50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

文字の大きさ
24 / 84
第一章 エルフの森の試練

第24話 試練を超えた者

しおりを挟む
 エルフの戦士が放つ剣戟《けんげき》は鋭く、的確だった。研ぎ澄まされた太刀筋には一切の無駄がない。俺は防御に徹しながらも、その完璧すぎる動きの中に、わずかな隙を探していた。

(焦るな……相手の攻撃の流れを見極めろ)

 カイランの教えと、獣との戦いで得た経験が俺の体を導く。最小限の動きで攻撃を回避し、相手の剣筋けんすじを記憶していく。わずかな判断の遅れが、ここでは致命傷になりかねない。

『相手は経験豊富な戦士だ。だが、お前は体を無駄に動かさず、攻撃を受け流すことを学べている。自信を持て』

 カイランの声に背中を押され、俺は相手の足運びを、呼吸を、その視線の動きさえも観察した。そして、決定的な瞬間を待つ。

 エルフの戦士が勝負を決めるように大きく踏み込んできた。斜めに振り下ろされる短剣を、俺は身を沈めてギリギリでかわす。そのまま相手の内側へ潜り込み、腕を押し上げるようにして剣の軌道を逸らした。

「なっ……!」

 相手の体勢が崩れる。その一瞬の隙を逃さず、俺は勢いよく手を伸ばし、相手の手首を掴んで力を抜かせた。
 エルフの戦士が握っていた短剣が、カランと音を立てて地面に落ちた。

「これで……終わりだな」

 俺は相手の背後へと回り込み、ナイフを喉元へと軽く突きつけた。

 エルフの戦士は一瞬の沈黙の後、悔しさとも感嘆ともつかぬ息を吐いた。

「……なるほど、防御と観察に徹し、相手の力を利用するか。悪くない戦い方だ」

 彼は潔く負けを認め、俺はナイフを下ろした。

 もう一人の、昨夜出会ったエルフも静かにうなずき、ようやく警戒を解いた。

「お前の実力を認める。試練を受けるに値するな」

「ふう……ようやく信じてもらえたか?」

 俺が息を整えながら苦笑すると、彼らは森の奥へと静かに姿を消していった。

 彼らを退けた俺は再びアクレアの森の奥へと足を進める。
 森を進むと、突如として足元の感触が変わった。苔むした地面から、固く平らな石畳の道へと変わる。まるで誰かがここを通ることを想定したかのように、その道はまっすぐ奥へと続いていた。

 やがて、森の奥にぽっかりと開けた空間が現れた。

「これは……」

 そこには古びた神殿が建っていた。つたが絡みつき、長い年月を感じさせるその建物はまるでこの試練の最後の地であるかのような、荘厳そうごんな佇まいを見せていた。

(ここが……精霊の泉か?)

 俺がゆっくりと近づこうとした、その瞬間。

「試練を受ける者よ……」

 低く、それでいて澄んだ声が神殿の奥から直接、俺の頭の中に響いた。

「ここに足を踏み入れる前に問おう。汝、自らの存在を何と定める?」

 声の主は見えない。しかし、その声にはただならぬ力が宿っていた。俺は息を整え、目の前の神殿を見据える。

(俺の存在……か)

 転生前の俺、竹内悟志。誰にも必要とされず、何も成せないまま終わった人生。だが、今は違う。エルンがいる。ルナがいる。俺を信じ、俺を必要としてくれる仲間がいる。あの頃の俺とは違う。

「俺は……カイン。この世界で俺の仲間たちと共に生きることを選んだ者だ」

 その言葉を口にした瞬間、神殿の重い石の扉が、ギィ……と音を立ててゆっくりと開かれた。
 静寂の中、俺の心臓の鼓動だけが響く。
 この選択が正しいのかは分からない。しかし、この道の先に俺が探している答えがあるはずだ。

 俺は覚悟を決め、神殿の中へと足を踏み入れた。
 その背後で扉がゆっくりと、しかし確実に閉まる音が響いた。もう後戻りはできない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...