どこかで見たような異世界物語

PIAS

文字の大きさ
13 / 398
第一章

第13話 初ゴブリン戦

しおりを挟む

「人間……なのか?」

 信也の緊張した声が静まり返った洞窟内に響き渡る。
 信也の問いは答えを求めたものというよりは、思わず口に出てしまったという類のものだ。
 しかし北条はその言葉を普通に質問と捉えたようで、

「恐らくは違う、と思う。足音の響き具合からして、大人のものではない。子供とか背の低い亜人種族の可能性もなくはないだろうがぁ……」

 返事が返ってくるとは思っていなかった信也は、北条のその言葉に眉をしかめる。

「では、何だと思う?」

 その問いに答えたのは龍之介だった。

「やっぱ、ゴブリンじゃねーの? 小さいってなるとオークとかコボルトって訳でもなさそうだしな」

 これまでの龍之介であったら、こういった時にはドヤ顔で説明してきたものだが、今回は妙に大人しい。
 スライムの件でいい加減懲りたのか、と無益な事を考え始めた頭を振り払うように、ゴブリンについての情報を尋ねる。
 信也とてゴブリンという名前や大まかなイメージは知っているが、細かい知識などは持ち合わせていない。

「情報っつてもな……。何故か緑色の肌をしていて……身長は一メートル程度で……。えっと、他にはなんだっけか」

 別に龍之介もゴブリン専門家などでもないので、唐突に聞かれても咄嗟に答えがでるものではない。
 そこに北条が、

「それよりも、対応を予め決めておこう。俺たちはこちらに来た当初から、記憶の中に見知らぬ言語知識があるのは皆気づいているかぁ? 奴らが確認できる距離になったら、まずはその言葉で一応呼びかけてみる。それでも敵対的な様子ならぁ、躊躇せずにまずは魔法で先制攻撃だぁ」

 その謎の言語知識の事は信也にも心当たりがあった。
 今までそのような言葉を話したことはないはずだが、いざ喋ってみろと言われれば、日本語と同じように話せるだろうという確信もある。

「その……ゴブリンには説得はまるで通じないのか?」

「その確認の為に、まずは最初に呼びかける。だがぁ、この謎言語でもゴブリン相手では通じない可能性も高いし、敵意を持って襲いかかって来る相手に手加減している余裕もない。そうなったらやるしかないだろう」

 北条の言葉は最もではあったが人型の相手だ、というだけで信也は今までの蝙蝠やネズミのように戦えるかどうか自信が持てなかった。

「さぁ、もうそこの曲がり角まで着ている。肉眼で確認出来たら声をかけるぞぉ。後衛も攻撃魔法の準備だぁ」

 その北条の言葉からそう間も空けずに、分岐路からこちらに向けて近寄って来る奴らの姿が確認できた。
 まだ遠く離れているため、詳細な輪郭までは確認できないが、明らかに友好的な気配は発していない。
 すでにこちらを補足しているようで、信也達の方を指指しながら何やら喚いているが、僅かに聞こえてくるその言葉は明らかに日本語でも謎言語でもなかった。
 それでも念のため北条が声をかける。

「お前たちぃ、そこで止まれぃ。それ以上近づくなら攻撃する!」

 簡潔で分かりやすい北条のその言葉を聞いても、止まる気配はなく奇声を発しながら近寄って来るだけだった。
 その姿は龍之介の言葉とは違い、薄い灰色のような肌をしていた。
 身長が一メートル程というのは同じで、各々粗末な武装をしており、それらの武器は剣や槍など統一性はなさそうだ。

 髪は生えないのか皆スキンヘッドで、耳は皮をむく前のえんどう豆のように尖った形をしている。
 胴体部は人間に例えるなら、若干やせ細っていると形容するのがふさわしいだろう。
 しかし引き締まったその体は、小柄とはいえ武器でもって攻撃されれば痛い所では済まないだろう。

「後衛! 魔法攻撃を」

 迫りくるゴブリンと思しき連中の雰囲気に呑まれていた信也達は、その声で我に返る。
 しかしそれでも攻撃をためらったのか、北条の指示によって放たれたのは【闇弾】と【雷の矢】だけであった。
 再度魔法攻撃の指示を送ろうとした北条だったが、すでにゴブリン達はある程度接近しており、二射目は間に合いそうになかった。

 魔法は魔法名こそ短いのだが、魔法を使おうと意識してから魔法名を唱えて発動するまでに、若干時間がかかる。
 ただ単に【雷の矢】とだけ口にしても、効果が即座に発動することはないのだ。
 そのため遠くまで見通す事の出来ないこうした洞窟内では、接近するまでにギリギリ二発魔法が撃てるかどうか、といった所だった。

「もう間に合わん! 後衛は後ろに下がって」

 そう言いながら、大分近づいてきていたゴブリンへと向かう北条。
 信也も重い動きながらも向かい来る敵への対処を試みる。
 龍之介と由里香は既にゴブリンの元に向かっており、一番出遅れたのは信也だった。

 ヒュォンッ!

 所々に錆が浮かび、決して切れ味はよくなさそうな剣ではあったが、目の前で振り下ろされると、心臓の鼓動が激しく脈打つのを止められない。
 現代に暮らす一般的な日本人にとって、真剣を振るわれて攻撃される事などまず経験した者はいないだろう。

 "剣術"スキルのおかげで、蝙蝠やネズミ相手にはそれらしい動きが出来ていた信也だったが、ここにきてすっかり動きに精細を欠いていた。

「チッ、ゴブリンごときにやられる訳にはいかねえぇんだよぉおお」

 一方龍之介は若干の動きの硬さはあるものの、二匹のゴブリン相手に優位に立ちまわっている。
 更に由里香に至っては、斧を振り回してくるゴブリン相手に一歩も引かず、その体に拳を叩き込んで、行動不能レベルにまで追い込んでいた。


「おおぅ、あっぶねえなぁ」

 緊張感のない声を発しながら突き出された槍を躱した北条は、槍ゴブリンの元まで一足飛びの勢いで迫り"ライフドレイン"で止めを刺す。
 そして先ほどは信也同様に魔法を撃てなかった慶介も、龍之介が相手していたゴブリンに【水弾】でのフォローをしていた。

 他の面々が奮戦している中、周囲を見渡す余裕もなくなっている信也は、ラッキーパンチのようなゴブリンの攻撃をくらい、左腕を軽く斬られてしまう。

「っくぅ……」

 傷自体は浅いのだが、元々精神的に負担がかかっていた所へのこの一撃は、ダメージ以上に信也を追い詰める。

(あんな錆付いた剣で斬られたりしたら、傷口から雑菌が付着して化膿してしまう!)

 若干潔癖症気味だったとはいえ、戦闘中に無駄にそんな事を考えてしまうほどパニクり始めた信也に対し、好機と見たのかゴブリンは大胆に近寄ってきて剣を振るいだした。

 冷静に対処できれば問題ないそれらの攻撃を、ひとつひとつ必死な形相でかろうじて避け続ける。
 そんな信也に向けて、ゴブリンは凶悪な人相で愉悦を浮かべながら上段に構えた剣を振り下ろす。
 そのゴブリンの表情に思わず動きが止まってしまった信也は、右肩辺りから左腹部に向けて大きく斬りつけられてしまう。

 切れ味がよくなかったせいか、表皮の少し下あたりまでしか刃は届いていなかったが、切り傷による出血のせいか、急激に体が熱くなるのを感じた。
 そして、

「うわあああぁぁぁぁーーーーー!」

 今までの逃げ腰が嘘のように、がむしゃらに剣を振り回す信也。
 それは"剣術"などといったものではなく、無軌道に暴れまわる子供のようだった。
 しかし、突然の豹変ぶりにゴブリンは対応する事ができず、元々の身体能力の差もあって、今度は信也のラッキーパンチがゴブリンの首元を捉える。
 頸動脈から血を溢れさせるゴブリンに対し、何度も執拗に切り付けていた信也の姿は、数時間前の蝙蝠を相手にしていた龍之介を彷彿とさせる。

 すでにこの時ゴブリンとの戦闘は終結しており、信也が戦っていたゴブリンが最後の一体であった。
 その様子からして下手に近づくのも危ぶまれたが「けが人を放ってはおけない」と、メアリーは、光の粒子となって消えていくゴブリンを茫然と見つめている信也の方へ、ゆっくりと近づいていく。

「和泉さん、大丈夫ですか? 今ケガを治しますからじっとしていて下さいね」

「あぁっ……?! ああ……」

 茫然自失といった状態だったが、段々意識がしっかりしてきたのか大人しくメアリーの治療を受ける信也。
 近くでは恒例のドロップ回収が行われている。
 ちなみにゴブリンが身に着けていた武器や防具などは、ゴブリン本体と共に光の粒子となって消えてしまったので、一つも残ってはいない。
 それどころか八匹も倒したというのに、ドロップは魔石だけだった。

「しけてやがるなあ……。やっぱゴブリンなんてこんなもんか」

「そもそもゴブリンって普通どんなアイテムドロップするっけ?」

 いつもの調子の龍之介に、咲良も乗っかって話をしている。
 傍では由里香と芽衣の外に慶介を加えた三人がわいわいとはしゃいでいた。
 そんな周囲の様子をぼーっと見てるだけの信也を見かねて、

「回収も終わったし、そろそろこの場を離れようかぁ。この道を少し戻った所にあった部屋まで移動して、ちょいと早いが今日はそこで休息にしよう」

 と、代わりに北条が指示を出す。
 そして十分程歩いた所にある部屋になだれ込むようにして駆け込むと、ようやく休息の時が訪れたのだった。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

処理中です...