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第3章 王立ルミナス学院 2年目
第26話 いざ課外演習へ
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学院の厩舎には、秋の朝の澄んだ空気が満ちていた。
木々の葉は赤や黄に染まり、風に乗って舞い落ちる。
クラリスは、訓練用の軽装に身を包み、厩舎の扉をそっと開けた。
藁の香りと朝露の匂いが混ざった空気が、彼女の頬を撫でる。
「ノクターン、来たわよ」
その声に反応するように、黒毛の馬――ノクターンが奥から姿を現した。
彼はいつもより早足でクラリスに近づき、鼻を鳴らした。
「ふふ、今日はずいぶん元気ね。楽しみにしてたの?」
ノクターンはまるで「もちろんだ」と言っているように首を上下に振った。
その瞳には、静かな興奮と、どこか誇らしげな光が宿っていた。
クラリスは微笑みながら、たてがみに手を伸ばした。
ノクターンはその手に頬を寄せ、目を細める。
「今日から課外演習。あなたも一緒に行けるのが嬉しいのね」
厩務員のライナスが、奥から現れた。
「クラリス様。ノクターンは昨夜から落ち着かなくて……。馬具の準備を見て、何度も扉の前に立っていたんですよ。まるで『早く行こう』って言ってるみたいに」
「そう……やっぱりかしこいのね。あなたは、私の相棒だもの」
クラリスは懐中時計を取り出し、ノクターンの前でそっと蓋を開いた。
秒針の音が、厩舎の静けさの中に響く。
「私が、みんなを引っ張ってみせる。あなたも、協力してくれる?」
ノクターンは鼻を鳴らし、力強く地面を踏み鳴らした。
その音は、まるで「任せておけ」と言っているようだった。
クラリスは、たてがみを撫でながら微笑んだ。
「ありがとう。それじゃあ、またあとで会いましょう」
そして、クラリスは厩舎を後にした。
その背中には、ノクターンのまっすぐな視線が、いつまでも注がれていた。
*
課外演習の出発を控え、各班の集合が始まっていた。
クラリは、第6班の集合場所に立っていた。
その表情は落ち着いていたが、内心では緊張が走っていた。
(私が、指揮官……班を導く立場。数字だけじゃないことを、見せなきゃ)
最初に現れたのは、ロジーナ・エルスだった。
栗色の髪を三つ編みにし、少し大きめの荷物を抱えて駆け寄ってくる。
「クラリス様!今日からよろしくお願いします。私、精一杯頑張ります!」
クラリスは微笑みながら頷いた。
「こちらこそ、心強いわ。あなたがいてくれて、本当に助かる」
次に現れたのは、エミール・グランツ。
黒髪をきっちりと整え、資料を手にしたまま、無言で歩いてくる。
「クラリス・ヴェルディア様ですね。指揮官として、合理的な判断をお願いします。感情に流されるような采配は、班の損失に繋がりますので」
クラリスは少しだけ眉を動かしたが、冷静に答えた。
「もちろん。状況に基づいてきちんと判断します。あなたも意見を言ってくれると助かるわ」
エミールは頷いたが、目は資料から離れなかった。
続いて現れたのは、ナディア・ローレン。
明るい茶髪を揺らしながら、軽快な足取りで近づいてくる。
「クラリスさんって、王子の婚約者なんすよね?すごいなぁ。でも、運命力ってそんなに大事ですか?自分の直感のほうが信じられるんですけど」
クラリスは少しだけ微笑んだ。
「だからこそ、行動で示したいと思っています」
ナディアは「へぇ」と言いながら、まだ半信半疑の様子だった。
最後に現れたのは、トーマス・ベルク。
がっしりとした体格で、剣を背負い、腕を組んだまま立っている。
「俺は、戦術と体力には自信ある。けど、貴族のお嬢様に指揮されるのは、正直気が進まない。足だけは引っ張らないでくれよ」
クラリスは、彼の目をまっすぐに見つめた。
「ええ。頼りにしているわ」
トーマスは少しだけ目を細めたが、何も言わずに視線を逸らした。
班員が揃い、クラリスは一歩前に出て、静かに口を開いた。
「私は、クラリス・ヴェルディア。制度の象徴と言われていますが、それ以外何もないことを、私自身が一番よく知っています。だからこそ、皆さんと共に、頑張りたい。協力して、ベストを尽くしましょう」
その言葉に、ロジーナは力強く頷き、ナディアは少しだけ笑みを浮かべた。
エミールは無言のまま資料を閉じ、トーマスは腕を組んだまま、何も言わなかった。
(温度差はある。でも、ここから頑張っていくしかない)
そんな決意を胸に、課外演習への出発準備を進めるのであった。
*
王立ルミナス学院の正門が、ゆっくりと開かれた。
各班が順に出発していく。
馬の蹄の音が石畳を打ち、風に舞う落ち葉がその後を追いかける。
クラリスは、ノクターンの背にまたがっていた。
黒く艶やかな毛並みが朝日に照らされ、まるで影のように美しく輝いている。
ノクターンは誇らしげに首を上げ、他の馬たちを先導するように歩を進めていた。
「落ち着いて。先は長いわ」
クラリスが小さく囁くと、ノクターンは鼻を鳴らして応えた。
第6班の面々は、それぞれの馬に乗ってクラリスの後ろを進んでいた。
ロジーナは少し緊張した面持ちで手綱を握り、ナディアは景色を見回しながら楽しげに鼻歌を口ずさんでいる。エミールは無言で前方を見据え、トーマスは馬の手綱を片手で操りながら、時折クラリスの背中をじっと見つめていた。
*
街道を抜け、王都の郊外へと進むにつれ、風景は徐々に変わっていった。
石畳は土の道へと変わり、両脇には黄金色に染まった田畑が広がる。
農民たちが収穫の作業に追われる中、彼らの視線が一斉にクラリスたちに向けられた。
「見て、あれがクラリス様じゃないか?」
「王子の婚約者だって話だろ?」
「運命力94だってよ……やっぱり、違うなぁ」
「でも、数字が高いからって、何でもできるのかねぇ……」
そんな声が、風に乗って耳に届く。
クラリスは、無意識に背筋を伸ばした。
ノクターンの歩調がわずかに速くなる。
(見られている。私は、学院の生徒としてじゃない。制度の象徴として、多くの人に見られている)
「クラリス様」
ロジーナが馬を寄せてきた。
「皆さん、少し緊張しているみたいです。特にトーマスさん……ずっと黙っていて」
クラリスは頷いた。
「ええ、分かってる。でも、大丈夫よ。口より行動で示すから」
ロジーナは微笑んだ。
「そうですね。クラリス様なら、きっと大丈夫です」
*
やがて、遠くに演習地の森が見えてきた。
紅葉に包まれた木々が、まるで試練の門のように彼らを迎えていた。
クラリスはノクターンのたてがみに手を添え、静かに呟いた。
「さあ、行きましょう。ここからが本番よ」
ノクターンは鼻を鳴らし、力強く前へと歩を進めた。
その背に乗る少女の瞳には、迷いのない光が宿っていた。
木々の葉は赤や黄に染まり、風に乗って舞い落ちる。
クラリスは、訓練用の軽装に身を包み、厩舎の扉をそっと開けた。
藁の香りと朝露の匂いが混ざった空気が、彼女の頬を撫でる。
「ノクターン、来たわよ」
その声に反応するように、黒毛の馬――ノクターンが奥から姿を現した。
彼はいつもより早足でクラリスに近づき、鼻を鳴らした。
「ふふ、今日はずいぶん元気ね。楽しみにしてたの?」
ノクターンはまるで「もちろんだ」と言っているように首を上下に振った。
その瞳には、静かな興奮と、どこか誇らしげな光が宿っていた。
クラリスは微笑みながら、たてがみに手を伸ばした。
ノクターンはその手に頬を寄せ、目を細める。
「今日から課外演習。あなたも一緒に行けるのが嬉しいのね」
厩務員のライナスが、奥から現れた。
「クラリス様。ノクターンは昨夜から落ち着かなくて……。馬具の準備を見て、何度も扉の前に立っていたんですよ。まるで『早く行こう』って言ってるみたいに」
「そう……やっぱりかしこいのね。あなたは、私の相棒だもの」
クラリスは懐中時計を取り出し、ノクターンの前でそっと蓋を開いた。
秒針の音が、厩舎の静けさの中に響く。
「私が、みんなを引っ張ってみせる。あなたも、協力してくれる?」
ノクターンは鼻を鳴らし、力強く地面を踏み鳴らした。
その音は、まるで「任せておけ」と言っているようだった。
クラリスは、たてがみを撫でながら微笑んだ。
「ありがとう。それじゃあ、またあとで会いましょう」
そして、クラリスは厩舎を後にした。
その背中には、ノクターンのまっすぐな視線が、いつまでも注がれていた。
*
課外演習の出発を控え、各班の集合が始まっていた。
クラリは、第6班の集合場所に立っていた。
その表情は落ち着いていたが、内心では緊張が走っていた。
(私が、指揮官……班を導く立場。数字だけじゃないことを、見せなきゃ)
最初に現れたのは、ロジーナ・エルスだった。
栗色の髪を三つ編みにし、少し大きめの荷物を抱えて駆け寄ってくる。
「クラリス様!今日からよろしくお願いします。私、精一杯頑張ります!」
クラリスは微笑みながら頷いた。
「こちらこそ、心強いわ。あなたがいてくれて、本当に助かる」
次に現れたのは、エミール・グランツ。
黒髪をきっちりと整え、資料を手にしたまま、無言で歩いてくる。
「クラリス・ヴェルディア様ですね。指揮官として、合理的な判断をお願いします。感情に流されるような采配は、班の損失に繋がりますので」
クラリスは少しだけ眉を動かしたが、冷静に答えた。
「もちろん。状況に基づいてきちんと判断します。あなたも意見を言ってくれると助かるわ」
エミールは頷いたが、目は資料から離れなかった。
続いて現れたのは、ナディア・ローレン。
明るい茶髪を揺らしながら、軽快な足取りで近づいてくる。
「クラリスさんって、王子の婚約者なんすよね?すごいなぁ。でも、運命力ってそんなに大事ですか?自分の直感のほうが信じられるんですけど」
クラリスは少しだけ微笑んだ。
「だからこそ、行動で示したいと思っています」
ナディアは「へぇ」と言いながら、まだ半信半疑の様子だった。
最後に現れたのは、トーマス・ベルク。
がっしりとした体格で、剣を背負い、腕を組んだまま立っている。
「俺は、戦術と体力には自信ある。けど、貴族のお嬢様に指揮されるのは、正直気が進まない。足だけは引っ張らないでくれよ」
クラリスは、彼の目をまっすぐに見つめた。
「ええ。頼りにしているわ」
トーマスは少しだけ目を細めたが、何も言わずに視線を逸らした。
班員が揃い、クラリスは一歩前に出て、静かに口を開いた。
「私は、クラリス・ヴェルディア。制度の象徴と言われていますが、それ以外何もないことを、私自身が一番よく知っています。だからこそ、皆さんと共に、頑張りたい。協力して、ベストを尽くしましょう」
その言葉に、ロジーナは力強く頷き、ナディアは少しだけ笑みを浮かべた。
エミールは無言のまま資料を閉じ、トーマスは腕を組んだまま、何も言わなかった。
(温度差はある。でも、ここから頑張っていくしかない)
そんな決意を胸に、課外演習への出発準備を進めるのであった。
*
王立ルミナス学院の正門が、ゆっくりと開かれた。
各班が順に出発していく。
馬の蹄の音が石畳を打ち、風に舞う落ち葉がその後を追いかける。
クラリスは、ノクターンの背にまたがっていた。
黒く艶やかな毛並みが朝日に照らされ、まるで影のように美しく輝いている。
ノクターンは誇らしげに首を上げ、他の馬たちを先導するように歩を進めていた。
「落ち着いて。先は長いわ」
クラリスが小さく囁くと、ノクターンは鼻を鳴らして応えた。
第6班の面々は、それぞれの馬に乗ってクラリスの後ろを進んでいた。
ロジーナは少し緊張した面持ちで手綱を握り、ナディアは景色を見回しながら楽しげに鼻歌を口ずさんでいる。エミールは無言で前方を見据え、トーマスは馬の手綱を片手で操りながら、時折クラリスの背中をじっと見つめていた。
*
街道を抜け、王都の郊外へと進むにつれ、風景は徐々に変わっていった。
石畳は土の道へと変わり、両脇には黄金色に染まった田畑が広がる。
農民たちが収穫の作業に追われる中、彼らの視線が一斉にクラリスたちに向けられた。
「見て、あれがクラリス様じゃないか?」
「王子の婚約者だって話だろ?」
「運命力94だってよ……やっぱり、違うなぁ」
「でも、数字が高いからって、何でもできるのかねぇ……」
そんな声が、風に乗って耳に届く。
クラリスは、無意識に背筋を伸ばした。
ノクターンの歩調がわずかに速くなる。
(見られている。私は、学院の生徒としてじゃない。制度の象徴として、多くの人に見られている)
「クラリス様」
ロジーナが馬を寄せてきた。
「皆さん、少し緊張しているみたいです。特にトーマスさん……ずっと黙っていて」
クラリスは頷いた。
「ええ、分かってる。でも、大丈夫よ。口より行動で示すから」
ロジーナは微笑んだ。
「そうですね。クラリス様なら、きっと大丈夫です」
*
やがて、遠くに演習地の森が見えてきた。
紅葉に包まれた木々が、まるで試練の門のように彼らを迎えていた。
クラリスはノクターンのたてがみに手を添え、静かに呟いた。
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