スキル名【すんごい、おっぱい】なんだけど、これってどうなの!?

かわさきはっく

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波乱の魔王軍、介入編

第23話 夜襲とすんごい気配遮断

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 その夜、グライフェン砦の城門が静かに開かれた。
 遠く離れた敵陣の正面では、今まさに味方の主力が陽動攻撃を開始したのだろう。鬨(とき)の声と剣戟《けんげき》の音が、夜風に乗って微かに聞こえてくる。

「いいか、ここからは隠密行動だ。絶対に音を立てるな」
 作戦開始を前にユウキ様が真剣な表情で短く告げる。
「俺たちの奇襲が成功するかどうかが、この戦のすべてを分ける」

「魔将軍の側近には、おそらく感知能力に優れた魔族もいるはずです。細心の注意を」
 シルヴィアさんの言葉に私は生唾を飲み込んだ。

 私たちは作戦会議で発見された、地図にも載らない獣道へと足を踏み入れた。
 一寸先も見えない暗闇の中、私たちは一列になり、音を殺して進んでいく。

 道は予想以上に険しかった。
 張り出した木の枝をダインさんが怪力でへし折り、ぬかるんだ地面をシルヴィアさんが風の魔法で乾かす。私も転んで迷惑をかけないように必死に足元に集中した。

 しばらく進んだ、その時だった。
 先頭を歩いていたシルヴィアさんが、すっと手を上げて私たちを制止した。

「止まってください。この先、広範囲にわたって『音響結界』が張られています」
 彼女の声は緊張で張り詰めていた。
「おそらく木の葉が地面に落ちる音すら敵の術者に伝わるでしょう。ここを通ることは不可能です」

 絶体絶命だった。
 この道が唯一の活路のはずなのに。
 引き返せば陽動部隊は孤立し、砦も陥落してしまう。

(どうしよう……どうしよう……!)
 私のせいだ。私が短剣を地図に落とさなければ、こんな無茶な作戦にはならなかったのに。
 パニックになった私の心臓が、どく、どくと、うるさいくらいに鳴り響く。

(だめ! この音も聞かれちゃう……!)
 私は、これ以上みんなの迷惑になることだけは避けたくて、必死に自分の胸を両手で強く押さえつけた。
 息を止め、心臓の音さえも外に漏らさないように。
(静かに……静かに……!)

 私のその行動が引き金だった。
 私が「静寂」を強く願った瞬間、私の胸から、まるで墨を水に落としたかのように、目に見えない波紋が広がったのだ。

「……!?」
 隣にいたシルヴィアさんが驚愕に目を見開く。
「魔力が……凪いでいる? いえ、違う……この一帯の空間から、音という『情報』そのものが消失している……?」

 彼女がそう呟いても、その声は私たちの誰にも聞こえなかった。
 風の音も、遠くの戦の音も、仲間たちの息遣いさえも、全てが嘘のように消え失せ、世界は完全な無音に包まれていた。

 ユウキ様が何事か叫んでいるが、口がぱくぱく動いているだけに見える。
 しかし彼はすぐに状況を理解したようだった。
 私を指さし、親指をぐっと立てると、「進め」と手で合図を送る。

 私たちは無音の世界の中、音響結界が張られているはずの場所を悠々と歩いていく。
 ダインさんがうっかり乾いた枝を踏み砕いても、何の音もしない。私が小石につまずいても、衣擦れの音一つ聞こえなかった。

 やがて危険地帯を通り抜けたところで、世界の音はまるでスイッチを入れたかのように、私たちの耳に戻ってきた。

「……すごいな、ルルナ」
 ユウキ様が畏怖と興奮が混じった声で言った。
「完璧な隠密スキルだ。スキル名、『絶対静寂(パーフェクト・サイレンス)』! これでどんな敵陣にも潜入できるぞ!」

「え? 私、ただ息を止めて、心臓の音を抑えようとしていただけですが……」
 私の言葉はもう誰にも信じてもらえそうになかった。

 間もなく、私たちは森を抜け、煌々と明かりが灯る敵の本陣の裏手へとたどり着いた。
 警備の兵士はほとんどいない。こちらからの奇襲など夢にも思っていないのだろう。

 一番大きな、ひときわ豪華な天幕。
 あれが魔将軍ガザリオスのいる司令部に違いない。

「行くぞ!」
 ユウキ様が静かに、しかし力強く言った。
「一気に決める!」

 四つの影が暗闇から飛び出す。
 私たちの奇襲攻撃が、今、始まろうとしていた。
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