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第三章 戦王の咆哮
第71話 戦火の狼煙
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朝焼けがグラムベルクの空を染める頃、南門の周辺にはすでに戦士たちが集まり始めていた。
武装したドワーフ兵やギルド戦士、志願した冒険者たちが、それぞれの班に分かれて待機している。
緊張と静寂が支配する中、空気そのものが張り詰めていた。
「……来るな、これは」
俺は遠くの地平線を見ながらつぶやいた。
その隣ではセリスが目を閉じて呼吸を整えている。彼女の腰には新たに鍛えた風の剣『風哭』が収められていた。
「カイン殿、先に行ってきます。風の合図が届いたら連携をお願いします」
「ああ。気をつけてな、セリス」
セリスは静かにうなずくと、小部隊を率いて門の外へと進んでいった。その背中には一切の迷いがなく、剣士としての覚悟が滲んでいた。
「セリス、がんばって」
ルナが小さく手を振る。その姿に俺は微笑みつつもすぐに視線を巡らせた。
「ルナ、何か感じるか?」
「うん……なんか空気の奥の方がざわざわする。変なにおいっていうか、うまく言えないけど近づいてる
感じがするよ」
「やっぱりか……」
俺は隣に立つ青年へ目を向けた。眼鏡をかけ、長いローブをまとったやせ型の青年。『鉄壁の輪』所属の魔術師ティル・グラウスだ。
「ティル、頼めるか」
俺が声をかけると、ティルはびくりと肩を震わせ、慌てて魔力探知の水晶板に目を落とした。
「は、はいっ! ただ今、魔力探知を展開します。えっと……微弱ですが南方から継続的な魔力の揺らぎが観測されています。これは……移動する集団、間違いありません!」
「数は?」
「ま、まだ正確な数までは……。でも、波形の変化からして、前衛部隊が接近しているのは確かです。距離は約三百メルス。もうすぐ視界に入るかと……!」
「お前、よく冷静に分析してるな。焦ってるように見えて、しっかりしてるじゃないか」
「そ、それは……恐縮です。カインさんと一緒に戦えるなんて思ってもいなかったので……緊張で胃が痛いです」
「はは、そうか。だが、今はお前の眼が頼りだ。何かあったら、すぐ報せて欲しい」
「もちろんです! 必ずお役に立ってみせます!」
ティルの顔は緊張と興奮で紅潮していたが無理もなかった。カインたちはヴァルディスを討ったことで一躍有名になっており、ティルにとっては憧れの人と、いきなりの初仕事だったのだ。
「さて、前線に連絡を……」
俺がつぶやきながら考えを纏めようとしたその時だった。大地がわずかに揺れ、次いで風が唸った。
「来たぞ!」
門の見張り台から斥候の怒声が響く。
「敵影確認! 獣魔族、数十! こちらに向かって突撃中!」
都市全体が一気に緊張を帯びる。警鐘が打ち鳴らされ、防衛部隊が一斉に前進を始めた。弓兵たちが矢をつがえ、魔術師たちが詠唱を開始する。
「ティル、後方の索敵を継続してくれ。ルナ、周囲の異変があればすぐに知らせてくれ」
「わ、わかりました! 全力で探知を継続します!」
「任せてカイン! 耳も鼻もフル回転だよ!」
その隣ではエルンが杖を構えて静かに周囲を見回していた。いざという時には即座に魔法を放てるよう、集中を研ぎ澄ませている。
俺は仲間たちに指示を飛ばしながら前線の方へ目をやる。そこではすでに剣戟と咆哮が交錯していた。
セリスの小部隊が敵の先鋒と交戦している。彼女の剣が閃き、獣魔族の巨体を切り裂いた。風の斬撃が空を鳴らしながら疾走する。
「『風哭』の斬撃か……すごいな」
獣魔族の動きは素早く、なおかつ凶暴だった。腕を振り回して前衛の盾兵を吹き飛ばし、牙を剥いて突進してくる。だが、セリスは怯まずに立ち向かい、風を纏った連撃で相手の膝を斬り落とした。
「こっちはまだ動くな。セリスの隊が持ちこたえられるか、もう少し様子を見る」
俺は剣に手をかけながら戦況を見極める。だがその目は鋭く、すでに次の行動を見据えていた。
その頃、グロム・ザルガスは丘の上から戦場を見下ろしていた。
「つまらん……もっと、斬り合える奴はいないものか」
グロムの後ろに立つネフィラが微笑を浮かべる。
「まだ前哨戦よ。焦らずとも都市の防衛線はすぐに崩れますわ。……カインとその仲間が出てくれば、グロム様の望む戦も始まります」
「カイン、か。あのヴァルディスを討った奴だな」
「ええ。ですがグロム様の敵ではありません。いずれは力の違いを思い知ることになります」
グロムは低く笑った。目に宿るのは理性ではない、ただの本能だった。
「ならば楽しみだな……小物など、どれだけ斬っても満たされぬ」
無数の獣魔たちが津波のごとく防衛線へと押し寄せた。
剣戟の音は瞬く間に轟音へと変わり、舞い上がる砂煙が視界を覆う。
グロムの凶気とグラムベルクの執念が交錯し、戦いの炎は今、燃え上がろうとしていた。
武装したドワーフ兵やギルド戦士、志願した冒険者たちが、それぞれの班に分かれて待機している。
緊張と静寂が支配する中、空気そのものが張り詰めていた。
「……来るな、これは」
俺は遠くの地平線を見ながらつぶやいた。
その隣ではセリスが目を閉じて呼吸を整えている。彼女の腰には新たに鍛えた風の剣『風哭』が収められていた。
「カイン殿、先に行ってきます。風の合図が届いたら連携をお願いします」
「ああ。気をつけてな、セリス」
セリスは静かにうなずくと、小部隊を率いて門の外へと進んでいった。その背中には一切の迷いがなく、剣士としての覚悟が滲んでいた。
「セリス、がんばって」
ルナが小さく手を振る。その姿に俺は微笑みつつもすぐに視線を巡らせた。
「ルナ、何か感じるか?」
「うん……なんか空気の奥の方がざわざわする。変なにおいっていうか、うまく言えないけど近づいてる
感じがするよ」
「やっぱりか……」
俺は隣に立つ青年へ目を向けた。眼鏡をかけ、長いローブをまとったやせ型の青年。『鉄壁の輪』所属の魔術師ティル・グラウスだ。
「ティル、頼めるか」
俺が声をかけると、ティルはびくりと肩を震わせ、慌てて魔力探知の水晶板に目を落とした。
「は、はいっ! ただ今、魔力探知を展開します。えっと……微弱ですが南方から継続的な魔力の揺らぎが観測されています。これは……移動する集団、間違いありません!」
「数は?」
「ま、まだ正確な数までは……。でも、波形の変化からして、前衛部隊が接近しているのは確かです。距離は約三百メルス。もうすぐ視界に入るかと……!」
「お前、よく冷静に分析してるな。焦ってるように見えて、しっかりしてるじゃないか」
「そ、それは……恐縮です。カインさんと一緒に戦えるなんて思ってもいなかったので……緊張で胃が痛いです」
「はは、そうか。だが、今はお前の眼が頼りだ。何かあったら、すぐ報せて欲しい」
「もちろんです! 必ずお役に立ってみせます!」
ティルの顔は緊張と興奮で紅潮していたが無理もなかった。カインたちはヴァルディスを討ったことで一躍有名になっており、ティルにとっては憧れの人と、いきなりの初仕事だったのだ。
「さて、前線に連絡を……」
俺がつぶやきながら考えを纏めようとしたその時だった。大地がわずかに揺れ、次いで風が唸った。
「来たぞ!」
門の見張り台から斥候の怒声が響く。
「敵影確認! 獣魔族、数十! こちらに向かって突撃中!」
都市全体が一気に緊張を帯びる。警鐘が打ち鳴らされ、防衛部隊が一斉に前進を始めた。弓兵たちが矢をつがえ、魔術師たちが詠唱を開始する。
「ティル、後方の索敵を継続してくれ。ルナ、周囲の異変があればすぐに知らせてくれ」
「わ、わかりました! 全力で探知を継続します!」
「任せてカイン! 耳も鼻もフル回転だよ!」
その隣ではエルンが杖を構えて静かに周囲を見回していた。いざという時には即座に魔法を放てるよう、集中を研ぎ澄ませている。
俺は仲間たちに指示を飛ばしながら前線の方へ目をやる。そこではすでに剣戟と咆哮が交錯していた。
セリスの小部隊が敵の先鋒と交戦している。彼女の剣が閃き、獣魔族の巨体を切り裂いた。風の斬撃が空を鳴らしながら疾走する。
「『風哭』の斬撃か……すごいな」
獣魔族の動きは素早く、なおかつ凶暴だった。腕を振り回して前衛の盾兵を吹き飛ばし、牙を剥いて突進してくる。だが、セリスは怯まずに立ち向かい、風を纏った連撃で相手の膝を斬り落とした。
「こっちはまだ動くな。セリスの隊が持ちこたえられるか、もう少し様子を見る」
俺は剣に手をかけながら戦況を見極める。だがその目は鋭く、すでに次の行動を見据えていた。
その頃、グロム・ザルガスは丘の上から戦場を見下ろしていた。
「つまらん……もっと、斬り合える奴はいないものか」
グロムの後ろに立つネフィラが微笑を浮かべる。
「まだ前哨戦よ。焦らずとも都市の防衛線はすぐに崩れますわ。……カインとその仲間が出てくれば、グロム様の望む戦も始まります」
「カイン、か。あのヴァルディスを討った奴だな」
「ええ。ですがグロム様の敵ではありません。いずれは力の違いを思い知ることになります」
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「ならば楽しみだな……小物など、どれだけ斬っても満たされぬ」
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