12 / 398
第一章
第12話 癇癪
しおりを挟む北条のその声の意味を理解する前に、信也は突如走り寄ってきた北条に吹き飛ばされる。
床に尻もちをついた信也は何事かと北条を見やる。
「こんなんでも被っていて良かったなぁ」
そう言いながら、頭に被っていた昔ながらの麦わら帽子にへばりついていた青ゼリーに触れて、赤い光で蹴散らす北条。
「和泉ぃ、こいつらは壁や天井に張り付いて襲って来るようだぁ。その光球で周囲をよーく照らしてはくれないかぁ?」
はっとした表情の信也は、言われるままに光球を操作する。
すると天井部に三匹、龍之介が剣を振っていた壁付近に二匹の青ゼリーを発見した。
様子を見る為近くに集まっていた後衛は、敵の位置を確認すると、さっそく魔法を放ち始める。
北条も比較的近くにいた、壁にはりついた青ゼリーを再び"ライフドレイン"で仕留めていく。
蝙蝠やネズミと違い、魔法一発で沈むので全滅させるのにそう時間はかからなかった。
「今ので終わりね!」
直に青ゼリーに触れた龍之介の様子を見てしまった為に、前衛でも殴り専門の由里香は手を出せずに芽衣の傍で推移を見守っていた。
最後に【雷の矢】で止めを刺したのを見た由里香は、そう言いながら芽衣とハイタッチをしていた。
「っくぅ…………」
一方まともに青ゼリーに張り付かれていた龍之介は、軽く呻きながら頭を掻きむしっている。
既にメアリーの"回復魔法"によってやけど跡すら残らず回復してはいたが、精神的に立ち直るには今少し時間が必要そうだ。
「すまんがぁ、この手の治療を頼めるか?」
一方北条は咲良に"神聖魔法"による治癒を頼んでいた。
"ライフドレイン"は自身のダメージを回復させる効果もあるが、使用時に進行形で攻撃された傷に関しては、もう一度使用しないと治せない。
結果として自爆覚悟での"ライフドレイン"発動では、最後にケガを負った状態で戦闘が終わってしまう。
「あ、はい! 分かりました」
咲良の【キュア】による光が辺りを照らす。
【癒しの光】でも名前の通り光が発せられるが、"神聖魔法"の【キュア】の方が妙に光量が強い。
逆の手で軽く光を遮っていた北条は、治癒を確認すると礼を述べる。
「ありがとぅ、助かるぞぉ」
「いえ、北条さんが適切に指示をしてくれて、こちらも助かりましたので……」
「そうだな。あの指示には助かったよ。吹き飛ばされた時は一体何なんだって思ったけどな」
二人の元に近寄ってきた信也が会話に加わる。
「別に……たまたまだぁ。最近では、スライムといったらあの有名RPGの敵キャラとして知られているが、それとは違うああいったゲル状の奴がいる。ってのが元々知識にあったからなぁ」
そう答えた北条は、倒した相手のドロップアイテムを拾い始める。
明確に決められた訳ではないが、何となくの流れで魔物を倒した後に出現したものは、その魔物を倒した人が獲得するようになっていた。
全て広い集めた北条は、癖なのか腰元辺りで腕を組み、辺りを見回していた。
これまでの戦闘では大きなケガを負う事もなく進んできた一行だったが、今回の戦闘は少し衝撃的だったようだ。
ダメージとしてはすぐに回復できた程度ではあるが、酸のようなものに焼かれて苦しんでいる龍之介の姿は、中々に衝撃が強かった。
「ちょっと! いつまでこんな事を続ければいいのよ!」
ついに堪えきれなくなったのか、長井が今までの鬱憤を晴らすかのように叫ぶ。
「だいたい道は合ってるの!? 出口に向かってるって確信はあるの!?」
そのヒステリックな長井の様子に、そーっと傍を離れていく陽子。
その後もキーキーと喚く長井に対し冷たい視線が注がれるが、火のついた様子の長井は一向に止まる気配がない。
「おばさんは黙ってろよ」
そんな長井に吐き捨てるように告げたのは、ダウン状態から立ち直った龍之介だった。
「おば、おば、おばさんんんんんっっ!」
先ほどまでの状態がMAXかと思われたが、龍之介の言葉によって限界突破の怒り頂点なり、といった風情に様変わりする長井。
興奮しすぎて声も出ない様子となった長井に、気にせず龍之介は追い打ちをかけるかの如く続ける。
「そこにいる小学生の子だって泣き言も言わず、さっきも魔法でスライムを倒してた。それなのに何もしてないアンタがぴーぴーみっともなく喚き散らすなよ。この状況が気に入らねーんなら、さっさとこの場から立ち去ればいいだろ。ま、どうせあんたじゃあ周りに頼るしかできねーだろうけどな」
何時になく、ぐうの音も出ない正論を吐く龍之介に、ねめつけるような視線を送る長井。
両者はそのままにらみ合いを続けていたが、不本意な様子を隠すつもりもなく仕方ないといった様子で信也が止めに入る。
「二人ともそこまでだ。こんな所で無駄に時間やエネルギーを使うべきではない。龍之介、言ってる事はわかるが少しはオブラートに包んだ方が良い。長井さん。アンタも戦闘向けスキルが云々以前に、アンタがいるだけで場の空気が乱れ、結束がおぼつかなくなる。龍之介の言い分ではないが、今後も態度を改めないようなら、決を採って何らかの対処をしなくてはならないだろう」
その信也の言葉に、龍之介へと向けられていたねめつくような視線は、今度は信也へと向けられる。
その妄執じみた視線に一瞬呆けたかのよう様子を見せた信也だったが、すぐに我を取り戻すと真正面からその視線を受け止める。
しばし沈黙が場を支配したが、ふいっと視線をそらした長井は、
「……分かったわよ。どうせ私は無能なんで後は大人しくするわ」
と一ミクロンも心に思ってないような事を口にした。
ただ矛を収める気はあるようで、先ほどこっそり移動していた陽子の元へと歩き始める。
その様子を見た陽子は、あからさまにまた別の場所に移動するのも後ろめたかったのか、レモンを丸齧りしたかのような表情のまま固まっていた。
そんな陽子にご愁傷様と思いながら、
「それで皆、移動再開の準備はいいか?」
そう呼びかけながら皆を見回す信也だったが、ふと思い立ったように、
「あー、そうだ。この世界がどうなってるのかは分からないが、俺たちの感覚的には今は夕方位の時刻だろう。これより後二時間ほど探索したら、今日はそこで休息にしようと思う」
あと二時間の探索があるとはいえ、一先ず今日の探索の終着点を示すことで、この駄々下がり状態の士気を少しでも上げようと試みる信也。
一行の様子を見るに、余り効果はなかったようだが特に反対の声が上がることはなかった。
「それと、これからは俺が【ライティング】の魔法で少し明るめに周囲を照らす。前衛は勿論、後衛組も壁や天井には注意を払いながら移動してくれ。もしスライムを発見したら報告するように」
そう言いながら信也は自身の持つ短杖の先と、北条の被っている麦わら帽子の天辺部分。最後にメアリーの持つ短杖にも【ライティング】を使用すると、周囲が一気に明るくなった。
それからの探索行は、相も変わらず定期的に襲ってくるモンスターを撃退しては、同じ道をぐるりと回り、地図を片っ端から埋める。
そんな単調な作業が続く。
最初あれだけ皆のテンションを下げたスライムも、対処方法さえ分かれば最早脅威ではなかった。
魔法使い各人のMPの方も、今の所だるさなどを訴える者もいない。
緊張感はピーク時より薄れてはいるが、信也が時折話題を振ったりして適度な状態を上手く保っていたといえるだろう。
そんな彼らの前に再び「何者か」が近寄っていく。
その接近にいち早く気付いたのは、またしても北条だった。
「この少し先の分岐を右に曲がった道の方から、何か物音がするぞぉ」
既にネズミや蝙蝠を発見したからといって、大げさに騒ぐような事はなくなっていたというのに、その北条の声は軽い緊迫感が感じられた。
思わず前を歩いていた前衛の三人は北条の方へと振り返る。
「……音は恐らく二足歩行の生物のものだぁ。それが複数……七体か八体」
その北条の発言で、即座にその言葉の意味に気付いた信也達は、自然と足並み揃えてその場に止まり、通路の先を凝視するのであった。
0
あなたにおすすめの小説
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
才能は流星魔法
神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。
そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。
流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。
ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。
井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。
山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。
井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。
二日に一度、18時に更新します。
カクヨムにも同時投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる