目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

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Part Ⅰ. 目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

【閑話】 頼みがあるんだよね〜

 カサッ、カサッと紙をめくる音が謁見室に広がる。リオはわざとらしく書類を散らしながら、げんなりした様子で伸びをした。
 
「あ~、もう退屈すぎるんだけど~」
 
 視線を向けた先には、ソファに座って悠々と紅茶を飲むレオンの姿。その無駄に整った横顔を見て、リオは思いついたかのように声をかける。
 
「なぁレオン、ちょっと頼みがあるんだよね~」
 
 その軽すぎる口調に、レオンは面倒くさそうに眉をひそめた。
 
「……また面倒事か?」
 
「まぁまぁ、そんな顔しないでさ」
 
 リオは椅子から立ち上がると、手に持った書類を適当に机へ放り投げ、レオンの隣に腰掛けた。そして、さらっと爆弾を落とす。
 
「俺の幼馴染と結婚してくれない?」
 
「……は?」
 
 さすがのレオンも、一瞬手を止めてリオを睨む。
 
「冗談にしては笑えないぞ」
 
「冗談じゃないって~」
 
 リオはニコニコと悪びれもせず続ける。
 
「どうせお前、結婚に興味ないだろ? だったら誰でもいいじゃん。形だけでいいんだよ」
 
「……ふざけるな。理由は?」
 
 鋭い視線を向けるレオンに、リオはふっと視線を逸らし、窓の外を眺めた。
 
「その子にはさ、そばで見守ってくれる人が必要なんだ」
 
 いつもの飄々とした態度のまま、けれど声の奥に微かに影が差す。
 
「俺が見守ってやれたらよかったんだけど、そうもいかなくてさ」
 
 レオンはその言葉の裏に何かを感じ取ったが、あえて深追いはせず、じっとリオを見つめる。
 
「……で、なぜ俺なんだ」
 
「信頼できるの、お前くらいしかいないから」
 
 珍しく真っ直ぐなリオの言葉に、レオンはしばし沈黙する。
 
「……面倒だな」
 
「頼むよ、レオン」
 
 しばらく沈黙した後、レオンは立ち上がりながら呟く。
 
「……わかった。引き受けてやる」
 
「やった~! さすが俺のマブダチ!」
 
「誰がだ」
 
 目をこれでもかと細くして睨むレオンに、リオは嬉しそうに肩を叩く。
 
「安心して! 大人しくて可愛い子だから!」
 
「……」
 
 リオはケラケラと笑いながら手を振った。
 
「恩にきるよ! ま、後悔しないようにな~」
 
「お前が言うな」
 
 呆れたように言い捨て、レオンは部屋を後にした。
 
 リオはひとり残された謁見室で、散らばった書類を集め、机にトントンと打ちつけて角を揃える。
 
「……後悔するのは、俺の方かもね」
 
 ぽつりと零したその言葉が静けさに溶けて消えると、リオは何事もなかったかのように、また書類を捌き始めた。
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