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人の話を聞かないドラゴン
しおりを挟む伸びているグリーンドラゴンの尻尾をつかみ上げる。さすがに普通の力ではピクリともしないので、『身体強化』を使って引きずることにした。
しかし、この尻尾。思ったよりゴツゴツしていて筋肉質だ。物語だと、よくしなって鞭みたいに振り回すドラゴンがいるが、こいつのは体を支えることに重きをおいている尻尾のようだ。
と、数メートルもいかないところで抵抗が強くなった。振り返ると、グリーンドラゴンが腹筋だけで上半身を起こしていた。腹ポチャのくせに、筋肉がしっかりしているのは尻尾だけではないらしい。
『ひっ! なんで人間がおるんじゃ』
おっと。言語を理解する種のようだ。
起き上がって俺とバッチリ目があったグリーンドラゴンがうろたえている。パチクリとした爬虫類系の目がかわいらしいといえなくもないが、なにせデカい。
ひとくちにドラゴンといっても、ワイバーンに近い言語を持たず殺戮衝動だけを持ち合わせるものや、人化すらして人の営みに近い生活を送るものもいる。
尻尾から手を離すと、自分の尻尾を抱きしめるようにキュッと身を縮こませた。
『ようやっと帰ってこれたというのに、妾の尻尾狙いの人間に出くわすとは、ついてないのぉ』
一人称『妾』がきた! 異世界らしいなぁと、思わず感嘆する。妾とか我とか、普通使わないもんな。あ、でもゲームではそういうキャラもいたな。キャラを作ってるというか、『ござる』口調でしゃべってたプレイヤーとかいたなぁ。ちなみにキレると関西弁になるやつだった。
『聞いておるのか、人間』
あ、ちょっとトリップしてた。
「尻尾に用はない。あそこから落とそうと思っただけだ」
崖を指差すと、グリーンドラゴンは『なお悪いわ!』と叫んだ。
いやだって、普通に邪魔な侵入者だと思ってたし。邪魔なものは排除するに限る。
『いいか、矮小な人間よ。ここは妾の家じゃ』
足を投げ出して座っていたポーズから、よいしょとばかりに後ろ足で立ち上がったポーズに変わった。グリーンドラゴンは飛べるが、羽がないタイプのドラゴンだ。後ろ足が大きめで、尻尾でバランスを取っているようだ。蛇腹状の腹が呼吸のたびに動いている。ちょっと触りたい。
『な、何を見ておるのじゃ。やっぱり妾を食うつもりかえ?』
いやんとばかりに体をひねるグリーンドラゴン。そういえば妾ってことはメスなのかね。
「言葉をしゃべるやつを食う気はないよ。それより、ここには家なんてものはないだろ。俺に譲ってくれない?」
せっかく見つけた見晴らしのいい場所なのだ。テントも設置済みだし、また移動は面倒くさい。
『なにを言っておるか。この辺に……あ、あれ? 妾の力作である家がないではないか。おかしいのぉ。場所はここであっとるはずなんじゃが』
グリーンドラゴンはキョロキョロしたあと、こてんと首を傾げた。あの鳥の巣もどきのことだろう。残念ながら撤去済みである。
「矮小な人間は移動も大変なんだよ。あなたならひとっ飛びだろ。他のいい場所見つけてよ」
『むむむ。たしかに妾ならひとっ飛びじゃが、ここは魔力の通りがいいそうそうない場所なのじゃ』
「でも何年もほったらかしだったんだろ?」
『な、なにを言うか。それほど長い間ではないぞ。ちょっとご飯を食べに出ておっただけじゃ。帰り道がわからなくな……いやいや、ついでに散歩をしておってな?』
「あ。迷子だったのか」
『ちちち、違うぞ!? ドラゴンたるもの迷子になんぞなるわけなかろう!』
じゃあなんで焦ってんですかね。
あわあわしたあと、何か思いついたのかグリーンドラゴンはにやりと笑った。
『まあ聞け、人間。妾は寛大じゃからの。どうしてもというのなら、あの森に住んでもよいぞ? 妾はまだまだ大きくなるゆえ、あの森では暮らせんからの。ご近所さんというやつじゃ。どうじゃ?』
「は?」
腕組みをしてなぜかしたり顔のグリーンドラゴンを思わず見上げる。なんでそんな話になってるんだ?
『妾は物知りじゃからの。人間はご近所さんと助け合って生きていくのじゃろう? 妾はドラゴンゆえ助けなぞいらんが、人間が妾の家を作ってくれてついでにご飯を持ってきてくれるなら、寛大な妾がちょっとだけ手助けしてやってもええぞ?』
「却下」
なんで俺がそんなことしなくちゃいけないんだ。いや、巣は捨てたけどさ。誰かのために動かなくちゃいけないなんて、まっぴらだ。せっかくのお一人様が、存在感ありすぎるドラゴンに侵されるとか、無理。
『む? 待て待て。なにをしておるんじゃ?』
テントに歩み寄り、せっかく打ち付けた杭を引っこ抜く。面倒とはいえ、杭を抜いてアイテムボックスに放り込めば、いつだって移動可能だ。うーむ。これしきを面倒くさがるとか、疲れてんのかな俺。
『森へ行くのか? その前に妾の家を作ってくれんかの。なに、枝で組んでくれればええぞ。雨は気にならんからの。草を敷いてフカフカにしてくれると……待て待て、どこへ行くんじゃ!』
しゃべり続けているグリーンドラゴンを放っておいて、『飛行』で浮かび上がる。探せば同じような場所があるだろう。とりあえず『転移』で以前行ったことのある魔の森を巡ろうかな。
『待てというに!』
「うおっ!?」
いきなり目の前にグリーンドラゴンの顔面アップが現れた。少々体勢を崩すが、これぐらいで『飛行』が解除されることはない。
俺と同じように空中に浮いているグリーンドラゴン。一瞬で目の前に現れたから、『転移』……いや、『瞬間移動』とかのスキルを持っているのかも知れない。
『鑑定』すれば一発なんだが、なんでもかんでも見てしまうと世の中がつまらなくなるというか、知るとそれ以上の興味を持てなくなっちゃうんだよな。
『無視とはひどいではないか! 妾がなにをしたというんじゃ。いくら妾が寛大でも……泣くぞ!?』
「怒るんじゃなくて、泣くのかよ」
思わず突っ込む。泣くぞと言いながら、もうすでにそのパチクリした目がうるうるしていた。え、これ俺が悪いの? 俺のせい? 出て行けと言うから……いや、言われてはないな。でもさ、こっちにも都合ってものが。
『わかった』
え、なにが?
『妾が譲歩してやろうではないか。あの地の隅っこになら住んでもよいぞ。優しい妾は人間が潰されんように気を使ったんじゃが、森が嫌というならすぐお隣さんでもよいぞ』
「……いや、一人で居たいんで、お隣さんとか無理です」
『なんと! そなた、いじめられっこじゃったのか?』
「いやいやいや」
『知っておるぞ。人間は群れると弱いものをいじめて追い出すんじゃろ。安心しろ。妾は寛大で強大なドラゴンじゃからの。あいわかった。ここはそなたに譲ろうではないか』
「はい?」
『隣が無理なら近くならよかろう。ふむふむ。そなたの言う通り、妾なら移動などあっという間じゃからな。近くで住処を作って、時々そなたを見守りに来るとしよう』
「え、いらな」
『ドラゴンが度々来る場所となれば、有象無象なぞ寄ってこんようになるぞ。うれしかろ?』
「いや、まあ」
『よし、そうと決まれば場所決めじゃな。しばし待っておれ。後で呼びに来るでの』
俺の言葉が聞こえているのかいないのか、まくし立て一人で納得して大きく頷いたグリーンドラゴンは、びゅんっとどこかにすっ飛んでいった。かすかに目で追えたくらいのスピード、どれだけ速いんだ。あれー? グリーンドラゴンってスピードに特化した種だったっけな。
「……まあ、いいや。今のうちに広域結界張っとこ」
戻ってきたグリーンドラゴンは弾かれるだろうが、その時はその時だ。防音を追加しとかないと。
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