運命力ゼロの悪役令嬢

黒米

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第4章 王立ルミナス学院 3年目

第33話 だれかの本音

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石畳の回廊には花の香りが漂い、学院祭の準備に向けて、生徒たちの足取りも少しだけ軽やかだった。
クラリスは、生徒会室の前で一度深呼吸をしてから、扉をノックした。

「どうぞ」
中から聞こえた声は、穏やかで落ち着いていた。

副会長リュシア・フェンローズが、資料の束を前にしてクラリスを迎えた。

「おはようございます、副会長。今日から、学院祭の準備をお手伝いさせていただきます」

「おはよう、クラリスさん。来てくれてうれしいわ。正直、手が足りなくてね」
リュシアは微笑みながら、机の上の企画書を手渡した。

そこには、学院祭の一般参加型イベントの案が並んでいた。

「思ったより内容が自由なんですね。もっと制度に関連するものばかりかと思っていました」
クラリスが目を通しながら言うと、リュシアは少し肩をすくめた。
「会長はそうしたがってるけど、私はね……制度って、もっと自由でいいと思うの。数字だけじゃなくて、人の気持ちも大事にしたい」

クラリスは、少し驚いたように顔を上げた。
「この制度は……人を導くためのものですよ?」

「もちろん。導くためにある。でもね、それは押しつけることじゃないでしょう?私は、制度はあくまで“支えるもの”であって、“縛るもの”じゃないと思ってるの」

その言葉に、クラリスは静かに頷いた。
「……最近、私もそう思うようになりました。制度の中で生きることが、時々苦しく感じることもあって」

リュシアはクラリスの言葉に優しく微笑んだ。
「あなたがそう言ってくれて、ちょっと嬉しいな。クラリスさんは、制度の“顔”として見られてるけど……私は、あなた自身の考えが知りたかったの」

そのとき、生徒会室の扉が開き、会長アリステア・フォルドが入ってきた。
資料を手にした彼の表情は、いつも通り冷静で厳格だった。

「リュシア、副会長としての責任を忘れていないか? 今回の学院祭は、制度の正しさを示す場だ。王族や貴族、外部の目もある。遊びではない」

リュシアは表情を崩さずに答えた。
「分かってるわ。でも、“楽しむこと”も制度の一部よ。数字だけじゃないわ」

アリステアは一瞬だけクラリスに視線を向けた。
「クラリス。君は制度の象徴だ。君の振る舞い一つで、制度の印象が変わる。自覚しているか?」

クラリスは、二人の間に立つようにして答えた。
「……はい。でも、制度の象徴であるからこそ、私は“制度の中で生きる人間”としての姿も見せたいと思っています」

アリステアは無言のまま資料を机に置き、リュシアに一瞥をくれた。
「……君たちのやり方を見せてもらおう」

そして、生徒会室を後にした。

リュシアは、少しだけ肩を落としながらクラリスに向き直った。
「ごめんなさい、ちょっと空気が重くなっちゃった」

クラリスは首を振った。
「いえ。副会長の考えを聞けて、よかったです。私も、もっと自分の言葉で語れるようになりたいです」

リュシアは、クラリスの言葉に微笑みながら、次の資料を手渡した。
「じゃあ、まずはこの出展者リストからお願い。制度の象徴さん、頼りにしてるわよ」

クラリスは、少しだけ照れくさそうに笑った。
「……はい。がんばります」

*

学院祭の準備が進む中、王立ルミナス学院の中庭は活気に満ちていた。
生徒たちはテントの設営や装飾の準備に追われ、笑い声と指示の声が交錯している。

クラリスは、出展者リストを手に、広場の確認に向かっていた。
副会長リュシアの指示で、各ブースの配置を見直すためだ。

「この辺りは、一般の来場者向けの展示が多くなる予定ね……」
クラリスは、資料を見ながら独り言を漏らす。

そのとき、広場の掲示板の前で、数人の生徒がざわついているのが目に入った。

「……何これ」
「誰が貼ったの?」
「これ、まずくない?」

クラリスは足を止め、掲示板に近づいた。
そこには、一枚の紙が貼られていた。
手書きの文字で、こう記されていた。


《運命力がすべてなのか?》
《低運者に未来はないのか?》
《この制度はただの茶番だ》

クラリスは、紙を見つめたまま、言葉を失った。
その問いは、まるで彼女自身に向けられているようだった。

「……誰がこんなものを」
クラリスの声は、誰にも聞こえないほど小さかった。

そのとき、背後から声がした。

「あなたも来たのね」
リュシア・フェンローズが、静かにクラリスの隣に立った。

「副会長……これは」

「誰が貼ったかは分からない。でも、こういう声があるのは事実」
リュシアは、紙を剥がすことなく、ただ見つめていた。
「制度に疑問を持つ人がいるのは、当然だと思う。数字で人生が決まるなんて、誰だって怖いもの」

クラリスは、紙の文字を見つめながら呟いた。
「……私も、時々そう思います。制度の中で生きることが、苦しくなることがある。でも、私はその制度の象徴で……」

リュシアは、クラリスの肩にそっと手を置いた。
「だからこそ、あなたが考えることに意味があるのよ。上に立つものが、分け隔てなくみんなの声を聞けるかどうか。それが、未来を変える鍵になる」

クラリスは、掲示板の前でしばらく立ち尽くしていた。
その紙は、風に揺れながら、静かに問い続けていた。



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