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第二章
13. 魔女の家
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「はーい! 今いきまーす」
ガタゴトと音がして、扉の向こうから声が聞こえました。暫くしてガチャリと鍵が開きます。
私は内心、ドキドキしていました。
こんな人里離れた森の中の家……。見るからに不自然。まともな人が住んでいる確率は異世界基準で何%でしょうか?
自分から訪ねておいて大変恐縮なのですが……。もし筋肉ムキムキの毛むくじゃらで「お風呂? 三年前に入ったかも?」みたいな世捨て人って風格のおじさんが出てきたら、回れ右して逃げ出すつもりでした。
ごめんなさい、異世界のおじさん。謝る準備は完了済み。
ですが、思いのほか扉の向こうから甲高い声が聞こえたので警戒心が緩みます。
「あら? いらっしゃい」
扉を開けて出てきたのは、背の高い女性でした。私よりも頭一つ分くらい高さ。彼女は窮屈そうにドアをくぐって私の前に立ちました。
「……!」
私は驚いて言葉が吹っ飛びました。
その人はある特徴的な外見をしていたのです。
背が高いことは特徴の一つではありますが、驚くほどではありません。
切長の目で涙ぼくろが印象的、妖艶でアダルティな大人のお姉さんって感じです。要は美人さん。もっとも美少女は鏡で見慣れているので、この点も驚くポイントではありません。
その女性は長い黒髪で、とんがり帽子をかぶって黒いマントを身に纏っていました。それに片手に箒を持っています。
チラリと見えた部屋の中には、大きな釜で何かがぐつぐつと煮込まれており変な臭いがしています。獣臭ではないのがせめてもの救い、おそらく薬草? まるで何かを研究しているような山積みの本があります。
いやいやそんなまさか……。私は心の中で否定します。他人を外見で判断してはいけません。
開口一番初対面の人に「もしかして、あなたって〇〇ですか?」て聞くなんて失礼すぎ。「あなたに私の何が分かるの?」とキレられても文句は言えません。先入観は偏った思考を生むのです。
「え、えーっと」
私が第一声を迷っていると、女性は優しく微笑みました。
「どうもこんにちは、私は森の魔女。名はマリアンヌです」
「こ、こんにちは」
私は動揺を隠してペコリと頭を下げます。
(今この人……魔女って言いました!)
どうやら、第一印象で魔女みたいだと思っていた人は、魔女だったようです。
驚きました。
でも、驚いておいてなんですが、ささいな問題かもしれません。
動揺を振り払います。この状況では素直に助けを求めるべきなのです。
先日の一件で私は異世界のおじさん(野盗)に偏見を持たされています。この際、美人のお姉さんってだけで多少の疑問は考えないようにするべきでは? 野盗でなければ話は通じるはず。
「そのぅ……この三日、道に迷って森をさまよっていました。街までの道を教えていただけないでしょうか……。あと、できれば食料を売ってほしいのです」
「あらあら、それは大変だったわねぇ。この辺、何もないから不便なの。疲れているでしょう?」
実のところ疲労で頭と身体がぐらぐらして今にもぶっ倒れそうでした。
「は、はいぃ」
私は涙目でうなずきました。すると彼女は、ぱっと開くような無邪気な笑顔を浮かべます。なにかのスイッチが入ったみたい。
「まあまあ、それはいけないわ! 地図と食料なら山ほどあるからいくらでもあげる。ごめん嘘だわ。いくらでもは無いけれど、そこそこの量があるの。お腹すいてる? クッキーならいくらでもあるのだけれど……あ、私、お菓子作りが趣味なの。数か月ぶりにまともそうな人が訪ねてきてうれしい! これから夕飯を作るから一緒に食べましょう! お風呂入る? ……なんなら泊まっていく? いいえ、泊まっていきなさい!」
「え? あ、はい……」
魔女さんは突然、早口でまくし立てるように言いました。
一度に色々言われるとテキトーに返事する私の悪い癖が発動します。
「本当ぉ! さあさあ、入って入って」
彼女は嬉しそうに背中を押してお家に招き入れてくれます。私はなされるがままでした。
あれ? なんかラッキー。楽観的に考えます。
ローゼリアの影響で他人を疑う心がないわけではありませんが、疲労感と天秤にかけた結果は明らかです。
仮にこの人が山姥みたいに私を後で食べるつもりでも死ぬ前にご飯を提供してくれるのなら、それはもう天使です。
深く考えずに好意に甘えることにしました。
それくらい私の疲労はピークに達していたのです。
「にゃー」
「あらあら、可愛い猫ちゃん」
魔女さんはシピの存在に気付きました。
「にゃー!」
黒猫は「おい、僕も入れろ!」と言っています。
「あのぅ……薄汚い猫なんですけどコイツもお家に入れていいですかね」
「まあ、あなたの猫なの?」
「はい、一応……私の下僕です」
「にゃーにゃー!」
シピはなにやら文句があるようですが、彼女には通じません。
「もちろん歓迎します! にゃーん」
魔女さんは、ひょいっとシピを持ち上げて撫で回しました。魔女と黒猫はセット販売されているので、見た目的相性はとてもよろしいです。絵になります。
しかし彼は「に゙ゃー」(ぐええ)と悲鳴をあげていました。彼女は猫の撫で方検定初級者だったようです。
黒猫の目は私に助けを求めています。
乱暴に撫でられている彼を憐れんだ私は「お世話になるから媚びを売れ」という慈愛に満ちた目線を送ることにします。
私達は魔女さんのお家に招かれました。
ガタゴトと音がして、扉の向こうから声が聞こえました。暫くしてガチャリと鍵が開きます。
私は内心、ドキドキしていました。
こんな人里離れた森の中の家……。見るからに不自然。まともな人が住んでいる確率は異世界基準で何%でしょうか?
自分から訪ねておいて大変恐縮なのですが……。もし筋肉ムキムキの毛むくじゃらで「お風呂? 三年前に入ったかも?」みたいな世捨て人って風格のおじさんが出てきたら、回れ右して逃げ出すつもりでした。
ごめんなさい、異世界のおじさん。謝る準備は完了済み。
ですが、思いのほか扉の向こうから甲高い声が聞こえたので警戒心が緩みます。
「あら? いらっしゃい」
扉を開けて出てきたのは、背の高い女性でした。私よりも頭一つ分くらい高さ。彼女は窮屈そうにドアをくぐって私の前に立ちました。
「……!」
私は驚いて言葉が吹っ飛びました。
その人はある特徴的な外見をしていたのです。
背が高いことは特徴の一つではありますが、驚くほどではありません。
切長の目で涙ぼくろが印象的、妖艶でアダルティな大人のお姉さんって感じです。要は美人さん。もっとも美少女は鏡で見慣れているので、この点も驚くポイントではありません。
その女性は長い黒髪で、とんがり帽子をかぶって黒いマントを身に纏っていました。それに片手に箒を持っています。
チラリと見えた部屋の中には、大きな釜で何かがぐつぐつと煮込まれており変な臭いがしています。獣臭ではないのがせめてもの救い、おそらく薬草? まるで何かを研究しているような山積みの本があります。
いやいやそんなまさか……。私は心の中で否定します。他人を外見で判断してはいけません。
開口一番初対面の人に「もしかして、あなたって〇〇ですか?」て聞くなんて失礼すぎ。「あなたに私の何が分かるの?」とキレられても文句は言えません。先入観は偏った思考を生むのです。
「え、えーっと」
私が第一声を迷っていると、女性は優しく微笑みました。
「どうもこんにちは、私は森の魔女。名はマリアンヌです」
「こ、こんにちは」
私は動揺を隠してペコリと頭を下げます。
(今この人……魔女って言いました!)
どうやら、第一印象で魔女みたいだと思っていた人は、魔女だったようです。
驚きました。
でも、驚いておいてなんですが、ささいな問題かもしれません。
動揺を振り払います。この状況では素直に助けを求めるべきなのです。
先日の一件で私は異世界のおじさん(野盗)に偏見を持たされています。この際、美人のお姉さんってだけで多少の疑問は考えないようにするべきでは? 野盗でなければ話は通じるはず。
「そのぅ……この三日、道に迷って森をさまよっていました。街までの道を教えていただけないでしょうか……。あと、できれば食料を売ってほしいのです」
「あらあら、それは大変だったわねぇ。この辺、何もないから不便なの。疲れているでしょう?」
実のところ疲労で頭と身体がぐらぐらして今にもぶっ倒れそうでした。
「は、はいぃ」
私は涙目でうなずきました。すると彼女は、ぱっと開くような無邪気な笑顔を浮かべます。なにかのスイッチが入ったみたい。
「まあまあ、それはいけないわ! 地図と食料なら山ほどあるからいくらでもあげる。ごめん嘘だわ。いくらでもは無いけれど、そこそこの量があるの。お腹すいてる? クッキーならいくらでもあるのだけれど……あ、私、お菓子作りが趣味なの。数か月ぶりにまともそうな人が訪ねてきてうれしい! これから夕飯を作るから一緒に食べましょう! お風呂入る? ……なんなら泊まっていく? いいえ、泊まっていきなさい!」
「え? あ、はい……」
魔女さんは突然、早口でまくし立てるように言いました。
一度に色々言われるとテキトーに返事する私の悪い癖が発動します。
「本当ぉ! さあさあ、入って入って」
彼女は嬉しそうに背中を押してお家に招き入れてくれます。私はなされるがままでした。
あれ? なんかラッキー。楽観的に考えます。
ローゼリアの影響で他人を疑う心がないわけではありませんが、疲労感と天秤にかけた結果は明らかです。
仮にこの人が山姥みたいに私を後で食べるつもりでも死ぬ前にご飯を提供してくれるのなら、それはもう天使です。
深く考えずに好意に甘えることにしました。
それくらい私の疲労はピークに達していたのです。
「にゃー」
「あらあら、可愛い猫ちゃん」
魔女さんはシピの存在に気付きました。
「にゃー!」
黒猫は「おい、僕も入れろ!」と言っています。
「あのぅ……薄汚い猫なんですけどコイツもお家に入れていいですかね」
「まあ、あなたの猫なの?」
「はい、一応……私の下僕です」
「にゃーにゃー!」
シピはなにやら文句があるようですが、彼女には通じません。
「もちろん歓迎します! にゃーん」
魔女さんは、ひょいっとシピを持ち上げて撫で回しました。魔女と黒猫はセット販売されているので、見た目的相性はとてもよろしいです。絵になります。
しかし彼は「に゙ゃー」(ぐええ)と悲鳴をあげていました。彼女は猫の撫で方検定初級者だったようです。
黒猫の目は私に助けを求めています。
乱暴に撫でられている彼を憐れんだ私は「お世話になるから媚びを売れ」という慈愛に満ちた目線を送ることにします。
私達は魔女さんのお家に招かれました。
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