のじゃロリ吸血鬼さんはチューチューしたい2

かま猫

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粉砕する者

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花火大会が終わっていたとはいえ外は人気も無く異様に静まり返っていた。とにかく逃げなくてはと朦朧とする意識のなか海岸線を進むが足が泥のように重くなかなか進まない。夜のしじまに波の音だけが響く遊歩道を進み続けると後方から地響きが鳴り響く。仙一郎はそれが振り向くまでもなく朱夏が意識を取り戻し家屋を破壊した音なのは容易に想像できた。追ってくるであろう彼女から少しでも遠くへと気力を振り絞り足を速めるようとするが思うように身体は動かず傍から見れば千鳥足でフラフラ歩く酔っ払いのようだった。幸いにもあたりには人影もなく松の木が立ち並ぶなか街灯が遊歩道を照らし彼の進むべき道を示しているだけだった。

再び静まり返った夜の海岸線。自分の荒い息づかいだけが耳障りなほど響くなか、だいぶ意識もしっかりし出した仙一郎は小走りに歩を進めていると突然何かが足に絡みつき前へつんのめる。巻き付いたそれは大人の二の腕ほどの太さがある縄状でその表面はヌメヌメと鈍く光るウロコ状になっており、それはしっかりと足首に絡みついたまま物凄い力でうつ伏せのままの彼を後へと引っ張った。

仙一郎はなすすべもなく、そのまま遊歩道を外れ松林の中を引きずり回される。顔中に落ち葉まじりの土を浴び、身体中を木々に打ち付けられ、さらに息つく暇もなく逆さに釣り上げられると投げ飛ばされ砂浜に打ち付けられる。

「ぐっ!」

砂地だったとはいえその衝撃に仙一郎はうめき声を上げる。身体中が軋むように痛み口の中が砂でジャリジャリする。クラクラする頭をはっきりさせようと左右に振り何とか体を起こして顔を上げると目の前に高い壁のようにそそり立つ何かが夜空を背景に黒々とした姿を見せていた。それは太さ一メートルはあろうかという大蛇で、ウネウネと波打ちまるで海岸にジェットコースターのレールが出現したかのようだった。そしてその大蛇の高く上がった頭の部分ーーー仙一郎を見下ろすその突端は人の上半身の形をしていた。髪を生き物のようにゆらゆらと動かし、影となった顔からは真っ赤な目だけが爛々と輝く。下半身が蛇、上半身は人のその異形の化物は、まったく見る影もなく姿かたちを変えた朱夏だった。

「やってくれたね!でも逃がさないよ!」

化物は身体中から気分が悪くなるほどの殺意を振りまき凄みのある声で言い放つ。

大蛇が薄暗い砂浜をザラザラとうごめく音が聞こえ、その音は仙一郎を絡め捕ろうとだんだんと大きくなる。彼が座り込む砂浜は海岸線の突端で左側が防波堤で、ちょうど三角形のような形になっており逃げ場がなかった。抗うにしても周りは砂ばかりで武器になりそうな流木一本も落ちていない。

まさに蛇に睨まれた蛙のように身動きの取れない仙一郎に向かって化物が口を開く。

「なるべく楽に死なせてやろうと思ってたけどやめだ!両手両足を引きちぎって、もがき苦しむ様を眺めながら血をすすって…」

「やっと見つけた!こんなところにおったのか!」

話の途中、化物の言葉をさえぎって声がする。見ると化物の背後の暗闇に人影があった。

「アルマ!」

仙一郎は思わず声を上げる。ゴスロリ服に身をつつみ長い黒髪を潮風になびかせ、ゆっくりと砂浜を歩いて近づいて来たのは紛れもなくアルマだった。彼女は化物のことなどまるで気にする様子もなく、その横を通り過ぎ、座り込む彼の目の前で立ち止まると腕組みして仁王立ちして見下ろす。化物は思わぬ事態にあっけにとられてただ眺めていた。

「どうしてここに?」

仙一郎が至極当然の疑問をていするとアルマは眉間にしわを寄せる。

「其方、予をのけ者にしてあの女と…リザとデートしておったろ!この色事師めが!」

「デートじゃないっ…」

「たわけっ!じゃあなんじゃこのSNSの投稿は!」

と、彼女はスマートフォンの画面を―――リザが投稿した二人で肩を組んでいる画像を見せた。

「あ!そ、それはリザが強引に…勝手に…」

「まったく!こんなこともあろうかと、ふぉろぉーしておいて良かったのじゃ!」

「だから誤解…」

「ゴカイもイソメもあるかっ!この浮気者!」

「何でそこまで怒られなきゃならないんだよ!」

売り言葉に買い言葉、仙一郎は彼女の剣幕につい声を荒げてしまうが、そんな自分自身にイラつてしまう。会ったら素直に謝ろうと決めていたにもかかわらず、いざ顔を合わせたら喧嘩腰になってしまったことが情けなかった。睨み合っていた彼は意を決し突然、両手で自分の顔をバチンと叩くと何事かといぶかしがるアルマに頭を下げた。

「ごめん!やっぱり俺が悪かったよ!少し言い過ぎたしもっとアルマのこと考えるべきだったと思う、ホントごめん!」

「うぉ!おおっ…じゃがそう簡単には許さんぞ!」

予想していなかった仙一郎の言動にアルマは一瞬まごつくが糾弾の手を緩めない。彼は仕方なく奥の手を出す。

「プチっとするプリン一ヶ月毎日出すから!」

「三ヶ月じゃ!」

「んんん…一ヶ月半!」

「二ヶ月!」

「ううっ…分かったよ!二ヶ月。」

「うむ!なら、許そう!」

彼が折れるとそれを聞いたアルマは少し安心したような表情をみせ、仙一郎もまたずっとモヤモヤしていた気分が晴れ胸をなで下ろしていた。

「まあ、予も少し意固地になりすぎておったかもしれんからな。なんだかんだいって其方のことは大切に思っておるし…」

アルマはそこまで言うとしまったと思ったのか、

「たっ!大切と言っても予の食料として大切という意味じゃからな!勘違いするでないぞ!」

と、顔を真っ赤にしてあたふたと言い訳した。そんな二人の会話を蛇の化物が黙って聞いていたのは、この緊迫した状況で目の前の出来事があまりにも突拍子もないものだったこともあるが、突然現れた年端もいかぬ少女ーーー仙一郎がアルマと呼んだ彼女が自分と同じこの世ならざる者であることを感じ不用意に手を出せず様子をみていたのもあった。しかしそれも、どうでもいい痴話喧嘩を延々と聞かされ続け、我慢の限界に達していた。

「おい!なに私を無視して普通に話してんだよ!二人まとめてぶち殺してやろうか?」

化物は左右に裂けた口を大きく開け怒りも露わに叫ぶ。

「うるさいぞ!爬虫類!」

「はちゅっ…」

振りかえり恫喝するアルマの声に化物が気圧されひるんでいると、彼女は右手を高く振り上げた。すると上空に赤黒くほのかに光る塊が突然現れ仙一郎らの数メートル後方の波打ち際に落下する。地鳴りが響き海水が波となって打ち付け足元を濡らす。

砂浜に突き刺さったその塊は高さ数メートルはあろうかという逆Tの字型の金属製で肌が焼けるような熱を発していた。仙一郎はその巨大な塊の形に見覚えがあった。昔、博物館に行った時に見たペンダントーーー北欧神話の神が持つ戦槌ミョルニルをかたどったアクセサリーにそっくりだった。

「な!あ?」

化物が絶句しているとアルマは手を振り降ろし大蛇を指さす。

「すり潰せっ!」

アルマのその声に、彼女の背後に壁のようにそそり立っていた塊が真っ白に光り輝き辺りは昼のように明るくなり、空気が鳴動し大蛇の胴体は見えない大岩に押しつぶされたように楕円に歪み砂地にのめり込む。

「あ…がっ…」

断末魔の叫びを上げる化物に襲いかかるアルマの力は重力を操り敵をすり潰す戦槌。その威力は周りの風景が弧をえがいて歪んで見えるほど強烈だった。大蛇の身体が軋み潰れる鈍い音が不気味に響く。力は徐々に増していき大蛇の身体はもはや潰れるというよりも空間自体がねじ曲がり変形しているように見えた。

「アルマ!」

仙一郎はそのあまりの苛烈さについ声を上げると化物は突然、閃光とともに弾けるような音をたて霧散した。かすかに硫黄の匂いが漂い再び暗やみが戻った夜のしじまに目が慣れると化物のいた砂浜はすり鉢状に窪み中央には朱夏がうつ伏せに倒れていた。

「安心せい!死んではおらん。」

アルマは振り向くことなく仙一郎の考えていることを見透かすように声をかける。

「そっか…」

仙一郎が安堵のため息をもらし佇んでいると、アルマが突然その場にペタンと座り込んでしまった。驚いた仙一郎は慌てて駆け寄り顔を覗き込む。

「大丈夫?」

「大事ない。久しぶりに神代の力なんぞを使ったせいでちょっと疲れただけじゃ…」

「そっか、よかった。」

と、仙一郎がその場にへたり込むとアルマは這い寄って彼に抱き付く。仙一郎が動揺しているとアルマは、

「少し血をもらうぞ!さすがにしんどいんでな…燃料補給じゃ。」

と、彼の首筋に歯をたて血を吸い始めた。ついさっきまでの騒動がウソのように波の打ち寄せる音だけが静かに響き、先ほどまであった巨大な槌もいつの間にか消え去った夜の浜辺。咬みつかれる仙一郎は彼女と出会ってまだ、ほんの半年しかたっていないというのにもうずっと昔からこんな風に一緒にいるような奇妙な感覚を覚えていた。やがて、さすがに派手にやりすぎたのか遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

「さて、面倒なことになる前に退散するとしようかの!」

と、アルマは顔を上げると口から滴る血を拭う。

「ああ、じゃあ帰ろうか…」

仙一郎の言葉にアルマはわずかに口元をゆるめた。

「そうじゃな!」
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