気功だけで世界を変える:クラスも勇者もいらない

佐藤祐騰久兵衛

文字の大きさ
32 / 55
ミュンツフルト編

狂気の哄笑

しおりを挟む
「やっと噂の黒い騎士との決戦か!マナがヤバいな……」レオンが拳を握る。

 観客席が砕け、黒い騎士の戦鎚が唸りを上げる—戦鎚の一撃の余波で木片が飛び散る。舞台から二百体以上のワイトが雪崩れ込み、槍が雨のように降り、六人を囲む。黒い騎士が咆哮し、「グスタフ!覚悟!!」とウイルヘルムへ突進する。  

 ウイルヘルムが霊衡を振り、金剛戒刀・火麟で炎の刃を放つ。三体のワイトが燃え崩れるが、黒い騎士は止まらない。
「喰らえ!」ティージが叫ぶと、影の帳が黒い騎士を包む。だが、黒い騎士の体からホーンティングオーラ怨闇の帳が広がり、影が霧に溶ける。「前と同じ技ではないか。何度使っても無駄だ!」黒い騎士が嘲笑う。 

 タリンゴスがボーラスを投げる—回転する縄が脚を狙う。黒い騎士が一瞬で踏みつけ、巨体に似合わぬ器用さでボーラスの錘を砕く。「何!?」タリンゴスが目を剥く。息つく間もなくレオンが突っ込み、「懐にさえ入れば!」と叫びながら拳を構えるが、戦鎚が横に薙ぐ。レオンは慌てて飛び退け、「こんなの一撃でももらったらペチャンコだぞ!」とみんなに警告する。

「そんなの見りゃ分かるんだろ!?」
 四人が作った隙にポマニが黒い騎士の背後をとった——短剣が黒い騎士の膝裏を斬る。刃が鋼のように硬い肉を裂くが、傷が黒い霧で瞬時に癒える。「ちっ、ラチがあかねえ!そのオーラ、生きている者のマナを糧にしやがるぞ!」ポマニが舌打ちする。

「もう出し惜しみする意味ねえだろ?タリンゴス、火を出せ!」とスリハンがタリンゴスに向けて鞭を振り上げる。
「おう、やってやるぜ!」
 火をつけた小型火炎放射器を、タリンゴスは空中に放り出した。それをスリハンの鞭が上手く捉え、まるで長い腕に握られているかのように小型火炎放射器は群がるワイトへ火を吹く。そしてタリンゴスも続けて噴火筒を周囲にばら撒き、床から、壁から白熱の炎が燃え盛る。だが、黒い騎士は笑う—「炎ごときで我が軍が滅せぬ!」—新たな闇が蠢き始める。

 黒い騎士はウイルヘルムを狙い、戦鎚を執拗に振るう。だが、ウイルヘルムは巧みな動きで攻撃を躱し、あるいは滑らかな刀さばきで戦鎚をいなす。時折横から襲うワイトをカウンターで薙ぎ倒すほどの余裕すら見せている。

 一方、レオンたちは絶妙な連携を見せている。ティージは【シャドウヴェール】での援護に徹し、近づくワイトを松明の火で牽制。レオンは【ランナー】の俊足で敵陣を切り裂き、至近距離で屍兵を殴り倒す。ポマニはレオンが作った敵陣の隙をつき、ショートソードで敵の急所を狙う。タリンゴスは道具を使ってワイトを炎で燃やし、投げナイフ、投げ棒などでダメージを与える。そしてスリハンは【キャッチリリース】でタリンゴスと協力し、【ウイップクラック】でワイトを撃滅する。

 今のどころ五分五分の戦いに見えるが、ウイルヘルムには分かっていた。このまま行けば、自分は無事黒い騎士を討ち取ることが出来ても、レオンたちは半分が倒され、下手すると全員殺される。しかも黒い騎士の戦鎚を纏わりつく死のオーラは、おそらくだが倒した敵をアンデッドに変える性質のものだ。つまり一人でも倒されれば、生き残ったメンバーたちはアンデッド化した仲間を自らの手で葬らなければならない。

 このままではダメだ。

 ウイルヘルムは今まで栄枯盛衰を使って多くのグールとアンデッドから邪気を吸い取って、気づいたことがある。

 この世界の歪んだ気に少しずつ慣れてきており、ある程度耐えられる、と。

 ならば、火と氷の拮抗を少し崩しても、闘争本能を抑えられるはずだ。

(萍水相逢の仲にすぎぬとはいえ、死なれでもしたら後味が悪い……ここは二分二割で充分か)

 ウイルヘルムは決意する。体内で気を抑える均衡を二割解き放つ。その瞬間——

 ゴオオォォー!!!

 気の噴出による轟音が響き、ウイルヘルムの体の所々から一瞬血管が浮き出て、すぐ元に戻った。

 ブオン!
 ガキイィン!
 黒い騎士が振り下ろす戦鎚の一撃を、霊衡が軽々と弾き返した。

死柩鼠輩,何足懼哉棺桶のドブネズミ如き輩、恐るるに足りぬ!」

「何!?オリジナル古代語魔法か?」 
 ソ語など知る由もないレオンが目を剥く。 
「すげえ身体強化だ!そんな魔法あんのか?」 
 スリハンも驚愕を隠せない。 
「なら最上級魔法だろ、影魔法しか学んでない私でも分かる!」
  ティージが戦いを忘れ、感心する。

 「何呆けてんだ、おい!」 
「お前らちゃんと戦え!ボケッとしてんじゃねえ!」
  タリンゴスとポマニがツッコミをぶち込む。
 幸いなことに、夥しい数のワイトもウイルヘルムの異変に身構えていて、油断していた三人にちょっかいを出さなかった。

「貴様……グスタフではない……?」
 ウイルヘルムの豹変に黒い騎士が戸惑う。

「これから余の手で葬られるうぬにとって、余が誰であろうがどうでも良かろう?ファファファ!」
 ウイルヘルムはその迷いさえ嘲笑して一蹴した。

「くっ……やらせはせんぞ!」

怨念の鎖スペクトラルチェーン

 黒い騎士が右足を振り上げ、劇場の床を力強く踏み鳴らす。その足元から暗闇の鎖が放射状に飛び出し、十数本がウイルヘルムを絡め取ろうとする。

「足を上げた時点で狙いが見え見えだ、たわけが!」
 鎖がウイルヘルムを捉えることが叶わず、ウイルヘルムはワイトの群れの真っただ中に突っ込んだ。

「弱い、弱すぎる!腕慣らしにすらならぬぞ!」
 霊衡が閃き、一振りごとにワイトの数体を両断する。

「ウォオオォォ!」
  黒い騎士が耳を劈く咆吼を放つ。ワイトたちが呼応し、吠え声を重ねる。

屍魂喚起エスプリ・ドゥ・コール

 アンデッドの体に忌まわしき黒マナが纏わりつき、威圧感が膨れ上がる。

「ほう、少しはマシになったかな?」
 ウイルヘルムは構わず霊衡を目にも留まらぬ速度で振るう——一体のワイトが吹き飛ばされたが、その左右にいる二体のワイトが交差させた槍で霊衡を押し上げた。そして別の二体がそれぞれの剣と斧から繰り出した捨て身の斬撃が、ウイルヘルムに肉薄する。

「ファファファ!愉快、爽快!」
 霊衡を斬りおろして二本の槍を切り、横蹴りで斧を蹴飛ばし——そして自分の頭目掛けて振り下ろした剣を、歯でガリッと噛み止めた。

 パリッ!
 『金剛一指』の力を歯に込め、剣を粉々に噛み砕いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

人と希望を伝えて転生したのに竜人という最強種族だったんですが?〜世界はもう救われてるので美少女たちとのんびり旅をします〜

犬型大
ファンタジー
神様にいっぱい希望を出したら意思疎通のズレから竜人になりました。 異世界を救ってほしい。 そんな神様からのお願いは異世界に行った時点でクリア⁉ 異世界を救ったお礼に好きなように転生させてくれるっていうからお酒を飲みながらいろいろ希望を出した。 転生しても人がいい……そんな希望を出したのに生まれてみたら頭に角がありますけど? 人がいいって言ったのに。 竜人族? 竜人族も人だって確かにそうだけど人間以外に人と言われている種族がいるなんて聞いてないよ! それ以外はおおよそ希望通りだけど…… 転生する世界の神様には旅をしてくれって言われるし。 まあ自由に世界を見て回ることは夢だったからそうしますか。 もう世界は救ったからあとはのんびり第二の人生を生きます。 竜人に転生したリュードが行く、のんびり異世界記ここに始まれり。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...