かな」

(表があるなら裏はなんだ!?)

 サミュエルはルチアの反応を見るのが楽しいのか、探るような表情から、何か楽しんでいるように表情が変わる。

「裏はおいおい。あ、でもライザは関係ないから。兄としては、ノイアーにもらってもらえば安心だからさっきはあんなこと言ったけど、ノイアーがしんどいだろ。自分にいつもビクビクしている妻なんてさ。誰もがノイアーの覇気に畏怖を覚えずにはいられないのだから、お嫁ちゃんくらいはノイアーに笑顔を向けてあげて欲しいよね」

 確かにノイアーは常に殺気をまとっている。しかも、眼力が半端なくて、一睨みで大の男が腰を抜かす程だ。しかし、毎日会っていればさすがに腰は抜かさなくなるだろうし、睨まれなければ笑顔で話くらいはできると思う。第一、ノイアーと普通に喋っている時は、ルチアはもう恐怖などは感じていなかった。

「それは慣れもあるんじゃ?」
「君はたった一ヶ月で慣れたみたいだね。凄い胆力だ。ノイアーが僕付きの護衛兼遊び相手になったのは、あいつが見習い軍人の時で、十二年くらい前だったかな。ライザも、そのくらいからノイアーを知っている訳だけど、いまだに目も合わせられないし、震えも止まらないよ。かくいう僕も、ノイアーに睨まれたら鳥肌たっちゃうけどね」

(十二年もたっているのに?)

「ノイアーの目は畏眼とか恐眼って呼ばれてるの。知ってる?」

 初めて聞く単語に、「全くわかりません!」という表情のルチアを見て、サミュエルが畏眼について話し出した。

 畏眼を持つ人間は、戦闘能力に優れ、天才的な統帥能力を持つが、その身体に収まりきらない覇気が殺気として溢れ出て、常に人を威圧するオーラを発することも特徴だそうだ。その殺気は、特に畏眼と呼ばれる瞳に溢れ出、視線を合わせた人物に畏怖の念を与える為、一角の人物じゃないと視線も合わせられないとか。

(まんまノイアーだな。ただ目力が半端ない人だと思ってたけど、まさかの特異体質……でいいのかな?……だったなんて)

「それって、私が一角の人物ってことですか?」
「そうなんだろうね。ちなみに僕も耐えられるからね、一分くらいなら」

 そう言えば、屋敷で働いている人達と、微妙に視線が合わないなとは感じていたが、彼らはノイアーと視線を合わせない教育を受けているのかもしれない。

「ルチアちゃんは……何か特殊な訓練を受けたとか、武術の心得が人並み以上にあるという訳じゃ……なさそうだね」

 この細腕のどこにそんなスキルを隠しているというのか。

「ないです」
「だよねえ。君は不思議な人だ。ノイアーの畏眼が効かないんだから」
「効かない訳じゃないですよ。普通に殺気凄って思いますもの。でも、それ以上にノイアーの夜空みたいな瞳を直視できないなんて、みんな可哀想ですね。……綺麗なのに」

 あの濃紺の瞳を思い出して、ルチアはフッと笑みを深くする。

「へえ……ふーん、そうかぁ。本当に君は興味深い。ところで、ルチアちゃんはゴールドフロントに内通する意思はない、なんなら適当な情報を流すと、ノイアーから聞いたんだけど」

 サミュエルはニヤリと笑って、直球な質問を投げかけてきた。サミュエルは、政治的な駆け引きは必要ないと判断したらしい。

「まあ、そうですね。戦況をごまかしたかったら、膠着状態だとでもなんでも。でも、ゴールドフロント側は、プラタニアの勝利を希望している気がしますけど」
「なんで?そっちからしたら、うちが貿易路を確保できちゃったらまずいんじゃないの?」

 普通に考えたらそうだ。けれど、将来……それこそアレキサンダーが王位についてから状況が変わることを、現国王は憂いていた。アレキサンダーが能無し過ぎて……。

「……つまり、王子がぼんくらだから、彼に治世が移った時の為に、うちと平和条約を結んでおきたいということ?」
「そうですね。アレキサンダー殿下では、プラタニアを抑え込むのは不可能なのはわかりきっているので、政策を転換するしかないんじゃないですか。あくまで、国王陛下と話をして感じた私の予想ですけど」

 まさか、死に戻ったから知っていますなんて言えないし、王太子に縁談を申し込まれるくらいシンドルフ侯爵家が重用されているからだって勘違いをしてくれるといいんだけど。

「……だからなんの妨害もないのか」

 サミュエルが顎に手を当てて考え込む。

(信じてもらえたのかな?)

「ルチアちゃん、呼んでおいて悪いけど、お茶会はお開きにして良いかな?それで少し、旦那を借りてもいいかな。このことを話し合いたいんだ」
「それはどうぞ。でも、まだ旦那様ではないですけどね」
「時間の問題だよね」

 サミュエルは綺麗なウィンクを決めると、ルチアに腕を差し出してエスコートの姿勢をとる。

「ノイアーを借りて行く間、ライザとお茶して帰ってもらえると嬉しいよ。あいつ、人見知りが激しいから友人がいないんだよね。ノイアーのお嫁ちゃんと仲良くなってくれれば、僕らも安心だし」
「はあ、私にできることなら」

 さっき会った美貌の王女を思い浮かべ、消極的な返事をしたルチアは、サミュエルにエスコートされてバルコニーに戻った。

★★★

 会話が……ない。

 ルチアは、目の前に座る美貌の王女を前に、手つかずの茶菓子を恨めしそうに眺めていた。ライザが手を出さないし、勧められもしないから、ルチアはお茶にもお茶菓子にも手が出せないでいた。サミュエルはノイアーをつれて中座をしてしまったし、ホステスである筈のライザは自分からは話しかけてこない。しかも、ルチアが話を振っても、一言くらいしか返してこないのだ。

(会話ってキャッチボールじゃん。ぶった切られたら、そこで終わっちゃうよね)

「ライザ様は、ノイアーのことを昔から知っていると聞きましたけど、ノイアーって昔からあんな感じでした?」

 ライザの眉が微かに動いた。伏せていた視線を上げて、ルチアと一瞬視線を合わせた。しかし、それもすぐにそらされてしまう。

(私、嫌われるようなことしたかな?前世で王太子妃として会った時は、もう少し会話が成り立っていたような)

「あんなとは?」
「わかりにくいけど、気づかいの人ですよね。それに、何気に優しいし。眼光が鋭くて威圧感が半端ないけど、たまに目元が緩む時とかあって、それを見ると、凄いレアで良いもの見たなって思うんですよ」
「そう……ですか」
「知ってます?ノイアーって好物を食べる時、片眉が上がるんですよ。逆に嫌いな物を食べる時は、眉間に少し皺が出来るんです。あと、甘い物が苦手とか言いながら、ブランデーを飲む時だけは、ビターなチョコなら食べれるみたいなんです」

 主に食べ物ネタで申し訳ないけれど、ノイアーとは朝食の時間と寝る前のわずかな時間しか会えないのだから、他に深く語れるようなイベントがなかった。

「そ……そんなこと知っています」

 ライザは声を震わせて言い放つ。
 実際には、いつもその逞しい背中を隠れて見ていただけで、ライザはノイアーの視線が怖くてまともに目を合わせたことはなかったのだが、たかだか出会って一ヶ月くらいのルチアに、自分の知らないノイアーを語られるのが無性に腹立たしかったようだ。

「あなた、まだノイアー様と婚約も成立していないのに、ノイアー様のお屋敷に押しかけて、婚約者面なさらないでちょうだい」 
「え?いや、そう言われても。婚約の打診をしたのは私ですけど、受けてくれたのはノイアーですし」
「でも、本当は私との婚約が成立する筈でしたのよ」

 それはさっきサミュエルも言っていたことだし、ライザからしたら婚約する筈だった男性を奪われたことになるから、ルチアにこんなに無愛想に振る舞うのかと納得もできる。しかし、ルチアも命がかかっているのだから、そうですかとノイアーをライザに譲ることはできないのだ。

「ライザ様は、ノイアーと婚約したかった……と言うことですか?」

 ライザは真っ赤になって立ち上がり、プルプルと肩を震わせる。

「私は事実を言っただけですわ」

 共通の話題をと思って話しただけで、ライザと衝突したかった訳ではなかった。それどころか、ライザがアレキサンダーの魔の手に落ちないように、仲良くなれたらくらいに思っていたのに。

(友達になるのは……無理っぽいな)

「ライザ様、アレキサンダー殿下にはお気をつけて」
「会う予定もない方の何を気をつけろと」
「いや、まあ、そうなんですけどね」
「私、気分が優れないので失礼いたします」

 ライザは立ち上がり、侍女達を引き連れて退席してしまった。ルチアは一人バルコニーや残され、どうしたものかと考える。が、帰ろうにも馬車を用意するように頼める侍女もいないし、目の前には美味しそうなお茶菓子がまだ残っているし……。

 ルチアは冷めてしまった紅茶を一息で飲み干すと、おもむろに立ち上がり、自力で新しく紅茶をいれなおした。余ったお茶菓子が捨てられてしまうくらいならば、自分のお腹の中に収まった方が有益ではないか。都合の良いことに、バルコニーには誰の目もない。ルチアが多少食べ過ぎてしまったとしても、見咎める人物はいないのだから。

 ルチアが楽しく一人茶会お茶会を開催していると、ノイアーが一人戻ってきた。

「王女は?」
「さあ?具合でも悪くなったのかな。退席なさったわよ」

 ノイアーの眉が少し上がる。表情が豊かでない分、少しの変化でも考えていることがわかるようになった。
 今は多分不快。招待しておいて(正式に招待したのは、サミュエル第二王子なんだろうけどね)、私が一人放置されたことに怒ってくれたんだろう。

「ノイアー、ちょっとちょっと」

 ノイアーを手招きすると、私の椅子の横まで来て、しかも身を屈めてくれる。

「ほら、口を開けて」

 お茶菓子の中から、甘くないクッキーを選んでノイアーの口に放り込んだ。

「甘く……ないな」
「でしょ。これなら、ノイアーも食べられると思わない?だから、これだけは食べないで取っておいたの」
「そうか」

 他はほとんど私が食べたけど……とは言わずに、ルチアはそのクッキーをハンカチに一枚のせた。

「それ、どうするんだ?」
「持ち帰って、サントスに食べさせるのよ。で、何が入っているか予想してもらって再現するの」

 料理長のサントスならば、限りなく本物に近く再現してくれるだろう。

「そんなに気に入ったのか?」
「ノイアーも食べられるお菓子が増えたら、私も罪悪感なく色々食べられるでしょ」
「罪悪感があったのか?」

 ノイアーに聞かれ、ルチアはよく考えてみる。ノイアーとの真夜中のお喋りは楽しくて、用意してくれていたお菓子はいつもペロリと完食していた。罪悪感があれば、さすがに完食はできないだろう。

「なかった……かも。あ、真夜中にお菓子を食べる不道徳感はあるけどね。ああ、きっとノイアーと同じ物を食べて、美味しいねって言いたかったんだわ」
「なるほど……。そのクッキーのレシピならば、サミュエル殿下に聞けば調べてくれるぞ」
「え?殿下に調べさせるの?」
「ああ、だからもう一枚」

 ノイアーがルチアに向かって口を開いた。

(アーンをご所望ですか!?)

 思わぬノイアーのデレにルチアは内心悶えながら、ノイアーの口にクッキーを入れた。
 強面のノイアーが誰よりも可愛く見えるとか、けっこう重症かもしれない。
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