スキル名【すんごい、おっぱい】なんだけど、これってどうなの!?

かわさきはっく

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噂の聖女、爆誕編

第4話 初陣とすんごい奇跡

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 王都ソリスティアの冒険者ギルドは、熱気と喧騒に満ちていた。
 屈強な戦士たちが酒を飲み交わし、フードを目深にかぶった魔法使いたちが依頼書を吟味している。何もかもが初めて見る光景に、私はただ圧倒されていた。

「さて、と。どれにするかな」
 ユウキ様は慣れた様子で、壁一面に貼られた依頼書(クエストボード)を眺めている。

「勇者」
 隣に立つシルヴィアさんが、釘を刺すように言った。

「言っておきますが、高難易度の依頼は却下です。まずは彼女の実力――というより、お荷物具合を見極めるのが最優先ですから」

「わかってるって! なあ、ルルナ!」
 ユウキ様は私に笑いかけるが、私は「ごめんなさい…」と縮こまることしかできない。

 結局、ユウキ様が剥がしてきたのは、新人冒険者向けの、ありふれた依頼だった。

【緊急依頼:近郊の森にゴブリンの巣が発生! 討伐求む!】

「ゴブリン退治……!」
 物語でしか聞いたことのない魔物の名前に、私の心臓は嫌な音を立てた。

――ゴブリンの出る森
 ギルドから馬車で半刻ほど揺られ、私たちは目的の森に到着した。
 薄暗い森の中は、不気味なほど静まり返っている。

「ゴブリンなんざ、俺の斧の錆にもならねえぜ!」
 ダインさんが巨大な戦斧を肩の上で軽々と回す。

「油断は禁物です。ゴブリンは狡猾で、数で襲ってきます。連携が重要ですよ」
 シルヴィアさんが冷静に周囲を警戒する。

「ルルナは後方で俺たちの支援を頼む! 何かあったらすぐに叫んでくれ!」
 ユウキ様が力強く言う。

(支援…と言われましても、私に一体何ができるというのでしょうか…)
 私はただ、祈るような気持ちで三人の後ろをついて歩いた。

 その時だった。

「キィィィッ!」
 甲高い奇声と共に、茂みの中から緑色の醜い小鬼たちが飛び出してきた。ゴブリンだ。その数、五、六匹。汚らしい棍棒を手に、涎を垂らしながらこちらへ向かってくる。

「ひっ……!」
 初めて間近で見る魔物に、私は恐怖で足がすくんだ。

 だが、仲間たちは違った。

「うぉぉりゃあ!」
 ダインさんが雄叫びを上げて先陣を切り、ゴブリンの一匹を斧の一撃で弾き飛ばす。

「聖剣よ、光を!」
 ユウキ様も剣を抜き、ダインさんに続く。

「風の刃(ウィンド・カッター)!」
 シルヴィアさんの指先から放たれた見えない刃が、別のゴブリンを切り裂いた。

 すごい……! これが、勇者パーティの戦い……!
 しかし、私が三人の戦いに見とれていた、その一瞬の隙だった。

「キシャァ!」
 一匹のゴブリンが、巧みに前衛の二人をすり抜け、一直線に私めがけて突進してきたのだ。

「ルルナ、危ない!」
 ユウキ様の叫び声が遠くに聞こえる。

 目の前に迫る醜悪な顔と振り上げられた棍棒。私はパニックになり、声も出ずに後ずさった。
 そして、足元の木の根に気づかず、大きくバランスを崩した。

「きゃっ!」
 短い悲鳴と共に体が傾く。
 その瞬間、スキルが発現したのか、私の胸が物理法則を無視したかのように、ぽよん、と大きく揺れた。

 次の瞬間、信じられない光景が目の前で起こった。
 私に襲いかかろうとしていたゴブリンが、まるで透明なバナナの皮にでも滑ったかのように、盛大にすっ転んだのだ。
 ゴブリンは勢いよく地面に頭を打ち付け、白目を剥いて気絶した。

「…………え?」
 何が起きたのか、全く理解できなかった。
 私がただ、転びそうになっただけなのに。

「やったな、ルルナ!」
 ユウキ様が、歓喜の声を上げた。

「今の揺れで敵の三半規管を狂わせたんだな! ナイス『おっぱい・サイスミック』!」

(おっぱい……さいすみっく……?)
 私の頭に意味不明な単語がこだまする。

 私が呆然としていると、残りのゴブリンたちの動きが、ぴたりと止まった。
 全てのゴブリンが、まるで金縛りにでもあったかのように、私のこと――正確には、私の胸元を凝視している。

 その致命的な隙を、仲間たちが見逃すはずもなかった。
「隙ありだぜ、このトカゲ野郎ども!」
 ダインさんの斧が横薙ぎに閃き、ゴブリンたちをまとめて薙ぎ払う。
 シルヴィアさんの追撃の魔法が、最後の一匹を正確に仕留めた。

 戦闘は、あっという間に終わっていた。

「すごいじゃないか、ルルナ!」
 ユウキ様が駆け寄ってきて、私の肩をバンバンと叩いた。

「何もせずに敵一体を無力化し、残りの敵の動きまで止めて俺たちにチャンスを作ってくれるなんて! やっぱり君のスキルは最高だ!」

「よくわからんが、嬢ちゃんのおかげで楽に勝てたみてぇだな! がはは!」
 ダインさんも満足げに笑っている。

「……偶然、ですよね?」
 ただ一人、シルヴィアさんだけが眉間に深いしわを寄せ、疑念の眼差しを私に向けていた。

「あなたが転びそうになったのと、ゴブリンが転んだタイミングが、都合よく一致しただけの……」

「は、はい! きっと、ただの偶然です!」
 私は救いを求めるように、必死に頷いた。

「偶然なわけないだろ!」
 ユウキ様が、私の言葉を即座に否定する。

「これが彼女の力なんだ! 俺にはわかる!」

 こうして、私たちの初クエストは、私のあずかり知らぬところで発動した〝奇跡〟によって、無事に終わりを告げた。
 そして、勇者様の私に対する勘違いは、さらに深く、揺るぎないものになってしまったのだった。
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