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第二十二話王女の主張 サミュエル視点
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「あの場所で、ゴールドフロントの王太子は、おまえに無理やり閨の行為を迫ったというのか?」
サミュエルは顳かみに拳を当てながら、ライザに確認するように尋ねた。妹のことも無論心配ではあるが、サミュエルは今、プラタニアの王子として国を憂いていた。
「はい、お兄様。私があの二人が抱き合って破廉恥な行為をしているのを見てしまったせいだと思います。口封じの為に、ルチアさんがアレキサンダー様に私をけしかけて……」
「仮に王太子とルチアちゃ……嬢が恋仲だったとして、恋人のいる前で王太子はおまえのドレスを破き、押し倒して首筋に吸い付いたってのかい」
ライザのドレスの裾の部分は確かに汚れていたが、押し倒されたと言うには背中部分が汚れておらず、また髪の毛に乱れた様子もなければ、芝生もついていなかった。首筋についた鬱血痕のような痕も、よく見るとわずかに黄みがかってきており、今つけられたものというより、数日時間経過したもののようにも思われた。
「それだけではありません!とても口では言えないような恥ずかしい行為をされたんです!」
ライザは顔を覆って泣いているようだが、サミュエルにはどうにも信じられなかった。しかし、気の弱い妹が、こんな大胆な嘘をつくとも思えず、実際に鬱血痕もあるとなると、アレキサンダーに何かをされたのは事実なのかもしれない。サミュエルは鬱血痕の専門家でもないし、王子という立場から気軽に女性と関係を持つこともできないから、それが本当に鬱血痕であるのか、いつつけられたのかなど、推測することはできても断定はできないのだが。
「……そうか。もし本当にそんなことがあったとしたら、それはライザとゴールドフロントの王太子二人の話ではすまなくなるな」
「本当です!お兄様は、私がそんな恥ずかしい嘘をつくとでも!?」
「そうは思わないが、これが公になれば、国同士の問題になるんだ。二国間の友好関係は破綻し、戦争になるかもしれない。いや、確実に戦争になるだろう」
長い間苦しめられた砂漠の民との戦争が、やっと勝利という終幕を迎え、平和な日常をやっと兵士やその家族達に与えられると思っていた矢先、新たな戦になる可能性のあることが起こってしまった。
アレキサンダーの女癖の悪さは、ノイアーを通じてルチアから警告されていたが、ほとんど公式の場に出ることがなく、引きこもり気味のライザと接触することがあるとは、正直思っていなかった。
それがまさか……。
サミュエルは、泣きすぎて酷い顔になってしまったライザを見て溜め息を一つつき、壁際に控えていた侍女達に合図を送った。
「とりあえず、着替えをしないと。ライザの湯浴みの準備を頼む」
「用意できております」
サミュエルは侍女にライザを任せ、この件をどうするべきか悩んだ。
父王への報告はしなくてはならないが、まずは当事者であるルチアにも話を聞こうと執務室に向かった。
★★★
王城内にあるサミュエルの執務室は王族の居住域とは真逆の位置にあり、サミュエルが庭園を突っ切って歩いていた時、震える声に呼び止められた。
「第二王子殿下……」
立ち止まり声のする方を見ると、青い顔色をした侍女が一人、胸の前で両手をギュッと握って立っていた。よく見ると、その手は小刻みに震えており、目には涙も浮かんでいた。
「何かな?」
サミュエルは笑顔を作って、侍女の気持ちを和らげようと、穏やかな声で返事をした。
「お……恐れながら、申し上げたいことがございます。お時間、よ……よろしいでしょうか」
「うん、大丈夫だよ」
「ラ……イザ第一王女……殿下のことについてでございます」
「ライザの?ちょっと座って話そうか」
侍女の様子から、ただならない雰囲気を察したサミュエルは、辺りを見回して人目につかなそうな木陰のベンチに侍女を誘導した。
「実は……、王女殿下にアレキサンダー様を紹介したのは私なんです!」
「どういうことかな?」
侍女は、お仕着せのスカートに皺が寄る程強くスカートを握りしめながら、一気に話し始めた。
「アレキサンダー様の側近の方から、アレキサンダー様がルチア様と内密にお会いしたがっていると聞いたんで、王女殿下にそのことを話したんです。そうしたら、王女殿下がアレキサンダー様に会って相談にのっても良いとおっしゃられたので、私がアレキサンダー様をライザ様のご自室に案内しました」
「それはいつの話?」
「五日……ほど前です。王女殿下はエムナール伯爵と婚約直前でしたし、アレキサンダー様はルチア様と復縁したがっているようでしたから、正しい組み合わせに戻った方が良いと思ったんです。お互いに想う方がいるし、まさかあんなことになるなんて……」
侍女は両手で顔を覆って泣き崩れた。
「あんなこととは、ゴールドフロントの王太子が、ライザに手を出した件かな」
「申し訳ございません!あの時、アレキサンダー様が人払いを命じられたので、お部屋を下がってしまいました。アレキサンダー様がお帰りになられた後で王女殿下の元に参りましたら、ライザ王女殿下のお姿はかなり乱れており、泣かれておられたようでした。王女殿下が何でもないとおっしゃられたので、私もそれを信じました……いえ、それを信じて見ないふりをしてしまいました」
「その時に、何かあったんだね」
「おそらく……」
侍女は、自分が引き入れてしまった手前、アレキサンダーがライザに何かしたとは信じたくなかったのだろう。
「そうか……。では、今日ライザはゴールドフロントの王太子とルチアちゃんを会わせようとして、ルチアちゃんを呼び出したってことだね」
侍女はコクリと頷いた。
「はい。私が、エムナール伯爵邸に参りまして、口頭で招待するむねをお伝えし、ここまでお連れいたしました」
「口頭って……、証拠隠滅的なやつだよね。うわぁ、計画的じゃんかぁ」
人見知りで大人しいというイメージしかなかった妹の思ってもみなかったドス黒い一面に、サミュエルは血の繋がりを感じた。
「で、君は何でそれを僕に言おうと思ったの?」
サミュエルは苛立ちを隠した笑顔で尋ねる。
ライザがノイアーに淡い初恋を拗らせていたのは知っていた。しかし、十年近くアプローチもせず、ただ自分の後ろに隠れるばかりで、目も合わせられずに畏眼に萎縮するだけだった妹が、何を思ってこんなことをやらかしたのかはわからないが、腐っても相手は隣国の王太子だ。彼を嵌めるような行為をするなんて、王女としてあまりに浅慮過ぎる。そんなライザに苛立ちを感じると同時に、どうせやるなら侍女にリークされるようなヘマを打つなと、ライザの詰めの甘さにもイラッとした。
「……私は、王女殿下に幸せになって欲しかっただけなんです。それが傷つけるような結果になり、さらには戦争なんて……」
「ライザの幸せ?」
「はい。ルチア様さえいなければ、王女殿下はエムナール伯爵様に降嫁なさる筈だったのですよね?」
「ライザの気持ちを汲んだ母上はそれを望んでいたようだが、実際に降嫁直前だったなんてことはないよ」
侍女は、サミュエルは何を言っているんだと、そんなことはないだろうと首を横に振った。
「でも、王女殿下がおっしゃってました。第二王子殿下がそれを強く望み、戦が終わったら伯爵様に恩賞として王女殿下を娶ってもらおうと考えているようだと。それを王妃様にもお話をしたら、ぜひ話を進めようと乗り気になってくださったと。婚約者候補としていらしたあの方と正式に婚約しないのも、戦争が終結したら王女殿下を正式に婚約者とする為だろうとお考えでしたし」
「そんな話……」
いつまでたっても結婚する気のないノイアーと、人見知りで男性恐怖症過ぎて婚約者の見つからないライザを、くっつけてしまおうかと考えたこともあった。しかし、ノイアーと目を合わせることもできないライザでは、夫婦生活もままならないだろうし、何よりもノイアーには幸せな結婚をして欲しいと願っていたサミュエルだったから、二人を婚約させようなどと口にしたことなど……あったなと、サミュエルは頭を抱えたくなる。
ルチアに初めて会った時、ルチアの反応を見ようとして、あり得ないライザとノイアーの婚約話を口にしたことをサミュエルは思い出した。
だから恩賞としてライザの降嫁を……なんてことを、戦争帰還式典の時に言い出したのかと納得する。それ以前にそんな話が出たこともすらなかった上、ノイアーに事前の通達もなくそんな話を振るから、おかしいとは思っていたのだ。
てっきり、ライザの気持ちを汲んだアンブローズ王妃の暴走だとばかり思っていたが、まさかの原因が自分にあったとは……。
「第二王子殿下がそのことをお話になった時、エムナール伯爵と一緒にお聞きになったそうですが、伯爵もそれについて否定なさらなかったそうで、お二人の間では王女殿下の降嫁のお話は決まっていたのだろうと、王女様はおっしゃっていました。祝賀パーティー以降、あの方さえプラタニアにこなければと、王女様は大変お嘆きになられて、それで……」
サミュエルは乾いた笑いを浮かべた。
自分の過去の行動を嘆いてもしょうがない。ここからどう立て直すか、ゴールドフロントに対して、負い目なく物事を片付ける為に何をするべきか考えなければならない。
「サミュエル殿下!戦争になりますか!?」
侍女は涙が溜まった瞳で、真剣な様子でサミュエルに詰め寄った。不敬な行動ではあるが、侍女の必死さは伝わってきて、サミュエルは彼女を咎めることなくただ沈黙を貫いた。
正直、「そんなことは僕が聞きたいよ!」と言いたかった。ようやく長い戦争から解放された国民を、また戦争になど借り出したくはない。しかし、国同士の駆け引きであれば、それこそ戦争さえ辞さないという気持ちでの交渉が必要になる。今までならば、プラタニアはゴールドフロントに下手に出るしかなかったが、これからは対等に、いや強気で接する必要があった。
「ああ……私はなんてことを」
戦争が起こるとも起こらないとも言わないサミュエルに、侍女は勝手に戦争の可能性に悲嘆する。
「君は今日から僕付きの侍女にする。君の名前は?」
「カンナ・マクベイです」
侍女カンナはうなだれながら答えた。
「カンナ、これを侍女頭に渡して指示を仰いでくれる?」
サミュエルは懐から手帳を取り出すと、侍女頭にカンナを自分付きの侍女にすること、またサミュエルの侍女を代わりにライザ付きの侍女にすることを書いたメモを破り、カンナに渡した。
余計なことを吹聴しないようにカンナを見張ると共に、自分に忠実な侍女をライザに付けて、これ以上ライザがヘマを打たないようにみはらないとならなかった。もちろん、アレキサンダーの魔の手から守る必要もある。
カンナが項垂れながら去って行くのを見守りながら、サミュエルはノイアー達の待つ執務室へ向かった
サミュエルは顳かみに拳を当てながら、ライザに確認するように尋ねた。妹のことも無論心配ではあるが、サミュエルは今、プラタニアの王子として国を憂いていた。
「はい、お兄様。私があの二人が抱き合って破廉恥な行為をしているのを見てしまったせいだと思います。口封じの為に、ルチアさんがアレキサンダー様に私をけしかけて……」
「仮に王太子とルチアちゃ……嬢が恋仲だったとして、恋人のいる前で王太子はおまえのドレスを破き、押し倒して首筋に吸い付いたってのかい」
ライザのドレスの裾の部分は確かに汚れていたが、押し倒されたと言うには背中部分が汚れておらず、また髪の毛に乱れた様子もなければ、芝生もついていなかった。首筋についた鬱血痕のような痕も、よく見るとわずかに黄みがかってきており、今つけられたものというより、数日時間経過したもののようにも思われた。
「それだけではありません!とても口では言えないような恥ずかしい行為をされたんです!」
ライザは顔を覆って泣いているようだが、サミュエルにはどうにも信じられなかった。しかし、気の弱い妹が、こんな大胆な嘘をつくとも思えず、実際に鬱血痕もあるとなると、アレキサンダーに何かをされたのは事実なのかもしれない。サミュエルは鬱血痕の専門家でもないし、王子という立場から気軽に女性と関係を持つこともできないから、それが本当に鬱血痕であるのか、いつつけられたのかなど、推測することはできても断定はできないのだが。
「……そうか。もし本当にそんなことがあったとしたら、それはライザとゴールドフロントの王太子二人の話ではすまなくなるな」
「本当です!お兄様は、私がそんな恥ずかしい嘘をつくとでも!?」
「そうは思わないが、これが公になれば、国同士の問題になるんだ。二国間の友好関係は破綻し、戦争になるかもしれない。いや、確実に戦争になるだろう」
長い間苦しめられた砂漠の民との戦争が、やっと勝利という終幕を迎え、平和な日常をやっと兵士やその家族達に与えられると思っていた矢先、新たな戦になる可能性のあることが起こってしまった。
アレキサンダーの女癖の悪さは、ノイアーを通じてルチアから警告されていたが、ほとんど公式の場に出ることがなく、引きこもり気味のライザと接触することがあるとは、正直思っていなかった。
それがまさか……。
サミュエルは、泣きすぎて酷い顔になってしまったライザを見て溜め息を一つつき、壁際に控えていた侍女達に合図を送った。
「とりあえず、着替えをしないと。ライザの湯浴みの準備を頼む」
「用意できております」
サミュエルは侍女にライザを任せ、この件をどうするべきか悩んだ。
父王への報告はしなくてはならないが、まずは当事者であるルチアにも話を聞こうと執務室に向かった。
★★★
王城内にあるサミュエルの執務室は王族の居住域とは真逆の位置にあり、サミュエルが庭園を突っ切って歩いていた時、震える声に呼び止められた。
「第二王子殿下……」
立ち止まり声のする方を見ると、青い顔色をした侍女が一人、胸の前で両手をギュッと握って立っていた。よく見ると、その手は小刻みに震えており、目には涙も浮かんでいた。
「何かな?」
サミュエルは笑顔を作って、侍女の気持ちを和らげようと、穏やかな声で返事をした。
「お……恐れながら、申し上げたいことがございます。お時間、よ……よろしいでしょうか」
「うん、大丈夫だよ」
「ラ……イザ第一王女……殿下のことについてでございます」
「ライザの?ちょっと座って話そうか」
侍女の様子から、ただならない雰囲気を察したサミュエルは、辺りを見回して人目につかなそうな木陰のベンチに侍女を誘導した。
「実は……、王女殿下にアレキサンダー様を紹介したのは私なんです!」
「どういうことかな?」
侍女は、お仕着せのスカートに皺が寄る程強くスカートを握りしめながら、一気に話し始めた。
「アレキサンダー様の側近の方から、アレキサンダー様がルチア様と内密にお会いしたがっていると聞いたんで、王女殿下にそのことを話したんです。そうしたら、王女殿下がアレキサンダー様に会って相談にのっても良いとおっしゃられたので、私がアレキサンダー様をライザ様のご自室に案内しました」
「それはいつの話?」
「五日……ほど前です。王女殿下はエムナール伯爵と婚約直前でしたし、アレキサンダー様はルチア様と復縁したがっているようでしたから、正しい組み合わせに戻った方が良いと思ったんです。お互いに想う方がいるし、まさかあんなことになるなんて……」
侍女は両手で顔を覆って泣き崩れた。
「あんなこととは、ゴールドフロントの王太子が、ライザに手を出した件かな」
「申し訳ございません!あの時、アレキサンダー様が人払いを命じられたので、お部屋を下がってしまいました。アレキサンダー様がお帰りになられた後で王女殿下の元に参りましたら、ライザ王女殿下のお姿はかなり乱れており、泣かれておられたようでした。王女殿下が何でもないとおっしゃられたので、私もそれを信じました……いえ、それを信じて見ないふりをしてしまいました」
「その時に、何かあったんだね」
「おそらく……」
侍女は、自分が引き入れてしまった手前、アレキサンダーがライザに何かしたとは信じたくなかったのだろう。
「そうか……。では、今日ライザはゴールドフロントの王太子とルチアちゃんを会わせようとして、ルチアちゃんを呼び出したってことだね」
侍女はコクリと頷いた。
「はい。私が、エムナール伯爵邸に参りまして、口頭で招待するむねをお伝えし、ここまでお連れいたしました」
「口頭って……、証拠隠滅的なやつだよね。うわぁ、計画的じゃんかぁ」
人見知りで大人しいというイメージしかなかった妹の思ってもみなかったドス黒い一面に、サミュエルは血の繋がりを感じた。
「で、君は何でそれを僕に言おうと思ったの?」
サミュエルは苛立ちを隠した笑顔で尋ねる。
ライザがノイアーに淡い初恋を拗らせていたのは知っていた。しかし、十年近くアプローチもせず、ただ自分の後ろに隠れるばかりで、目も合わせられずに畏眼に萎縮するだけだった妹が、何を思ってこんなことをやらかしたのかはわからないが、腐っても相手は隣国の王太子だ。彼を嵌めるような行為をするなんて、王女としてあまりに浅慮過ぎる。そんなライザに苛立ちを感じると同時に、どうせやるなら侍女にリークされるようなヘマを打つなと、ライザの詰めの甘さにもイラッとした。
「……私は、王女殿下に幸せになって欲しかっただけなんです。それが傷つけるような結果になり、さらには戦争なんて……」
「ライザの幸せ?」
「はい。ルチア様さえいなければ、王女殿下はエムナール伯爵様に降嫁なさる筈だったのですよね?」
「ライザの気持ちを汲んだ母上はそれを望んでいたようだが、実際に降嫁直前だったなんてことはないよ」
侍女は、サミュエルは何を言っているんだと、そんなことはないだろうと首を横に振った。
「でも、王女殿下がおっしゃってました。第二王子殿下がそれを強く望み、戦が終わったら伯爵様に恩賞として王女殿下を娶ってもらおうと考えているようだと。それを王妃様にもお話をしたら、ぜひ話を進めようと乗り気になってくださったと。婚約者候補としていらしたあの方と正式に婚約しないのも、戦争が終結したら王女殿下を正式に婚約者とする為だろうとお考えでしたし」
「そんな話……」
いつまでたっても結婚する気のないノイアーと、人見知りで男性恐怖症過ぎて婚約者の見つからないライザを、くっつけてしまおうかと考えたこともあった。しかし、ノイアーと目を合わせることもできないライザでは、夫婦生活もままならないだろうし、何よりもノイアーには幸せな結婚をして欲しいと願っていたサミュエルだったから、二人を婚約させようなどと口にしたことなど……あったなと、サミュエルは頭を抱えたくなる。
ルチアに初めて会った時、ルチアの反応を見ようとして、あり得ないライザとノイアーの婚約話を口にしたことをサミュエルは思い出した。
だから恩賞としてライザの降嫁を……なんてことを、戦争帰還式典の時に言い出したのかと納得する。それ以前にそんな話が出たこともすらなかった上、ノイアーに事前の通達もなくそんな話を振るから、おかしいとは思っていたのだ。
てっきり、ライザの気持ちを汲んだアンブローズ王妃の暴走だとばかり思っていたが、まさかの原因が自分にあったとは……。
「第二王子殿下がそのことをお話になった時、エムナール伯爵と一緒にお聞きになったそうですが、伯爵もそれについて否定なさらなかったそうで、お二人の間では王女殿下の降嫁のお話は決まっていたのだろうと、王女様はおっしゃっていました。祝賀パーティー以降、あの方さえプラタニアにこなければと、王女様は大変お嘆きになられて、それで……」
サミュエルは乾いた笑いを浮かべた。
自分の過去の行動を嘆いてもしょうがない。ここからどう立て直すか、ゴールドフロントに対して、負い目なく物事を片付ける為に何をするべきか考えなければならない。
「サミュエル殿下!戦争になりますか!?」
侍女は涙が溜まった瞳で、真剣な様子でサミュエルに詰め寄った。不敬な行動ではあるが、侍女の必死さは伝わってきて、サミュエルは彼女を咎めることなくただ沈黙を貫いた。
正直、「そんなことは僕が聞きたいよ!」と言いたかった。ようやく長い戦争から解放された国民を、また戦争になど借り出したくはない。しかし、国同士の駆け引きであれば、それこそ戦争さえ辞さないという気持ちでの交渉が必要になる。今までならば、プラタニアはゴールドフロントに下手に出るしかなかったが、これからは対等に、いや強気で接する必要があった。
「ああ……私はなんてことを」
戦争が起こるとも起こらないとも言わないサミュエルに、侍女は勝手に戦争の可能性に悲嘆する。
「君は今日から僕付きの侍女にする。君の名前は?」
「カンナ・マクベイです」
侍女カンナはうなだれながら答えた。
「カンナ、これを侍女頭に渡して指示を仰いでくれる?」
サミュエルは懐から手帳を取り出すと、侍女頭にカンナを自分付きの侍女にすること、またサミュエルの侍女を代わりにライザ付きの侍女にすることを書いたメモを破り、カンナに渡した。
余計なことを吹聴しないようにカンナを見張ると共に、自分に忠実な侍女をライザに付けて、これ以上ライザがヘマを打たないようにみはらないとならなかった。もちろん、アレキサンダーの魔の手から守る必要もある。
カンナが項垂れながら去って行くのを見守りながら、サミュエルはノイアー達の待つ執務室へ向かった
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