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第三章 戦王の咆哮
第65話 ドワーフの都へ
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ヴァルディス・ノクターンを討伐した後、俺たちは王都ロルディアで一時の平穏を味わっていた。報酬が貰えたことで生活に余裕が生まれたのだ。
ある朝、宿の食堂で食事をとっていた俺はパンを口に運びながら、ふと、つぶやいた。
「この世界の武具って、どんな物があるんだろう。一度見てみたいもんだ」
それを聞いたセリスが真面目な顔で問い返す。
「カイン殿、武具のご研究をなさるのですか?」
「ああ。王都の鍛冶屋も悪くなかったけれど、噂に聞くドワーフの技術っていうのが気になるんだ。せっかくだし、一度足を運んでみようかと思ってな」
「武具だけでなく、工芸技術にも昔から定評があるわよ」
エルンは滑らかに加工された魔石を取りだしてみせる。
「ドワーフの国って、おいしいものあるかな?」
ルナは目を輝かせながら俺を見つめている。
「戦士であるセリスにな、一緒に頑張ってくれたお礼に、いい武具を用意したいと思ってるんだ。それに俺たちの装備も見直しておきたい」
俺の言葉にセリスはきょとんとした後、姿勢を正して深く頭を下げた。
「恐れ多いお言葉です、カイン殿。ですが、もしお心遣いをいただけるなら……全力でそれに応える剣となります」
その真剣な眼差しに俺は思わず笑みを浮かべた。
こうして一行はドワーフの領地――グランハルト砦都市へ向かうことを決めた。
旅路は平穏だった。春の陽光に包まれた野山を抜け、岩山に囲まれた峡谷を越える頃には、赤茶けた石造りの城砦が見えてきた。都市の周囲には大小の工房や鍛冶場が立ち並び、鉄と炎の匂いが漂ってくる。
市場を歩けば金属製の装飾品、武具、工具が所狭しと並び、商人たちの声が飛び交っていた。
「すごいな……これ全部、職人の手仕事か」
感嘆する俺にセリスは丁寧にうなずいた。
「さすがドワーフの都ですね。鍛冶技術の粋が集まっているのが分かります」
ふと、俺の目は一本の細い路地に吸い寄せられた。賑やかな市場から外れたその先に煤けた看板と無骨な鉄の扉が見える。
「ちょっと寄ってみようか」
俺が扉を開けると鉄と油の匂いが鼻を突いた。
工房の奥では小柄ながら筋骨たくましいドワーフの女性が大槌で鉄を打っていた。手際よく叩かれた金属は赤熱のまま成形されていく。
「いらっしゃい。冷やかしかい?」
俺たちの姿に気付き、ドワーフの女性が振り返った。鋭い目をした彼女はグレンダ・ブレイズロック。工房の鍛冶職人だ。
「いや、本気で興味があってね。強い武器や防具って、どんなのがあるのか気になっているんだ」
そう答える俺をグレンダはまじまじと見つめた。
「……あんた、その顔。賢者カイランにそっくりだな」
「……知ってるのか、カイランを?」
「ああ。百年ほど前にうちの親方が一度だけ話したって自慢してたのさ。あの時代に異端の理論で精霊鍛冶を論じた変わり者……でも、天才だったってね」
俺は少し迷った後、転生の事情を簡単に話した。グレンダは黙って話を聞き、しばらく沈黙した後、口の端を吊り上げた。
「ふーん、面白いじゃないか。それで、何か作りたいもんがあるんだろ?」
「たとえば、エルフの女性剣士が使うんだが、彼女に合うような武具で、何かおすすめはあるか?」
その言葉を聞いたグレンダは俺の背後に立つセリスをちらりと一瞥した。
「なるほど、エルフの戦士か。ふむ、筋力は人間よりも劣るが、しなやかさと反応速度は群を抜いてる。加えて精霊との相性もいい……つまり、力で押す武器よりも、技と速さを活かす設計が求められるわけだ」
そう語りながら、グレンダは壁際の棚からいくつかの試作品を持ち出してくる。
「たとえばこの細剣は軽くて扱いやすいが、威力がいまひとつ。逆にこっちは威力があるが、重すぎてエルフ向きじゃない。結局な、武器ってのは何を活かして、何を捨てるかの塩梅なんだよ」
彼女は作業台に剣を並べながら、ぼやくように続けた。
「威力を上げればそのぶん重くなる。切れ味を高めれば脆くなりやすい。これが難しいんだ。バランスの問題でな」
少しのあいだ腕を組んで思案する素振りを見せた後、ぽつりとつぶやいた。
「もしもだ、超硬度の鉱石、ヴァルグリム鉱が加工できれば……切れ味抜群で、しかも衝撃にも強い剣が作れる。軽さはないが重心設計でなんとかできるかもしれん。問題はあれを加工できる鍛冶師も魔法使いも滅多にいないってことだ」
そう言ってグレンダはじっと俺を見据える。
「……カイラン殿の知恵なら、何とかなったりするのかね?」
俺は顎に手を当てて少し考え、それからにやりと笑った。
「ヴァルグリム鉱か……水魔法ならいけるかもしれない。水の振動で表層を剥ぐようにすれば、形を整えられるだろう」
その言葉にグレンダの目が輝いた。
「……それだよ! いやあ、やっぱ面白いなアンタ。よし、やってみよう! あの鉱石を扱えるってんなら、エルフの剣士に相応しい一振りを一緒に作ろうじゃないか」
こうして、俺がいた世界の知識とドワーフの技術が交差する瞬間が生まれた。
***
一方その頃、魔族領・黒煙の丘では黒い咆哮が大地を揺るがしていた。巨躯の獣魔族――グロム・ザルガスが牙を剥く。
「戦の匂いがする。なら、進むだけだ……」
その傍らにはフードを被ったダークエルフ、ネフィラの姿があった。
「賢者が動き始めました。今こそ、その力で秩序を示す時です、グロム様」
グロムが吼える。
「正義も平和もいらん。強きが勝つ。それだけだ!」
その叫びが風を裂き、鉄と火の都へ向かう気配となる。今、静かな都がざわつき始めていた。
ある朝、宿の食堂で食事をとっていた俺はパンを口に運びながら、ふと、つぶやいた。
「この世界の武具って、どんな物があるんだろう。一度見てみたいもんだ」
それを聞いたセリスが真面目な顔で問い返す。
「カイン殿、武具のご研究をなさるのですか?」
「ああ。王都の鍛冶屋も悪くなかったけれど、噂に聞くドワーフの技術っていうのが気になるんだ。せっかくだし、一度足を運んでみようかと思ってな」
「武具だけでなく、工芸技術にも昔から定評があるわよ」
エルンは滑らかに加工された魔石を取りだしてみせる。
「ドワーフの国って、おいしいものあるかな?」
ルナは目を輝かせながら俺を見つめている。
「戦士であるセリスにな、一緒に頑張ってくれたお礼に、いい武具を用意したいと思ってるんだ。それに俺たちの装備も見直しておきたい」
俺の言葉にセリスはきょとんとした後、姿勢を正して深く頭を下げた。
「恐れ多いお言葉です、カイン殿。ですが、もしお心遣いをいただけるなら……全力でそれに応える剣となります」
その真剣な眼差しに俺は思わず笑みを浮かべた。
こうして一行はドワーフの領地――グランハルト砦都市へ向かうことを決めた。
旅路は平穏だった。春の陽光に包まれた野山を抜け、岩山に囲まれた峡谷を越える頃には、赤茶けた石造りの城砦が見えてきた。都市の周囲には大小の工房や鍛冶場が立ち並び、鉄と炎の匂いが漂ってくる。
市場を歩けば金属製の装飾品、武具、工具が所狭しと並び、商人たちの声が飛び交っていた。
「すごいな……これ全部、職人の手仕事か」
感嘆する俺にセリスは丁寧にうなずいた。
「さすがドワーフの都ですね。鍛冶技術の粋が集まっているのが分かります」
ふと、俺の目は一本の細い路地に吸い寄せられた。賑やかな市場から外れたその先に煤けた看板と無骨な鉄の扉が見える。
「ちょっと寄ってみようか」
俺が扉を開けると鉄と油の匂いが鼻を突いた。
工房の奥では小柄ながら筋骨たくましいドワーフの女性が大槌で鉄を打っていた。手際よく叩かれた金属は赤熱のまま成形されていく。
「いらっしゃい。冷やかしかい?」
俺たちの姿に気付き、ドワーフの女性が振り返った。鋭い目をした彼女はグレンダ・ブレイズロック。工房の鍛冶職人だ。
「いや、本気で興味があってね。強い武器や防具って、どんなのがあるのか気になっているんだ」
そう答える俺をグレンダはまじまじと見つめた。
「……あんた、その顔。賢者カイランにそっくりだな」
「……知ってるのか、カイランを?」
「ああ。百年ほど前にうちの親方が一度だけ話したって自慢してたのさ。あの時代に異端の理論で精霊鍛冶を論じた変わり者……でも、天才だったってね」
俺は少し迷った後、転生の事情を簡単に話した。グレンダは黙って話を聞き、しばらく沈黙した後、口の端を吊り上げた。
「ふーん、面白いじゃないか。それで、何か作りたいもんがあるんだろ?」
「たとえば、エルフの女性剣士が使うんだが、彼女に合うような武具で、何かおすすめはあるか?」
その言葉を聞いたグレンダは俺の背後に立つセリスをちらりと一瞥した。
「なるほど、エルフの戦士か。ふむ、筋力は人間よりも劣るが、しなやかさと反応速度は群を抜いてる。加えて精霊との相性もいい……つまり、力で押す武器よりも、技と速さを活かす設計が求められるわけだ」
そう語りながら、グレンダは壁際の棚からいくつかの試作品を持ち出してくる。
「たとえばこの細剣は軽くて扱いやすいが、威力がいまひとつ。逆にこっちは威力があるが、重すぎてエルフ向きじゃない。結局な、武器ってのは何を活かして、何を捨てるかの塩梅なんだよ」
彼女は作業台に剣を並べながら、ぼやくように続けた。
「威力を上げればそのぶん重くなる。切れ味を高めれば脆くなりやすい。これが難しいんだ。バランスの問題でな」
少しのあいだ腕を組んで思案する素振りを見せた後、ぽつりとつぶやいた。
「もしもだ、超硬度の鉱石、ヴァルグリム鉱が加工できれば……切れ味抜群で、しかも衝撃にも強い剣が作れる。軽さはないが重心設計でなんとかできるかもしれん。問題はあれを加工できる鍛冶師も魔法使いも滅多にいないってことだ」
そう言ってグレンダはじっと俺を見据える。
「……カイラン殿の知恵なら、何とかなったりするのかね?」
俺は顎に手を当てて少し考え、それからにやりと笑った。
「ヴァルグリム鉱か……水魔法ならいけるかもしれない。水の振動で表層を剥ぐようにすれば、形を整えられるだろう」
その言葉にグレンダの目が輝いた。
「……それだよ! いやあ、やっぱ面白いなアンタ。よし、やってみよう! あの鉱石を扱えるってんなら、エルフの剣士に相応しい一振りを一緒に作ろうじゃないか」
こうして、俺がいた世界の知識とドワーフの技術が交差する瞬間が生まれた。
***
一方その頃、魔族領・黒煙の丘では黒い咆哮が大地を揺るがしていた。巨躯の獣魔族――グロム・ザルガスが牙を剥く。
「戦の匂いがする。なら、進むだけだ……」
その傍らにはフードを被ったダークエルフ、ネフィラの姿があった。
「賢者が動き始めました。今こそ、その力で秩序を示す時です、グロム様」
グロムが吼える。
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