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第2章 王立ルミナス学院 1年目
第7話 学院生活の始まり
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3年後、王立ルミナス学院 入学式当日
朝の空気は澄んでいたが、クラリスの胸は不安に満ちていた。
屋敷の玄関前には、学院行きの馬車が静かに待機していた。
銀の装飾が施された車体は、王族推薦の特待生にふさわしい格式を備えていたが、
クラリスにはそれがあまり気に入っていない。
「制服、乱れていないか?」
父ヴァルターの声は、いつも通り冷たく、正確だった。
クラリスは頷き、胸元のリボンを指先で整えた。
鏡の中の自分は、完璧な姿勢、整った髪、そして“第一王子の婚約者”としての顔をしていた。
「今日から、お前は王家の名にふさわしい振る舞いを求められる。学院は遊び場ではない。気を抜かないように。」
クラリスは返事をせず、代わりに軽くお辞儀をした。
そして視線を玄関の奥に向けた。そこには、母リヴィアが静かに立っていた。
「クラリス、頑張ってね。でも無理しちゃだめよ。」
その言葉は、あの日の庭での会話の続きのようだった。
クラリスは小さく頷いた。母の言葉が、何よりも嬉しかった。
妹セレナは玄関の階段に座っていた。まだ9歳。来年には自分も学院に入ると意気込んでいるらしい。
その瞳は、姉を見つめながらも、同時に姉ではない何かを見ているようだった。
「行ってらっしゃい、クラリス姉様。ちょっと寂しいわ。」
その声は優しかったが、どこか距離があった。
クラリスは微笑み返した。
「あなたも来年から来るのでしょう?その時は……私が案内してあげる。」
セレナは頷いたが、目は笑っていなかった。
クラリスは馬車に乗り込んだ。扉が閉まり、屋敷が遠ざかっていく。
窓の外に広がる王都の景色は、昨日までとは違って見えた。
馬車は学院へ向かって静かに走り出した。
*
馬車がゆっくりと止まった。
窓の外には、白い石造りの門と、金の装飾が施された校章――双頭の獅子と星の紋章が掲げられていた。
王立ルミナス学院。
王族、貴族、そして高運者のみが通う、選ばれた者の学び舎。
扉が開くと、春の風がクラリスの髪を揺らした。
彼女は深呼吸をひとつして、馬車から降り立った。
「クラリス・ヴェルディア様ですね。お待ちしておりました。」
出迎えたのは、とても気品のある老婦人。
彼は丁寧に一礼しながら、クラリスの制服の襟元をさりげなく確認した。
「王家より推薦を頂いた特待生として、あなたにはとても期待しております。」
クラリスは微笑み返した。
けれど、その言葉の重さは、彼女の小さな肩にずしりとのしかかっていた。
校舎へと続く石畳の道を歩く間、周囲の視線が彼女に集まっていた。
新入生たち、上級生たち、教師たち――誰もが彼女の存在を“数字”で見ていた。
「運命力94の子が来たって、本当だったのね。」
「第一王子の婚約者なんですって……まだ10歳なのに。」
「レオニス様も入学されるんでしょ?どんな方なのかしら。」
囁き声が風に乗って届く。
クラリスは顔を上げ、背筋を伸ばした。
講堂の前には、白髪の男性が立っており、厳格な表情の中にわずかな興味を浮かべていた。
「王立ルミナス学院 学院長のエルマー・グレイヴだ。クラリス・ヴェルディア嬢。制度の象徴である、あなたの入学を歓迎します。」
クラリスは一礼した。
そして講堂の扉が開き、中に入っていった。
*
講堂の空気は張り詰めていた。
新入生たちは整列し、壇上には学院長エルマー・グレイヴ、副学院長マティルダ・クローネが並んでいた。
クラリスは列の中で静かに立っていた。
制服の襟元を整えながら、周囲の視線を感じていた。
それは好奇でも羨望でもない。
“数字”を見ている目だった。
学院長エルマーが一歩前に出ると、講堂が静まり返った。
「王立ルミナス学院は、この王国の未来を背負う運命力に選ばれた者たちの学び舎です。」
彼の声は穏やかで、しかし芯のある響きを持っていた。
「だが、それだけがすべてではない。
あくまでも、数字はあなたの一部なのです。
この学院で、あなたたち自身が何者であるかを見つけなさい。
あなた方のさらなる成長を――私は願っています。」
クラリスはその言葉に、思わず目を上げた。
それは、父や王族からは決して聞けなかった言葉だった。
続いて、副学院長マティルダが前に出る。
彼女の声は冷たく、正確だった。
「運命力は、秩序の礎です。
皆さんには、数字にふさわしい振る舞いを求められます。
逸脱は許されません。誇りを持って、制度の模範となってください。」
そして、次に壇上の中央に立ったのは、第一王子レオニス。
彼は完璧な姿勢で一礼し、講堂を見渡した。
「新入生を代表して、このような場を用意していただいたことに、感謝の言葉を述べさせていただきます。」
その声は澄んでいて、よく通った。
だが、クラリスにはその完璧さが、どこか遠く感じられた。
「我々新入生は、運命力によって選ばれました。
それは誇りであり、試練でもあります。
この学院での学びが、王国の未来を形作る礎となれることを、私は信じています。」
一瞬、彼の視線がクラリスに向けられた。
だが、それは彼女自身ではなく、“制度の象徴”を見ているようだった。
「どうか、数字にふさわしい者であってください。」
その言葉に、講堂は再び拍手に包まれた。
*
式が終わり、クラリスは講堂を出る。
廊下に並ぶ新入生たちの間を通ると、囁きが風のように流れてきた。
「王子の婚約者って、あの子?」
「運命力94って、本物なのかな……」
「どうだか。入学前の測定は免除されてるんでしょ?」
「そうそう。どうやら王族からの推薦だから、わざわざ測る必要ないってことになったんだって」
クラリスは顔を上げ、背筋を伸ばした。
彼女はただ“見られている”のではない。
“測られている”のだ。
それは好奇というよりは、疑惑の目に近い。
学院の空気は、華やかで冷たい。
そして、彼女の新しい日々は、今、静かに始まった。
朝の空気は澄んでいたが、クラリスの胸は不安に満ちていた。
屋敷の玄関前には、学院行きの馬車が静かに待機していた。
銀の装飾が施された車体は、王族推薦の特待生にふさわしい格式を備えていたが、
クラリスにはそれがあまり気に入っていない。
「制服、乱れていないか?」
父ヴァルターの声は、いつも通り冷たく、正確だった。
クラリスは頷き、胸元のリボンを指先で整えた。
鏡の中の自分は、完璧な姿勢、整った髪、そして“第一王子の婚約者”としての顔をしていた。
「今日から、お前は王家の名にふさわしい振る舞いを求められる。学院は遊び場ではない。気を抜かないように。」
クラリスは返事をせず、代わりに軽くお辞儀をした。
そして視線を玄関の奥に向けた。そこには、母リヴィアが静かに立っていた。
「クラリス、頑張ってね。でも無理しちゃだめよ。」
その言葉は、あの日の庭での会話の続きのようだった。
クラリスは小さく頷いた。母の言葉が、何よりも嬉しかった。
妹セレナは玄関の階段に座っていた。まだ9歳。来年には自分も学院に入ると意気込んでいるらしい。
その瞳は、姉を見つめながらも、同時に姉ではない何かを見ているようだった。
「行ってらっしゃい、クラリス姉様。ちょっと寂しいわ。」
その声は優しかったが、どこか距離があった。
クラリスは微笑み返した。
「あなたも来年から来るのでしょう?その時は……私が案内してあげる。」
セレナは頷いたが、目は笑っていなかった。
クラリスは馬車に乗り込んだ。扉が閉まり、屋敷が遠ざかっていく。
窓の外に広がる王都の景色は、昨日までとは違って見えた。
馬車は学院へ向かって静かに走り出した。
*
馬車がゆっくりと止まった。
窓の外には、白い石造りの門と、金の装飾が施された校章――双頭の獅子と星の紋章が掲げられていた。
王立ルミナス学院。
王族、貴族、そして高運者のみが通う、選ばれた者の学び舎。
扉が開くと、春の風がクラリスの髪を揺らした。
彼女は深呼吸をひとつして、馬車から降り立った。
「クラリス・ヴェルディア様ですね。お待ちしておりました。」
出迎えたのは、とても気品のある老婦人。
彼は丁寧に一礼しながら、クラリスの制服の襟元をさりげなく確認した。
「王家より推薦を頂いた特待生として、あなたにはとても期待しております。」
クラリスは微笑み返した。
けれど、その言葉の重さは、彼女の小さな肩にずしりとのしかかっていた。
校舎へと続く石畳の道を歩く間、周囲の視線が彼女に集まっていた。
新入生たち、上級生たち、教師たち――誰もが彼女の存在を“数字”で見ていた。
「運命力94の子が来たって、本当だったのね。」
「第一王子の婚約者なんですって……まだ10歳なのに。」
「レオニス様も入学されるんでしょ?どんな方なのかしら。」
囁き声が風に乗って届く。
クラリスは顔を上げ、背筋を伸ばした。
講堂の前には、白髪の男性が立っており、厳格な表情の中にわずかな興味を浮かべていた。
「王立ルミナス学院 学院長のエルマー・グレイヴだ。クラリス・ヴェルディア嬢。制度の象徴である、あなたの入学を歓迎します。」
クラリスは一礼した。
そして講堂の扉が開き、中に入っていった。
*
講堂の空気は張り詰めていた。
新入生たちは整列し、壇上には学院長エルマー・グレイヴ、副学院長マティルダ・クローネが並んでいた。
クラリスは列の中で静かに立っていた。
制服の襟元を整えながら、周囲の視線を感じていた。
それは好奇でも羨望でもない。
“数字”を見ている目だった。
学院長エルマーが一歩前に出ると、講堂が静まり返った。
「王立ルミナス学院は、この王国の未来を背負う運命力に選ばれた者たちの学び舎です。」
彼の声は穏やかで、しかし芯のある響きを持っていた。
「だが、それだけがすべてではない。
あくまでも、数字はあなたの一部なのです。
この学院で、あなたたち自身が何者であるかを見つけなさい。
あなた方のさらなる成長を――私は願っています。」
クラリスはその言葉に、思わず目を上げた。
それは、父や王族からは決して聞けなかった言葉だった。
続いて、副学院長マティルダが前に出る。
彼女の声は冷たく、正確だった。
「運命力は、秩序の礎です。
皆さんには、数字にふさわしい振る舞いを求められます。
逸脱は許されません。誇りを持って、制度の模範となってください。」
そして、次に壇上の中央に立ったのは、第一王子レオニス。
彼は完璧な姿勢で一礼し、講堂を見渡した。
「新入生を代表して、このような場を用意していただいたことに、感謝の言葉を述べさせていただきます。」
その声は澄んでいて、よく通った。
だが、クラリスにはその完璧さが、どこか遠く感じられた。
「我々新入生は、運命力によって選ばれました。
それは誇りであり、試練でもあります。
この学院での学びが、王国の未来を形作る礎となれることを、私は信じています。」
一瞬、彼の視線がクラリスに向けられた。
だが、それは彼女自身ではなく、“制度の象徴”を見ているようだった。
「どうか、数字にふさわしい者であってください。」
その言葉に、講堂は再び拍手に包まれた。
*
式が終わり、クラリスは講堂を出る。
廊下に並ぶ新入生たちの間を通ると、囁きが風のように流れてきた。
「王子の婚約者って、あの子?」
「運命力94って、本物なのかな……」
「どうだか。入学前の測定は免除されてるんでしょ?」
「そうそう。どうやら王族からの推薦だから、わざわざ測る必要ないってことになったんだって」
クラリスは顔を上げ、背筋を伸ばした。
彼女はただ“見られている”のではない。
“測られている”のだ。
それは好奇というよりは、疑惑の目に近い。
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そして、彼女の新しい日々は、今、静かに始まった。
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