50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

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第二章 ロルディアの影

第58話 出発の朝、揺るがぬ決意

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 ギルド本部の会議室。場の空気は静まり返っていた。
 木製の重厚な扉の奥、ギルドマスターのヴェルナーは包帯姿のまま椅子に腰かけ、重苦しい視線を俺に向けている。その手には第二王子レオンハルト殿下から届いた封書があった。

「……出たか、王家からの許可」

「正式にテュールの墓標の調査とヴァルディス討伐が認められた。レオンハルト殿下が、なんとか繋ぎ止めてくれたそうだ。だが……軍を動かすのはやはり難しかったようだ」

 ヴェルナーは一息ついてから、続けた。

「代わりに近隣地域のギルドに討伐協力を依頼したらしい。すでにいくつかのパーティーが先行して墓標へ向かい、道を切り開いている」

「そうか……始まったんだな」

 俺の心に焦りはなかった。ただ、いよいよだ、という実感だけがあった。

「先行部隊はヴァルディスを追い詰めつつある。しかし……奴はしぶとい。負傷者も多く、戦況は拮抗しているとのことだ」

「俺たちは決定打を狙う部隊、ということですね」

 ヴェルナーはゆっくりとうなずいた。

「出発は明朝だ。今日一日は準備に充てろ。心身ともに整えておけよ、カイン」

「了解です」

 そう答えた俺は静かに会議室を後にした。

 演習場ではエルンが『終光ラスト・レイ』の安定放出の訓練を続けていた。
 紫外線の束をイメージし、手のひらに光を収束させて的に照射。小さな石を瞬時に焼き尽くすたび、周囲の空気がぴりりと緊張する。

「……安定してるな。威力も申し分ないよ」

「ありがとう、カイン。イルディアも静かに見守ってくれてる感じがするの」

 隣で見守る俺にエルンがうっすら微笑んだ。目に宿るのは迷いのない光。彼女の光はきっと影を退けるだろう。

 一方、訓練場の隅ではセリスが木人を相手に『音消ミュート』の詠唱簡略化に取り組んでいた。
 剣先で相手の口元を的確に示し、「音を断て——音消ミュート!」と短く唱える。風の精霊シルフィードとすでに契約を交わしたことで、必要な魔力の供給と制御はできているようだった。

「これで、詠唱者の口を封じる速度をもっと上げられそうです」

「うん。完璧だよセリス。魔術師が相手なら、きっと初動を止められる」

 その言葉にセリスは小さくうなずき、剣を肩に担いだ。

「……賢者様。どこまでも、ついて参ります」

 その短い言葉に俺は静かに応えた。

「ありがとう。頼りにしてる」

 そして、ルナ。
 人の姿になってからというもの、彼女は文字通り目を見張るほどの変化を見せた。
 自作の木の剣を振り回し、エルンに魔力の集中の仕方を尋ね、セリスの盾を借りてバランスを取る。

「ルナは全部やる。剣も魔法も、頑張る!」

 キツネの頃のたどたどしさは消え、今では流暢な口調で笑いながら駆け回る。
 そんな姿にエルンとセリスも驚きを隠せなかった。

「……ほんとにルナなの?」

「うん、ルナだよー! でも今は人間バージョン!」

「不思議なこともあるのですね……でも、なんだか嬉しいです」

 セリスが柔らかく笑い、エルンも「よしよし」と頭を撫でた。
 こうして、俺たちはひとつの形としてまとまりつつあった。

 ***

 演習場の端、誰も居ない小高い丘に立ち、俺は夜空を見上げていた。
 この空の下で、いったいどれだけの命が奪われ、守られてきたのだろう。

 あの丘陵きゅうりょうで仮面の男を前にしたとき。
 影の異形がヴェルナーたちを襲ったとき。
 仲間たちの力がなければ、俺は今ここに立っていない。

「……命を預かってるんだ俺は」

 誰に聞かせるでもなく、独りつぶやく。

 50代で無職だった男が異世界で仲間を持ち、命を背負って戦っている。
 今の俺はかつての竹内悟志ではない。異世界アルヴェントで、カインとして生きているんだ。

「やれることは全部できたかな……」

 そうつぶやいた俺の背に、軽い足音が近づいてくる。
 振り返ると、エルン、セリス、ルナ——仲間たちが集まっていた。

「そろそろ休まないと、明日は出発ですよ」

「そうだね。ぐっすり寝て戦いに備えなきゃ!」

 ルナが満面の笑みで腕を振り上げた。

「……明日は誰一人欠けることなく、帰ってこよう」

 俺の言葉に三人は静かにうなずいた。

 いよいよ、封じられた聖域——テュールの墓標へ。ヴァルディスとの対決が迫っていた。
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