68 / 79
第6章 王立ルミナス学院 5年目
第64話 英雄の剣
しおりを挟む
馬車の車輪が、乾いた土を静かに踏みしめる音を響かせながら止まった。
クラリスは、ゆっくりと窓を開け、外の空気を吸い込む。
春の風が頬を撫で、淡い草木の香りと、どこか冷たい湿り気を運んでくる。
目の前に広がるのは、深い緑に覆われたフォルセの森。
学院の演習が行われている場所、そして事故が起きた場所。
今、クラリスの視線の先には、奥へと続く暗い影が伸びている。
クラリスは、馬車を降りる。
足元の土は柔らかく、踏みしめるたびにわずかな音を立てる。
遠くで鳥の声が響くが、それはどこか不自然に途切れがちだった。
(……ここで、私は獣に襲われた、そしてセレナはひどい目にあった…)
記憶がよみがえる。
獰猛化した獣の咆哮、血の匂い、そして――薄れゆく意識の中で剣を振るった影。
あの剣士。
レイナ様の兄弟子であり、戦場で英雄と共に戦ったという男。
彼の痕跡が、この森に残っているかもしれない。
クラリスは、深く息を吸い込み、視線を奥へと向けた。
木々の間から差し込む光は、細く、頼りない。
その奥に何があるのか――誰も知らない。
「……今回は、奥まで行く」
小さな声が、静かな森に溶けて消える。
だが、その言葉には、揺るぎない決意が宿っていた。
足音が、湿った土を踏みしめる。
木々の影が、彼女を飲み込むように迫ってくる。
学院の演習で見た景色とは、まるで違う――
ここから先は、未知の領域。
クラリスは、剣の柄にそっと手を添えた。
(無駄骨でもいい。私は、知りたい――真実を)
*
クラリスの足音が、湿った土を静かに踏みしめる。
木々の影が濃くなり、差し込む光は細く、頼りない。
森の奥へ進むほど、空気は冷たく、重くなっていく。
(……この辺りだったはず)
微かな記憶を辿る。
獣の咆哮、血の匂い、そして――必死に逃げた足音。
あの時、意識が遠のく中で見た剣の閃き。
その影が、今も脳裏に焼き付いている。
(無駄骨でもいい。私は、知りたい――真実を)
木々の間を抜けると、視界がわずかに開けた。
そこには、苔むした岩と、折れた枝が散乱している。
まるで、何かが暴れた跡のように。
クラリスは、しゃがみ込み、指先で土をなぞった。
そこには、古い血痕のような黒い染みが残っていた。
時間が経ち、乾いているが――確かに、ここで何かがあった。
「……ここで、戦いが?」
小さな声が、森に吸い込まれる。
その瞬間――
背後で、枝が折れる音がした。
クラリスは、反射的に剣の柄に手をかけ、振り返る。
だが、そこには誰もいない。
風が木々を揺らし、葉が舞うだけ。
(……気のせい?)
胸の奥に冷たいものが走る。
だが、確かに――誰かの気配を感じた。
クラリスは、剣を抜き、静かに構えた。
森の奥に、何かが潜んでいる。
その気配は、獣ではない――
「……誰?」
声は、わずかに震えていた。
森の奥から、低い風の音が響く。
そして――影が、ゆっくりと動いた。
*
クラリスは、剣を構えたまま、森の奥を凝視した。
低い風の音が、木々を揺らし、葉が舞う。
だが、その中に――確かに、別の気配がある。
影が、ゆっくりと動いた。
木々の間に、黒い輪郭が揺れる。
人影――そう見えた瞬間、クラリスの心臓が強く脈打った。
「……誰?」
声は、わずかに震えていたが、瞳には恐れではなく、決意が宿っていた。
返事はない。
ただ、影が一歩、こちらへ踏み出す。
その足音は、湿った土を静かに踏みしめる音――重く、確かな音。
クラリスは、剣を握る手に力を込めた。
(……人?でも、なぜこんな場所に――)
影が、さらに近づく。
木漏れ日の隙間から、わずかに光が差し込み、銀の輝きがちらりと見えた。
剣――その影は、剣を持っている。
クラリスの胸に、あの日の記憶がよみがえる。
獣を斬り伏せた剣の閃き。
その剣筋――まさか。
「……あなたは――」
言葉が喉で絡まり、最後まで出ない。
その瞬間、影が立ち止まった。
距離は、わずか数歩。
顔はまだ見えない。
だが、低い声が、森の静寂を切り裂いた。
「――ここに来るとは、思わなかった。レイナの差し金か…」
クラリスの瞳が大きく見開かれる。
その声は、冷たく、深く、そしてどこか懐かしい響きを帯びていた。
風が強く吹き、木々がざわめく。
影の輪郭が、ゆっくりと光に溶けていく――
だが、その瞬間、クラリスの耳に届いたのは、鋭い金属音だった。
剣が抜かれる音。
クラリスは、反射的に構えを取り、息を呑む。
森の奥で、二つの影が対峙した。
静寂が、嵐の前のように張り詰める。
その刹那、影の輪郭が消えた。
次の瞬間、クラリスの背後で何かが倒れる音が聞こえた。
振り返ると、そこには、目の前にいたはずの影と横たわる獣の姿。
よく見ると異常に発達したその姿は、あの日見た獣と瓜二つだった。
そしてまた、あの時と同じように一撃で屠った目の前の影は振り向き、クラリスに声をかける。
「ここに来た理由を教えてもらおう、英雄の剣を継ぎし者よ」
クラリスは、ゆっくりと窓を開け、外の空気を吸い込む。
春の風が頬を撫で、淡い草木の香りと、どこか冷たい湿り気を運んでくる。
目の前に広がるのは、深い緑に覆われたフォルセの森。
学院の演習が行われている場所、そして事故が起きた場所。
今、クラリスの視線の先には、奥へと続く暗い影が伸びている。
クラリスは、馬車を降りる。
足元の土は柔らかく、踏みしめるたびにわずかな音を立てる。
遠くで鳥の声が響くが、それはどこか不自然に途切れがちだった。
(……ここで、私は獣に襲われた、そしてセレナはひどい目にあった…)
記憶がよみがえる。
獰猛化した獣の咆哮、血の匂い、そして――薄れゆく意識の中で剣を振るった影。
あの剣士。
レイナ様の兄弟子であり、戦場で英雄と共に戦ったという男。
彼の痕跡が、この森に残っているかもしれない。
クラリスは、深く息を吸い込み、視線を奥へと向けた。
木々の間から差し込む光は、細く、頼りない。
その奥に何があるのか――誰も知らない。
「……今回は、奥まで行く」
小さな声が、静かな森に溶けて消える。
だが、その言葉には、揺るぎない決意が宿っていた。
足音が、湿った土を踏みしめる。
木々の影が、彼女を飲み込むように迫ってくる。
学院の演習で見た景色とは、まるで違う――
ここから先は、未知の領域。
クラリスは、剣の柄にそっと手を添えた。
(無駄骨でもいい。私は、知りたい――真実を)
*
クラリスの足音が、湿った土を静かに踏みしめる。
木々の影が濃くなり、差し込む光は細く、頼りない。
森の奥へ進むほど、空気は冷たく、重くなっていく。
(……この辺りだったはず)
微かな記憶を辿る。
獣の咆哮、血の匂い、そして――必死に逃げた足音。
あの時、意識が遠のく中で見た剣の閃き。
その影が、今も脳裏に焼き付いている。
(無駄骨でもいい。私は、知りたい――真実を)
木々の間を抜けると、視界がわずかに開けた。
そこには、苔むした岩と、折れた枝が散乱している。
まるで、何かが暴れた跡のように。
クラリスは、しゃがみ込み、指先で土をなぞった。
そこには、古い血痕のような黒い染みが残っていた。
時間が経ち、乾いているが――確かに、ここで何かがあった。
「……ここで、戦いが?」
小さな声が、森に吸い込まれる。
その瞬間――
背後で、枝が折れる音がした。
クラリスは、反射的に剣の柄に手をかけ、振り返る。
だが、そこには誰もいない。
風が木々を揺らし、葉が舞うだけ。
(……気のせい?)
胸の奥に冷たいものが走る。
だが、確かに――誰かの気配を感じた。
クラリスは、剣を抜き、静かに構えた。
森の奥に、何かが潜んでいる。
その気配は、獣ではない――
「……誰?」
声は、わずかに震えていた。
森の奥から、低い風の音が響く。
そして――影が、ゆっくりと動いた。
*
クラリスは、剣を構えたまま、森の奥を凝視した。
低い風の音が、木々を揺らし、葉が舞う。
だが、その中に――確かに、別の気配がある。
影が、ゆっくりと動いた。
木々の間に、黒い輪郭が揺れる。
人影――そう見えた瞬間、クラリスの心臓が強く脈打った。
「……誰?」
声は、わずかに震えていたが、瞳には恐れではなく、決意が宿っていた。
返事はない。
ただ、影が一歩、こちらへ踏み出す。
その足音は、湿った土を静かに踏みしめる音――重く、確かな音。
クラリスは、剣を握る手に力を込めた。
(……人?でも、なぜこんな場所に――)
影が、さらに近づく。
木漏れ日の隙間から、わずかに光が差し込み、銀の輝きがちらりと見えた。
剣――その影は、剣を持っている。
クラリスの胸に、あの日の記憶がよみがえる。
獣を斬り伏せた剣の閃き。
その剣筋――まさか。
「……あなたは――」
言葉が喉で絡まり、最後まで出ない。
その瞬間、影が立ち止まった。
距離は、わずか数歩。
顔はまだ見えない。
だが、低い声が、森の静寂を切り裂いた。
「――ここに来るとは、思わなかった。レイナの差し金か…」
クラリスの瞳が大きく見開かれる。
その声は、冷たく、深く、そしてどこか懐かしい響きを帯びていた。
風が強く吹き、木々がざわめく。
影の輪郭が、ゆっくりと光に溶けていく――
だが、その瞬間、クラリスの耳に届いたのは、鋭い金属音だった。
剣が抜かれる音。
クラリスは、反射的に構えを取り、息を呑む。
森の奥で、二つの影が対峙した。
静寂が、嵐の前のように張り詰める。
その刹那、影の輪郭が消えた。
次の瞬間、クラリスの背後で何かが倒れる音が聞こえた。
振り返ると、そこには、目の前にいたはずの影と横たわる獣の姿。
よく見ると異常に発達したその姿は、あの日見た獣と瓜二つだった。
そしてまた、あの時と同じように一撃で屠った目の前の影は振り向き、クラリスに声をかける。
「ここに来た理由を教えてもらおう、英雄の剣を継ぎし者よ」
1
あなたにおすすめの小説
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
ヒロインだと言われましたが、人違いです!
みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。
って、ベタすぎなので勘弁してください。
しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。
私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜
みおな
恋愛
転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?
だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!
これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?
私ってモブですよね?
さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~
季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」
建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。
しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった!
(激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!)
理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造!
隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。
辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。
さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。
「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」
冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!?
現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる!
爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
もちもちほっぺ
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる